本稿で取り上げるのは監視ICです。これは、自身の基準電圧を使って、電子システムに存在する複数の電源電圧のモニタリングを可能にする小型監視モジュールです。監視する電圧が、設定した値より高い場合や低い場合には、アラームを発すると共に、定義済みのパターンに従ってシステムを動作させることができます。このモジュールは長年にわたって使われてきた実績があります。
最近の電子機器は、アナログ回路用とデジタル回路用に複数の電源電圧を使用するものが少なくありません。それらの電圧を高い信頼性でモニタリングするには、複数個の監視ICが必要です。また、多数の異なる電圧が存在する場合には、シーケンシングも重要な問題になるかもしれません。つまり、個々の電圧を定義した順番で立上げ、定義した順番に立下げなければならない可能性があります。更に、通信機能を備える監視システムは極めて複雑であり、構築するのは容易ではありません。
このような電圧の監視を簡易化するために、シンプルなGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を介して容易に操作できる包括的なデジタル・ソリューションがあります。「LTpowerPlay®」がその例です。
図1に示したのは、任意の数のDC/DCコンバータ(アナログ方式)をデジタル制御システムに接続した例です。「LTC2977」のような監視モジュールは、PMBusによる接続を介して制御/プログラミングすることができます。そうした制御/プログラミングは、コンピュータ上でUSBインターフェースを介して行います。あるいは、(もし存在すれば)マイクロコントローラによってフィールドで実行することも可能です。LTC2977は、一度設定を行えば、デジタル接続がなくても自律的に動作します。
このモジュールを使えば、各DC/DCコンバータのパワーアップとパワーダウンを制御し、特定の制御シーケンスを遵守することができます。また、各DC/DCコンバータの出力電圧の設定は動的に変更可能です。加えて、それぞれが生成した電圧を更に高い精度で調整するために使用することもできます。具体的には、各出力電圧を測定した後に、各フィードバック・ピンへの接続を介して電流を加え、DC/DCコンバータが生成する電圧を調整します。必要があれば、追加のシャント抵抗を使って電流の測定を行うこともできます。
図2に示したのは、フリー・ソフトウェアであるLTpowerPlayの実行画面です。直感的に理解しやすいダッシュボード上に、各種パラメータの測定結果が表示されています。LTpowerPlayをコンピュータにインストールすると、USBインターフェースを介して、LTC2977上のデジタルPMBusポート、または多数のパワー・システム・マネージメント(PSM)モジュールのうち1つと直接通信することができます。PMBusポートを内蔵したDC/DCコンバータは、数多く供給されています。それらは直接PMBusに接続することができ、LTpowerPlayを介して制御することが可能です。
異なる多くの電圧を監視する必要がある場合、状況が急に複雑になります。このことから、概要を的確に把握するために、ソフトウェアによって設定/監視を行う手法が重要になります。生成した電圧に異常があった場合、問題が発生した個所を見極めるための解析が行えるように、直前に取得した値がEEPROMに保存されます。これはフィールド・リターンの場合の障害の特定に非常に役に立ちます。また、この情報を活用してデバイス・ファミリを改善することも可能です。
電圧源システムのデジタル制御と監視は、様々なアプリケーションに利用できます。純粋なアナログ信号だけを使っていた状況では、多くの可能性はあるものの、その実現には大きな困難が伴うというケースが数多く存在しました。デジタルの制御/監視を活用すれば、そうした可能性の多くを、現実的なものとして捉えられるようになります。