本稿では、土壌の水分とpHの測定を可能にする回路を紹介します。この種の測定は、植物を効率的に成長させたいといったケースに役立ちます。
図1に示したのが、土壌の水分とpHを測定するための回路です。単電源/低消費電力で動作し、温度補償機能も備える高精度かつ完全なソリューションとなっています。この回路には、それぞれに種類の異なるアナログ・センサーを備える3つの独立した測定部が存在します。各センサーによって測定した信号は、A/Dコンバータ(ADC)に入力されてデジタル・データに変換されます。生成されたデータは、信号処理を行うためにマイクロコントローラに送られます。このような一連の処理に適したADCとしては、アナログ・デバイセズの「AD7124」が挙げられます。このICは、ΣΔ(シグマ・デルタ)方式を採用しており、分解能は24ビットです。高精度の測定アプリケーションに適した低ノイズの製品であり、集積度の高い完全なアナログ・フロント・エンドとして機能します。入力形式は、差動入力またはシングルエンド/擬似差動入力に構成できます。プログラマブルなアンプ段を備えており、小振幅の信号に対するインターフェースを同IC自身で実現することが可能です。
pHの測定方法
通常、pHセンサーは出力インピーダンスが高く(約1GΩ)、ADCの入力部を駆動することはできません。そこで、pHセンサーの出力をバッファリングするための高精度のオペアンプが必要になります。pHセンサーの出力インピーダンスが高いことから、オフセット誤差を最小限に抑えられるよう、入力バイアス電流が少ないオペアンプを選択することが重要なポイントになります。図1の回路では、このバッファ用オペアンプとして、レールtoレール入出力の「ADA4661-2」を採用しました。pHセンサーはバイポーラ出力で、最大±414mVの信号を出力します。AD7124では、内蔵するオフセット・ジェネレータを使って、入力のコモンモード電圧をAVDD/2に設定することができます。それにより、pHセンサーの出力をAVDD/2±414mVの信号として受け取ります。
AD7124のノイズ性能は、測定システムの分解能に影響を及ぼします。AD7124を全電源モード、ゲインは1、出力データ・レートは25SPSという条件で動作させたとします。その場合の実効ノイズVNOISE, EFFは570nVです。ノイズのピークtoピーク値VNOISE,PPは、3.76µV(6.6×VNOISE, EFF)になります。これに、ADA4661-2のノイズ成分VNOISE, PPである3µVが加わり、トータルのノイズVNOISE, PP, TOTALは4.8µVになります。ADCの最大入力電圧が6.6Vなので、ノイズフリー分解能は次式のようになります。
土壌の水分の測定方法
多くの場合、土壌の水分の測定には、容量式のセンサーが使用されます。比誘電率を利用して水分量を測定するというものです。水の比誘電率は、土壌内の他の成分の比誘電率と比べてかなり高いという特徴があります。そこで、センサーは容量値の変化によって、水分量の変化を検出します。図1の回路では、3線式(電源、グラウンド、電圧出力)のセンサーを使用しています。消費電力を最小化するために、センサーはほとんどの時間はスリープの状態になります。測定が必要なときだけ、VSENSORによって起動されます。
このセンサーは、ADCに直接接続されています。そのため、ノイズフリー分解能は、pHの測定回路と比べて若干高くなります(以下参照)。
温度の測定
pHセンサーの振る舞いは、電極のコーティングと経年変化に依存して、時間と共に変化します。そのため、システムとして最大限の精度を維持するには、定期的なキャリブレーションが不可欠となります。一般的なキャリブレーション手法としては、既知の液体のpH値を測定し、NIST参照表に記載されている同じ温度条件のpH値と比較するということが行われます。この一連の処理は、ソフトウェアをベースとして実現されます。温度の測定は、図2に示すような3線式のRTD(測温抵抗体)を使って行います。AD7124は、プログラマブルな励起電流源を備えており、IOUT1ピンとIOUT2ピンにRTDを直接接続することができます。
まとめ
本稿で紹介した回路を使えば、土壌の水分とpHを比較的容易に測定することができます。pHセンサーの性能は、温度に大きく依存するので、温度測定機能をベースとした補償機構が必要になります。