20GHzのダイレクト・サンプリング:全てを1つのナイキスト・ゾーンで -パート2:直交インターリーブ
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要約
ダイレクトRFサンプリング・システムは、より多様な機能を盛り込む形で進化しています。その結果、より広い帯域幅を対象とし、単一のナイキスト・ゾーン内ですべての信号成分を取得できるようになりました。例えば、その種のシステムでは2つのA/Dコンバータ(ADC)を使用し、2GHzから18GHzまでの信号を同時にサンプリングします。サンプリングしたデータを、より高度な内蔵機能を使って処理することで、エイリアシングの問題を発生させることなく、より広い帯域を対象としてスペクトルを監視することができます。具体的な手法はいくつか存在しますが、本稿では直交インターリーブ(ダイレクト直交サンプリング)に注目することにします。この方法では、2倍のレートのクロックや反転クロックを使用する必要はありません。また、2倍の出力データを管理するための複雑な処理も不要です。ダイレクト直交サンプリングは、サンプリングの対象となる帯域幅の拡張を可能にする新たなソリューションです。
はじめに
本連載のパート1では、インターリーブ技術を使用する目的について説明しました。また、インターリーブに伴うアーティファクトの発生原因(誤差)についても解説しました。更に、アナログ・デバイセズのApollo MxFE「AD9084」を例にとり、40GSPSに対応するADCを実現するための様々なオプションを紹介しました。なお、AD9084は分解能が16ビットでデータ・レートが28GSPSの4つのD/Aコンバータ(DAC)と分解能が12ビットでデータ・レートが20GSPSの4つのADCを内蔵する製品です。今回(パート2)も同製品を具体的な例にとり、ダイレクト直交サンプリングの実現方法と直交誤差の補正方法について詳しく解説します。
データ・コンバータ(DACやADC)製品の多くは、その機能/性能を強化するための重要な要素として組み込みDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)コアを内蔵しています。例えば、最新ADCの中には、DSPを利用することにより、バックエンドのデジタル・データ・レートを上げることなく、実効サンプル・レートを2倍にできるものがあります。AD9084の場合、直交入力と直交補正のアルゴリズムを備える2組のADCを使用することで、データ・レートが40GSPSのデュアルADCを構成することができます。そうすれば、マルチチャンネルの単一のコンバータICによって2GHz~18GHzの帯域幅の信号を監視し、4GHzに対応する4つのデジタル・ダウン・コンバート出力を生成することが可能になります。
本稿では、まずより一般的なゼロIF(ZIF)アーキテクチャとの比較を交えながら、ダイレクト直交サンプリングについて説明します。特に、直交誤差に関する理論と、直交誤差補正(QEC:Quadrature Error Correction)を適用するために必要な組み込みデジタル処理について詳しく解説します。ダイレクト直交サンプリングを実現するためには、アナログ・フロント・エンド用のRFコンポーネント、ADCによる信号のサンプリング、組み込みDSPによる処理、データ・コンバータのI/Q出力を対象とした最終的な処理が必要になります。また、本稿ではQECの適用前後の振幅誤差と位相誤差の実測結果も示します。更に、最終的なイメージ除去性能の実測結果を示すことにより、2GHz~18GHzの範囲で効果的なダイレクト直交サンプリングを実現できることを実証します。本稿では、AD9084を具体的な例として解説を進めますが、その内容は広帯域を対象とする多くのサンプリング・システムにも当てはまります。
直交サンプリングの原理
図1(a)に、従来のZIFアーキテクチャのブロック図を示しました1。このアーキテクチャでは、RF対応の直交ダウン・コンバートを実現するためにミキサーを使用します。局部発振周波数(LO)回路では、物理的に分離された2つのミキサーとLO信号を使用し、互いに位相が90°ずれた2つの信号を生成します。つまり、直交する2つの信号が生成されるということです。この方式において、LOの周波数に対するRF信号の周波数の高低を判断するにはどうすればよいのでしょうか。それについては、図1に示すように、LOの周波数におけるIチャンネルの信号とQチャンネルの信号の位相反転によって視覚化されます。これと同じ原理は、デジタル・ダウン・コンバータ(DDC:Digital Down Converter)でも利用されています。DDCでは、データ・コンバータの実際のデータ・ストリームを処理し、数値制御発振器(NCO:Numerically Controlled Oscillator)の周波数を中心とする狭い帯域幅でI/Qの出力データ・ストリームを生成します。
図1(b)は、ダイレクト直交サンプリングの原理を表した概念図です。この方式では、並列に配置された2つのADCを使用します。そして、1つのRF入力信号と、その位相を90°シフトしたRF入力信号を同時にサンプリングします。すると、サンプリングのプロセスを通じ、ナイキスト境界においてIチャンネルの信号とQチャンネルの信号の位相が反転します。この性質を利用すれば、ADCの実質的なサンプル・レートが2倍になります。
実際の回路では、ハイブリッド・カプラで90°の位相シフトを実現します。同カプラは、ハイブリッド・スプリッタという名前でも販売されています。現在では、2GHz~18GHzの広い帯域幅に対応可能なハイブリッド・カプラを利用できます。
直交誤差
直交サンプリングについては、よく知られている問題があります。それは、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号の位相または振幅のミスマッチが存在すると、イメージの周波数において不要なエネルギーが生成されるというものです。この問題は、ダイレクト直交サンプリングの手法でも生じます。これに対しては、バックエンドのアルゴリズム(デジタル処理)で対処する必要があります2。図2は、直交サンプリングを利用する場合の懸念事項について説明するためのものです。ご覧のように、イメージの帯域の不要な信号が本来の信号帯域に折り返される可能性があります。イメージのレベルは、理想的な直交信号に対する振幅と位相のミスマッチの関数として表されます。これを補正するために必要になるのがQECです。イメージのレベルは、QECを適用することで減衰させる(除去する)ことができます。以下、この効果をイメージ除去と表現することにします。
イメージ除去のレベルは以下のようにして計算することができます。まず、以下のように変数を定義します。
IRR:イメージ除去比(Image Reject Ratio)〔dB〕
P = 10(IRR/10)
A:振幅のミスマッチ
θ:位相誤差
与えられたIRRと振幅誤差に対しては、以下の式が成り立ちます。
また、与えられたIRRと位相誤差に対しては、以下の一連の式が成り立ちます。
図3は、イメージ除去と振幅誤差、位相誤差の関係を示したものです。例えば、60dBcのイメージ除去を実現するには、1/10°未満の位相の精度と1/100dB以内の振幅のマッチングが必要です。このレベルのイメージ除去は、現在入手可能なRF部品の精度では実現できません。言い換えれば、ハードウェアだけでは実現できないということです。したがって、ダイレクト直交サンプリングを利用するためには、デジタル方式で誤差を補正する機能を追加する必要があります。その機能がQECです。以下では、QECを実現するために使用される構成について説明します。
PFILTベースのQECを用いる直交サンプリング
図4に示したのは、AD9084でダイレクト直交サンプリングを実行する場合の構成例です。この例では、PFILT(Programmable FIR Filter)を使用してQECを実現します。図4の下側には、評価環境で実際に取得したデータのFFT結果を示しています。この評価では、入力周波数を7.1GHz、チャンネル1のNCOの周波数を7GHzに設定しています。ご覧のように、入力信号は100MHzのベースバンド・データとして現れています。イメージの周波数はfs/2を中心にミラーリングされて12.9GHzに現れます。ここで、fsはADCのサンプリング・レートです。チャンネル2ではNCOの周波数を13GHzに設定しています。それにより、-100MHzのベースバンド出力として現れるイメージをモニタリングしました。
本稿では、後ほど様々な評価結果を示します。それらの結果は、以下に示すような一連の手順によって取得しました。
まず、機能の検証を実施した後、ADCのバックグラウンドのキャリブレーションを停止し、更なるキャリブレーションによるチャンネル間の偏差の発生を防止します。次に、4GHzの帯域幅にわたり25MHzのステップで周波数掃引を実施します。各データを取得するために、NCO1の周波数は「Fin - 100MHz」に設定しました(Finは入力周波数)。そして、NCO2の周波数は「20GHz-[ NCO1の周波数]」に設定しました。それにより、2つのNCOの周波数は、サンプリング周波数の1/2(fs/2)に対してミラーリングした関係になります。
次に、チャンネル1とチャンネル2で測定したデータに基づいて直交補正係数を計算します。得られた係数は、図4に示したような形で組み込みFIRフィルタに適用します。更に、追加のデータを取得し、QECを適用した後の性能を評価しました。このシーケンスを4回繰り返すことで、2GHz~18GHzの範囲全体を網羅しました。4GHzの帯域幅に対する補正結果は後ほど示します。
AD9084は、迅速に選択できるフィルタ係数バンクを4つ備えています。そのプログラマブルな機能により、設定されたNCOの周波数と対象とする入力周波数を基に、使用する係数を最適化することができます。
半複素FIRフィルタ・モードで動作するPFILTの効果は、簡単な例によって説明できます。ダイレクト直交サンプリングでは、独立したIチャンネルのパスとQチャンネルのパス(以下、それぞれIパス、Qパス)に信号を分割し、それぞれを別のADCによってサンプリングします(図5)。
QECについては、相対的な形で実施するイコライゼーションだと表現することができます。例えば、Iパスを理想的なものだと捉え、それに対してQパスをマッチングさせるといった具合です。図6は、そのQパスをモデル化したものです。このQパスの信号は、以下の式に示すように、(a)公称90°の位相シフト、(b)Iパスの共通応答、(c)Iパスに対するQパスのミスマッチを組み合わせたものとして表現できます(そのミスマッチはデルタ応答と呼ぶことができます)。
続いて図7をご覧ください。これは、図6のモデルを、余弦波入力であるx(t) = cos(ω0t)で刺激した様子を表しています。公称90°の位相シフトにより、余弦波が正弦波に変換されます。そして、デルタ応答HΔ(ω) = AΔ(ω)e(jθΔ(ω))により、振幅と位相が変化します。
単純な三角関数の公式を使用すると、以下のように、Qパスの出力を正弦波と余弦波の部分に分解することができます。
IパスとQパスの間にミスマッチがない場合(HΔ(ω) = 1)、直交サンプリングの理想的な出力は以下のように定義することができます。
したがって、周波数ω0を中心とする正弦波信号やそれ以外の狭帯域の信号については、理想的な直交出力を基に実際の直交出力を表すことができます。ダイレクト直交サンプリング用の構成は、直交誤差を発生させる2×2の線形システムだと見なすことができます。QECは、この2×2の線形システムを反転し、理想的な出力xi(t)とxq(t)をリカバリする形で実行されます(以下参照)。
図8は、システムが単一の周波数で刺激された場合の直交誤差の発生/補正について説明するためのものです。この2×2のシステムは線形なので、広帯域の信号に対応する形に一般化するのは難しくありません。それには、周波数に応じて振幅と位相の応答を変化させられるマルチタップのFIRフィルタを使用します。
CFIRベースのQECを用いる直交サンプリング
AD9084のPFILTは、各ADCの後段において20GSPSのフル・サンプル・レートで動作します。一方で、同ICのデシメーション段の後段には複素FIRフィルタ(CFIR:Complex FIR Filter)も配置されています。CFIRフィルタを使用すれば、フィルタのタップ数を増やすことなく、より長い時間にわたって補正を適用することができます。これを実現するためには、2つの複素DDC(CDDC:Complex DDC)を使用します。2つ目のCDDCは、1つ目のCDDC内のイメージが負の周波数になるようにイメージの周波数をシフトさせます。2つ目のCDDCの複素共役に重み付けを施して加算することによりイメージが相殺されます(図9)。
CFIRをベースとするQECは、PFILTをベースとするQECとほぼ同様の理論に基づいて実行されます。唯一の違いは、デシメート後の出力に対して補正が適用される点です。これについては、PFILTを2×2の線形システムではなく、複素フィルタのネットワークだと見なすことで説明できます。2×2の線形システムは、以下に示すような式で表されます。
ここで、入力、出力、フィルタの係数はすべて実数値です。また、「*」は畳み込みを表します。これら実数値の信号を組み合わせ、複素数値の信号として解釈すると、以下の関係が成り立ちます。
y[n] = yi[n] + jyq[n]と定義し、上記の関係を使用して式を整理すると、複素数に基づく半複素PFILTの式を導出できます(以下参照)。
得られた結果は、PFILTの効果を別の形で解釈したものだと言えます。以下、より詳細な説明を加えておきます。
- 複素数値の入力y[n]に複素数値の線形フィルタb1[n]を適用します。このフィルタは、Qチャンネルの信号をIチャンネルの信号と比較して帯域内のイコライゼーションを実行します。それにより、対象となる信号の平坦性を維持します。
- 複素数値の入力y[n]に複素数値の線形フィルタb2[n]を適用します。このフィルタは、ブロッカを、反転されたイメージに変換します。それを不要なイメージと加算することで、両者が打ち消し合うようにします。
- 1つ目のフィルタの出力を2つ目のフィルタの出力の複素共役と加算します。時間領域での共役変換により、周波数が反転してブロッカとそのイメージの周波数が揃います。その結果、スケーリングと回転が施されたブロッカがイメージと加算され、両者が打ち消し合います。
QECを実現するためにDDCとCFIRによって実行される処理は、以下のようなものになります。
- DDC1は対象とする信号をダウン・コンバートします。CFIR1は、b1[n]に相当する応答を備える複素数値の線形フィルタを適用します(但し、周波数がシフトされ、より低いサンプリング・レートで適用されます)。
- DDC2はブロッカ信号をダウン・コンバートします。CFIR2は、b2[n]に相当する応答を備える複素数値の線形フィルタを適用します(但し、周波数がシフトされ、より低いサンプリング・レートで適用されます)。
- CFIR1とCFIR2の出力を加算すると、イメージ除去が実現されます。
ここで、図10をご覧ください。これはCFIRベースのQECを適用した直交サンプリング・データのFFT結果です。
QEC向けのトレーニング手法
ここまでに説明したように、直交誤差はIパスとQパスの間のミスマッチによって生じます。また、そうしたミスマッチの存在が特定された場合、半複素PFILTを使用することで誤差を補正できます。更に、DDCの出力に対してCFIRを適用することで、同等のQECを実現できることも明らかにしました。PFILTとCFIRのうちどちらを使用する場合でも、補正用のフィルタの理想的な係数は、IパスとQパスの間のミスマッチの応答に応じて異なります。そこで、以下ではミスマッチの応答を推定する1つの方法について詳しく説明します。
QECのアルゴリズムにはいくつかの種類があります。例えば、アルゴリズムの種類により、トレーニング用の入力として使用する刺激信号に違いがあるといった具合です。ここでは、以下の2つの例を紹介します。
- オンライン・キャリブレーション:オンライン・キャリブレーションは、システムがアクティブな状態のまま実行されます。通常は、ADCに入力される信号を使用し、状況に応じてトレーニングを実施します。この種のキャリブレーションは、長い時間にわたりバックグラウンドで実行できます。そのため、温度、電源、タイミングのドリフトによるI/Qのミスマッチの変化に適応できます。
- オフライン・キャリブレーション:オフライン・キャリブレーションは、システムが非アクティブな状態で実行します。システムがオフラインなので、キャリブレーションに向けたトレーニングのために既知の入力信号を使用することができます。トレーニングが完了したら、システムはオンラインの状態に戻り、固定の補正係数を使用して動作します。ユース・ケースによっては、システムのパラメータがドリフトすることがあります。その場合、システムのキャリブレーションを定期的に実施しなければならないかもしれません。但し、キャリブレーションを再実行する際には、システムをオフラインにする必要があります。
上記の2つの方法には、それぞれ長所と短所があります。そのため、どちらの手法を選択すべきなのかはアプリケーションによって異なります。以下では、オフライン・キャリブレーションに重点を置いて解説を進めることにします。
キャリブレーションに向けて、システムに既知の一連の信号(トーン信号)を入力するケースを考えます。そのキャリブレーション手法では、必要な帯域として以下の2つを定義します。
- 対象信号帯域:これは、本来対象としている信号帯域のことです。システムの出力帯域幅は、この帯域を網羅します。
- ブロッカ帯域:ブロッカ帯域は、対象信号帯域に対し、fs/2を挟んでミラーリングした形になります。例えば、対象信号帯域が周波数f1から周波数f2までである場合、ブロッカ帯域はfs - f2~fs - f1になります。この帯域内に現れる大きなブロッカは、対象信号帯域内にイメージを生成します。
図11に示すように、これら2つの帯域はDCからfs/2のどこにでも広がる可能性があります。また、両者が重なり合うこともあり得ます。
これら2つの帯域に関して、QECによるキャリブレーションは以下の2つを目的として実行されます。
- 対象信号帯域内に現れるイメージを除去する
- Qパスの帯域内のゲインと位相の応答をIパスの帯域内のゲインと位相の応答にマッチングさせる。それにより、対象信号帯域内に現れる信号を維持する。つまり、相対的な形のイコライゼーションを実施する。QパスはIパスとマッチングするが、Iパス内のドループは保持される
これら2つの目的は、I/Qのミスマッチによって関連づけられます。QパスとIパスがマッチングしていれば、帯域内の平坦性と帯域外のイメージ除去の両方が同時に良化します。両方の目的を達成するためには、キャリブレーションを実施する必要があります。それに向けて、まずは対象信号帯域とブロッカ帯域の両方におけるI/Qのミスマッチについての学習を実施します。その上で、補正用のフィルタの係数を調整します。このようにして、両方の帯域にわたり相対的な形でIチャンネルに対するQチャンネルのイコライゼーションを実施する必要があります。
但し、上記の2つの目的は必ずしも同じ重みを持っているわけではありません。多くのアプリケーションにおいて、帯域内の平坦性に関する要件は、I/Qのマッチング向けに比較的粗い方法を実施することでも満たせます。一方、イメージを除去するためには、それよりもはるかに正確なI/Qのマッチングが必要になります。
表1は、様々なレベルのイメージ除去に対する帯域内のゲイン誤差と位相誤差についてまとめたものです。例えば、帯域内で1°の平坦性と-50dBcのイメージ除去が必要なアプリケーションの場合、イメージ除去の目標を達成するために必要なI/Qのマッチング精度は、帯域内の平坦性を満たすために必要なマッチング精度の約5倍になります。
イメージ除去〔dBc〕 | 帯域内のゲイン誤差〔dB〕 | 帯域内の位相誤差〔 ° 〕 |
–20 | 0.9151 | 5.7106 |
–30 | 0.2791 | 1.8112 |
–40 | 0.0873 | 0.5729 |
–50 | 0.0275 | 0.1812 |
–60 | 0.0087 | 0.0573 |
表2に示したのは、トレーニング用のアルゴリズムの例です。このアルゴリズムにおいて、平坦性については、イメージ除去の目標と比較して不均等な重み付けを適用します。対象信号帯域内で平坦性を高めることを目的とする場合、キャリブレーション用のトーンとしては同帯域内の周波数信号を使用します。一方、対象信号帯域内に現れるイメージを減衰させられるようにするためには、キャリブレーション用のトーンとしてブロッカ帯域内の周波数信号を使用する必要があります。対象信号の帯域がfs/2をまたいで広がっている場合、対象信号帯域とブロッカ帯域は重なり合います。重なり合った領域内に現れるキャリブレーション用のトーンは、ブロッカ帯域内に現れるものとして分類できます。より難易度が高いイメージ除去の目標を達成するには、そのための重み付けがより大きい係数を使用します。
QECに向けてトーンを使用して行うオフライン・キャリブレーション | |||
対象信号帯域とブロッカ帯域の両方にまたがるトーンの周波数のセットfk(k = 1、…、K)を定義する | |||
帯域内の平坦性の向上を目的とする重み付け係数λinを定義する | |||
帯域外のイメージ除去を目的とする重み付け係数λoutを定義する | |||
周波数fkに対応する各トレーニング用のトーンに対して以下の処理を実施 | |||
ADCのI/Qチャンネルで時間を揃えた状態で出力をキャプチャする | |||
相互相関などの方法により、Qチャンネルのキャプチャ・データをIチャンネルのキャプチャ・データと比較。ミスマッチの応答であるHk = HΔ(fk) = Hq(fk)/Hi(fk)を推定する | |||
fkがブロッカ帯域内に現れる場合、以下の処理を実施 | |||
このトレーニング・ポイントにλk = λoutの重み付けを割り当てる | |||
そうでない場合、以下の処理を実施 | |||
このトレーニング・ポイントにλk = λinの重み付けを割り当てる | |||
終了 | |||
終了 | |||
|
fk、λk、Hk( k = 1、…、K)が与えられたとき、I/Qのミスマッチを最小限に抑えるフィルタの係数を求めるために、ある種の重み付け回帰を実行する |
直交サンプリングのイメージ除去の評価結果
図12に示すのはイメージ除去の評価結果です。PFILTとCFIRのそれぞれを使用して補正を行った結果を取得しました。CFIRベースの補正を行った場合、50dBcを超えるイメージ除去が実現されています。それに対し、PFILTを使用した場合にはそこまでの結果は得られていません。その根本的な原因は、図13に示したグラフを見るとわかります。これらは、PFILTベースのQECを適用する前と後に、振幅と位相のミスマッチを評価した結果です。ご覧のように、かなり大きい誤差は補正されています。しかし、補正の適用後も、広い帯域全体にわたり周波数に応じて急速に変化するリップルが残っていることがわかります。この点には注意が必要です。
PFILTは、フル・サンプル・レートで実行されます。それに対し、CFIRの処理はデシメート後の低いサンプル・レートで実行します。PFILTとCFIRのタップ数は同程度なので、CFIRではPFILTよりも長い時間にわたって誤差を補正していることになります。この例の評価条件において、最終的な結果としてはCFIRの方が優れた補正を実現できると言えます。但し、PFILTを使用した場合のリップルは、ハイブリッド・カプラとADCの入力部のインピーダンス・ミスマッチならびに両者の間の長い伝送線路に依存して生じています。シミュレーションによれば、ADCの入力部の直近にハイブリッド・カプラを取り付けることでリップルのミスマッチを改善できることがわかります。信号パスの長さを最小限に抑えれば、このリップルはかなり改善されると考えられます。
まとめ
本稿では、2GHz~18GHzに対応するダイレクト直交サンプリングの方法について解説しました。この手法は、以下の要素を組み合わせることによって実現されます。
- 広帯域に対応するハイブリッド・カプラ
- 2次のナイキスト・ゾーンにわたる入力帯域幅を備えたADC
- ADCの出力データが時間軸上で確実に揃うようにする方法
- ADCのフルレートに対応するQEC用のFIRフィルタ
- CDDCによるデータ・レートの低減
- DDCによる低いデータ・レートの出力帯域幅内で振幅/位相の誤差を解決するQECのアルゴリズム
本稿で取り上げた手法は、上記のうち1つを使用するだけでは実現できません。これらすべての要素を組み合わせることにより、ソリューションが完成します。どれか1つが欠けても、望ましくないトレードオフが必要になったり、性能が大幅に低下したりする可能性があります。この点には注意してください。
本稿で紹介した手法では、デジタル・データのレートを2倍にすることなく、組み込みDSPの機能を活用してADCの実効的なサンプル・レートを2倍にします。そのため、ADCを変更することなく、アプリケーションのレベルでチャンネルの数とADCのレートのトレードオフを実施することが可能です。ダイレクト直交サンプリング(直交インターリーブ)は、タイム・インターリーブを置き換える手法ではありません。ソフトウェア無線のシステムが成熟し続けるなか、同等の結果を実現する多くの選択肢が登場しました。個々のアプリケーションにおいてどれを選択すべきなのかは慎重に検討する必要があります。
参考資料
1 Dave Frizelle、Frank Kearney「次世代SDRトランシーバの威力を知る-RF対応の複素ミキサー、ゼロIFアーキテクチャ、先進的なアルゴリズムが肝に」Analog Dialogue、Vol. 51、2017年2月
2 Patrick Weirs「トランシーバICのイメージ除去性能、RadioVerse製品の実力を知る」Analog Dialogue、Vol. 51、2017年8月
3 Gabriele Manganaro、David H. Robertson「インターリーブADCの“謎”を解き明かす」Analog Dialogue、Vol. 49、2015年7月
著者について
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