Pentium® Pro µPに給電するターンキー電源ソリューション

要約

今日のマイクロプロセッサ(µP)は従来よりも低電圧かつ高精度の電源を必要としています。さらには、最近のµPは負荷トランジェントへの高速応答も必要とするスタート/ストップクロック動作を特徴としています。これらのµP要件は小型PCボードで超小型コンポーネント回路を提供する高集積電源ICで満たすことができます。

このような進展から、初期の比較的単純な5V/12V電源が、高精度、高効率で複数の低電圧出力を発生する電源システムへと変身してきました。この種のシステムは、負荷電流の変化に対しても迅速に応答することが必要です。Pentium Pro® µPの場合、0.5A~10Aまでの負荷電流ステップを発生するため、30A/µsで350ns以内の電源応答が必要です。

デスクトップコンピュータやノートブックコンピュータでは、内部メモリ、ロジック、およびディスクドライブ回路を動作するために、幾つかの異なる低電圧電源が必要です。これらのコンピュータは、殆どの場合、5V、3.3V、2.XVの組み合わせを適用しています。ここで重要となる2つの条件は、効率の高いDC-DCコンバータおよび同期整流器です。

スイッチモード電源の同期整流器は、電力変換効率を向上させるために、ショットキーダイオードと並列に低抵抗コンダクションパスを備えています。一般的にはMOSFETより、このような低抵抗パスを提供しますが、バイポーラトランジスタやその他の半導体スイッチでも提供できます。スイッチモード整流器に発生する順方向ドロップは、VIN/VOUTの割合で効率を低下させます。標準電源電圧が低下するに連れて、このドロップはVOUTの比により増大し、これによる効率ロスが原因で整流器設計の改善が必要になっています。

ここでは、精度と高速トランジェント応答について、Pentium Proの仕様を満足するような完全電源設計について述べます。ボード上での占有領域は僅か3.1" x 1.5"です。次により高い電流のボードとしては、15Aまでの出力電流を提供し、中間精度または高精度出力電圧が選択できるようになっています。さらに、ガンニングトランシーバロジック(GTL)バス終端用やPentium Proなどのプロセッサの高速バス終端用として使用する、1.5V電源の設計も紹介します。

マキシムは、Intel社のPentium Pro電源条件を満たすために、マザーボードのソケットにプラグを差し込む方式の標準コネクタ付きプラグイン電源モジュールを設計しました。このDC-DCコンバータモジュールは、MAX797 BiCMOSコントローラU1 (図1の上側と図2参照)に基づくものです。固定周波数PWMモードで構成されたU1は、低出力電圧で効率を向上できる同期整流器(N2)と共に動作します。

図1. Pentium Proマイクロプロセッサ用の電源モジュール(上側)およびガンニングトランシーバロジック用のバス終端電源(下側)は、共にMAX797ステップダウンPWMコントローラを用いています。

図1. Pentium Proマイクロプロセッサ用の電源モジュール(上側)およびガンニングトランシーバロジック用のバス終端電源(下側)は、共にMAX797ステップダウンPWMコントローラを用いています。

図2. この電源回路は、Pentium Pro マイクロプロセッサシステム用として、11.2Aで2.1V~3.5Vを生成します。

図2. この電源回路は、Pentium Pro マイクロプロセッサシステム用として、11.2Aで2.1V~3.5Vを生成します。

このモジュールは、J1コネクタピンを介し、4.5V~6Vの入力電圧および4ビット構成コードをPentium Pro (ピンVid0~Vid3)から受け取ります。µPの電源ピンに必要なモジュールの出力電圧は、コードで調整します。各ビットは、5V (ロジック1)またはグランド(ロジック0)のいずれかに設定されるため、合計16のコードが得られ、2.1V~3.5Vの出力電圧範囲を100mVステップで設定できることになります。

コストを最小に抑えるために、通常は出力電圧調整に用いる単一D/Aコンバータを、1つの抵抗分圧器および2つのMAX4051 (またはCD4051) 8-1マルチプレクサで置き換えています。回路の出力レベルは、U1の固定リファレンス2.5Vにより2.5V以下に制御することができます。この電圧はR6とR7で分圧し、U2A、C14、C23、およびR36から成る積分器へ供給します。電圧が2.5Vから2.1Vに低減され、(トランジェントに対する応答を高速化するために)直接カップリングされたフィードバック信号にこの電圧が加算され、U1のFB端子でメイン高速コンパレータに戻されます。U2の残りの部分(オペアンプU2B)は、出力電圧が許容範囲外になるとローに設定される、オープンドレインパワーグッド信号(PWRGD)を生成します。

パワーアップ時には、(U2Aのピン6とピン7間にある)ダイオードD5で出力のオーバーシュートを制限し、コンデンサC10 (U1のピン1)によって入力のサージ電流を低減します。内部ソフトスタート回路により、シャットダウン時(OUTEN = 0V)に、C10をクランドへ放電します。OUTENがハイになると、C10は内部の4µA電流ソースによって充電され、メイン出力コンデンサCOUTはその容量に依存してゆっくりと充電されます。5ms以内には最大電流値に達します。

連続短絡時には、D2およびD3がコンバータを保護します。入力コンデンサ(CIN)は、負荷トランジェントをメイン入力から切断するためだけでなく、入力リップル条件(出力電流の約半分)を満たしています。COUTは、バルク容量および低ESRを提供します。0.2Aから11.2A (モジュールの最大出力電流)までの負荷ステップに関しては、出力トランジェントが±50mV (typ)、出力リップルが15mV (typ)になっています。

図2のコントローラIC (MAX797)は、効率、ボードスペース、および出力電圧精度が重要となる高電圧5Vステップダウンアプリケーションにも適しています。この一例として、図3の同期バックDC-DCコンバータがあります。最小数の小型外付部品を使用して動作するように設計されたこのコンバータは、スイッチング周波数が300kHz、最大出力電流が15A (または20A)、出力範囲が2V~3.5Vとなっています。低価格、高スルーレートのnチャネルスイッチングMOSFET (N1とN2)は、高IOUTで(ヒートシンクを伴わず) 90%以上の効率を提供します。

図3. この高IOUT回路は、最大出力電流15Aまたは20Aを供給することができます(本文参照)。

図3. この高IOUT回路は、最大出力電流15Aまたは20Aを供給することができます(本文参照)。

表1.図3の2.5V出力に必要な部品
Component Load Current
15 Amperes 20 Amperes
Input Voltage 4.75V to 5.5V 4.75V to 5.5V
N1 MOSFET (High Side) MTB75NO3HDL (MOT) MTB75NO3HDL (MOT)
N2 MOSFET (Low Side) MTB75NO3HDL (MOT) MTB75NO3HDL (MOT)
Input Capacitor (CIN) 3 × 330µF (Sanyo 6SA330M or 10SA330M) 4 × 330µF (Sanyo 6SA330M or 10SA330M)
Output Capacitor (COUT) 6 × 330µF (Sanyo 6SA330M) 8 × 330µF (Sanyo 6SA330M)
Sense Resistor (R1) 2 in parallel (Dale WSL-2512-R009) 3 in parallel (Dale WSL-2512-R009)
Power Inductor (L1) 1.5µH, 20A (Coilcraft D05022P-152HC) 1µH, 25A (Coilcraft DO5022P-102HC)

±4%の出力電圧精度を許容できるアプリケーションに対しては、このICで固定出力の接続を提供することができます。FB端子(ピン7)を図のように接続すると、2.5V、3.3V、または5.0Vの出力が得られます。より高い精度のアプリケーションに対しては、スケーリングされたVOUTをコントローラのリファレンス電圧と比較することによってFBを制御するような、電源電圧範囲出力機能を備えたオペアンプ(U2)を追加することができます。この場合、抵抗R9およびR10により出力レベルを設定します(VOUT = 2.5 (1 + R10 / R9))。いずれのフィードバック構成でも、ボードから複数のマイクロプロセッサにVCCを提供することができます。

U1は、自己消費電流を3µAまで低下させる低消費電力シャットダウン機能を備え、優れたライン安定度と負荷安定度を提供します。また、ソフトスタート回路を備えているため、内部電流制限値を徐々に増加することによって、スタートアップ時の入力サージ電流を制限することもできます。ソフトスタート時には、出力コンデンサが比較的ゆっくりと充電されます。この場合は、0.01µFソフトスタートコンデンサ(C18)によって、10ms以内に最大出力電流値に達します。図3の回路を使用して15Aまたは20Aで2.5Vを発生させるために必要な部品を表1に示します。

新しいマイクロプロセッサに対しては、より低い電源電圧だけでなく、次世代のコンピュータに対応するための高速、低電圧バスも要求されます。このようなバス(GTL、Futurebus、Rambus等)には、信号電圧スイングを低減するような低電圧終端が必要です。中央終端トランシーバロジック(CTT)や高速トランシーバロジック(HSTL)などのバスは、電流をシンクおよびソースするための終端電源が必要です。

従ってバス終端電源は、GTLバスに対しては1.5Vを、CTTバスとHSTLバスに対しては0.75Vを発生し、終端抵抗へ電流をシンクおよびソースできなければなりません。5Aで1.5Vを供給する図4の回路は、高効率用同期整流器と共に動作するMAX797コントローラを使用することによりこれらの条件を満足させています(図5)。この回路では、インダクタ電流を反転させるための回路構成と同期スイッチN2を併用することによって、低電圧でのシンク機能を提供しています。(図1の写真の下側参照)。

図4. 正確な1.5Vステップダウンコンバータは、GTLデータバスの終端抵抗へ電源を供給します。

図4. 正確な1.5Vステップダウンコンバータは、GTLデータバスの終端抵抗へ電源を供給します。

図5. 図5の低VOUT (1.5V) GTLバス電源は、1A~2Aの負荷電流に対して最大の効率を達成します。

図5. 図5の低VOUT (1.5V) GTLバス電源は、1A~2Aの負荷電流に対して最大の効率を達成します。

SKIPロジック入力をハイに設定すると、インダクタ電流の連続コンダクションモードがイネーブルされ、出力からインダクタ、N2スイッチ、グランドへと電流が流れます。R5を66.5kΩから232kΩへ変更することで、出力電圧を1.5Vから0.75Vへ変えることができます。Pentium Pro用電源の場合と同様に、内部2.5Vリファレンス(ピン3)を分圧し、得られた結果を統合して直接接続したフィードバック信号に組み合わせると、この回路でも2.5V以下の安定化出力を達成することができます。

リニア設計のものとは異なり、出力シンク電流がグランドへ直接流れることはありません。この場合、回路の同期バック構成が逆に動作してブースト構成になり、シンク電流がプラス電流として5V入力電源へ流れます。