CDMA/WCDMA携帯電話のRF電力の低減
要約
CDMA/WCDMA携帯電話のRFパワーアンプへの供給電圧を制御することによって、PA効率を改善し、発熱を最小限に抑え、さらに電話のデータ/通話時間を大幅に延長することができます。
IS95/3GPPのスペクトラム拡散規格に規定された線形性と隣接チャネル電力比(ACPR)の厳しい仕様を満たすため、CDMA/WCDMA¹ワイヤレス電話機は、クラスAまたはクラスABの高線形性のRFパワーアンプ(PA)を必要とします。ただし、このタイプのPAの電力付加効率(PAE)は、Po = 28dBmで最大35%程度にすぎず、電力レベルが低くなると、さらにPAEは低下します。
PAは、音声モードでは連続的に動作しません。電話のユーザが話していないとき、PAはハーフレート(50%の時間)または1/8レートで稼動するため、音声モード時に電話機が発熱する心配はありません。しかし、データモードでは、データ伝送が終了するまでPAは連続的に動作します。PAの低効率とPAの連続動作が組み合わさることによって、バッテリは急速に消耗し、また内部に生じた電力損失によって電話機が過熱されることにもなります。
電力損失は、高速データ伝送サービスに対応した初期のWCDMA電話機にとって大きな問題でした。このため、設計者は、面積の大きなヒートシンク、多量のエアフローによる冷却、大容量の(かつ大きな)バッテリを組み込まざるをえませんでした。設計者がこの電力損失の問題を克服していなければ、今日の電話機は大きくて重いものだったことでしょう。幸いにも、CDMA/WCDMA携帯電話のPA電力効率を大幅に改善することによって、この数年間でこの問題は軽減されました。
PA電力の低減方法
CDMA/WCDMAシステムでは、PAのRF電力出力は常に最大ではありません。セルの容量(基地局が同時に処理できる伝送の数)を最適化するため、各携帯電話はそのRF出力電力を制御して、基地局で受信される有効な信号対ノイズレベルが各電話で同じになるようにしています。ある特定エリアにおける多数の電話のRF出力電力レベルの確率分布を見れば、一般的なCDMA/WCDMA電話の平均出力電力は郊外で約+10dBm、都市で+5dBmであることがわかります。したがって、PA効率を改善する場合の実用的な目標値は、最大電力レベルではなく、およそ+5dBm~+10dBmの範囲となります。
図1に示すように、CDMA/WCDMAパワーアンプには2つの供給電圧が必要です。VREFは、内部のドライバとパワーアンプの各段にバイアスをかける役割を果たし、VCCは、ドライバとパワーの各アンプのコレクタにバイアスをかける役割を果たしています。これら2つの電圧を調整することによって、PAの消費電流を低減することができます。
図1. CDMA/WCDMA携帯電話の標準的なパワーアンプ
VREFの低減
ゼロのRF電力を伝送するとき、PA自体は、VREF = 3.0VおよびVCC = 3.4Vにおいて、標準的な静止電流である100mAを消費します。VREFを3.0Vから2.9Vに低減すると、静止電流は約20mA低下します。このように、VREFを低減することによってPAの静止電流を大幅に節減することはできますが、PAの線形性とACPRがその仕様を満たせなくなります。
実験データによって、PA用に設けられた各出力電力レベルに対応するために必要な最小VREF電圧がわかれば、VREFの制御をPAのパワー制御プロセスに積極的に組み込むことができます。この方法が難しすぎる場合は、低電力モード(< 10dBm)と高電力モード(> 10dBm)に相当する、2段階のVREF変化を実装すれば簡単に実現することができます。ベースバンド制御DACによってVREFを調整するには、高出力電流の機能を備えた低電力オペアンプを外部の利得設定とともに使用します。
コレクタ-バイアス電圧の低減
標準のワイヤレス電話機では、PAのVCCは単一セルのリチウムイオンバッテリから直接出力されるので、VCCの動作範囲は3.2V~4.2Vとなります。上述したように、統計データから、CDMA/WCDMAのPAは、ほとんどの時間、+5dBm~+10dBmの電力レベルで動作することがわかっています。これらのレベルでは、PAの線形性を損なわずにPAのコレクタ-バイアス電圧(VCC)を大幅に低減することが可能で、また同時に、コレクタ-バイアスの過剰なヘッドルームによって生じる電力損失を低減することができます。低電力レベルでの実験に基づけば、基地局との適切な通信を維持しつつ、PAのコレクタ-バイアスを常に0.6Vにまで低減することができます。
PAコレクタの可変バイアス電圧は、特別に設計された高効率のDC-DCステップダウンコンバータによって供給されます。このコンバータの出力電圧は、ベースバンドプロセッサからの専用DAC出力を利用して調整されます。
DC-DCコンバータによってPAの電力とPAEを制御
PAのコレクタ電圧を制御するDC-DCコンバータは、制御信号に迅速に反応する必要があります。通常、コンバータの出力電圧は、ベースバンドプロセッサからのアナログ制御電圧が変化した後0.03秒以内に、新しい目標電圧の90%以内に設定される必要があります。コンバータのチップによって、そのVCC制御の入力電圧と、PAコレクタにバイアスをかけるための出力電圧との間に適切な内部利得が得られます。また、コンバータのチップは高周波数でスイッチングされるので、インダクタの物理サイズが縮小されます。
PAとバッテリの間にDC-DCコンバータを接続するときには、低バッテリ電圧で高RF電力を得るという課題に注目する必要があります。PAの線形性に対する仕様を維持しながら28dBmのRF電力を供給するため、PAメーカーは3.4Vの最小VCCを推奨しています。3.4Vで35%のPAEを維持するには、530mAという大きなPA-コレクタ電流も必要となります:
28dBmのRF電力:102.8mW = 631mW3.4VのVCCと530mAのICCに対応するためには、PA電力用のDC-DCコンバータに、一定量の入力-出力ヘッドルームが必要となります。たとえば、コンバータの内部PチャネルMOSFET (P-FET)のオン抵抗が0.4Ωで、インダクタの抵抗が0.1Ωの場合、これら2個の直列部品の両端における電圧降下は(0.4Ω + 0.1Ω) × 530mA = 265mVになります。したがって、DC-DCコンバータは、バッテリの電圧が3.665V未満に降下すると、3.4Vの出力に対応することができなくなります。
必要なPAの電力(VCC × ICC):631mW/(PAE/100) = 1803mW
3.4VのVCCで必要なPAのICC:ICC = 1803mW/3.4V = 530mA
この場合(バッテリ電圧が3.665V未満の場合)、PAコレクタをバッテリに短絡することが望まれます。短絡しなければ、リチウムイオンバッテリの全容量を利用することはできません。通常、この対策は、Rds(on)の低いP-FETを並列に接続することによって、インダクタと内部P-FETをバイパスするというものです。高電力モードのとき、このバイパスP-FET (内蔵でも外付けでも可能)によって、バッテリ電圧がPAコレクタに直接接続されます(図2)。高RF電力と低バッテリ電圧を組み合わせるためには、このバイパス処置が必須となります。
図2. DC-DCコンバータ(中央のIC)によって、ベースバンドプロセッサは、パワーアンプのVCCの制御を厳格に実施することができます。
PAEを最適化する最善の方法は、PA-コレクタバイアスを連続的に調整することです。ただし、この方法では、コレクタバイアスが絶えず変化しても良好なPAの線形性とACPRを確保するために、工場での較正と高性能なソフトウェアが必要となります。次善の方法は、一連の段階(通常は2~4段階)でバイアスレベルを変更することです(図3)。たとえば、4段階のシステムでは、VCCの値はVbatt、1.5V、1.0V、および0.6Vで構成されます。このようなシステムの全体効率は、PAコレクタバイアスを連続的に制御するシステムとほぼ同程度に良好なものであり、また電力レベルが低~中程度の場合、インダクタが対応しなければならないピーク電流は150mA未満ですみます。
図3. DC-DCコンバータが図2に示すパワーアンプに最大限の電力付加効率(PAE)を供給しています。
注
¹符号分割多元アクセス/広帯域符号分割多元アクセス