DN-251: ディスクリート・ローパス・フィルタを置き換える設計努力不要、部品2種類のみ、簡単なLTC1563
LTC®1563コンティニュアス・タイム、モノリシック・フィルタ製品ファミリは、ローパス・フィルタの設計を単純な抵抗値計算に簡略化します。
R=10k • (256kHz/fC)
ここで、
R=抵抗値(Ω)
fC=フィルタのカットオフ周波数(Hz)
(256Hz ≤ fC ≤ 256kHz)
このように簡単です。基本的な計算機(または計算尺)があれば、すぐにフィルタを設計できます。
LTC1563により、設計作業が楽になるだけでなく、構築が容易で、最終的に(単なるオペアンプ、抵抗、またはコンデンサではなく)フィルタとしての性能が完全に規定された回路を得ることができます。さらに、レイアウトに対する影響が最小化され、ユーザは1つの受動部品(抵抗)を指定するだけで済みます。
ローパス・フィルタ - 従来のアプローチ
フィルタ設計は、難解で骨の折れる数学的作業とみられることがよくあります。一般に、周波数およびインピーダンスのスケーリングを決める設計表が付いたフィルタに関する本を使えば、複素数微分方程式や楕円積分を避けることができます。高価なCADプログラムは設計作業に大変役立つものですが、このようなツールを常に利用できるとは限りません。最終設計では、オペアンプやいくつかの抵抗およびコンデンサの値が必要になります。
フィルタを設計したら、次は部品、性能、およびレイアウトに係わるいくつかの問題を解決しなければなりません。どの種類のコンデンサが最良か? 回路のダイナミック・レンジはどれ程か? レイアウト寄生容量の影響はどうか? 完全で耐久性に優れた設計を得るには、これらの質問にすべて答えなければなりません。
ローパス・フィルタ - LTC1563のアプローチ
LTC1563でローパス・フィルタを設計するのは簡単です。LTC1563ファミリには現在、LTC1563-2およびLTC1563-3という2つのデバイスがあります。LTC1563-2は、1つの抵抗値(フィルタを形成するには6個の抵抗が必要ですが、これらはすべて同じ値です。)でカットオフ周波数(fC)が設定される、ユニティゲイン、4次バターワース・ローパス・フィルタを提供するよう構成されています。同様に、LTC1563-3は、同じく1つの抵抗値でカットオフ周波数を設定する、ユニティゲイン、4次ベッセル・ローパス・フィルタを提供します。抵抗値は前述の簡単な式で計算できます。
図1に、LTC1563-Xを使用した標準的な単一電源アプリケーションの回路図を示します。カットオフ周波数100kHzでのLTC1563-2(バターワース)およびLTC1563-3(ベッセル)の周波数応答を図2に示します。また、ステップ応答を図3に示します。バターワース応答は、平坦なパスバンド利得(DCからカットオフ周波数付近まで)と比較的鋭いコーナのため、頻繁に選択されます。ベッセルは、コーナの鋭さを犠牲にして、オーバシュートとリンギングのない完全なステップ応答を実現しています。
図1. 標準的なLTC1563-X単一電源アプリケーション
図2. 100kHzベッセル・フィルタおよびバターワース・フィルタの周波数応答
図3. 100kHzベッセル・フィルタおよびバターワース・フィルタのステップ応答
性能を犠牲せずに容易に設計可能
LTC1563-Xの設計作業は簡単ですが、フィルタ性能を犠牲にしているわけではありません。これらのデバイスは完全に特性が定められたフィルタ製品であり、フィルタのノイズ、歪み、およびダイナミック・レンジ性能が十分に知られています。LTC1563-Xは、信号レベルと帯域幅に応じて約90dBのダイナミック・レンジを提供するため、16ビット・データ収集システムに適したデバイスとなっています。さらに、LTC1563-Xは2.7Vから±5Vまでの電源電圧でのレール・トゥ・レール入出力動作をサポートします。LTC1563-Xは、1.5mVの標準出力DCオフセットおよび10µV/°Cの出力DCオフセット・ドリフト性能も備えています。低周波数アプリケーション(fC ≤ 25.6kHz)の場合、消費電流が約1mAに低下する低電力モードを活用できます。
LTC1563-Xは、細型16ピンSSOPパッケージ(SO-8の実装面積)で供給されます。LTC1563-Xのピン配置ではレイアウトが容易になるので、本質的にトレースによる寄生容量が除去されます。これらの特長とLTC1563-Xの2%の周波数精度により、耐久性に優れ、コンパクトで安定したフィルタが実現されます。最終的には、難なく既知のダイナミック・レンジを持ち、製品間のバラツキが小さい希望のフィルタを得ることができます。
利得付きチェビシェフ・フィルタも可能
LTC1563-Xは、前述のフィルタを簡単に設計できるよう構成されていますが、単に異なる値の抵抗を使用するだけですべての伝達関数に自由に設計できるトポロジーを備えています。
LTC1563-Xは、カスケード接続された2つの2次セクションで構成されており、4次フィルタを形成しています(2つのセクションは類似していますが、同じではありません)。2次セクションは、利得、fO周波数、Q値という3つのパラメータによって数学的に定義されます。LTC1563-Xの各セクションには、2次セクションを形成するための3つの抵抗が必要です。利得、fO、Qのトリプレットすべてがそれぞれ固有の3抵抗ソリューションに対応します。このように柔軟に設計できるため、仮想的には任意の全極フィルタを実現できます。LTC1563-Xをカスケード接続して8次フィルタを形成することもできます。さらに、1個の抵抗およびコンデンサを追加すれば、奇数次フィルタを構築できます(たとえば、1つのデバイスで5次フィルタ)。
図4に、カットオフ周波数が150kHzでパスバンド利得が10dBの0.1dBリップル・チェビシェフ・フィルタの回路図を示します。これは、LTC1563-Xでできる広範なフィルタ設計の一例に過ぎません。これらその他の伝達関数(ユニティゲイン、4次バターワースまたはベッセル以外の伝達関数)の設計は、やや複雑です。しっかりした優れた設計を得る最良の方法は、リニアテクノロジーのFilterCAD™フィルタ設計ソフトウェア(version 3.0またはこれ以降)を使用することです。FilterCADは、Windows®95またはこれ以降のOSで動作し、リニアテクノロジーのWebサイト(www.linear-tech.com)から無料で入手できます。また、FilterCADの無料CD-ROMもありますので、お問い合わせください。
図4. 10dBのDC利得を持つ、0.1dB、150kHzチェビシェフ・ローパス・フィルタ
まとめ
LTC1563フィルタ製品ファミリは、最小限の設計努力で問題のないフィルタを実現します。使い易さ、安定した結果、および設計の柔軟性を特長とするLTC1563は、すべてのフィルタ・アプリケーションが必要とするただ1つのデバイスといえるでしょう。