複数のDC/DC回路構成を1個のICで:SEPICおよび昇圧アプリケーションにも使用可能なデュアル出力降圧IC
はじめに
工業用システムの設計者や自動車メーカーは、パワー・エレクトロニクスの主要ユーザであり、降圧、昇圧、SEPICなどの使用可能なDC/DCコンバータの回路構成を様々に組み合わせた、フル・アレイの製品を求めています。理想としては、新しいプロジェクトごとに特化したコントローラICやモノリシック・コンバータICで性能を最適化することが望まれますが、これは現実的ではありません。
実際には、新しいチップを工業用またはオートモーティブ用に設定して使用するには、要求の厳しいこれらの環境で使用できるようになるまで、広範なテストを行ってその品質を実証する必要があります。アプリケーションごとに異なるICを実装することは、時間がかかり、コストも膨大です。一方、複数の回路構成で使用でき、様々なアプリケーションで再利用可能なことが試験され実証済みの既製のICを使用することは、はるかに望ましい方法といえます。本稿では、一例として、SEPIC(昇圧および降圧)アプリケーションと昇圧アプリケーションにLTC3892降圧コントローラを使用する方法を紹介します。
回路の説明と機能
LTC3892は、入出力電圧範囲が4.5V~60Vのデュアル出力同期整流式降圧コントローラとして設計されており、ほとんどの車載アプリケーションと工業用アプリケーションの条件を満たしています。これらの環境では、コンバータへの電圧入力が著しく変化する可能性があります。例えば、車載アプリケーションではコールド・クランクや負荷ダンプにより電圧が変化し、工業用システムではプラント機械が起動または停止する際に電圧低下や電圧スパイクなどが発生するおそれがあります。LTC3892の本来の降圧回路構成は、入力電圧が出力を下回ると出力電圧を安定化することができませんが、SEPIC回路構成であればこれが可能です。
図1に、2通りの出力に対応するSEPICソリューションを示します。VOUT1は10Aで3.3V、VOUT2は3Aで12Vです。入力電圧範囲は6V~40Vです。VOUT1は、L1、Q1、Q2を含むパワー・トレインを備え、単純な降圧コンバータとして実装されています。部品数を削減するため、VPRG1ピンはGNDに接続され、VOUT1は3.3Vになるよう内部でプログラムされています。
LTC3892の2つ目の出力はSEPICコンバータです。SEPICのパワー・トレインにはL2、L3、Q3、D1が含まれます。ここでは、2個のディスクリート・インダクタを備えた非結合SEPICが採用されており、広い範囲のインダクタを使用可能です。これは、コストが重視されるデバイスでは重要な点です。
図2に、コールド・クランクなどにより電圧が低下した場合に、コンバータがどのように機能するかを示します。レール電圧VINは公称電圧の12Vを大きく下回っていますが、VOUT1とVOUT2のレギュレーションはどちらも維持されており、限界負荷に対して安定した電源を供給しています。図3に、負荷ダンプなどの電圧スパイクが発生した場合に、コンバータがどのように機能するかを示します。VINが公称電圧の12Vを大きく上回っているにも関わらず、VOUT1とVOUT2のレギュレーションは維持されています。
図4は、ここで説明したデュアル出力コンバータのデモンストレーション回路、DC2727Aです。DC2727AのSEPIC部分は、1個のインダクタL2を取り外し、2番目のインダクタL3を適切な昇圧用チョークに置き換えることで、昇圧回路構成に容易に再配線できます。
まとめ
LTC3892は、オートモーティブ環境や工業環境で使用するDC/DCコンバータの様々なニーズに応えることのできる、柔軟性の高いコントローラです。主として同期整流式降圧コンバータに使用するよう設計されていますが、SEPICや昇圧コンバータのアプリケーションでも使用可能で、これらの回路構成が必要な場合に品質テストのプロセスを簡素化します。