DN-187: xDSLラインを低ノイズで簡単にドライブ可能な新しい低消費電力、高出力電流のデュアルCFA

はじめに

高速、高出力電流、デュアル・オペアンプにとって、高速モデムの平衡ラインのドライブが非常に一般的なアプリケーションとなりました。最低1MHzの帯域幅の信号通過帯域を忠実に処理するために、高速のアンプ・スピードが必要で、また100Ωまたは135Ωの終端に対する最大ドライブ・レベルを満足するために、高出力電流が必要です。これらのアプリケーションの最大対平均信号比を考慮して、表1に現在のxDSLシステムで必要な最大電圧/電流ドライブ・レベルを要約します。表に示す最大電圧および電流ドライブ値は、100Ω終端を接続したADSLシステムと、135Ω終端を接続したHDSL/HDSL2システムです。

表1. ポピュラーなxDSLシステム用の最大ドライブ・レベル
xDSL 公称 送信電力 最大 電圧 最大 電流
 HDSL 13.5dBm 5.6VP-P 42mAP-P
ADSL DMTアップストリーム 13dBm 15VP-P 150mAP-P
ADSL CAPアップストリーム 13dBm 8.5VP-P 86mAP-P
ADSL CAPダウンストリーム 20dBm 18.9VP-P 190mAP-P
HDSL2 16.5dBm 19.6VP-P 146mAP-P

今日、表1に記載するxDSLアプリケーションのうち少くとも1つ(全部ではない)に対応可能なアンプ製品が提供されています。これらの製品は1つの用途に特化されており、電源電圧動作が制限されている、無負荷時消費電力が過大、パッケージング/放熱が大きい、ダイナミック性能(サーマルおよび相互変調クロストーク)が制限されている、といった短所のうち少なくとも1つを持っています。

リニアテクノロジーのLT®1497、50MHz、125mAデュアルCFAは、表1に示す5つのxDSLアプリケーションのうち1つまたはすべてに対応可能な高速、高電流デュアル電流帰還アンプ・ファミリの4番目の製品です。±2.5V~±15V電源で動作し、消費電流は1アンプ当たり7mA以下で、SO-8パッケージと熱に対する改良がなされたS16パッケージの両方で供給されます。LT1497は、出力段の出力電流が125mAで電圧振幅がいずれかのレールの2V以内であり、小さな巻線比(1:1および1:2)のトランスを使用してラインに電源を供給できるため経済性に優れたデバイスです。これらのトランスは、単一電源電圧レールで動作する一部のアンプで要求される高い巻線比のトランスよりも安価です。さらに、消費電流が小さく、デバイスやヒートシンクに必要なPCボード面積が少なくてすむため、1枚のカードで多くのモデム回線を収容できます。入力オフセット電圧マッチ(-3.5mV)およびTCVOS(10mV/°C)が低い(他のアンプでは規定されていない)ので、トランスの一次巻線を流れるDC電流を阻止するのに使用する出力カップリング・コンデンサが不要です。

低歪みHDSLライン・ドライバ

図1に1:1のトランスを通して、135Ωツイスト・ペア上で信号を伝達するHDSL差動ライン・ドライバ回路を示します。ドライバ・アンプは利得が2(A1)および-1(A2)で構成されており、ラインのバック終端に付随する減衰を補償し、トランスに差動ドライブを提供します。

図1. xDSLアプリケーション用のLT1497をベースにした低歪み、差動トランスミッタ回路

図1. xDSLアプリケーション用のLT1497をベースにした低歪み、差動トランスミッタ回路

入力回路構成はシングルエンドですが、この回路構成は非常に簡単に操作でき、差動出力アナログ・フロントエンド(AFE)やライン・ドライバ回路に対する単一電源レール動作に適応することができます。HDSLアプリケーションでは、LT1497の高い出力電流および電圧振幅で、135Ωラインを-72dBcの所要歪みレベルでドライブします。1.544MbpsのHDSLデータ・レートでは、動作の基本周波数は392kHzです。

性能

図1の回路において、400kHzの正弦波で5.6VP-Pの出力レベルを、HDSL終端に対するピーク・ドライブ動作を表す135Ω終端で、高調波歪みを評価しました。図2は、第2高調波が135Ω負荷の場合に基本波を基準にして-72.3dBであることを示しています。受信した信号はA/Dコンバータでデジタル化される前に十分フィルタされているので、第3高調波歪みは重要ではありません。

図2. 図1の回路の高調波歪み性能。5.6VP-P、400kHz正弦波、135Ω終端

図2. 図1の回路の高調波歪み性能。5.6VP-P、400kHz正弦波、135Ω終端

ディスクリート・マルチトーン変調(DMT)などの多重キャリア・アプリケーションがシングル・キャリア・アプリケーション並みに普及してきたため、アンプのダイナミック性能を測定するもう1つの重要な要素が2トーン混変調歪みです。この評価は、2つ以上のトーンを同時に処理するときに、アンプの直線性を評価するための有効なツールです。このテストでは、135Ωの負荷で5.6VP-Pが得られるようレベルを設定した状態で、300kHzと400kHzの2つの正弦波を使用しました。図3は3次相互変調積が-72dBよりはるかに下にあることを示しています。

図3. 図1の回路の2トーン混変調歪み性能。300kHzと400kHzの2つの正弦波、5.6VP-P、135Ω終端

図3. 図1の回路の2トーン混変調歪み性能。300kHzと400kHzの2つの正弦波、5.6VP-P、135Ω終端

まとめ

この新しいLT1497は、SO-8パッケージで卓越した歪み性能を達成しており、消費電力が低く、高速モデムを低コストで実現します。特に、DMTリモート端末、CAPセントラル・オフィス/リモート端末、HDSLまたはHDSL2ライン・ドライバ・アプリケーションに最適です。

著者

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Adolfo Garcia