LDOによる白色LEDの電流マッチングの改善
要約
白色発光ダイオード(LED)は、フラッシュライトやハンドヘルド電子機器のディスプレイ用バックライトなど、さまざまな照明アプリケーションで需要が増えています。白色LEDの光は白熱電球よりも白く、消費電流が低い上、蛍光灯よりも使いやすくなっています。ただし、複数の白色LEDを連結したときのマッチングが不完全になることがあります。低コストのリニアレギュレータ(LDO)を使えば、種類の異なるLEDであってもマッチングが著しく改善されます。
数年前に開発されて以来、白色発光ダイオード(LED)は着実に好評を博してきました。白色LEDの光は白熱電球よりも白く、蛍光灯よりも使いやすいため、フラッシュライトやハンドヘルド電子機器のディスプレイ用バックライトなど、さまざまな照明アプリケーションで市場シェアを堅実に拡大しています。しかしながら、白色LEDには、白色LEDに特有の技術的問題点があります。
複数の白色LEDを使用するときに一番の問題となるのは、精度の高いマッチングが難しいということです。たとえば、仕様には白色LEDの順方向電圧(20mAでのVf)が最小3.0V、標準3.5V、最大4.0Vと表示されており、定電圧源がこの問題のソリューションにならないことは明白です。電流は所定の電圧にてユニットごとに大幅に変化するからです。輝度をマッチングさせるには、同一の電流値を用いて各LEDを駆動する方法が推奨されますが、この方法はコストがかかります。大半のアプリケーションは、図1に示すように、単純に固定のバイアス電圧と安定抵抗器を使用しているにすぎません。
図1. 大半のアプリケーションは、単純に固定のバイアス電圧(この場合は5V)と安定抵抗器(この場合は75Ω)を使用して、白色LEDの輝度マッチングをおおよそで達成しています。
通常は、図1のような回路によって、かなり高精度の輝度マッチングが実現されます。ただし、大量生産に従事するたいていの人が経験するように、組み立てラインで次々に作り出される製品はある程度均一な特性を示すものの、製造工程全体を通じて見た場合、実質的にロット間の変動が生じることがあります。当然のことながら白色LEDについても例外ではありません。一般的に、この結果、厄介な生産上の問題が生じることになり、このため新しいLEDのロットを使用するたびにその特性を測定し、それに応じた安定抵抗器の値を選択する必要があります。複数メーカのLEDを使用している場合には、問題はさらに深刻になります。これを実証するために3社のメーカからそれぞれ3個の白色LEDを購入し、図1の回路を使用してテストしました。ブランドAは白色LEDの最大手のメーカから購入したものであり、LEDは1つの小さなビニール袋に入れられて届けられました。また、ブランドBは業界2位の大手白色LEDメーカから購入したもので、LEDはテーピングで納入されました。ブランドCは中小メーカ製で、地域の電気店にて購入し、LEDは個別にパッケージングされていました。テスト結果を表1に示します。
表1. 図1の回路の製造性を評価するために、異なるメーカ3社からそれぞれ3個の白色LEDを購入し、LED電流を測定しました。平均値の標準偏差が3.27mAであることからわかるように、異なるブランド間のマッチングはよくありません。
表1の標準偏差の欄「Stdev」に見られるように、同じブランド内でのマッチングはかなり良好で、ブランドAとブランドBは非常に良好なマッチングを示しています。予想されるとおり、個別にパッケージングされたブランドCのLEDは、他に比べてマッチングが悪くなっています。同一ブランド内マッチングの性能指数0.54mAは、標準偏差値の平均を計算して求めたものです。
表1の平均欄「Avg」に見られるように、異なるブランド間のマッチングはかなり貧弱になります。ブランドAの消費電流は最大(平均24.6mA)で、ブランドBの消費電流は最小(平均18.3mA)です。異なるブランド間のマッチング性能指数3.27mAは、平均値の標準偏差を計算して求めたものです。
先に述べたように、LED電流を個別に調整する、または少なくとも1つのLED電流を調整するというソリューションによって、製品の製造期間におけるロット間やブランド間のマッチングが向上します。ただし、これらのソリューションは一般的に非常に高価なICを必要とします。幸いなことに、完全なマッチングよりもコストが重要となる場合には、安価な低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータを使用することで、新しいLEDのロットごとに安定抵抗器を細かく調整せずにすむという十分な利点が得られます。図2は、中間電圧/電流調整モードでLDOを使用する方法を示しています。このモードでは、複数のLEDのいずれか1つのLEDの順方向電圧に応じて、自動的にバイアス電圧が変化します。
図2. 安価なLDOを追加してバイアス電圧を自動的に変化させることによって、ロット間やブランド間の白色LEDの変動に対する輝度マッチングが大幅に改善します。
図2の効果を実証するため、3社のメーカからそれぞれ3個の同一LEDを購入し、再度テストを行った結果を表2に示します。同一ブランド内マッチングには妥協による若干の損失が見られますが(表1の0.54mAに対し0.77mA)、異なるブランド間のマッチングは340%改善されています(表1の3.27mAに対し0.96mA)。
表2. 図2の回路のマッチング性能を評価するために、3個の白色LEDからなる3つの同一ロットを再度テストしたところ、異なるブランド間のマッチングが大幅に改善されています。表1では3.27mAであった平均値の標準偏差が0.96mAになっています。
図2のLDOは、MAX8863のような外部から調整可能なタイプでなければなりません。フィードバックスレッショルド(VSET)は1.25Vです。LDOはシャットダウンピンを備えており、オン/オフやPWMの調光制御に図1のNチャネルFETを必要としないため、小型のSOT23パッケージのLDOを追加することによって必要となるサイズやコストは部分的に相殺されます。LDOはこの他にもLED短絡保護や広範囲の入力電源電圧、さらには5V電源を他の回路と共有する場合におけるPSRRの向上などの利点を実現しています。さらに、ブランドAのLEDが「高温」で動作することがなくなり、電力消費によるストレス問題が軽減されます。
図3は、LED当り15mAになるように図2を変更する方法を示しています。これは、表面実装の白色LEDを使用するたいていのポータブルバックライトのアプリケーションで要求されるものです。MAX8863は、LED当り15mAで最大8個のLEDをサポートします。15mAでは、LEDの順方向電圧と安定抵抗器の両端電圧が低下するため、最小入力電圧も低くなります。
図3. MAX8863 LDOは、LEDにロット間やブランド間の変動があっても、優れた輝度マッチングによって、1~8個の白色LEDをLED当り15mAにて駆動することができます。
この記事は2002年11月号の雑誌「ECN」に掲載されています。