高電力アプリケーション用の高効率・高密度スイッチド・キャパシタ・コンバータ

一般に、DC/DCコンバータの電力密度はサイズの大きい磁気部品によって制限されますが、入出力電圧が比較的大きいアプリケーションでは、とりわけその傾向が強くなります。インダクタ/トランスのサイズはスイッチング周波数を上げることによって小さくできますが、これにより、スイッチング関連の損失が生じるため、コンバータの効率を低下させることになります。したがって、インダクタ不要のスイッチド・キャパシタ・コンバータ(チャージ・ポンプ)を使用する回路構成によって、磁気部品をなくすほうが得策です。チャージ・ポンプを使用すれば、効率を犠牲にすることなく、電力密度を従来型コンバータの10倍も上げることができます。インダクタの代わりに、フライング・コンデンサがエネルギーを保存して入力から出力へ転送します。チャージ・ポンプ設計には様々な利点がありますが、スイッチド・キャパシタ・コンバータには起動、保護、ゲート駆動、レギュレーションなどに関する課題があるため、これまでの用途は低消費電力アプリケーションに限られてきました。

LTC7820は固定比率、高電圧、高電力のスイッチド・キャパシタ・コントローラで、故障保護機能を備えた高電力の非絶縁型中間バス・アプリケーション用に、小型でコスト効率の良いソリューションを実現します。LTC7820の主な特長を以下に示します

  • ロー・プロファイル、高電力密度、500W以上の能力
  • 分圧器(2:1)の場合の最大VIN:72V
  • 電圧ダブラ(1:2)/インバータ(1:1)の場合の最大VIN:36V
  • 広いバイアスVCC範囲:6V~72V
  • ソフト・スイッチング:ピーク効率99%、低EMI
  • 定常動作へのソフトスタート 
  • 入力電流検出と過電流保護
  • 内蔵ゲート・ドライバ
  • プログラム可能なタイマーおよびリトライ機能付き出力短絡保護/OV保護/UV保護
  • 熱特性を改善した28ピン4mm×5mm QFNパッケージ

電力密度4000W/In3の48V~24V/20A分圧器

LTC7820を使用した480Wの出力分圧回路を図1に示します。入力電圧は48V、最大負荷20Aでの出力は24Vです。16個の10µFセラミック・コンデンサ(1210サイズ)がフライング・コンデンサとして機能し、電力を供給します。ソリューション・サイズは図2に示すように約23mm×16.5mm×5mmで、電力密度は4000W/in3に達します。.

図1. 電力密度4000W/in3の48V~24V/20A分圧器

図1. 電力密度4000W/in3の48V~24V/20A分圧器

図2. ソリューション・サイズの推定最大高さは5mm

図2. ソリューション・サイズの推定最大高さは5mm

高効率

高効率この回路はインダクタを使用しないので、4個のMOSFETはすべてソフト・スイッチで作動し、スイッチング関連の損失が大幅に軽減されます。このコンバータは図3に示すように高い効率を実現可能で、ピーク効率は99.3%、全負荷時効率は98.4%です。図4のサーモグラフはバランスの取れた熱設計であることを示しており、周囲温度23℃で強制空冷を行わない状態でのホットスポット温度は約82.3°Cです。

図3. 48V入力、24V出力、スイッチング周波数200kHzでの効率

図3. 48V入力、24V出力、スイッチング周波数200kHzでの効率

図4. 48V入力、24V/20A出力、スイッチング周波数200kHzでの熱テスト

図4. 48V入力、24V/20A出力、スイッチング周波数200kHzでの熱テスト

プリバランスによる突入電流の防止

LTC7820には、非常に優れた効率と熱性能に加えて、分圧器アプリケーションにおける突入電流を最小限に抑えるアナログ・デバイセズ独自の事前バランス調整機能が組み込まれています。LTC7820のコントローラはスイッチング前にVLOW_SENSEピン電圧を検出して、内部的にその値をVHIGH_SENSE/2と比較します。VLOW_SENSEピンの電圧がVHIGH_SENSE/2よりはるかに低い場合は、電流源が93mAの電流をVLOWピンに注入してVLOWの電圧を引き上げます。VLOW_SENSEの電圧がVHIGH_SENSE/2よりはるかに高い場合は、別の電流源が50mAの電流をVLOWからシンクしてその電圧を引き下げます。VLOW_SENSEの電圧がVHIGH_SENSE/2に近い場合、つまり予め設定されたウィンドウ内に収まる場合は、両方の電流源がディスエーブルされてLTC7820はスイッチングを開始します。

図5は、プリチャージなしで起動した場合に発生する非常に大きな突入電流を示したもので、その大きさはMOSFETやコンデンサを損傷させるのに十分過ぎるほどのものです。これに対し、事前バランス調整法を用いた場合、図6に示すように過大な突入電流は見られません。

図5. プリバランスなしでの起動波形には大きな突入電流がが見られる

図5. プリバランスなしでの起動波形には大きな突入電流がが見られる

図6. LTC7820のプリバランス機能を使用した場合の起動波形には突入電流が見られない

図6. LTC7820のプリバランス機能を使用した場合の起動波形には突入電流が見られない

厳密な負荷レギュレーション

LTC7820ベースの分圧器はオープンループ制御のコンバータですが、その高い効率ゆえに負荷レギュレーションは厳密に行われます。図7に示すように、全負荷時でも出力電圧の低下は1.7%に過ぎません。

図7. 負荷レギュレーション

図7. 負荷レギュレーション

保護機能

LTC7820には、コンバータの高い信頼性を確保するための保護機能が組み込まれています。過電流保護は、高電圧側にある検出抵抗を通じて有効化されます。高精度のレールtoレール・コンパレータが、検出抵抗にケルビン接続されたISENSE+ピンとISENSE–ピンの電圧差をモニタします。ISENSE+の電圧がISENSEピンの電圧より50mV高くなると、過電圧故障がトリガされます。FAULTピン電圧がグラウンドまで下げられてLTC7820はスイッチングを停止し、タイマー・ピンの設定に基づいてリトライ・モードを開始します。

OV/UVウィンドウ・コンパレータを通じて、その他の保護機能を利用することもできます。通常動作時は、VLOW_SENSEの電圧がVHIGH_SENSE/2に近づきます。ウィンドウ・コンパレータはVLOW_SENSEをモニタして、その値をVHIGH_SENSE/2と比較します。ヒステリシス・ウィンドウ電圧はプログラム可能で、これはHYS_PRGMピンの電圧と等しくなります。HYS_PRGMピンに100kΩの抵抗を接続した状態では、起動時および通常動作時にVHIGH_SENSE/2がVLOW_SENSE±1Vのウィンドウ内に入っていなければなりません。それ以外の場合は故障状態がトリガされて、LTC7820はスイッチングを停止します。

まとめ

LTC7820は固定比率の高電圧・高電力スイッチド・キャパシタ・コントローラで、バス・コンバータ、高電力分散型給電システム、通信システム、工業用アプリケーションなどの電力密度に関する要求を満たします。インダクタは不要です。

著者

Jian-Li

Jian Li

2004年に中国の清華大学で制御理論と制御工学の修士号を、2009年に米国のバージニア工科大学でパワー・エレクトロニクスの博士号を取得。現在はアナログ・デバイセズでパワー製品のアプリケーション・エンジニアリング・マネージャとして業務に従事。9つの米国特許を持ち、これまでに20以上の原著論文や学会論文を発表。

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Jeff Zhang

中国北京生まれ。清華大学で電気工学の学士号と修士号を、ボールダーのコロラド大学で博士号を取得。2010年にリニアテクノロジー(現アナログ・デバイセズ)に入社。現在はPower by Linear™グループのパワーIC設計エンジニア。

Ya-Liu

Ya Liu

カリフォルニア州ミルピタスにあるアナログ・デバイセズのパワー製品アプリケーション・グループに所属するシニア・アプリケーション・エンジニア。現在は、スイッチド・キャパシタ・コンバータとハイブリッド・コンバータのプライマリ・アプリケーション・サポートを担当。その他にPSMコントローラとアナログ降圧コントローラのサポートにも従事。中国杭州市の浙江大学で学士号を、ブラックスバーグのバージニア工科大学で修士号を取得。専攻はいずれも電気工学。中国特許2件、米国特許3件を所有。

Marvin-Macairan

Marvin Macairan

アナログ・デバイセズPower by Linear™アプリケーション・グループのアソシエイト・アプリケーション・エンジニア。アプリケーション・エンジニアのサポートと、ADIパワー製品を中心とするデモ・ボードの最適化を担当。サン・ルイス・オビスポのカリフォルニア州立工科大学で電気工学の修士号を取得。