静止電流16µAのデュアルチャンネル、8.5A、18V、同期整流式降圧Silent Switcherデバイス
LT8652Sは、入力範囲が3V~18Vのデュアルチャンネル同期整流式モノリシック降圧レギュレータです。このデバイスは両方のチャンネルから最大8.5Aの連続電流を供給でき、各チャンネルは12Aまでの負荷に対応しています。また、20nsという極めて短い最小オン時間のピーク電流モード制御機能を備えており、高スイッチング周波数でも高い降圧比を実現できます。高速でクリーンな上にオーバーシュートの小さいスイッチング・エッジにより、高いスイッチング周波数でも高効率の動作が可能で、ソリューション全体のサイズを小さく抑えることができます。
LT8652Sは低EMIと小さいソリューション・サイズを実現できますが、このような組み合わせを実現できるソリューションはほとんどありません。その特長はアナログ・デバイセズ独自のSilent Switcher® 2アーキテクチャで、これは高いスイッチング周波数で高効率を実現しながら、EMIを最小限に抑えます。このアーキテクチャではパッケージにバイパス・コンデンサが組み込まれているので、最適なレイアウトに高di/dtのループが工場出荷時に設定されています。ソリューションはアプリケーション・レイアウトの影響を受けにくいので、謳われているEMI性能を容易に実現できます。LT8652Sは、ノイズに敏感なアプリケーションや環境において、ほぼ即使えるソリューションとなっています。
バッテリ駆動ソリューションでは、軽負荷時と無負荷アイドル時の電流量を最小限に抑えればバッテリ持続時間を延ばせるので、この電流量が重要なパラメータとなります。多くのアプリケーションでは、アイドル状態にある時間が最も多くなります。Burst Mode®動作におけるLT8652Sの静止電流は16μAと極めて小さいので、バッテリの持続時間を延ばすことができます。内蔵のトップおよびボトムNチャンネルMOSFETは、極めて優れた軽負荷時効率に貢献しています。LT8652Sには出力負荷範囲全体にわたり高調波を制御できる強制連続モードも含まれており、拡散スペクトラム動作と合わせて更にEMI放出が減少します。
LT8652Sでは内部補償オプションと外部補償オプションを選択できます。内部補償を選択すれば外付け部品が最小限に抑えられるので、ソリューションのサイズを小さくすることができます。また、VCピンを介して外部補償を行えば、高スイッチング周波数で高速の過渡応答を実現できます。更に、VCピンを使用すると、並列のシングル出力動作時におけるチャンネル間の電流分担が容易になります。CLKOUTピンとSYNCピンは、他の複数のLT8652Sを同期して、更に電流容量を拡大することができます。低電圧高電流アプリケーションの負荷に厳密な出力電圧レギュレーションを行うことができるように、LT8652Sは、出力電圧検出と出力コンデンサからの直接フィードバックのためのケルビン接続を可能にする、差動出力電圧検出機能を備えています。
一部の高電流アプリケーションでは、テレメトリおよび診断用の出力電流情報が必要になります。また、負荷の損傷を避けるために、動作温度に基づく最大出力電流の制限やディレーティングが必要になることがあります。LT8652SのIMONピンは、負荷電流をモニタして減らすために使用できます。負荷ベースやボード温度ベースのディレーティングは、IMONとGNDの間に正の温度係数のサーミスタを取り付けることによって設定できます。LT8652Sは、IMONピン電圧と内部1Vリファレンスを比較することによって、負荷やボードの温度を効果的に制御することができます。ただし、IMONが1V未満に低下した場合は効果がありません。
回路の構成と機能
3.6V~18V入力、3.3V/8.5Aおよび1.2V/8.5A出力、スイッチング周波数2MHzの電源を図1に示します。各チャンネルは、最大12Aの連続負荷電流を供給できます。ソリューションを完成させるために必要な追加部品の数は、インダクタやいくつかの受動部品を含めてわずかです。図2は、図1の回路が94%のピーク効率を実現できることを示しています。
差動電圧検出が厳密な負荷レギュレーションを実現
大電流アプリケーションでは、PCBパターン1インチごとに大きな電圧降下が生じます。極めて正確な出力電圧を必要とする低電圧大電流の負荷では、この電圧低下が重大な問題を引き起こす可能性があります。LT8652Sは差動出力の電圧検出機能を備えているので、出力電圧検出と出力コンデンサからの直接フィードバックのためのケルビン接続を行うことができます。これは、最大±300mVの出力グラウンド・ライン電位を修正することができます。差動検出機能を使用して図1の両方のチャンネルに行った負荷レギュレーションの様子を図3に示します。
高スイッチング周波数、超低EMI放射、向上した熱性能
EMI/EMC条件への適合は、数多くの電子環境で大きな関心事となっています。組込みMOSFET、先進的なプロセス技術、最大3MHzの動作周波数などの特徴を備えたLT8652Sは、高速でクリーンな上にオーバーシュートの小さいスイッチング・エッジを実現できるので、高いスイッチング周波数でも高効率の動作が可能であり、最終的に全体のソリューション・サイズを小さく抑えることができます。最先端のSilent Switcher 2技術を使用したホットループ・コンデンサ内蔵のLT8652Sは、トップレベルのEMI性能と低スイッチング損失を同時に実現します。スイッチング周波数の拡散スペクトラム動作は、EMIテストにも有効です。内蔵のホットループ・コンデンサは、ボード・レイアウトやレイヤによる回路への影響を緩和します。図1に示すアプリケーションのCISPR 22およびCISPR 25クラス5のEMI性能を図4と図5に示します。
まとめ
LT8652Sは内蔵パワーMOSFETと組込み補償回路を備えた使いやすいモノリシック降圧レギュレータで、高降圧比、高負荷電流、低EMIノイズなどの条件が求められるアプリケーション用に最適化されています。16μAの静止電流とバースト・モード動作オプションにより、バッテリ駆動式降圧コンバータ用として理想的なソリューションとなっており、バッテリのスタンバイ時間を大幅に延長します。また、その300kHz~3MHzのスイッチング周波数範囲は、ほとんどの産業用および自動車用アプリケーションに適しています。更に、MOSFETを内蔵し、3MHzのスイッチング周波数を使用できることから、最終的なソリューション・サイズが最小に抑えられます。CISPR 22とCISPR 25による検査の結果は、そのEMI性能が最も厳しいEMI規格に適合していることを示しています。最後に、LT8652Sでは、そのSilent Switcher 2アーキテクチャによって、レイアウトの変更や更新が性能に影響を及ぼしにくいようになっているので、ボード設計プロセスが簡素化されます。