DN-484: LT3092 電流源を使った高直線性の温度 / 電流変換

電子工学の基礎

基礎電子工学コースの最初の演習の 1 つでは、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、電圧源および電流源の記号を取り上げます。各記号は実際の回路の機能部品を表していますが、これらの記号の中のいくつかだけが実際の部品に直接対応しています。たとえば、3 つのディスクリートの受動部品(抵抗器、コンデンサ、インダクタ)は、基本回路図に現れるそれらに対応する記号と同様に、棚から取り出して実際の基板にそのまま配置することができます。電圧源には直接対応する 2 端子のものはありませんが、同様に既成のリニア・レギュレータを使って簡単に作ることができます。

電子工学の基本記号の中の変り種は長いこと2 端子電流源でした。この記号は基礎電子工学のどのコースにも現れますが、電子工学の基礎を教える教師達は、実際には対応する部品が存在しないことについて時間を割いて説明する必要があります。この記号は電子工学の単純な概念を表していますが、電流源の作成は今までは簡単にはいきませんでした。

実際の 2 端子電流源

LT®3092 の登場により、2 端子電流源を作成するのは電圧源を作成するのと同じほど容易になりました。LT3092が 2 個の外部抵抗の比とともに内部の電流源とエラーアンプを使って、どのように定出力電流を 0.5mA 〜 200mA の範囲の任意のレベルにプログラムするかを図 1 に示します。

図 1.プログラムするのに 2 個の抵抗しか必要としない2 端子電流源

図 1.プログラムするのに 2 個の抵抗しか必要としない2 端子電流源

内部リファレンス電流の(図 2 に示されている)フラットな温度係数は多くの電圧リファレンスと同様に良好です。温度係数の低い抵抗を使う必要はありません。最適な結果を得るには、外部抵抗の温度係数が相互に整合している必要があるだけです。

図 2.SET ピンの電流と温度

図 2.SET ピンの電流と温度

周波数補償も電源バイパス・コンデンサも不要です。周波数補償は内部で行われ、内部のリファレンス回路は、電源の変動から保護するためバッファされています。

入力から出力へのコンデンサは不要です。できる限り広い範囲の条件で動作が安定するように広範なテストが行われていますが、複雑な負荷インピーダンス条件では不安定になる可能性があります。したがって、最終部品値を使った実物でのテストを強く推奨します。安定性の問題が生じる場合、小さなコンデンサまたは直列 RC 回路を、入力、出力、または入力から出力に接続して解決することができます。

LT3092 は高性能製品に期待される全ての保護機能を備えています。サーマル・シャットダウン、過電流保護、逆電圧および逆電流保護です。簡単な抵抗比で電流が設定されるので、さまざまな手法を使って電流をすぐに調整することができます。LT3092 は、本質安全環境で使用するために、出力コンデンサ不要のリニア・レギュレータとして構成することもできます。

温度 / 電流変換器としての LT3092

Omega の 44200 シリーズのリニア・サーミスタ・キット*にはサーミスタと抵抗が含まれており、適切に構成設定すると、組み合わされて温度に対するリニアな応答を生じます。これらのキットは高い精度で温度に比例する電圧または抵抗値のどちらかを発生します。#44201 キットは 0°C~100°Cの温度範囲で規定されており、精度が 0.15°Cです。

これらのキットは明らかに広い範囲のアプリケーションのニーズを容易に満たしますが、サーミスタを長いワイヤの先に置かざるをえないときに問題が生じます(Omega のアプリケーション情報によれば、サーミスタ・キット#44201 の場合、100 フィートを超えない #22 ワイヤが推奨されています)。ワイヤのインピーダンスがサーミスタの抵抗に干渉して、キット本来の精度が損なわれます。

精度が 0.1% の 3 個の抵抗とともに、LT3092 をサーミスタ・キットに追加し、最終調整を行うことにより、非常に精確な温度から電流への 2 端子コンバータを作成することができます。この回路は 0°Cでの動作電流が 700μA で、100°Cまで 1 度ごとに 2μA 減少し、100°Cでは 500μA になります。温度から電圧へのコンバータに比べて、温度から電流へのこのコンバータの明らかな利点は、(LT3092 回路の絶対最大定格を超えないで、同時に LT3092 回路の動作下限を満たす十分な電圧がある限り)ワイヤの長さに関係なく電流が一定のままであることです。電子工学の基礎:キルヒホッフの法則によれば、配線路の途中に電流がリークするノードがない限り、配線路内の電流は保存されます。

LT3092 と追加の抵抗値を使った Omega のリニア温度計キット#44201 の回路図を図 3 に示します。図の下の式により、他のサーミスタ・キットの値で置き換え、アプリケーションに合う適切な相補抵抗を決めることができます。

図 3.長い配線路の先に使用するのに適した温度 / 電流変換による 2 端子温度計

図 3.長い配線路の先に使用するのに適した温度 / 電流変換による 2 端子温度計

最初の回路が作成されたら、電圧計をノードA からノードBに接続し、(この設計の場合)302mV になるようにポテンショメータを調整することにより、初期の偏差、変動、およびオフセットを容易に取り除くことができます。この電圧は温度に関係なく一定のままです。

これで、1 本のワイヤが遠く離れたところの温度検出のために行って戻ってきます。LT3092 の動作下限レベルを超える入力電圧を与え(この回路と抵抗の組み合わせの場合は2V 未満)、その結果生じる電流を検出することにより(1k抵抗と DVM を使用)、温度を測定することができます。全温度範囲にわたる回路の電流出力と、応答の測定値と計算値の差を図 4 に示します。

図 4.図 3 の温度計の計算された性能と測定された性能

図 4.図 3 の温度計の計算された性能と測定された性能

まとめ

入力またはグランドを基準にした、あるいは信号ラインに直列に置かれた 2 端子電流源を作成するのに、LT3092 は 2個の外部抵抗しか必要としません。

キルヒホッフの法則により、電圧信号が損なわれるほどの長い配線距離でも電流は保存されるので、2 端子電流源は多数のアプリケーション(特に長い配線路を使うアプリケーション)を可能にします。ここに示されている例は、LT3092とリニア・サーミスタ・キットを使い、温度を電流に変換して電流出力の 2 端子温度計を実現しています。これを長いワイヤに直列に接続すると、使用されるワイヤの長さにもかかわらず精度が維持されます。

*www.omega.com から入手可。

著者

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Todd Owen