DN-314: マイクロパワーの80Vリニア・レギュレータ
はじめに
産業用、自動車用、テレコム用のアプリケーションは、動作環境が厳しく、電源電圧が高い(12V~48V)うえに大きな過渡電圧が生じるので、設計には厳しい課題が課せられます。スイッチング電源の中には十分堅牢で、高い電圧の入力電源から局所化された低電圧/高電流の電力を供給するものがありますが、スイッチ方式の電源は数ミリアンペアの電流しか通常消費しない低電力のキープアライブ回路にとっては複雑過ぎます。ほとんどの場合、これらの低電力回路には広い入力範囲のリニア・レギュレータが最適です。
LT®3010高電圧LDOの概要
LT3010は高電圧、マイクロパワー、低損失リニア・レギュレータで、熱特性が向上した8ピンMSOPパッケージで供給されます。3V~80Vの範囲の入力電源から最大50mAの出力電流を供給することができます。LT3010の損失電圧は、50mAの出力電流でわずか300mVです。LT3010は通常わずか30μAの消費電流で動作します。SHDNピンを“L”にして低電力シャットダウン状態にすることもでき、このとき消費電流はわずか1μAに下がります。通常動作では、(入力電圧に関係なく)SHDNピンを最大80Vまで引き上げるか、フロート状態のままにします。LT3010は可変出力バージョンと固定5Vバージョンの両方で提供されています。
図1はLT3010の標準的アプリケーションを示しており、高電圧電源から動作する低電流電源をいかに簡単に設計できるかを示しています。必要な外部部品は入力と出力のバイパス・コンデンサだけで、デバイスが主電源のバイパス・コンデンサに十分近く配置されていれば入力バイパスは不要です。LT3010の内部周波数補償により、出力は広い範囲のコンデンサに対して安定です。最小1μFの出力容量が安定化のために必要ですが、ほとんどどんな種類の出力コンデンサでも使えます。他のレギュレータでは直列抵抗を追加する必要のあることがありますが、その必要なしに、ESRの小さな小型セラミック・コンデンサを使用することができます。
LT3010には保護機能が内蔵されており、自己と敏感な負荷回路を保護します。入力電圧が(バッテリの逆接続や、ラインのフォールトにより)反転しても、電流はデバイスに流れ込まず、負荷に負電圧は加わりません。LT3010を使うと、外部保護ダイオードは不要です。出力から入力に逆電圧が加わっても、LT3010は出力に直列にダイオードが接続されているかのように振る舞い、逆電流が流れるのを防ぎます。レギュレータの負荷が負電源に戻される両電源のアプリケーションでは、出力をグランドより数ボルト下に引き下げることができ、それでもデバイスを起動して動作させることができます。LT3010は電流制限と熱制限の機能も備えています。
堅牢な多用途レギュレータ
LT3010は過酷な条件での最適ソリューションを提供します。高電圧レールの長い配線には、負荷がオンやオフに切り替えられるとき過渡電圧スパイクが生じることがあります。従来の自動車用アプリケーションは12Vで動作し、他方、新しいシステムのあるものは42Vに移行しつつありますが、両方とも60Vを超す過渡現象が生じることがあります。テレコム・アプリケーションは通常48V電源で動作しますが、72Vまで上昇する可能性があります。産業用のアプリケーションでは入力電圧範囲がさらに広がる可能性があります。逆入力または出力から入力への逆電圧の可能性もあります。
LT3010を使った自動車用またはテレコム用の標準的アプリケーションを図2に示します。これはLT3010のマイクロパワー消費電流の利点を利用しています。自動車用のアプリケーションでは、これは(最近の多くの自動車用サブシステムでは一般的な)イグニションがオンであるかどうかに関係なく動作する、常にオン状態の回路でもかまいません。すべての常時オンしているサブシステムによって消費される全電流は、バッテリ電流の過度の消費を防ぐために、数ミリアンペアを超えてはいけません。LT3010はサブシステムが不要のときはシャットダウン状態にすることもできます。
LT3010はその他の機能により自動車用アプリケーションに最適です。LT3010と関連部品は小型なので、ボードの面積と高さを最小に抑えることができます。LT3010と負荷は入力過渡によって損傷を受けないので、LT3010への電源接続はバッテリから直接おこなうことができます。LT3010は逆電流が流れて敏感な負荷回路を損傷するのを防ぐので、バッテリの逆接続でさえ心配いりません。とりわけ、LT3010の入力制限は80Vなので、再設計なしにサブシステムを12Vから42V(またはこの範囲の任意の値)に直接移行させることができるので、設計に要する時間とコストを節減できます。
テレコム・アプリケーションでは、監視や他の目的のためのキープアライブ回路に48Vの電源から電力を供給します。消費電流は、とくに入力に故障が生じたとき出力を保つためにバックアップ用バッテリを起動させるとき重要です。48V電源に万一故障が生じた場合、バッテリ・バックアップが起動し、LT3010の内部保護機能が出力から入力に電流が流れるのを防ぐので、保護ダイオードが不要になります。アプリケーションの条件によっては、部品のサイズが依然として問題になることがあります。テレコム・アプリケーションの48V入力電源には72Vに達する過渡電圧が生じることがあります。LT3010はプリレギュレーションや保護ダイオードを使う必要なしに、これらの過渡電圧を処理することができます。最後に、熱特性が向上した8ピンMSOPパッケージにより、実装面積の非常に小さな、熱効率の高いソリューションが得られます。θJAがわずか40°C/Wなので、これらのアプリケーションで見られる高電力の過渡現象からの熱を放散することができます。
まとめ
LT3010は小型パッケージでありながらきわめて優れた性能を提供します。このデバイスは、以前は外部のプリレギレーション方式や複雑なスイッチング電源を必要としたアプリケーションで、高電圧電源から低電力を供給することができます。消費電流が少ないので、電力消費を最小に抑えます。デバイスをシャットダウン状態にすることによりさらに電力消費を下げることができます。小型のセラミック・コンデンサなど広い範囲の出力コンデンサを使って出力電圧を安定化することができます。LT3010には保護回路が内蔵されているので、外部保護ダイオードは不要です。熱特性が向上した8ピンMSOPパッケージは熱抵抗が低いので、このデバイスを過酷な環境用の設計に簡単に使用できます。