DN-548: 内部 PWM 調光およびスペクトラム拡散機能を持つ最大効率 98% の 60V 昇降圧 LEDドライバ

はじめに

4 つのパワー・スイッチを持つ同期昇降圧コンバータは、昇圧と降圧の両方の DC/DC 変換を提供しながら、非常に高い効率を実現します。2 つの異なるコンバータ(降圧と昇圧)の機能を併せ持つことで、ソリューション・サイズとコストを節減できます。4 スイッチ・コンバータは、昇圧変換と降圧変換のいずれかのみが必要な場合、効率を最大化するために 2 つのスイッチだけで動作できる必要があります。しかし、VIN と VOUT の値が近くなり、動作領域の移行がスムーズに行われるためには、4 スイッチ動作も使用できなければなりません。2 スイッチ昇圧、2 スイッチ降圧、4 スイッチ動作の制御ループを組み合わせ、これらの動作領域間をほぼ完璧なスムーズさで移行するためには、難しい課題があります。しかし、この次世代昇降圧コンバータは、これらの課題をクリアするだけでなく、さらに進化しています。

LT®8391 60V 4 スイッチ昇降圧 LEDドライバは、最大 250W の高電力 LED を駆動し、2スイッチ昇圧、4 スイッチ昇降圧、2 スイッチ降圧の動作領域間をスムーズに移行するよう設計されています。特許出願中の 4 スイッチ昇降圧電流検出抵抗スキームは、1本のセンス抵抗によって全動作領域をピーク電流モード制御で動作可能にする、シンプルでありながら、巧みなメソッドです。この新世代の昇降圧 LEDドライバでは、スペクトラム拡散周波数変調機能と内部生成された PWM 調光機能が一緒に動作します。LT8391は、スペクトラム拡張がオンの場合でも、内部 PWM調光と外部 PWM 調光の両方によるちらつきのないPWM 調光を備えています(もう 1 つの特許出願中の技術)。

図 1.25V 2A(50W)の LED ストリングを最大効率 98% で駆動する、LT8391 4V~60V 4 スイッチ同期整流式昇降圧 LEDドライバ
図 2.(a) 図 1 の 50W LED ドライバの効率は、ピークが98%、標準の 9V~16V の自動車入力範囲で 95%~97%(b)LT8391 のピーク・インダクタ電流制限は、低い入力電圧で出力を小さくし、安定性を維持

98% 効率の昇降圧 LEDドライバ

図1の LT8391 の高電力昇降圧 LEDドライバは、幅広い入力電圧範囲から、25V/2AのLEDを駆動します。効率は、最高で 98% に達します。標準的な自動車バッテリの 9V~16V の範囲におけるコンバータの効率は95%~97% に達します。1 つの高電力インダクタを利用することで、50W の場合でも、温度はそれほど上昇しません。入力電圧が 12V のとき、25°Cより温度が高くなるコンポーネントはありません。入力電圧が 6V のとき、標準の 4 層 PCBを用い、ヒートシンクやエアフローなしで、最も高温のコンポーネントが 50°C未満です。これにより、コンバータの出力電力を高める余地ができ、数百ワットでの動作も可能になります。

LT8391 は、入力電流が非常に大きくなる、4Vまでの低い入力電圧で動作可能です。LT8391 は、大きい入力電流を扱うよう設計されているだけでなく、ピーク・スイッチ電流制限を使用して、入力電圧が低い場合でも出力電力を下げて安定して動作できるよう設計されています。これにより、自動車のコールドクランク電圧やその他の入力電圧降下時にも、コンポーネントのサイズを大きくしたりコストをかけたりすることなく、コンバータが動作可能です。

LT8391 は、ちらつきなしで 1000:1 PWM 調光を実現します。 ハイサイド PWM(TG)MOSFET PWM は、接地された LED ストリングを調光します。これは、短絡時には、過電流切断として機能します。

内部生成された PWM 調光

LT8391 は、標準的な外付けの PWM 調光と内部生成された PWM 調光の両方を備えています。LT8391 独自の内部 PWM 調光により、128:1 もの正確な PWM輝度制御を、クロッキング・デバイスやマイクロコントローラなどのコンポーネントなしで行えるようになります。デバイスの内部生成された PWM 周波数(200Hz など)は、RP ピンに接続された 1 本のシンプルな抵抗で設定されます。PWM ピンにかかる 1V~2V の間の電圧によって、PWM デューティ・サイクルが決定されます。内部調光のデューティ・サイクルは、128 ステップの 1 つとして選択され、内部ヒステリシスによってデューティ・サイクルのチャタリングが防止されます。内部生成された PWM 調光の±1% 未満の精度は、あらゆる動作領域で変わりません。

スペクトラム拡散周波数変調(SSFM)によるEMI の低減

SSFM は、スイッチング・レギュレータの EMI を低減します。スイッチング周波数には、AM 帯(530kHz~1.8MHz)以外の周波数が選択される場合が多いのですが、発生するスイッチングハーモニクスが AM帯域内の厳しい車載 EMI 要件に違反することがあります。SSFM を追加すると、AM 帯内およびその他の帯域における EMI が大きく低減されます。

SSFM を有効化した場合、LT8391 の 50W LEDドライバの EMI は、AM 帯における CISPR25(クラス 5)のピークおよび平均 EMI 要件の両方を下回ります。CISPR25の平均 EMI 制限値は、ピーク制限値よりも領域によっては20dBµV 低くなることがあるため、スイッチング・デバイスは合格が困難です。そのため、LT8391 の新しい SSFMでは、平均 EMI をピーク値よりも低く調整します。平均EMIは18dBµV以上、ピークEMIは約5dBµV下がります。

一 部 の LED コンバータでは、SSFM および PWM調光を一緒に動作させると、ちらつきが発生します。SSFM(スイッチング周波数を変更するソース)が、EMIを非拡散ピーク値より低い値に拡散するために、外界にはノイズとして見えることがありますが、PWM 調光と一緒に動作させることで、ちらつきのない動作が可能です。リニアテクノロジーの特許出願中の PWM 調光およびSSFM 動作は、調光比が高い場合でも、両方の機能を同時に、ちらつきなしで実行します。外部 PWM による1000:1 PWM調光と、128:1の内部生成のPWMでは、SSFM はちらつきのない LED 電流で動作します。

図 3.LT8391 のピークおよび平均 EMI を CISPR25 クラス 5 制限値未満に低減する SSFM ( 平均 EMI はピーク EMI よりも大きく下がる )
図 4.PWMとSSFM の同時動作によるちらつきのない調光を示す Infinite Persist スコープのキャプチャ

著者

Keith Szolusha

Keith Szolusha

Keith Szolushaは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ)のアプリケーション・ディレクタです。2000年からIPSパワー製品グループに所属しています。主に降圧/昇圧/昇降圧コンバータ、LEDやGaNに対応するコントローラ/ドライバなどの製品を担当。また、電源製品向けのEMIチャンバの管理も担っています。マサチューセッツ工科大学で1997年に電気工学の学士号、1998年に同修士号を取得。テクニカル・ライティングの集中コースも修了しています。