DN-571: 23mm × 16.5mm のパッケージに収容された 170W 電圧ダブラ

はじめに

入力 / 出力電圧が高いアプリケーションでは、インダクタ不要のスイッチト・キャパシタ・コンバータ(チャージポンプ)を使用すると、従来のインダクタ・ベースの降圧または昇圧構成と比較して、効率が大幅に向上し、ソリューション・サイズが縮小します。インダクタの代わりにチャージポンプを使用することにより、「フライング・コンデンサ」を使用して入力からエネルギーを蓄積し、出力に伝達します。コンデンサのエネルギー密度はインダクタよりはるかに高いので、チャージポンプを使用すると電力密度が 10 倍向上します。ただし、チャージポンプは、起動、保護、ゲート駆動、およびレギュレーションに課題があるため、従来は低消費電力アプリケーションに制限されてきました。

LTC®7820 は、これらの問題を克服しており、高電力密度で高効率(最大 99%)のソリューションが可能です。この固定比の高電圧、大電力スイッチト・キャパシタ・コントローラは、4つの N チャネル MOSFET ゲート・ドライバを内蔵しており、外付けのパワー MOSFETと組み合わせて、分圧器、電圧ダブラ、またはインバータを形成します。特に、最大 72V の入力電圧からの 2:1 の降圧、最大 36V の入力電圧からの 1:2 の昇圧、または最大 36V の入力電圧からの 1:1 のインバータです。各パワー MOSFET は、事前に設定された一定のスイッチング周波数のとき、50% のデューティ・サイクルでスイッチングします。

LTC7820 を特長とする 170W 出力電圧ダブラ回路を図 1 に示します。入力電圧は 12V、出力電圧は 24V(最大負荷電流7A)で、スイッチング周波数は 500kHz です。16 個の 10μFセラミック・コンデンサ(X7R、1210 サイズ)は、フライング・コンデンサとして機能し出力電力を供給します。ソリューション・サイズの概算値は、図 2 に示すように 23mm × 16.5mm× 5mm であり、電力密度は 1500W/in3 に達します。

図 1. LTC7820 を使用する高効率、高電力密度の 12V 入力、24V/7A 出力の電圧ダブラ
図 1. LTC7820 を使用する高効率、高電力密度の 12V 入力、24V/7A 出力の電圧ダブラ
図 2. 概算のソリューション・サイズ
図 2. 概算のソリューション・サイズ

高効率

回路にインダクタを使用していないので、4 つ全ての MOSFETに対してソフト・スイッチングが行われ、スイッチング関連の損失が大幅に減少します。その上、スイッチト・キャパシタ電圧ダブラでは、電圧定格の低い MOSFET を使用することができるので、導通損失が大幅に減少します。図 3 に示すように、コンバータは最大負荷時に 98.8% のピーク効率および 98%の効率を達成することができます。優れたレイアウトでは、電力損失のバランスが 4 つのスイッチ間で保たれ、熱が放散されて、発熱を抑えるのが簡単になります。図 4 のサーモグラフが示すホット・スポットの温度上昇は、周囲温度が 23°Cで自由空気流の場合、わずか 35°Cです。

図 3. 12V 入力、24V/7A 出力の電圧ダブラの効率および負荷レギュレーション(fSW:500kHz)
図 4. VIN = 12V、VOUT = 24V、7A 負荷、TA = 23℃、自由空気流での熱試験
図 4. VIN = 12V、VOUT = 24V、7A 負荷、TA = 23°C、自由空気流での熱試験

高精度の負荷レギュレーション

LTC7820 ベースの電圧ダブラは開ループのコンバータですが、図 3 に示すように、LTC7820 は効率が高いので、高精度のレギュレーションを維持します。出力電圧の降下は最大負荷時にわずか 0.43V(1.8%)です。

起動

電圧ダブラ・アプリケーションでは、入力電圧がゼロから緩やかに上昇する場合、LTC7820 はコンデンサの突入充電電流を発生させずに起動できます。入力電圧が緩やかに(数ミリ秒で)上昇する限り、出力電圧は入力電圧に追随し、コンデンサ間の電圧差が小さいままなので、大量の突入電流が流れることはありません。

入力のスルーレート制御は、LTC7820 データシートの「標準的応用例」のセクションに示すように、入力に切断 FET を使用するか、ホットスワップ・コントローラを使用して実現できます。図 1 では、入力に切断 FET を使用しています。分圧器ソリューションとは異なり、電圧ダブラは毎回 0V の入力電圧から起動する必要がありますが、負荷が重い場合にも直接起動することができます。図 5 は 7A 負荷での起動を示します。

図 5. 7A 負荷での起動波形
図 5. 7A 負荷での起動波形

まとめ

LTC7820 は固定比のスイッチト・キャパシタ・コントローラで、内蔵のゲート・ドライバによって外付け MOSFET を駆動し、非常に高い効率(最大 99%)と高い電力密度を実現します。堅牢な保護機能により、LTC7820 スイッチト・キャパシタ・コンバータは、バス・コンバータ、大電力の分散電源システム、通信システム、産業用アプリケーションなどの高電圧、大電力アプリケーションに適合することができます。

著者

Generic_Author_image

Jeff Zhang

中国北京生まれ。清華大学で電気工学の学士号と修士号を、ボールダーのコロラド大学で博士号を取得。2010年にリニアテクノロジー(現アナログ・デバイセズ)に入社。現在はPower by Linear™グループのパワーIC設計エンジニア。

Jian-Li

Jian Li

2004年に中国の清華大学で制御理論と制御工学の修士号を、2009年に米国のバージニア工科大学でパワー・エレクトロニクスの博士号を取得。現在はアナログ・デバイセズでパワー製品のアプリケーション・エンジニアリング・マネージャとして業務に従事。9つの米国特許を持ち、これまでに20以上の原著論文や学会論文を発表。

Ya-Liu

Ya Liu

カリフォルニア州ミルピタスにあるアナログ・デバイセズのパワー製品アプリケーション・グループに所属するシニア・アプリケーション・エンジニア。現在は、スイッチド・キャパシタ・コンバータとハイブリッド・コンバータのプライマリ・アプリケーション・サポートを担当。その他にPSMコントローラとアナログ降圧コントローラのサポートにも従事。中国杭州市の浙江大学で学士号を、ブラックスバーグのバージニア工科大学で修士号を取得。専攻はいずれも電気工学。中国特許2件、米国特許3件を所有。

Generic_Author_image

Brian Lin