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Customer Case Study

伝送距離100mの壁に挑んだ、信号変換器国内シェアトップクラスのリーディングカンパニー。そのブレイクスルーに、アナログ・デバイセズのT1Lが貢献。

最大伝送距離1kmを1対のツイストペアケーブルで可能にし配線や電力消費、コストの少ない効率的なシステム構築をサポート。

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1972年創業の信号変換器、避雷器、リモートI/O、IoT関連機器メーカー。プロセス/ファクトリー/ビルディングのオートメーション分野における3900種以上の圧倒的な製品ラインナップと、アグレッシブな開発体制や独自の変種変量生産により業界をリードしている。カーボンニュートラルにも全社をあげて取り組んでおり、働きやすい環境づくりにも積極的。男女を問わない育休取得や時短勤務制度があり、妊娠・出産を理由とする休職者の復職率は100%(2024年4月現在)。
https://www.mgco.jp/Japanese/

顧客課題: 新旧システムが混在する下位ネットワークの効率化
導入製品: アナログ・デバイセズの産業用 超低消費電力 10BASE-T1L PHY ADIN2111/1100
顧客: 株式会社エムジー

既存の製品では届かなかった距離を超える、新たな一手。目指したのは、誰もが簡単に扱える信号変換器。

信号変換器。各種センサーからの信号を工業用の電流/電圧信号に変換・統一、あるいは絶縁などを行う機器で、ファクトリーオートメーションを実現する場合などに不可欠なコンポーネントだ。この信号変換器を豊富にラインナップするエムジーであったが、その知見をもってしても大きな課題に突き当たっていた。

「当時のLANケーブルは最大100mの伝送距離しか確保できず延伸するにはハブが必要でした。これでは産業界に注力する私たちにとって、ビルや工場といった巨大な建屋でのシームレスな長距離伝送が難しい。かといって、光ケーブルの長距離敷設には膨大な時間とコストが必要になる。何かブレイクスルーを起こさねば、と思いました」エムジーの開発・設計・商品企画担当で取締役の上田 益夫氏はそう振り返る。

株式会社エムジー 開発・設計・商品企画担当

株式会社エムジー 開発・設計・商品企画担当
取締役 上田 益夫氏

また、世間のネットワーク環境にも改善すべき問題があった。さまざまなインターフェース用のネットワーク仕様が誕生した2000年以降、通信は高速化と大容量化が飛躍的に進み、上位制御ではいまもクラウドサーバーやパソコンを中心としたネットワークへと進化し続けている。一方で、ネットワークの下位制御に目を向けると、さまざまな要因により新旧のシステムが入り乱れ、各種のプロトコル、さまざまな規格のケーブルやコネクター、伝送距離が混在する異様な環境が広がっていた。これをシームレスに共存させ、あるいは置き換えていくには、上田氏が言うように高度な技術と多額のコストを回避できない。

「この状況を打開するには、これまでにない新たな信号変換器が必要だと考えました。どうせなら、従来の信号変換器やリモートI/Oでは実現できなかった、専門的な知識がなくても誰もが手もとのパソコンに接続できるくらい扱いやすく、ユーザーが簡単にアプリケーションを開発できる製品をつくってしまおう、ということになりました」エムジーの開発部 主任技師 山本 始氏が、当時の意気込みを語ってくれた。

開発コンセプトは“省〇〇”。
その実現の難しさが3社の技術協力へと発展。

2019年、ついに開発がスタートした。プロジェクトのコンセプトに掲げたのは、“省〇〇”。既設のケーブルやコネクターを活用しながら、技術的・経済的な負担を最小限にとどめ、しかも設置や設定を簡易化しようという試みだ。「ハードウェアとソフトウェアの開発メンバーが一体となり、これまで培ってきたオープンネットワーク対応の強みを活かして、まずはエンドユーザーが簡単にシステム構築できることを優先、と決めて開発を進めました」と山本氏は続ける。こうしてエムジーの開発チームは何度も技術検討会で意見を戦わせ、試行錯誤を繰り返しながら、独自の通信チップの開発にまで挑戦し、試作を重ねていった。

「このプロジェクトには新たな通信チップが不可欠でしたが、なかなか思うような成果が得られない。そんな中で、車載Ethernetの100BASE-T1からT1Lの存在を知り検討を始めました」エムジーが真っ先に相談を持ち掛けたマクニカは、T1Lに知見のあったアナログ・デバイセズの販売代理店。長年にわたる関係のなかで、その充実したサポート力と提案力を見込んでのことだった。そうして提案されたT1Lチップの比較検討を経て出会ったのが、アナログ・デバイセズの製品である。

「マクニカから勧められたアナログ・デバイセズのT1Lチップは、複数のインターフェースにより周辺回路のブリッジ設定への悩みを払しょくし、ロースペックのマイコンへも対応可能です。しかも極性がないため、変換器の配線ミスも大幅に低減できる。これらなら、安価でシステムを構築しても、十分なデータ量を確保しながら高効率なシステムが構築できるはずだと確信しました」と上田氏は語る。これがエムジーのチップ選定を決定づけた。こうして、3社による技術協力が始まった。

1対のツイストペアケーブルで、1kmまでの長距離通信を実現できる産業用イーサネットPHYの新規格。

ADIN2111

今回採用された10BASE-T1L PHY ADIN2111

T1Lチップ導入後の困難にも
ともに立ち向かった強固なサポート。

これまでお客様の細かな要望や最先端の技術要求にいち早く応えてきたエムジーの技術力を持ってしても、消費電力や配線、設置、コストなどを総合的に抑制するのは困難を極めた。

通信距離の目標としてチームが掲げていたのは1km。しかしT1Lを使用した製品開発はチームにとって初めてであっただけでなく、当時のケーブル市場においても700mが限界値。1kmの通信距離を実現したモデルを目にしたメンバーはいなかった。理論上では可能な延伸値だが、世の中にないものを手探りで開発を続ける道のりは容易なものではない。そのうえ、誰もが扱えるよう、PCなどのコネクター経由で汎用性を持たせるのは、並みの苦労ではなかった。

活発な議論

活発な議論が交わされていた

この課題の克服に貢献したのが、エムジーが培ってきた知見、そしてマクニカとアナログ・デバイセズの技術サポートである。3社は高頻度かつ密なコミュニケーションを取りながら開発を進めた。あるときは電話で、あるときはコロナ禍の大阪のエムジーの開発現場へ。さらに当時の最新技術を用いたT1Lの評価ボードまで共有し、不具合の調整やパフォーマンスの向上にも協力している。「マクニカのフィールドアプリケーションエンジニアが評価ボードの共有に尽力してくれたので、チームが同じ技術目線で議論できました。これが、開発を大きく進めたと思います。私たちが実現したい機能に対し、T1Lの性能をどう引き出して開発するか。そういった技術の問い合わせに、2社ともが迅速かつ的確な回答で応えてくれる。T1Lを含めた周辺回路図のチェックなど、技術面においても細かくサポートしていただきました。さらには産業用途におけるノイズ環境下での懸念についても、対策案を提示していただいたことにより規格認証を突破でき、無事に製品化を実現することができました。また関連部品やアプリケーション例もたくさん紹介いただきました。ひとつひとつの課題を親身になって一緒に解決してくれたことにも感謝しています」そう話すのはエムジー開発部の由村 公一氏。「T1L用にアップデートした計測器でのコンプライアンステストでは、原因不明の不具合が発生し、原因の解明に相当苦労しましたが、3社で連携しながら何とか解決に至りました。大量生産前の大切なステップでしたので大変でしたが、いまではいい思い出です」

緊密に連携

緊密に連携し開発を進めていった

エンドユーザーのさまざまな課題を解決。
完成したMETATRONから始まる次の未来。

こうして、ついに世に送り出された産業用オープンネットワークの新たなプロトコル「METATRON(メタトロン)」。「META」は「データ・超越」を意味し、「TRON」はチームがインスパイアされた国産OSの名を由来としている。完成した製品を前に、エムジーの開発メンバーは、企業スローガンである「Make Greener automation」、より環境にやさしい自動化を実現するものだと確信したと言う。

METATRON

METATRON

上市時の反響について開発部 白石 一花氏は「開発初期に掲げたシステム構築のシンプル化をはじめ、省エネ、省配線、省コスト、省設備など、イニシャルコストとランニングコストの削減を実現したMETATRONは、大規模改修なしに誰もが小さく始められるため、市場で大きな反響をいただきました。今年1月に開催されたオートメーションと計測の先端総合技術展である「IIFES 2024」に出品したところ、多くのお客様に『プロセスオートメーションやファクトリーオートメーション、ビルディングオートメーションに限らず、広い可能性を感じる』と期待をお寄せいただきました。スマートファクトリーやスマートビルディングだけでなく、工場や立体駐車場、農業など、様々なシーンに展開できる大きな可能性を評価いただけて、とても嬉しかったです」と語る。この製品の魅力は、それだけではない。設備の変更/増設や部分運用/シミュレーションへの対応、設備の可視化や遠方監視、管理システムの統合にも貢献する。エムジーが理想とする「マルチベンダー機器による継続した保守への対応」をまさに体現する製品なのだ。

IIFES 2024

「IIFES 2024」では多くの来場者の興味を惹いた

「METATRONのコンセプトは『省○○』です。このメリットをもっと身近に感じていただけるよう、今後もよりよい製品を目指して開発を続けていこうと思います」そう話してくれたのは、開発部の尾﨑 寛和氏。同じく開発部の黒川 大輔氏はさらに続ける。「METATRONだけでなく、新規開発をこれからも加速していきたいですね。それには高精度で高速なアナログ半導体が不可欠ですし、そういった新製品開発やサポートのご協力を、マクニカ、アナログ・デバイセズには期待しています。ぜひこれからも良きパートナーとしてお付き合いできればと思います」

次世代ネットワークを力強く支える企業のために。今後もアナログ・デバイセズは、これまでにない発想と先進のソリューションで貢献してまいります。

METATRON開発メンバー

METATRON開発メンバー
前列左から黒川 大輔氏、白石 一花氏、尾﨑 寛和氏
後列左から山本 始氏、上田 益夫氏、由村 公一氏

株式会社エムジー