機能と処理電力の増大に応じてハンドヘルド機器のバックコンバータを増大

要約

家庭用のポータブル電化製品には多くの新機能が組み込まれるようになっています。システム設計者は、物理サイズが小さくてバッテリ寿命が長いという消費者の期待に応えるためにさまざまな課題を抱えることになります。新製品の機能ごとに、特別なスペースと処理電力が必要となります。その一方で、バッテリのためのスペースはますます小さくなり、小さなスペースで効率の良い大きな出力電流を望む声が高まっています。このアプリケーションノートでは、電源設計に対するこれらの最新の要望を認識した上で、小型のポータブル機器で使われている各種のレギュレータを比較しています。

はじめに

現代の家庭用ポータブル電化製品には非常に多くの新機能が組み込まれているため、最新製品を類別することは難しくなっています。機能が多いほど売り上げは増大しますが、システム設計者は、物理サイズが小さくてバッテリ寿命が長いという消費者の期待に応えるためにさまざまな課題を抱えることになります。新製品の機能ごとに、特別なスペースと処理電力が必要となります。このため、バッテリのためのスペースはますます小さくなり、小さなスペースで効率の良い大きな出力電流を得たいという電源に対する要望が高まっています。

電力増大の要望によって設計基準が変化

つい1、2年前には、ほとんどのハンドヘルド電子機器では、0~1つのステップダウン(バック)コンバータと、多数の低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータを使用して、さまざまな機能ブロックに電力を供給するのが一般的でした。よく使用されるプロセッサは通常3.0V~3.3Vの電圧範囲(単一セルのLi+バッテリ入力でLDOが適切かつ効率的に動作する電圧範囲)で駆動されていたため、この方法で問題ありませんでした。しかし、処理に対する要求が増大し、ICのプロセス技術がサブミクロン構造に移行するにつれて、一般的なコア電圧は1.8V、1.5V、1.3V、さらには0.9Vにまで低下しました。その上、一般的なI/O電圧は3.3Vから2.5Vまたは1.8Vに低下しました。このような低出力電圧では、LDOの効率は極めて低くなり、また発熱が著しく増大するため、低電圧のコアとI/Oに備わる特定の利点が打ち消されてしまいます。このため、低出力電圧で高効率を維持するには、設計者はバックコンバータに乗り換える必要があります。

低電源電圧の必要性に対処するため、現在、多くのシステムは複数のプロセッサを利用しています。携帯電話とPDAの組み合わせが良い例です。この組み合わせは通常、ベースバンドプロセッサとアプリケーションプロセッサを使用しており、それぞれが個別の電力を必要とします。携帯電話機とPDAに現在よく使用されているカメラモジュールは、依然としてLDOで駆動される傾向にありますが、それに付随するグラフィックプロセッサは多くの場合、低電圧を必要とします。このため、最新の多機能設計では通常、複数のバックコンバータを採用しています。PCB(プリント回路基板)に3台のバックコンバータが搭載されることも珍しくありません。

最新の電源管理用のカスタムIC(PMIC)は、すでに1つまたは複数のバックコンバータを内蔵していますが、上記のようなハンドヘルド機器のアプリケーションには不十分です。どの新機能についても、バックコンバータがおそらくもう1つ必要となるか、あるいは出力電流の性能を向上させたバックコンバータが必要となります。個別の電源ICを使用して、多様な製品ポートフォリオの全体にわたって新機能をすばやく実現することのできる製造業者こそが、急激に市場シェアを拡大することのできる製造業者になることは明白です。

サイズという課題

最近まで、バックコンバータの追加に伴うコストとしては、実際に必要となるお金だけでなく、プリント基板を占有する実質的なスペースも対象として考慮されていました。3年前には、標準的な小さなバックコンバータは15mm2のMSOPパッケージで提供されていました。これは、1MHz以下でスイッチングされ、大きな外付けのインダクタを必要とし、また通常、大きなタンタルコンデンサも必要でした。図1bに示すように、現在の1MHzバックコンバータははるかに改良され、9mm2のTDFNパッケージ、セラミックコンデンサ、およびより新しい小さなインダクタで構成されています。ただし、図1aに示すように、依然として1MHzのバックコンバータは、標準的なLDOに比べてはるかに大きな面積を占有します。

サイズの問題を解決する鍵は、最新のサブミクロンBiCMOSミックスドシグナルプロセスによって、外付け部品用の電源ICを小型化し、スイッチング周波数を高速にするということです。現在、多くの製造業者は、2MHz以上のICを小型のパッケージで提供しています。図1cに示すように、4MHzのバックコンバータのソリューション(マキシムのMAX8560など)は、LDOとほぼ同じくらいの大きさになっています! スイッチング周波数が高ければ、太陽誘電のCB2012シリーズなど、極小の最新チップインダクタを0805のケースサイズで利用することが可能です。

プロセスの進歩は1MHzと4MHzのバックコンバータの両方にプラスとなるものの、4MHzのバックコンバータの効率は、図2に示すように依然として1MHzのバックコンバータには及びません。高速スイッチングによって、コンバータのスイッチング損失と容量損失が増大し、同時に超小型インダクタによって磁場コアの損失が大きくなる傾向があります。ただし、特に41%というLDOの低効率に比べれば、効率の差はそれほど大きなものではありません。

まとめ

システム設計者は、電源管理について、a)最小サイズ、b)最大効率、またはc)小さなサイズで高効率、のいずれかを選択することができます。最後のc)では、バッテリ寿命と物理サイズをスムーズにトレードオフすることができます。高周波バックコンバータ(選択肢c)は、サイズをほとんど増大することなく効率を大幅に向上することができるため、多機能な家庭用ポータブルハンドヘルド機器にとって望ましいソリューションとなりつつあります。近い将来を考えると、バックコンバータはLDOより発熱が少ないため、最小のソリューションとしてLDOに取って代わる可能性があります。

図1. LDOリニアレギュレータ(a)は、効率はあまり良くありませんが、物理的に小さなソリューションです。従来の1MHzバックコンバータ(b)は、効率は非常に高いものの、サイズが大きいという短所があります。最新の高速な4MHzバックコンバータ(c)は、サイズはLDOに近く、効率は1MHzバックコンバータに近いという特性を示します。
図1. LDOリニアレギュレータ(a)は、効率はあまり良くありませんが、物理的に小さなソリューションです。従来の1MHzバックコンバータ(b)は、効率は非常に高いものの、サイズが大きいという短所があります。最新の高速な4MHzバックコンバータ(c)は、サイズはLDOに近く、効率は1MHzバックコンバータに近いという特性を示します。

図2. どちらのバックコンバータもLDOリニアレギュレータよりもはるかに効率的です。ただし、4MHzバックコンバータは効率を若干犠牲にして、大幅に小さなソリューションを実現しています。
図2. どちらのバックコンバータもLDOリニアレギュレータよりもはるかに効率的です。ただし、4MHzバックコンバータは効率を若干犠牲にして、大幅に小さなソリューションを実現しています。