AN-653: 広いダイナミック・レンジを持つRMS RF電力検出器の温度、安定性、直線性の改善

概要

マルチキャリア・ワイヤレス・インフラストラクチャでの送信電力の測定と制御には 2 乗平均(rms)電力の検出が必要です。ダイオード検出またはログアンプを使う従来型の電力検出器は、送信信号のピーク対平均比が固定でない場合、電力を正確に測定しません。測定回路の温度安定性は、検出器の伝達関数の直線性と同様に重要です。このアプリケーション・ノートでは、rms 電力検出器の温度安定性と伝達関数の直線性を 50 dB 以上のダイナミック・レンジで±0.3 dB以下に向上させる技術を紹介します。

はじめに

現代のワイヤレス・トランスミッタでは、一般に無線周波(RF)送信電力の厳密な制御が要求されます。携帯電話ネットワークでは、厳密な電力制御により、セル・サイズを正確に設定してカバレッジを強化することができます。また、正確な電力制御を行うと、実際の送信電力に不確定性がある場合に必要とされる RF パワー・アンプ(PA)の厳しい熱管理も不要になります。例えば、50 W (47 dBm)のパワー・アンプに 1 dB の送信電力不確定性がある場合、63 W (48 dBm)を安全に(過熱することなく)送信できるように PA のサイズを決める必要があります。

レシーバでも中間周波数(IF)に電力の測定と制御が使われています。この場合、目的は IF アンプと A/D コンバータ(ADC)が過駆動されないようにするために受信信号ゲインを測定/制御することです。受信信号測定(一般に受信信号強度インジケータすなわちRSSIと呼ばれます)の精度は信号対ノイズ比を大きくするために役立ちますが、送信側の場合に比べて重要ではなく、目的は受信信号を一定の規定値以下に抑えることに限定されます。

RMS RF 電力検出器は、信号ピーク対平均比すなわち波高率に無関係に RF 電力を測定できます。この機能は、被測定信号のピーク対平均比が変化する場合に重要です。これは、携帯電話ネットワークでは携帯電話基地局からの呼数が常に変化するため、広く発生することです。ピーク対平均比の変化は、可変電力レベルでの複数キャリア送信から発生し、また 1 つの CDMA キャリアでもコード領域での電力変動から発生します。

図 1.現代のワイヤレス・トランスミッタでは RF 電力測定を使って送信電力を厳しく制御しています。レシーバでは電力測定を使って、IF とベースバンド成分の過駆動を防止すると同時に信号対ノイズ比を最大化します。

図 1.現代のワイヤレス・トランスミッタでは RF 電力測定を使って送信電力を厳しく制御しています。レシーバでは電力測定を使って、IF とベースバンド成分の過駆動を防止すると同時に信号対ノイズ比を最大化します。

広いダイナミック・レンジのRMS/DCコンバータ

AD8362 は、非常に低い周波数から約 2.7 GHz までの範囲で 60 dB以上の範囲の rms 電圧を測定できる rms/dc コンバータです。図 2に、AD8362 の 2.2 GHz での伝達関数を、出力電圧対入力信号強度(50 Ω 基準の dBm)で示します。

図 2 には、この伝達関数の最適合直線からの偏差も示してあります。この直線は、測定データの線形回帰で計算した傾きとインターセプトを持っています。この直線の傾きとインターセプトを計算すると、dB スケールの誤差プロットを作成することができます。図 2 の右側に、この直線を示します。

図 2 には、この伝達関数の最適合直線からの偏差も示してあります。この直線は、測定データの線形回帰で計算した傾きとインターセプトを持っています。この直線の傾きとインターセプトを計算すると、dB スケールの誤差プロットを作成することができます。図 2 の右側に、この直線を示します。

図 2 には、この伝達関数の最適合直線からの偏差も示してあります。この直線は、測定データの線形回帰で計算した傾きとインターセプトを持っています。この直線の傾きとインターセプトを計算すると、dB スケールの誤差プロットを作成することができます。図 2 の右側に、この直線を示します。

このプロットは、0.75 dB のピーク to ピーク振幅を持つ繰り返しリップルを表しています。このリップルにより、均一な大きい測定不確定性が発生します。このプロットは、伝達関数が温度に対して変化することも示しています。このケースの伝達関数の温度ドリフトは、インターセプトの変化により支配されています(すなわち傾きは比較的一定)。

AD8362 対数RMS/DCコンバータの動作

図 3 に、AD8362 のブロック図を示します。AD8362 の主要部分はdB 表示で直線の可変ゲイン・アンプ(VGA)であり、電圧制御減衰器、固定ゲイン・アンプ、狭いダイナミック・レンジの rms/dc コンバータ、誤差アンプから構成されています。

図 3. AD8362 対数 rms/dc コンバータ。rms/dc コンバータへの入力信号は VGA 入力に加えられます。VGA の出力は、狭いレンジの rms/dc コンバータに入力されます。この検出器出力は、セットポイント電圧と比較されて誤差信号が発生されて、この誤差信号が VGA のゲイン制御入力に帰還されます。

図 3. AD8362 対数 rms/dc コンバータ。rms/dc コンバータへの入力信号は VGA 入力に加えられます。VGA の出力は、狭いレンジの rms/dc コンバータに入力されます。この検出器出力は、セットポイント電圧と比較されて誤差信号が発生されて、この誤差信号が VGA のゲイン制御入力に帰還されます。

入力信号は VGA に加えられます。VGA の出力は、狭いレンジのrms/dc コンバータに入力されます。この検出器の出力は、VGA 出力信号の rms 電圧に比例します。

ターゲット電圧とも呼ばれる固定リファレンス電圧が、同じ狭いダイナミック・レンジの rms/dc コンバータに加えられます。2 つの検出器の出力は、誤差信号を発生する誤差アンプ/積分器に加えられます。誤差アンプの出力は VGA のゲイン制御入力に加えられます。VGA のゲイン制御伝達関数は負です。すなわち、電圧が増加すると、ゲインは減少します。

小さい入力信号が回路に加えられると、信号パス検出器からの電圧は小さいため、減少する誤差信号が発生します。この信号が VGAを駆動します。この誤差信号は減少を続け、VGA ゲインが増加します。この増加は、シグナル・チェーン検出器の出力がリファレンス検出器の出力と一致するまで続きます。

同様に、大きな入力信号により増加する誤差信号が発生されて、この誤差信号により VGA のゲインが減少させられ、信号パス検出器からの電圧がリファレンス検出器に一致するまでこの減少が続きます。すべてのケースで、システムが平衡すると、rms/dc コンバータへの入力電圧が同じ値に安定します。このため、狭いレンジのrms/dc コンバータは、回路が動作するために非常に狭い動作範囲を必要とします。

VGA の伝達関数は dB 表示で直線です。すなわち、dB で表したゲインが制御電圧(V)に比例します。このケースでは、VGA のゲイン制御の傾きは約–50 mV/dB です。このため回路全体(すなわち VGAへの入力と誤差アンプの出力との関係)では対数伝達関数になります。すなわち、出力電圧は対数すなわち rms 入力電圧に比例します。このゲイン制御機能の温度安定性は、rms 測定の温度安定性全体にとって非常に重要であることに注意してください。

ガウス・インタポレータ

図 2 に、適合度カーブの周期的なリップルを示します。このリップルの原因はガウス・インタポレータです。ガウス・インタポレータは、信号を取り出す可変減衰器のノードを決定します。その後、この信号は AD8362 VGA の出力ステージを構成する固定ゲイン・アンプに加えられます。

減衰器とガウス・インタポレータ回路の簡略化した回路図を図 4 に示します。入力ラダー減衰器は多数のセクションから構成され、各々は入力信号を 6.33 dB だけ減衰させます。信号は、可変相互コンダクタンス・ステージを介してこれらのセクションから取り出されます。ガウス・インタポレータは、可変減衰器の制御ポートに加えられる制御信号に基づいて、アクティブにする相互コンダクタンス・ステージを決定します。したがって、入力信号に対する減衰が決定されます。

図 4.ガウス・インタポレータを持つ AD8362 VGA 減衰器。ガウス・インタポレータの存在により出力電圧と制御電圧との間の連続な関係が実現されていますが、この関係には周期的なリップルがあります。

図 4.ガウス・インタポレータを持つ AD8362 VGA 減衰器。ガウス・インタポレータの存在により出力電圧と制御電圧との間の連続な関係が実現されていますが、この関係には周期的なリップルがあります。

タップ・ポイント間の減衰量レベルについては、導通するように指示された相互コンダクタンス・セルに基づいて、隣接相互コンダクタンス・ステージを同時にアクティブして、これらのタップ・ポイントの重みづけ平均を発生する必要があります。隣接ステージのコンダクタンスが変化して、減衰器のタップ・ポイントをスライドさせる方法が、適合度カーブで見られるリップルを発生させています。

誤差信号のフィルタ処理

狭いレンジの rms/dc コンバータ内にある 2 乗セルが DC 成分と入力周波数の 2 倍成分を発生しています。これは、次式から得られます。

数式1

この信号がシングル・トーン正弦波の場合には、2 乗セルの出力はDC 成分と入力周波数の 2 倍の正弦波トーンになります。誤差アンプ/積分器の支配的な極により、2 倍の周波数成分が除去され、DC成分だけが残ります。

入力信号が CDMA 信号やワイドバンド CDMA (WCDMA)信号のような広帯域信号の場合には、DC に現れる成分は DC から元の信号帯域幅の 1/2 までに広がります。このため、2 倍の周波数がフィルタで除去された後にも、VGA へ帰還される回路の出力にはまだ大きなリップルが含まれ、DC レベルに重畳されてノイズに似た信号として現れます。通常の解決策は、誤差アンプ出力での信号上のノイズを大幅に削減するように誤差アンプ内のフィルタ処理を強化することです。これにより、回路全体からノイズのない出力が得られます。

伝達関数のリップルの除去

図 5 に、このベースバンド・ノイズを利用する別の回路構成を示します。図 3 の回路とは対照的に、積分器の外付けフィルタ・コンデンサのサイズが大幅に削減されていますが、rms 平均処理に対しては十分な大きさを維持しています。回路への入力として広帯域信号が加えられると、誤差アンプ出力には大きなノイズが含まれますが、出力は正しい rms 出力レベルの中心にあります。誤差アンプ出力のノイズ・レベルは最小 300 mV p-p のレベルに設定されます。この300 mV は、VGA の R-2R ラダー上の隣接タップ間の距離(dB 表示)と VGA ゲイン制御の傾きとの積( = 50 mV/dB × 6 dB)です。この出力ノイズ・レベルが最小 300 mV p-p である限り、実際の値は重要ではありません。

図 5. 2 乗セル出力でノイズを削減する働きを持つフィルタ・コンデンサ・サイズの小型化。VGA に帰還されるノイズにより VGAゲインが最小 6 dB 変動します。これが VGA 伝達関数リップルの原因になり、これにより回路全体の伝達関数でもリップルが発生します。2 乗出力のノイズが外部でフィルタされた後に測定されます。

図 5. 2 乗セル出力でノイズを削減する働きを持つフィルタ・コンデンサ・サイズの小型化。VGA に帰還されるノイズにより VGAゲインが最小 6 dB 変動します。これが VGA 伝達関数リップルの原因になり、これにより回路全体の伝達関数でもリップルが発生します。2 乗出力のノイズが外部でフィルタされた後に測定されます。

この軽いフィルタ処理された信号は VGA 制御入力に帰還されます。この信号内のノイズにより、VGA ゲインが中心ポイント付近で変動します。VGA のゲイン制御の傾きは 50 mV/dB です。このため、このノイズにより VGA の瞬時ゲインが約 6 dB 変化します。ガウス・インタポレータのワイパーが、R-2R ラダーの約 1 タップ前後に移動します。

ゲイン制御電圧がガウス・インタポレータの少なくとも 1 タップ分常に移動するため、VGA 出力の rms 信号強度と VGA 制御電圧との間の関係が VGA のゲイン制御リップルと無関係になります。2 乗セルに加えられる信号は少し AM 変調されますが、この変調により、信号のピーク対平均比が変わることはありません。

フィルタ・コンデンサを削減したため、誤差アンプ出力に現れる rms電圧が大きなピーク to ピーク・ノイズを含むようになります。ノイズをそのままにしてこの信号を VGA ゲイン制御入力に戻すことは危険ですが、外部測定ノードへ出力される rms 電圧はシンプルなフィルタを使ってフィルタして、ノイズのない rms 電圧を発生することができます。

図6に、rms/dcコンバータ伝達関数のリップル削減結果を示します。6 dB (R-2R ラダーの 1 タップ)を超えるゲイン制御電圧を調べるために十分なノイズが必要なだけなので、VGA ゲイン制御端子に戻される 600 mV のピーク to ピーク・ノイズは不必要に大きく見えますが、拡散スペクトル CDMA 信号で呼負荷が減少すると、信号のピーク対平均比も減少します。このために、検出器出力に現れるノイズが小さくなります。したがって、ピーク to ピーク・ノイズは、常に R-2R ラダーの少なくとも 1 タップ分になるように設定されます。約–57 dBm での誤差関数のピークは、回路に供給される電力を測定するために使われた広いダイナミック・レンジの rms 電力量計ヘッド内の測定誤差から発生していることに注意してください。

図 6.ピーク対平均比の大きい信号(シングル・キャリア WCDMA、テスト・モデル 16、2.2 GHz)に対する伝達関数リップルの削減。–57 dBm でのピークは測定誤差が原因です。

図 6.ピーク対平均比の大きい信号(シングル・キャリア WCDMA、テスト・モデル 16、2.2 GHz)に対する伝達関数リップルの削減。–57 dBm でのピークは測定誤差が原因です。

図 7 に、未変調の正弦波を加えたときの、変更した回路の伝達関数を示します。伝達関数のリップルは削減されていません。前述のように、正弦波を 2 乗セルに入力すると、出力積は 2 倍の周波数とDC 電圧レベルになります。正弦波の帯域は制限してあるので、DCの近くにノイズに似た電圧は現れません。2 倍の周波数を除去すると、任意の範囲で VGA のゲイン制御入力を調べる AC 成分がなくなります。

図 7.未変調(2.2 GHz)正弦波を回路に入力すると、狭いレンジの rms 検出器出力にベースバンド・ディザが発生しないため、伝達関数のリップルは削減されません。

図 7.未変調(2.2 GHz)正弦波を回路に入力すると、狭いレンジの rms 検出器出力にベースバンド・ディザが発生しないため、伝達関数のリップルは削減されません。

VTGTでのディザ入力

図 8 に、これらのケースで使用できる別の回路を示します。VGAを調べるために必要なディザ信号は、リファレンス電圧(ターゲット電圧とも呼ばれます)に加えられます。これにより誤差アンプ出力に外乱が発生して、これが VGA ゲイン制御入力に帰還されます。VREF 信号に加えられる信号としては、ノイズまたは正弦波のようなコヒーレントな信号が可能です。

図 8.ディザ信号は VTGT ピンに加えることができます。この技術は、入力信号のピーク対平均比が小さいとき(例えば正弦波)に有効です。ディザ信号としては、正弦波またはホワイト・ノイズが可能です。

図 8.ディザ信号は VTGT ピンに加えることができます。この技術は、入力信号のピーク対平均比が小さいとき(例えば正弦波)に有効です。ディザ信号としては、正弦波またはホワイト・ノイズが可能です。

図 9 に、入力信号として正弦波を加えたときの、この回路の伝達関数を示します。公称 1 V dc の VTGT 電圧には、500 mV p-p、10 kHz正弦波が重畳されます。伝達関数のリップルは、WCDMA 信号の場合と同様に削減されます。ディザ信号の周波数が非常に重要となることはありません。出力リップルを容易にフィルタで除去できると同時に、必要なパルス応答時間を実現するように、ディザ信号の周波数は十分高くする必要があります。

図 9.ディザ信号を VTGT 入力(10 kHz で 500 mV p-p、DC レベル= 1 V)に加えると、ピーク対平均比が小さい入力信号で同じリップル削減効果が得られます。このケースでは、入力信号は2.2 GHz 正弦波です。

図 9.ディザ信号を VTGT 入力(10 kHz で 500 mV p-p、DC レベル= 1 V)に加えると、ピーク対平均比が小さい入力信号で同じリップル削減効果が得られます。このケースでは、入力信号は2.2 GHz 正弦波です。

温度補償

伝達関数のリップルで発生する測定の不確定性の他に、デバイスの温度ドリフトによってさらに(しかも大きな)測定不確定性が生じます(図 2)。ただし、多数のデバイスを調べると(図 10)、温度ドリフトに一定の傾向があることが分かります。温度が減少すると、出力電圧が増加します。ただし、ドリフトの大きさは、デバイス毎に変わります。また、ドリフトの大きさは周波数によっても変わります。アペンディックスに、多数のデバイスに対する、他の周波数での温度ドリフトのプロットを示します。

図 10. 2.2 GHz でのデバイス間温度ドリフトの統計分布(平均± (3 シグマ)は、出力電圧は低温で増加し、高温で減少する傾向を示しています。温度ドリフトは、インターセプトの移動により支配されます。

図 10. 2.2 GHz でのデバイス間温度ドリフトの統計分布(平均± (3 シグマ)は、出力電圧は低温で増加し、高温で減少する傾向を示しています。温度ドリフトは、インターセプトの移動により支配されます。

図 11 に示すシンプルな技術を使うと、このデバイスの温度ドリフトを削減することができます。前述のように、AD8362 出力電圧のドリフトは主にインターセプトのドリフトにより発生します。伝達関数全体は温度の増加に対して下がる傾向がありますが、傾きは安定しています。このために、温度ドリフトは入力レベルに無関係になっています。特定の入力レベル(例えば 5 dBm)でのドリフトに基づいて、この方法で温度ドリフトを補償すると、ダイナミック・レンジ全体で(図 12)よく維持されます。

図 11.ログアンプの出力電圧に正温度係数を持つ小さいオフセット電圧を加えると、AD8362 の小さい温度ドリフトをさらに削減することができます。

図 11.ログアンプの出力電圧に正温度係数を持つ小さいオフセット電圧を加えると、AD8362 の小さい温度ドリフトをさらに削減することができます。

図 12.シンプルなインターセプト温度補償方式を使うと、AD8362 の温度ドリフトを大幅に削減することができます。このケースでは、5 dBm で 2.2 GHz のドリフトを補償しています。温度ドリフトはインターセプトにより支配されているため、レンジ全体で優れた性能が得られます。

図 12.シンプルなインターセプト温度補償方式を使うと、AD8362 の温度ドリフトを大幅に削減することができます。このケースでは、5 dBm で 2.2 GHz のドリフトを補償しています。温度ドリフトはインターセプトにより支配されているため、レンジ全体で優れた性能が得られます。

補償方式はシンプルであり、高精度温度センサーTMP36を使って、抵抗分圧器の片側を駆動し、反対側を AD8362 から駆動して、出力はセンタ・タップから取ります。TMP36 の出力電圧は 25°C で 750mV であり、温度係数は 10 mV/°C です。温度が上昇すると、AD8362からの電圧が低下し、TMP36 からの電圧は上昇します。R1 と R2は、抵抗分圧器の中心で温度に対して電圧が一定となるように選択します。実際には、回路の出力電圧が AD8362 の VOUT ピン電圧に近くなるように、R2 を R1 より可成り大きくします。

R1 とR2 の選択

抵抗比 R1/R2 は、注目する周波数での AD8362 の温度ドリフトにより決定されます。特定の入力レベルでのドリフトが選択されます。これにより、そのレベルで最適精度が得られます。この例では、R1と R2 は入力レベル 5 dBm でのドリフトに基づいて選択されています。R1 と R2 は次式に従って選択されます。

数式2

ここで、10 mV/°C は TMP36 のドリフトで、AD8362 のドリフトはmV/°C で規定されています。dB/°C で表した温度ドリフトは、ログの傾きを乗算して mV/°C に変換されます。例えば、900 MHz でのドリフトが–0.008 dB/°C (5 dBm)である場合、傾き 50 mV/dB を乗算して–0.4 mV/°C に変換されます。表 I に、周波数 900 MHz、1900 MHz、2200 MHz に対する R2 と R1 の計算と計算結果を示します。

表 I. R1 と R2 の計算
Frequency(MHz) Average Drift @ 5 dBm (dB/°C) Slope(mV/dB) Average Drift @ 5 dBm (mV/dB) R1(kΩ) R2 (kΩ)
900 –0.008 50 –0.4 mV/°C 1.02 25.5
1900 –0.0024 51 –0.1224 mV/°C 1 82.5
2200 –0.0104 50.5 –0.5252 mV/°C 1 19.1

リップル削減と温度補償を組み合わせた回路

温度補償と伝達関数リップル削減の 2 つの方式を組み合わせると、直線性の優れた温度に対して安定な 1 つの rms 検出器を実現することができます。

図 13 に、この回路を示します。2 つの補償回路は、オペアンプ・バッファにより互いに分離されています。

図 13.ディザ削減と温度補償方式を組み合わせると、低温度ドリフトと優れた伝達関数直線性を持つ 1 つの回路を実現することができます。

図 13.ディザ削減と温度補償方式を組み合わせると、低温度ドリフトと優れた伝達関数直線性を持つ 1 つの回路を実現することができます。

図 14 に、–40°C、+25°C、+85°C について 2.2 GHz で測定したこの回路の伝達関数を示します。測定誤差は 60 dB のレンジで約±0.5 dBです。前述のように、約–57 dBm での誤差スパイクは、測定で使用した広いダイナミック・レンジを持つ rms 電力量計ヘッドによるAD8362 入力信号に対する過少報告により発生しています。

図 14.リップル削減と温度補償方式を組み合わせると、約 60dB のレンジで約±0.5 dB の測定直線性を持つ回路を実現することができます(低い電力での大きな誤差は測定誤差が原因です)。

図 14.リップル削減と温度補償方式を組み合わせると、約 60dB のレンジで約±0.5 dB の測定直線性を持つ回路を実現することができます(低い電力での大きな誤差は測定誤差が原因です)。

結論

60 dB の TruPwr対数検出器 AD8362 は優れたベースライン性能を持っていますが、測定精度をさらに向上させることができます。使用する技術は、抵抗、コンデンサ、温度センサーを使ったシンプルなもので、デバイス間の温度ドリフトには再現性があるため量産が可能です。

アペンディックス

図 15.入力振幅対対数則適合度、平均値の片側に対して 3 シグマ、正弦波、周波数 900 MHz、温度–40°C、+25°C、+85°C

図 15.入力振幅対対数則適合度、平均値の片側に対して 3 シグマ、正弦波、周波数 900 MHz、温度–40°C、+25°C、+85°C 

図 16.入力振幅対対数則適合度、平均値の片側に対して 3 シグマ、正弦波、周波数 1,900 MHz、温度–40°C、+25°C、+85°C

図 16.入力振幅対対数則適合度、平均値の片側に対して 3 シグマ、正弦波、周波数 1,900 MHz、温度–40°C、+25°C、+85°C

著者

Eamon Nash

Eamon Nash

Eamon Nashは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・ディレクタです。様々な現場や工場で、ミックスド・シグナル製品、高精度製品、RF製品に関する業務に携わってきました。現在は、衛星通信/レーダーなどで使用されるRFアンプやビームフォーマ製品に注力しています。アイルランドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得。5件の特許を保有しています。