AN-2624: 有効なチャージャがある場合のMAX77659 のスライドスイッチ機能

はじめに

MAX77659 は、サイズと効率の両方が不可欠の低電力アプリケーションにおけるバッテリ充電および電源を実現する、小型で高効率の集積化ソリューションです。このIC は、1 つのインダクタを用いて1 つの充電レールおよび3 つの独立したプラグラマブル電源レールを生成する、デュアル入力の単一インダクタ・マルチ出力(SIMO)昇降圧レギュレータを備えており、全体的なソリューション・サイズを最適化します。

MAX77659 には2 つの入力があります。これらの入力信号の主な目的は、パワー・マネージメント集積回路(PMIC)にウェイクアップ信号を発生し、レギュレータをオンにすることです。MAX77659 の入力の1 つは設定可能なオンキー(nEN)であり、プッシュボタン設計にもスライドスイッチ設計にも対応できます。nEN は、通常はシステムのオンキーから入力される、バウンス防止機能を内蔵したアクティブローのデジタル入力です。もう1 つの入力はチャージャです。CHGIN が有効で(CHGIN_OK = 1)かつバウンス防止されている場合、デバイスは、スタンバイ状態からリソースオン状態に遷移します(MAX77659 のデータシートのTop Level On/Off Controller State Diagram を参照)。

しかし、nEN がスライドスイッチに設定されていてスイッチがオフの位置になっており、MAX77659 がチャージャから給電されている(CHGIN が有効でバウンス防止されている)場合、PMIC 出力レールで切り替わり動作が観測されます。これは、スライドスイッチがオンキーとして作用する使用事例では好ましくありません。下段回路において一時的に電力損失が生じるためです。このアプリケーション・ノートでは、この動作を説明し、切り替わり現象を防止するために取り得る回避策を提示します。

nEN の2 つの機能:プッシュボタンおよびスライドスイッチ

nEN デジタル入力は、プッシュボタン(CNFG_GLBL.nEN_MODE = 0)またはスライドスイッチ(CNFG_GLBL.nEN_MODE = 1)で動作するように設定できます。プッシュボタンとスライドスイッチのどちらのモードでも、オン/オフ・コントローラはnEN 入力の立下がりエッジを検出してパワーアップ・シーケンスを開始します。次に示すタイミング図は、パワーオン・シーケンスと手動リセットに対するnEN の2 つの機能を示しています。デバイスのデフォルト設定は、OTP オプションを用いて、プッシュボタン・モード(CNFG_GLBL.nEN_MODE = 0)またはスライドスイッチ・モード(CNFG_GLBL.nEN_MODE = 1)のいずれかとすることができます。

デバイスがリソースオン状態の場合は、nEN はオン/オフ・コントローラの手動リセット入力として機能します。手動リセット機能は、プロセッサとの通信に失敗した場合に強制的にパワーダウンを行うのに便利です。nEN がプッシュボタンに設定され、nEN が長時間(tMRST)デアサート(nEN = ロー)されると、オン/オフ・コントローラはパワーダウン・シーケンスを開始します。nEN がスライドスイッチに設定され、入力が長時間(tMRST)デアサート(nEN = ハイ)されると、オン/オフ・コントローラはパワーダウン・シーケンスを開始し、スタンバイ・モードに移行します。

図1. nEN 使用時のタイミング図
図1. nEN 使用時のタイミング図

nEN がスライドスイッチに設定されてスイッチがオンの位置になっており、かつ有効なCHGIN がある場合、SIMO 出力チャンネルおよび低ドロップアウト(LDO)出力はリソースオン状態に遷移します。これらは図1 に示すタイミング図に従います。

図2. CHGIN が挿入された状態でオンの位置にあるスライドスイッチ
図2. CHGIN が挿入された状態でオンの位置にあるスライドスイッチ

ただし、nEN がスライドスイッチに設定されてスイッチがオフの位置になっており、かつ有効なCHGIN がある場合、スライドスイッチ機能は異なったものになります。CHGIN は、デバイスがスタンバイ状態からリソースオン状態に遷移するための有効なイネーブル信号です(MAX77659 のデータシートのTop Level On/Off Controller State Diagramに示す遷移6 を参照)。フレキシブル・パワー・シーケンサ(FPS)のパワーアップ・シーケンスが完了し、tMRSTの時間が経過すると、手動リセットがトリガされます。それによって、デバイスがリソースオン状態からスタンバイ状態に遷移し、ERCFLAG.MRT フラグがセットされます(MAX77659 のデータシートのTop Level On/Off Controller State Diagram に示す遷移8A を参照)。CHGIN は依然として有効でバウンス防止されているため、FPS のパワーアップ・シーケンスが再び開始され、デバイスはスタンバイ状態からリソースオン状態に遷移します。図3 に示すように、スライドスイッチがオフの位置にある場合、tMRST の時間が経過するごとに生じるこのチャンネルの切り替わり動作は継続します。

図3. CHGIN が挿入された状態でオフの位置にあるスライドスイッチ
図3. CHGIN が挿入された状態でオフの位置にあるスライドスイッチ

スライドスイッチ・モード(オフ位置)でのSIMO 出力チャンネルとLDO 出力レールの切り替わり動作に対する回避策

外付けFET を用いてnEN 信号を制御する

スライドスイッチ・モードの場合、ステート・マシンはnEN 信号の立下がりエッジを検出しようとします。スイッチが強制的にオフ位置になっている場合、nEN 信号は、内蔵プルアップ抵抗(RnEN_PU)を通じてVCCINT までプルアップされています。そのため、ステート・マシンは手動リセット時間内にnEN の立下がりエッジを捕らえることができません。これにより、tMRST(手動リセット・タイマー)の時間の経過後に手動リセットがトリガされ、すべての出力が強制的にリソースオン状態からスタンバイ状態に遷移させられます(MAX77659 のデータシートのTop Level On/Off Controller State Diagram に示す遷移8A を参照)。リセットによってスタンバイ状態に遷移した後、デバイスが再びパワーアップできるように、内部ウェイクアップ・フラグがセットされウェイクアップ要求が記憶されます。CHGIN が依然として挿入されているため(内部ウェイクアップ・フラグ・イベントの1 つ)、出力は再びスタンバイ状態からリソースオン状態に遷移します(MAX77659 データシートのTop Level On/Off Controller State Diagram の遷移6 を参照)。

tMRSTの時間が経過するたびにSBBx レールとLDO出力の切り替わりが繰り返されるのを防ぐために推奨されるソリューションは、外付け電界効果トランジスタ(FET)(Q1)を用いてnEN 信号を制御することです。Q1 の構成を次図に示します。

図4. 外付けFET Q1 の構成
図4. 外付けFET Q1 の構成

CHGIN が有効でバウンス防止されている場合、Q1 はオンになります。Q1 はスライドスイッチの位置(オン/オフ)に関係なく、nEN をローに引き下げます。tMRST はトリガされず、出力は切り替わりません。CHGIN がなくなると、デバイスはバッテリ(BATT)によって給電され、出力はスライドスイッチの位置を用いてオンとオフを切り替えられるようになります。

図5. CHGIN を挿入し外付けFET をnEN に接続したオフ位置のスライドスイッチ
図5. CHGIN を挿入し外付けFET をnEN に接続したオフ位置のスライドスイッチ

Q1 に大量の電流が流れるのを防ぐため、SYS ピンとスライドスイッチ・モードの位置1 の間にプルアップ抵抗(100kΩ)を外付けします(図4 参照)。

この回避策により、nENが強制的にローにされることによって出力がtMRSTの時間ごとに切り替わるのを確実に防止できます。ただし、スライドスイッチ機能(オン/オフ)が作動するのは、VCCINTの電圧がVCHGINからVBATT に切り替わる場合のみです。

外付けFET を用いてnEN 信号を制御しGPIOx ピンを通じてスライドスイッチのステータスを読み出す

外付けFET を追加することに加え、GPIOx ピンを用いるとスライドスイッチのステータスを読み出すことができます。それにより、外部マイクロコントローラがスライドスイッチの位置に関して更新されます(図6 参照)。

図6. nEN ピンのステータスを読み出す、外付けFET を用いたGPIO 構成
図6. nEN ピンのステータスを読み出す、外付けFET を用いたGPIO 構成

ステータスを知ることで、マイクロコントローラは、I2Cコマンドを用いて個々の出力チャンネルのイネーブル制御を変更し必要に応じてそれらを強制的にオフにできます。

tMRST 以内にnEN イネーブル入力をプッシュボタン・モードに切り替える

切り替わり動作を防ぐ代替の回避策は、nEN イネーブル入力をtMRSTの時間内にスライドスイッチ・モードからプッシュボタン・モードに変更することです。スライドスイッチがオフ位置にあり、nEN がプッシュボタンに設定されている場合、デバイスはスタンバイ状態には遷移せず、出力はリソースオン状態にとどまります。出力がパワーダウンしないようにするため、tMRST 時間が経過する前にnEN をプッシュボタンに設定する必要がある点に注意してください。

この構成は、CNFG_GLBL.EN_MODE[3] = 0 に設定することで実現できます。このレジスタの詳細については、MAX77659 のデータシートのRegister Map のセクションを参照してください。

図7. 出力がtMRST 時間内に切り替わらないようプッシュボタンに設定されたnEN
図7. 出力がtMRST 時間内に切り替わらないようプッシュボタンに設定されたnEN

まとめ

まとめると以下のようになります。nEN ピンがスライドスイッチに設定されスイッチがオフ位置になっており、かつ有効なCHGIN 信号がある場合、MAX77659 は出力レールがスタンバイ状態とリソースオン状態の間で遷移する切り替わり動作を示します。これは、手動リセット・タイマー(tMRST)がtMRSTの時間が経過するごとにデバイスをリセットし出力の切り替わりをトリガすることが原因です。この不要な切り替わりを防止するためのソリューションの1 つは、外付けFET(Q1)を用いてnEN 信号を制御することです。CHGIN が有効なときにnEN をローにプルダウンすることによって、Q1 は手動リセットがトリガされるのを防ぎ、出力の安定を確保します。CHGIN がなくなり、システムがバッテリで給電されるようになった後でのみ、出力はスライドスイッチを用いて手動で切り替えることができるようになります。外付けプルアップ抵抗を追加することで、Q1 に過剰な電流が流れることのない適切な動作が確保されます。また、この回避策によって、システムが電源をチャージャからバッテリに切り替えた後、スライドスイッチ機能が効果的に作用するようになります。切り替わり動作を防ぐためにこのアプリケーション・ノートで説明した1 つの代替回避策は、nEN イネーブル入力をtMRSTの時間内にスライドスイッチ・モードからプッシュボタン・モードに変更することです。スライドスイッチがオフ位置にあり、nEN がプッシュボタンに設定されている場合、MAX77659 はスタンバイ状態には遷移せず、出力はリソースオン状態にとどまります。出力をパワーダウンさせないよう、tMRST時間が経過する前に確実にnEN をプッシュボタンに設定することが重要です。