AN-1536: APTMC120AM20CT1AG SiC パワー・スイッチを駆動するADuM4135 ゲート・ドライバの性能

はじめに

太陽光発電(PV)やエネルギー貯蔵などのアプリケーションにおいては、これまで求められてきた効率向上の必要性に加え、電力密度が増大する傾向にあります。この問題に対するソリューションが、シリコン・カーバイド(SiC)パワー・デバイスの形となって現れています。SiC デバイスはワイド・バンドギャップ・デバイスで、DC 動作電圧を 1000 V 以上に上げることが可能で、ドレイン・ソース・インピーダンス(RDSON)も低くすることができます。また SiC デバイスは、絶縁性を上げ、それにより効率を向上させるというニーズにも応えます。さらに、SiC デバイスは寄生容量が小さく、それによるスイッチング時の電荷量も少ないため、100 kHz を上回る高速スイッチング速度を示します。しかし、短所の 1 つとして、ゲート・ドライバには 100 kV/μs を超える高いコモンモード過渡耐圧(CMTI)が必要となります。また、SiC のドレイン・ソース間の高速スイッチングによりデバイスのゲートでリンギングが発生する可能性があるという短所もあります。SiC を実装することで著しく電力密度が改善できる状況において SiC デバイスを高電圧で駆動する場合、このような短所によって問題が発生する可能性があります。この問題を解決できるゲート・ドライバと SiC の組み合わせの 1 つが、ADuM4135 と Microsemi 製APTMC120AM20CT1AG モジュールです。ADuM4135 ゲート・ドライバは、25 V の動作電圧(VDD・VSS 間電圧)時に 7 A(代表値)のソースおよびシンク電流駆動能力を持つ 1 チャンネル・デバイスです。CMTI の最小値は 100 kV/μs です。APTMC120AM20CT1AG パワー・モジュールは、ハーフ・ブリッジ SiC デバイスで、1200 V(定格値)のコレクタ・エミッタ電圧、17 mΩ の RDSON、108 A の直流駆動電流の性能を示します。ゲート・ソース間電圧(VGS)の定格は、−10 V ~ +25 V です。

図 1. ADuM4135 ゲート・ドライブ・モジュール
図 1. ADuM4135 ゲート・ドライブ・モジュール

試験構成

電気的構成

システムの試験回路構成を図 2 に示します。DC 電圧がフル・ハーフ・ブリッジ全体の入力に印加されます。入力段には 900 μFのデカップリング・コンデンサが付加されています。出力段は、83 μH と 128 μF のインダクタ・コンデンサ(LC)フィルタ段で、ここでフィルタリングを行って 2 Ω ~ 30 Ω の負荷 R1 に出力します。

図 2. システムの試験回路構成
図 2. システムの試験回路構成

表 1 に試験構成の電力部品を示します。具体的な構成を図 3 に示します。表 2 には試験で使用した装置構成の詳細を示します。

表 1. 試験構成の電力部品
Equipment Value
U1 200 V to 900 V
C1 900 μF
L1 83 μH
C2 128 μF
R1 2 Ω to 30 Ω
表 2. 試験で使用した装置構成
Equipment Manufacturer Type
Oscilloscope Keysight DSO-X 3024T
DC Supply Delta Elektronika SM 660-AR-11 (two in serial)
Gate Driver Board Watt&Well ADUM4135-WW-MS-01 SN001
Waveform Generator Agilent 33522A
Current Probe Hioki 3275
Passive Voltage Probe Keysight N2873A 500 MHz
Passive High Voltage Probe Elditest GE3421 100 MHz
図 3. 具体的な構成
図 3. 具体的な構成

テスト結果

無負荷試験

表 3. 無負荷試験 − 図の割り振り
Test VHV (V)1 Switching Frequency, fSW (kHz) Duty Cycle (%) IIN (A)2 Figures
1 600 50 50 0.26 図 4 and 図 5
2 600 100 50 0.22 図 6 and 図 7
3 900 50 50 0.37 図 8 and 図 9

1 VHV は HV+ と HV− の間の差動電圧。
2IIN は U1 を流れる入力電流。

表 4. 無負荷試験 − 温度のまとめ
Test VHV (V) fSW (kHz) Ambient Temperature (°C) Heatsink Temperature (°C) DC-to-DC Power Supply Temperature, High-Side (°C) DC-to-DC Power Supply Temperature, Low-Side (°C) Gate Driver Temperature, High-Side (°C) Gate Driver Temperature, Low-Side (°C)
4 600 50 20 21.3 25.4 25.4 34 33.5
5 600 100 20 23.5 31.5 31.5 42 42
6 900 50 20 23 29 29 37 37

ADuM4135 の最新バージョンには、変更点がいくつかあります。2.2 nF のコンデンサが、パワー MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)Q1 と Q2 に追加されました。また、15 nFの C0G デカップリング・コンデンサが VHV に追加されています。表 3 と表 4 に測定結果をまとめます。図 4 ~ 図 9 は結果をグラフで示したものです。試験 1 と試験 2 は 600 V で行ったもので、スイッチング周波数はそれぞれ 50 kHz と 100 kHz です。これに対し、試験 3 は 900 V、スイッチング周波数 50 kHz で行ったものです。

図 4. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オン
図 4. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オン
図 5. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オフ
図 5. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オフ
図 6. VHV = 600 V、fSW = 100 kHz、無負荷、ターン・オン
図 6. VHV = 600 V、fSW = 100 kHz、無負荷、ターン・オン
図 7. VHV = 600 V、fSW = 100 kHz、無負荷、ターン・オフ
図 7. VHV = 600 V、fSW = 100 kHz、無負荷、ターン・オフ
図 8. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オン
図 8. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オン
図 9. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、無負荷、ターン・オフ

負荷試験

表 5. 負荷試験
Test VHV (V) fSW (kHz) Duty Cycle (%) IOUT1 (A) VOUT2 (V) POUT3 (W) IIN4 (A)
Figures
4 200 50 25 1.7 48 83 0.55 Figure 10 and Figure 11
5 600 50 25 6.9 145 1000 1.66 Figure 12 and Figure 13
6 900 50 25 8.7 215 1870.5 2.47 Figure 14 and Figure 15
7 900 100 25 8.2 200 1640 2.13  Figure 16 and Figure 17

1 IOUT は負荷抵抗 R1 を流れる出力電流。 
2 VOUT は R1 に印加される出力電圧。 
3 POUT は出力電力(IOUT × VOUT)。 
4 IIN は U1 を流れる入力電流。

基板の構成は、無負荷試験のセクションで説明した試験構成と同様です。

表 5 に負荷試験の測定結果をまとめます。図 10 ~ 図 17 は結果をグラフで示したものです。

図 10. VHV = 200 V、fSW = 50 kHz、POUT = 83 W、ターン・オン
図 11. VHV = 200 V、fSW = 50 kHz、POUT = 83 W、ターン・オフ
図 11. VHV = 200 V、fSW = 50 kHz、POUT = 83 W、ターン・オフ
図 12. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1000 W、ターン・オン
図 13. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1000 W、ターン・オフ
図 13. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1000 W、ターン・オフ
図 14. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1870.5 W、ターン・オン
図 14. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1870.5 W、ターン・オン
図 15. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1870.5 W、ターン・オフ
図 15. VHV = 900 V、fSW = 50 kHz、POUT = 1870.5 W、ターン・オフ
図 16. VHV = 900 V、fSW = 100 kHz、POUT = 1640 W、ターン・オン
図 16. VHV = 900 V、fSW = 100 kHz、POUT = 1640 W、ターン・オン
図 17. VHV = 900 V、fSW = 100 kHz、POUT = 1640 W、ターン・オフ
図 17. VHV = 900 V、fSW = 100 kHz、POUT = 1640 W、ターン・オフ

出力電圧(VOUT)は R1 の両端の電圧を測定したものです。この試験結果は、VGS に若干のミラー効果が表れることを示していますが、VGS は SiC のゲートにおいて -5 V のレベルを維持しています。900 V のときは、VDS にある程度のリンギングが見られますが、入力 DC 電圧の 100 V を下回っています。この設計によって、ADuM4135 が SiC MOSFET を駆動するのに問題のない性能を持っていることがわかります。

高電流試験

表 6.高電流試験
Test VHV (V) fSW (kHz) Duty Cycle (%)1 IOUT2 (A) VOUT3 (V) PIN4 (W) IIN5 (A) Figures
4 300 50 25 21.8 70.14 1526 5 Figure 18 and Figure 19
5 400 50 25 27.1 93.8 2640 6.6 Figure 20 and Figure 21
6 600 50 25 40.5 141 6000 10 Figure 22 and Figure 23

1 デューティ・サイクル・ハイ・サイド。 
2 IOUT は負荷抵抗 R1 を流れる出力電流。 
3 VOUT は R1 に印加される出力電圧。 
4 PIN は入力電力(IIN × VHV)。
5 IIN は U1 を流れる入力電流。

基板構成は、無負荷試験のセクションで説明した試験構成と同様です。この試験では Regatron の電源を使用しました。

表 6 に高電流試験の測定結果をまとめます。図 18 ~ 図 23 は結果をグラフで示したものです。

VOUT は R1 の両端の電圧を測定したものです。

図 18. VHV = 300 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 21.8 A、ターン・オン
図 18. VHV = 300 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 21.8 A、ターン・オン
図 19. VHV = 300 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 21.8 A、ターン・オフ
図 19. VHV = 300 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 21.8 A、ターン・オフ
図 20. VHV = 400 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 27.1 A、ターン・オン
図 20. VHV = 400 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 27.1 A、ターン・オン
図 21. VHV = 400 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 27.1 A、ターン・オフ
図 21. VHV = 400 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 27.1 A、ターン・オフ
図 22. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 40.5 A、ターン・オン
図 22. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 40.5 A、ターン・オン
図 23. V<sub>HV</sub> = 600 V、f<sub>SW</sub> = 50 kHz、出力電流(I<sub>OUT</sub>) = 40.5 A、ターン・オフ
図 23. VHV = 600 V、fSW = 50 kHz、出力電流(IOUT) = 40.5 A、ターン・オフ

PWM 遅延

ADuM4135 の入力 PWM と出力 PWM とで、入出力信号間の遅延を測定できます。測定は、ADuM4135 の入出力ピンで直接行いました。遅延は 59.4 ns になります。

図 24. 入出力の PWM 間の遅延、ターン・オン
図 24. 入出力の PWM 間の遅延、ターン・オン
図 25. 入出力の PWM 間の遅延、ターン・オフ
図 25. 入出力の PWM 間の遅延、ターン・オフ

回路図

図 26. ADuM4135 ゲート・ドライブ基板の回路図
図 26. ADuM4135 ゲート・ドライブ基板の回路図

まとめ

ADuM4135 には電流駆動能力、正確な電源範囲、100 kV/μs を上回る強い CMTI 能力が備わっており、SiC MOSFET を駆動する場合に問題のない性能を発揮します。

この試験結果から、絶縁電源や SiC を駆動する高電圧ゲート・ドライバとして使用可能なソリューションがあることが示されました。

著者

Martin Murnane

Martin Murnane

Martin Murnane は、アナログ・デバイセズで産業分野や計測分野向けの太陽光発電システムを担当する技術者です。エネルギーや太陽光発電のアプリケーションが専門です。アナログ・デバイセズに入社する前は、エネルギー・リサイクル・システム向けのパワー・エレクトロニクスの開発(Schaffner Systems)、Windows ベースのアプリケーション・ソフトウェア/データベースの開発(Dell Computers)、ストレイン・ゲージ技術を使用した HW/FW 製品の開発(BMS)などの業務に従事していました。リムリック大学で電子工学の学士号と経営管理学修士号を取得しています。