AN-1468: 航空工学アプリケーションにおける通信インターフェース向けの雷保護

はじめに

ジェット機に雷が落ちることは珍しくありません。落雷は 1000 フライト時間あたり 1 回の確率で発生します。DO-160G 規格「航空機搭載機器の環境条件と試験手順」は、アビオニクス・ハードウェアの環境試験用の規格です。多くの航空機メーカーでは、DO-160Gセクション 22 の雷誘導トランジェントの感度を、ガイダンス、レーダー、通信、エンジン制御、暖房、エアコンなどの重要なシステムの必要条件として仕様規定しています。航空機の胴体、翼やテールのフライト制御、翼の先端、尾翼の先端、エンジン収納塔、ランディング・ギアは、落雷を受けやすい部分です。

信頼性の高い通信ポート

最新の航空機では、「フライ・バイ・ワイヤ」システムによってフライト制御が設計されています。「フライ・バイ・ワイヤ」とは、フライト制御コンピュータからの入力またはパイロットによる手動入力が、フライト制御アクチュエータを制御するサーボモーターに電気的に転送されることを意味します。これらのフライト制御システム用の通信インターフェースは、RS-485 物理レイヤに実装できます。航空機エンジンの管理制御のための通信インターフェースも、RS-485 物理レイヤで実装できます。完全自動化デジタル・エンジン制御(FADEC)システムが航空機のエンジンに取り付けられ、温度、圧力、燃料フローなどのパラメータを監視します。

このアプリケーション・ノートでは、アナログ・デバイセズの軍事および航空宇宙(MILA)アビオニクス向けの信頼性の高い RS-485トランシーバーについて説明します。ADM2795E-EP は、3 V ~ 5.5V の RS-485 トランシーバーで、MILA アビオニクスなどの過酷なアプリケーション環境で動作するセンサー、フライト制御アクチュエータ、エンジン制御などの信頼性を高め、システム障害を低減します。

図 1. 旅客機の落雷を受けやすい箇所とシステム部品間の通信インターフェース
図 1. 旅客機の落雷を受けやすい箇所とシステム部品間の通信インターフェース

環境条件

落雷による間接的な影響

DO-160G セクション 22 の雷保護に関する規格では、航空機のエアフレーム(胴体)への直接的な落雷サージによって磁場が発生した場合、アビオニクスにもたらされるトランジェント電圧と電流をシミュレートしています。

表 1 に、旅客機には DO-160G セクション 22 の波形 3 および 4/波形 1 に対してレベル 1 ~レベル 4 の間の雷保護が必要であることを示しています。航空機の機器は 3 つのゾーンに分類され、各ゾーンは電磁適合性(EMC)環境に関連付けられています。最も深刻な EMC環境は、制御不能なカテゴリ A およびカテゴリ B の航空機の領域です。

表 1. 旅客機向け DO-160G セクション 22 の典型的な雷保護要件
Equipment Category Inputs/Outputs Category DO-160G
Waveform 4/
Waveform 1
DO-160G
Waveform 3
DO-160G
Level
Category A: Critical
Equipment
Power supply
Signal: exposed area
750 V, 150 A
750 V, 150 A
1500 V, 60 A
1500 V, 60 A
4
4
Category B: Essential,
Hazardous Equipment
Signal: externally mounted (fuselage, wings)
Signal: belly fairing (aircraft lower surface), radome (radar cover)
750 V, 150 A
300 V, 60 A
1500 V, 60 A
600 V, 24 A
4
3
Category C: Essential,
Major Equipment
Signal: pressurized area (connection between two equipment bays, or between two decks on a multi-deck aircraft)
Signal: electronics bay (on the same deck in a multi-deck aircraft)
125 V, 25 A

Not applicable
250 V, 10 A
100 V, 4 A
2
1

フライト制御のアビオニクスは、カテゴリ A およびカテゴリ B のゾーンに搭載されています。DO-160G セクション 22 のレベル 3 またレベル 4 の雷保護が必要になる、過酷な EMC 環境があります。

MILA 環境の信頼性

アナログ・デバイセズでは、拡張製品(EP)の幅広いポートフォリオを取り揃え、軍事用の航空宇宙および防衛アプリケーションをサポートしています。ADM2795E-EP は、3 V ~ 5.5 V の RS-485 トランシーバーで、MILA アビオニクスなどの過酷なアプリケーション環境で動作するセンサー、フライト制御アクチュエータ、エンジン制御などの信頼性を高め、システム障害を低減します。ADM2795E-EP は以下に示す機能を備えています。

  • 防衛および航空宇宙アプリケーションに対応します(AQEC 規格に準拠)。
  • 動作温度範囲:-55 °C ~ +125 °C
  • リードフレーム: すずウィスカによる問題を軽減するため、ADM2795E-EP はニッケル/パラディウム/金(NiPdAu)リードフレーム仕上げになっています。
  • 生産: 単一の処理フロー・ベースラインから製造された強化製品

RS-485 と DO-160G EMC による信頼性の強化

ADM2795E-EP では、セクション 22 に規定された雷保護機能だけでなく、DO-160G 認定の EMC 保護機能を RS-485 バス・ピンに統合しています。また、ADM2795E-EP は、セクション 25 に規定された ±15 kV の静電気放電(ESD)による気中放電保護も提供します。セクション 22 に規定された雷保護について、ADM2795E-EP は、波形 3、波形 4/波形 1、波形 5A に対して、GND2 に接続した 33 Ωまたは 47 Ω の電流制限抵抗を使用して最高でレベル 4 の保護を提供するか、GND1 に接続した絶縁バリアを使用して最高でレベル 4 の保護を提供します。

DO-160G EMC 認定保護

表 2 に、DO-160G セクション 22 の落雷によるトランジェント感度で仕様規定された、ピン注入試験での波形 3、波形 4/波形 1、波形 5A に対するオープン・サーキット電圧(VOC)と短絡電流(ISC)を示します。DO-160G レベル 4 試験のピーク電流は、業界標準のサージによる IEC 61000-4-5 のピーク電流よりも大幅に高くなります。DO-160G 規格で規定された波形の形状と立上がり/遅延時間は、IEC 61000-4-5 規格で指定された値よりも大幅に長くなります(図2 を参照)。DO-160G セクション 22 の雷保護規格に関連付けられた電力量は大きいため、ADM2795E-EP の試験では、33 Ω または 47Ω の A ピンと B ピンの外付けバス電流制限抵抗を GND2 に接続しました。ADM2795E-EP に内蔵された EMC 保護回路のほかに、これらの抵抗が必要でした。ただし、GND1 に対する試験では、電流制限抵抗は不要です。ADM2795E-EP iCoupler 絶縁技術は、これらの過度のトランジェントからデバイスを保護します。

図 2. DO-160G セクション 22 の波形 1 および 波形 5A、IEC61000-4-5 のサージ波形
図 2. DO-160G セクション 22 の波形 1 および 波形 5A、IEC61000-4-5 のサージ波形
表 2. DO-160G セクション 22 のピン注入レベル 4 およびレベル 3 を IEC 61000-4-5 の雷保護レベル 4 およびレベル 3 と比較
Level DO-160G Waveform 3 DO-160G Waveform 4/Waveform 1 DO-160G Waveform 5A IEC 61000-4-5
4 1500 V, 60 A 750 V, 150 A 750 V, 750 A 4000 V, 49 A
3 600 V, 24 A 300 V, 60 A 300 V, 300 A 2000 V, 24.5 A

DO-160G ADM2795E-EP 試験の詳細

RS-485 バス側の GND2 に対する試験では、33 Ω または 47 Ω 電流制限抵抗が A および B のバス・ピン両方に接続されます。DO-160G セクション 22 の試験は、一度に 1 つのピンで実行されます。この試験はコモンモードでは実行されません。表 3 および 表 4 に、ADM2795E-EP 認定試験の結果を示します。

表 3. DO-160G セクション 22 のピン注入レベル 4 認定テストの結果
Testing to GNDx Current Limiting Resistor
on A and B Pins
DO-160G Waveform 3;
1500V, 60 A
DO-160G Waveform 4/
Waveform 1; 750 V, 150 A
DO-160 Waveform 5A;
750 V ,750 A
GND1 None Pass Pass Pass
GND2 47 Ω or 33 Ω Pass with 47 Ω Pass with 33 Ω Pass with 33 Ω
表 4. DO-160G セクション 22 のピン注入レベル 3 認定テストの結果
Testing to GNDx Current Limiting Resistor
on A and B Pins
DO-160G Waveform 3;
600 V, 24 A
DO-160G Waveform 4/
Waveform 1; 300 V, 60 A
DO-160 Waveform 5A;
300 V ,300 A
GND1 None Pass Pass Pass
GND2 33 Ω Pass Pass Pass