TNJ-063 : ブロック線図で考えるOP アンプDC サーボ回路の低域カットオフ周波数(後編)同じような回路だが非反転構成のほうがだいぶ厄介だ(とタワマンの話題)
TNJ-063 : ブロック線図で考えるOP アンプDC サーボ回路の低域カットオフ周波数(後編)同じような回路だが非反転構成のほうがだいぶ厄介だ(とタワマンの話題)
著者
石井 聡
2020年05月08日
はじめに
前回は OP アンプDC サーボ回路を考えていくうえで、まず非反転増幅回路のブロック線図からスタートし、反転増幅回路のブロック線図をどう考えるかを示し、それらから反転構成DC サーボ回路を考え、周波数特性を求めるところまで説明しました。今回は図1 の非反転構成DC サーボ回路(TNJ-062 の図3 再掲[1])を考えてみたいと思います。こちらのほうが難易度が高く、検討しがいがあるものなのです。
交流理論やブロック線図モデルはLTI システム
ここまでこの回路設計Web ラボでも長く示してきた(用いてきた)回路理論、そして前回と今回で示したDC サーボ回路を考えるためのブロック線図も、Linear Time-Invariant System Theory(線形時不変システム理論)という概念を基本として成立しています。Linear Time-Invariant をLTI と表現し、「LTI システム」と呼ばれることが多いです。何気なく使っている回路理論の公式は実はこのLTI がその根底にあるのです。
LTI システムは以下のように定義されています[2]。
【線形性 (linearity)】システムの入力と出力の関係が重ね合わせの特性を持つ。2 信号A, B が合成された信号の出力応答は、2 信号それぞれが単一に入力に加わり、出力に現れたものを足し合わしたものに等しい。電気回路理論としては重ね合わせの理として、デジタル信号処理ではインパルス列を畳み込みすることとして活用されている。
【時不変性 (time invariance)】システムに入力信号を与えたとき、出力で得られる応答は時間で変化しない(いつでも同じ)
…
私も初めてLTI システムの定義を知ったときは「なるほど!これなんだ!」と思ったものでした。そのようにシステムを定義(限定)することで、解析を見通しよくしている(なっている)のだということに気がつきました。
そののち(と言ってももうだいぶ前ですが)、私の次男が大学院修論の研究で「超高層建築構造物の地震波応答解析」なるものをやっており、それでも自分のオヤジと議論してくれました。どんな議論だったかは記憶がありませんが、「お父さん!地震波が超高層建物に…」「そりゃ、デンキではLTI って言う概念があって、ある程度解析は簡単だろうけど、超高層建築物は鋼構造が座屈したりするからLinear ではないだろうし、屈曲量で時間応答も変わるからTime-Invariant ではないだろうしね」とか(どういうレベルで研究を設定しているのかも知らずに。まあ解析規模を勘案するとLTI だと思いますが)答えた記憶があります。時間軸応答と周波数軸応答の話などもした記憶もあります。会社の仕事で飲んで帰宅してきた夜に次男から電話がかかってきた…、という「なんとまあ」的な議論のやり取りでした。今、想えば、懐かしいような、こないだのような思いでです。
それから僅かして「超高層マンション」のことを「タワマン」と呼ぶのだと知りました(笑)。
おっとだいぶ脱線してしまいましたが、電気回路をLTI システムとして考えることで、交流回路理論やブロック線図モデルの応用が可能になるというお話でしたね…。
非反転構成だが反転入力かつ加算回路的構成だ
前回解析した反転構成のDC サーボ回路は、ブロック線図として表してみると、反転増幅回路の帰還経路(前回の技術ノートでは「帰還経路1」としたもの)と積分回路による帰還経路(同じく「帰還経路2」としたもの)は別の経路でした。
帰還経路1 はOP アンプの反転入力を中心として動作しており、帰還経路2 は非反転入力を中心として動作していました。これは帰還経路2 が極性反転していることにより、その結果「負帰還動作」となっていたからなのでした。
しかし今回は図1 を見ても分かるように、非反転増幅回路の帰還抵抗による帰還経路と、積分回路による帰還経路がどちらもOP アンプの反転入力端子を中心として動いており、いわゆる「加算回路」的な構成になっています。
「これをブロック線図で表すのはちょっと難易度が高いのでは?」と思わせる回路ではないでしょうか。
【今回もまずは準備】加算回路のブロック線図モデルで小手調べ
前回、反転増幅回路のブロック線図を考えて、DCサーボ回路を解析する際の小手調べとしてみました。この検討を応用して、ここでもまずは加算回路のブロック線図を考えてみましょう。
図2はここで考える加算回路です。本来の加算回路であれば抵抗𝑅1の左側は信号源が接続されるものですが、ここは図1の𝑅1の左側の接続と同じようにして、グラウンド接続として簡単化します。
前回の技術ノートと同じように「重ね合わせの理」で考えてみます。まず図2の出力電圧を
とします。入力電圧を𝑉𝑆、OPアンプの反転入力端子の電圧(端子間電圧)を𝑉𝑖1とすると、
つぎに入力電圧を
とします。反転入力端子の(端子間の)電圧𝑉𝑖2は、
重ね合わせにより
OPアンプの開ループ・ゲインを𝐴とすれば
となります。これを式(3)に代入すると
移項して
ここで帰還率𝛽を前回のTNJ-062の式(2)の𝛽に相当するものとして
とすれば(これはこの回路のノイズ・ゲインの逆数でもあるわけですが)、
これから入出力間の伝達関数𝐻は
と計算でき、これは図4のように非反転増幅回路のブロックの前に、①グラウンドにシャントされた𝑅1,𝑅2の並列接続があり、②ここに𝑅5が入力抵抗として接続され、③それらで形成される分圧回路の出力が極性反転され、④非反転増幅回路に加わる、として加算回路はモデル化できることが分かります。
帰還積分回路のうごきを考える
つづいていよいよ本題である、図1のU2と周辺のRCで形成される帰還回路の動作について考えてみましょう。
ちょっと見るとこの回路は難しそうに思われる回路です。しかし実はなんということはなく、TNJ-035で重ね合わせの理の応用(重ね合わせの理の応用範囲が広いことを示すものですね)として紹介した「ディファレンス・アンプ」が基本となっているのです。図5にディファレンス・アンプを示します。
この回路の信号増幅は
として形成されます。非反転端子に接続される2個の抵抗と、反転端子に接続される2個の抵抗ごとはそれぞれ定数が等しいことが条件です。𝑉−𝐼𝑁=0, 𝑉𝑅𝐸𝐹=0とすれば、
となります。図5の各素子に図1の素子(部品番号)を振り当ててみると、図中の赤(⇒の右側)のようになり、ここで𝑅3=𝑅4かつ𝐶1=𝐶2とすると上記の式(11)から
として「非反転構成」の積分回路が形成されることになります(𝑠はラプラス演算子)。
これで非反転構成DCサーボ回路のブロック線図が描けるぞ
これで非反転構成DCサーボ回路のブロック線図が描けることになりました。これを図6に示します。入力信号𝑉𝑆は同図中の位置から注入されることになりますが、これはTNJ-062の図5で説明してきた、非反転増幅回路をブロック線図でどう表すかが理解できれば腹落ち感があるかと思います。
さて図1でのU2による帰還信号は反転入力端子に帰還されているため(図3にも示したように)、ブロック線図としては極性が反転しています。U2の回路自体で極性は反転しませんが、U1の反転増幅によりマイナスの符号がついているイメージです。これらにより図6は図7のように書き換えることができます。U1の帰還抵抗部分とU2の積分回路部分が並列に接続され、負帰還系が構成されるイメージです。
図7中にも赤枠で示しましたが、これらがこの非反転DCサーボ回路の全体の帰還経路
として表されることになります(ただし𝑅3=𝑅4かつ𝐶1=𝐶2としています)。これをあらためて書き直したものを図8に示します。
非反転構成のDCサーボ回路の伝達関数を考える
伝達関数を計算してみる
そうするとTNJ-062の式(2)から
𝐴はOPアンプの開ループ・ゲインですが、低域の周波数のみしか考えないので、定数かつ大きい値として𝐴=∞とすると、𝐻(𝑠)は
となります。-3dBの低域カットオフ周波数は
から
と計算でき、𝑠=𝑗2𝜋𝑓から
として計算できます。このように反転構成のDCサーボ回路と同様な流れで計算することはできましたが、この非反転構成の場合は式が複雑になっていることも分かりました。
ここで 𝑠=𝑗2𝜋𝑓が大きくなると(周波数が高くなると)、式(18)の分母の第1項が残り
に収束して、図1の信号源𝑉1からすれば常識的な非反転回路としての増幅率で決定することも分かります。
ところで、式(18)をもう少しがんばって整理してみましょう。計算過程の詳細は割愛しますが、
また
となります。そうすれば式(18)は
となり、今度はなんととても簡単な式として、-3dB低域カットオフ周波数を計算できることが分かりました!「式が複雑だな」と思っても、最終的に得られる答えはとても簡単な式になったのです(繰り返しますが𝑅3=𝑅4かつ𝐶1=𝐶2という条件です)。
周波数特性をシミュレーションしてみる
図1はここまで検討してきた、非反転構成のDCサーボ回路のLTspiceでのシミュレーション回路図です。ここまでの、「LTspiceのシミュレーション回路を提示 ⇒ ブロック線図の設定 ⇒ 伝達関数の導出 ⇒ シミュレーションで検証」という、この技術ノートのストーリーの流れは、前回のTNJ-062とほとんど同じですね。それではTNJ-062での反転構成のDCサーボ回路で見てきたように、この非反転構成でも、ここまでの計算が正しいかどうか、シミュレーションしてみましょう。
シミュレーションする定数は図1のままでまずやってみます。この定数から式(20)で計算した-3dB低域カットオフ周波数は𝑓𝐿𝑜𝑤−3dB=0.0143 Hzになります。
図9はシミュレーション結果で、-3dB低域カットオフ周波数のところにマーカを置いてあります。図10のように0.0143 Hzになっています。ここまでの検討が正しいことが分かりました。
詳細は示しませんが、つづけてシミュレーションで確認してみると、𝑅2を2倍にすれば-3dB低域カットオフ周波数が2倍に、𝑅5を2倍にすれば1/2になることも確認できました。また𝑅1を変えても影響がないことも確認できました。
まとめ
2回の技術ノートにわたって説明してまいりましたDCサーボ回路。いつも同様、答えが無いままに執筆を始めるために「本当に答えが出るのだろうか」とたちこめる黒雲のような不安が先立っていましたが、解析を進めてみると「なるほどねぇ」と思える発見があるものです。それこそ全てはLTIシステムとして考えていくことで答えが出るわけですね。
「一緒に学ぼう!回路設計WEBラボ」は、そのタイトルにたがわず、筆者の私も読者の皆様と一緒に学んでいくものなのでありました…。
(オマケ)タワマン!タワマン!タワー・マンションズ!
先にLTIシステムから横道にそれた超高層建築物の地震波応答の話から、「超高層マンション」のことを「タワマン」と呼ぶと知ったというお話をしました。以降に写真を何枚かご紹介しますが、タワマン(タワー・マンション)がそれこそ「雨後の筍(たけのこ)」のように建っている(それがいまだに現在進行形なのが恐ろしい…。マーケットは枯渇しないのか?とも思いますが)武蔵小杉駅周辺(神奈川県川崎市中原区)の写真を図11から図15にご紹介しましょう(笑)。なお私は生まれたときから現在も千葉県在住人です。諸般の事情により、小杉界隈に詳しくなってきたのでありました…。
これらのタワマン(それも物件価格の超高い当該地区の)を見上げると、「人生とは」と、切り立った渓谷より深く、そして青く晴れ渡る碧天より高く、また長く続く九十九里浜(千葉県の東岸です。99里の長さは無いそうで)の海岸線より遠く、いろいろな想いを巡らす小市民でありました…。巡らしてもナンの解も得られませんし、買うつもりも、買えるはずもありませんが…。
著者について
1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多...
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この記事に関して
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