質問
アナログ・フィルタについて学びたいと思っています。世の中には、このテーマについて書かれた書籍がたくさんありますが、皆さんはどのような書籍を使って勉強されたのでしょうか? オススメの書籍があれば、ぜひ教えてください。
回答
アナログ・フィルタは歴史のある技術です。そのため、基礎理論や設計方法などについて解説した書籍は世界中で数多く刊行されてきました。ここでは、「アナログ電子回路コミュニティ」に寄せられたオススメの書籍の情報を紹介することにします。果たして、ベテランのアナログ技術者たちは、どのような書籍を使って学んできたのでしょうか。なお、著者の方の所属などについては、投稿時の情報に基づいており、現在とは異なる場合があります。また、既に絶版となっている本も含まれており、現在では入手が困難である可能性もあります。その点はご了承ください。
計測のためのフィルタ回路設計(著:遠坂 俊昭、発行:CQ出版社) NF回路設計ブロックから群馬大学に移られた遠坂 俊昭氏の著書です。非常に実用性が高い点を特徴とします。 |
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LCフィルタの設計&製作(著:森 栄二、発行:CQ出版社) 当時、米Wiltronで設計技術者を務めていた森 栄二氏の著書です。この本は、実用的なLCフィルタの設計/実装に主眼を置いて書かれています。ネットや雑誌、書籍などで、参考文献としてよく挙げられている本です。 |
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アナログフィルタの設計(著:M.E.Van Valkenburg、監訳:柳沢 健、訳:金井 元 ほか、発行:秋葉出版) アナログ・フィルタの設計に関する標準的な教科書として位置づけられるものです。フィルタに関する理論から実際の回路設計まで、かなり丁寧に解説されています。すでに絶版となっていますが、特に理論の解説に定評があることから、古本市場でも高値でやりとりされているようです。 |
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電子フィルタ 回路設計ハンドブック(著:A.B.Williams、監訳:加藤 康雄、発行:マグロウヒル) 右に示したのは、この本の原書(第4版)です。フィルタの合成に主眼を置いており、フィルタ理論の細かい部分は割愛して実用性に重点を置いています。なお、後半にはデジタル・フィルタの話題が増補されています。 |
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実用アナログ・フィルタ設計法(著:今田 悟、深谷 武彦、発行:CQ出版社) この本も実用書として書かれており、実際の業務にかなり活用できるはずです。その半面、理論的な部分については説明が端折られているところがありますが、全体としては非常にわかりやすい本だと言えます。 |
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トランジスタ技術SPECIAL No.44 特集:フィルタの設計と使い方(発行:CQ出版社) アクティブ・フィルタとパッシブ・フィルタのそれぞれについて、特に実用性を重視して設計方法を説明しています。その一方で、フィルタの理論についてもかなり詳しく、しかも他の理論書よりもかなりわかりやすく書かれています。 |
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OPアンプによるフィルタ回路の設計 OPアンプ大全 第3巻(著:アナログ・デバイセズ、訳:電子回路技術研究会、発行:CQ出版社) なお「OPアンプ大全」は全5巻から成ります。第1巻は「OPアンプの歴史と回路技術の基礎知識」、第2巻は「OPアンプによる信号処理の応用技術」、第4巻は「OPアンプによる増幅回路の設計技法」、第5巻は「OPアンプの実装と周辺回路の実用技術」という構成です。 |
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アナログ/ディジタル・フィルタ(著:加川幸雄、発行:科学技術出版社) 前半はアナログ・フィルタ(アクティブ・フィルタとLCフィルタ)、後半はデジタル・フィルタについて説明しています。式の展開は基本的に丁寧なのですが、ところどころ飛んでいたりする部分もあります。フィルタ理論についてはチェビシェフまでを網羅しています。 |
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アクティブフィルタの設計(著:柳沢 健、金光 磐、発行:秋葉出版) 右に示したのは秋葉出版から発行されていたものですが、それ以前は産報出版から発行されていました。基本的な事柄について理論的な説明を丁寧に行っている点を特徴とします。それをベースとし、オペアンプなどに関する現実的な制限事項や、実装の際に生じる問題などについても理論的なアプローチで解説しています。 すでに絶版になっている古い本ですが、最新のオペアンプやシミュレーション技術なども取り入れてアップデートすれば、素晴らしい教科書になるはずです。 |
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フィルタの理論と設計(著:柳沢 健、神林 紀嘉、発行:秋葉出版) この本では、LCフィルタの連分数の伝達関数から実際の構成まで、LCを使用したパッシブ・フィルタの設計について詳しく記されています。ただ、オペアンプなどを使用した実現方法についての細かい説明はありません。その点にはご注意ください。 |
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アナログフィルタの回路設計法(著:堀 敏夫、発行:総合電子出版社) 著者の堀 敏夫氏が独学でマスターされた内容をまとめた本です。各種フィルタの周波数特性や、インパルス/ステップ信号に対する応答波形を示すほか、BASICで記述したプログラムによってフィルタのパラメータを算出する方法を示しています。非常に参考になる1冊です。 |
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Handbook of FILTER SYNTHESIS(著:Anatol I. Zverev、発行:Wiley-Interscience) ある日、A/Dコンバータとオペアンプ、フィルタに関するトレーニング・セッションが行われました。その際、参加者から「フィルタについては数表を活用すべきだということは理解しました。ただ、どの本にそのような数表が掲載されているのですか?」という質問が出ました。それに対する答えとして講師が示したのがこの本です。 実際、この本を開いてみると、びっくりするほど大量の数表が掲載されています。そのことが1つの理由になってか、実に様々な書籍で参考文献として引用されています。 |
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FILTER DESIGN AND EVALUATION(著:Grant E.Hansell、発行:Van Nostrand Reinhold) 上で紹介した「Handbook of Filter Synthesis」と同じ大きさ、同じハードカバーの本で色だけ異なります。この本を紹介してくれた投稿者は「Handbook of Filter Synthesis」を「赤本」、この「FILTER DESIGN AND EVALUATION」を「黒本」と呼んで学んでいたそうです。 |
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近似と構成(著:川上 正光、柴山 博、発行:共立出版) タイトルからはフィルタを連想しづらいですが、「近似」という言葉には、「現実のフィルタは近似によって成り立つものである」という意味が込められているのかもしれません。 |
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回路網の構成(著:川上 正光、発行:共立出版) こちらは、なんと昭和30年9月に発行された本です(図17) 。上記の「近似と構成」の共著者でもある川上 正光氏は、東京工業大学の学長まで務められた方です。本書には真空管を使って構成された回路なども掲載されており、確かに時代を感じる部分もあります。ただ、フィルタの理論は相当古くから完成されていたのであり、現在でもその理論に基づいて実用的なフィルタを設計することが可能なのです。 |
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「温故知新」のススメ ここまでに紹介した各書籍には、制御工学、微分方程式、ラプラス変換、線形代数、回路網解析、フィードバック理論といった要素が詰め込まれています。フィルタの理論は、このような複雑な要素を組み合わせることで確立されているということです。
現在では、各種のシミュレータや設計支援ツールを活用することで短期間のうちに優れた回路を設計できるようになっています。しかし、アナログ技術に精通したいと考えるなら、やはり基礎となる理論から体系的に学ぶべきであることも事実です。本稿で紹介した書籍からもわかるように、アナログ・フィルタの理論は、かなり昔に完成の域に達しています。
そのため、数十年も前に書かれた本であっても、十分に役に立ちます。そのようにして得た深い理解を基に、最新のシミュレータなどを活用するというスタイルで、より良い回路の設計や、トラブル・シューティングなどに挑んでみてはいかがでしょうか。
注釈:記事中の画像は、HN:tamanyan さん、HKOBさんより、アナログ電子回路コミュニティへ投稿されたものを含みます。