質問
マルチメータで100Wの白熱電球の抵抗値を測定してみたら約12Ωという結果になりました。100Wの電球の場合、100VACでは1Aの電流が流れるので、抵抗は100Ω程度だろうと思っていたのですが、一桁ずれています。フィラメントが発熱することが一因だとは思うのですが、こんなに大きくずれるものなのでしょうか?
回答
白熱電球では、フィラメントの素材として主にタングステンを使用しています。タングステンは通常の抵抗とは異なり、電圧が印加されて電流が流れると、発熱/発光に大きく依存する形で非線形に抵抗値が高くなっていきます。学生時代に、豆電球を使って次のような実験を行ったことがある方もいるのではないでしょうか。豆電球に印加する電圧と電流の値を測定/記録し、X軸を電圧、Y軸を電流としてグラフを作成するといったものです。そのグラフは直線ではなく、電圧が高くなるに従い、電流の上昇カーブが緩やかになっていったはずです。100VACに接続することが前提の白熱電球を使って同じことをするのは危険ですが、豆電球なら実験によって簡単に確認できるでしょう。
タングステンの抵抗値の温度係数をネット上で検索したところ、20℃では5.5%/℃、1000℃では3.5%/℃という数字が見つかりました。白熱電球が点灯している際、フィラメントの温度は2000℃程度になるので、平均で0.4%/℃と仮定すると、2000℃の温度上昇に伴って抵抗値は約8倍に高まることになります。室温で12Ωであれば、2000℃では8倍の96Ωになるということです。これであれば、100VACでほぼ100Wの電力に達するという仕様との整合性がとれます。
ブリーダ抵抗
ここで、上記の内容に関連する話題を紹介します。昔は、ロジックICの出力によって豆電球を点灯させるという、少し“乱暴”なアプリケーションが数多く存在しました(恐らく、現在も少なからず使われていると想像されます)。電球のフィラメントの抵抗値は低温の状態では小さいので、ロジックICで急に点灯させると、瞬間的に大電流が流れてしまいます。点灯して少し時間が経てば抵抗値が上昇するので、駆動能力の面では大きな問題はありません。
問題になるのは、点灯した瞬間に流れる突入電流が多すぎることです。これに対処するために、ブリーダ抵抗というものを電球に接続するというテクニックが使われるようになりました。これは電球が光らない程度に常に電流を流しておくためのものです。恐らく、真っ暗闇の中であれば、ほんのりと明るくなっているのかもしれません。このようにしてフィラメントを暖めておき、非点灯時にも抵抗値が高くなった状態を維持するということです。
ここでは、ロジックICで駆動するという例を挙げましたが、単体トランジスタなどでスイッチングさせる場合にも同様の問題が発生します。 ブリーダ抵抗については、30年ほど前に警報装置の設計を担当していた技術者の方からも投稿が寄せられました。それによると、当時のLEDではあまり明るさが得られなかったので、5W出力のランプを直流電源で駆動して警報の表示を行っていたそうです。その装置では、警戒を開始する際に、そのランプを30秒間ほど点滅させる必要がありました。この機能に対応するためにブリーダ抵抗が使用されました。その結果、ランプへの突入電流を削減することができ、ランプの寿命が格段に向上したそうです。
アナログ技術者の育成は難しい
冒頭の質問を投げかけた投稿者は、得られた回答の内容を踏まえ、社内の若手技術者に対して次のような問題を提示してみました。
『100VACで駆動する場合に40Wの出力が得られる白熱電球があります。この白熱電球の抵抗値は、0℃ではどのようになりますか? なお、白熱電球が点灯している際、フィラメントの温度は2000℃に達します。また、抵抗の温度係数は0.5%/℃であるものとします。』
この問題の解答は次のようになるでしょう。まず、40W出力の電球が点灯した際には0.4Aの電流が流れると考えられます。その場合の抵抗値は100V ÷ 0.4Aで250Ωになります。つまり、2000℃における抵抗値が250Ωになるということです。抵抗値の温度変化については、以下の式が成り立ちます。
R(T) = R0[1 + α(T - T0]
ここで、各変数の意味は以下のとおりです。
- T:温度
- R(T):温度Tにおける抵抗値
- T0:基準温度
- R0:T0における抵抗値
- α:温度係数
ここで、それぞれが以下の値であるとします。
- T:2000℃
- R(T):2000℃における抵抗値
- T0:0℃(基準温度)
- R0:0℃における抵抗値
- α:0.5%(0.005)
これらの値を代入すると以下の式が成り立ちます。
250 = R0[1 + 0.005 ×(2000 - 0)]
したがって、0℃における抵抗値R0は、250Ω ÷ 11 = 22.7Ωとなります。ちなみに、室温で実際に抵抗値を実測したところ、35Ω程度でした。タングステンの抵抗値の温度係数は、高温においては0.35%/℃程度なので、計算値と実測値には少し差が出るようです。
電気/電子系出身の若手技術者が10名ほど、この問題に取り組みましたが、残念ながら正解者はいなかったとのことです。アナログ技術者の育成はなかなか難易度の高い課題であるようです。