ユーザにとって、ICのベーキングは必須の作業でしょうか?
質問
サンプル請求したICが、真空パックが施された状態で手元に届きました。ただ、その梱包には初めて目にする警告が記述されたシールが貼られていました。
警告の内容は「IPC/JEDECJ-STD-033のレベル3を参照し、開封後は速やかにベーキングしてください」というものでした。
このような場合、やはりユーザが長い時間をかけてベーキングを行わなければならならないものなのでしょうか? それとも、実際にはベーキングを行わずに使用しているケースも多いのでしょうか?
回答
ハンダごてを使用して手作業で実装するのであれば、ベーキングを行わなくてもさほど問題にはなりません。ただし、工場での組み立て作業でハンダ・リフローを使用する場合、湿気には十分に注意する必要があります。
ICでよく使われるパッケージ用の樹脂には、吸湿性があります。というよりも、実際には隙間だらけで、通常の雰囲気(空気)にさらされた環境で保存すると、内部に水分が取り込まれてしまいます。その状態で、ハンダ・リフローによる実装を行うと、内部の水分が一気に気化します。リフローの工程では、予備過熱によって最高250℃程度まで温度が上昇するからです。
その結果、ICの樹脂パッケージが割れてしまうことがあります。この問題は「ポップコーン現象」と呼ばれています。見た目に変化はなさそうであっても、実際にはダイ・アタッチ用のペーストが剥離して熱抵抗が高まっていたりすることがあります。あるいは、実際にそのICを使い始めた段階では正常に動作するものの、稼働時間が経過するに従い、熱がこもって不具合に発展するケースもあります。
このようなリスクを避けるために、ICにはMSL(モイスチャ・レベル)という規定が設けられています。一般に、メーカーから納入されるIC製品は、非帯電フィルムや導電フィルムなどの材料で真空パックされています。その中には、除湿剤も同梱されています。それに加え、真空パックで密閉された内部の湿度の状態を示す非可逆性のインジケータ(湿度によって色が変わる薬品を塗ったカードのようなもの)も同梱されています。
梱包を解いたとき、そのインジケータの色が変わっていなければ、ICをそのままリフロー工程に投入しても問題ありません。一方、フィルムのどこかに穴が空いたといった理由で湿度が高まっていたら、リフロー工程に先立って前処理を行う必要があります。すなわち、IC内部の湿気を取り除くためにベーキングを実施しなければなりません。
MSLには、密閉された袋を開けてから何時間以内であれば、そのままリフロー工程に投入しても問題ないという許容時間が規定されています。例えば、MSL3(モイスチャ・レベルが3)の場合、開封後、168時間(1週間)以内であれば問題ないといった具合です。それ以上の時間が経過していれば、やはりベーキングなどの前処理が必要になります。
MSLには1から6までのレベルがあります。数字が大きくなるほど規定が厳しくなり、開封後の許容時間が短くなります。自動挿入機などを使ってプリント基板にICなどの部品を配置する場合、配置が完了してからリフロー工程に移行するまでに時間が空いてしまうことがあります。また、梱包の形態としてリールを採用したICの場合、一度にすべてを使い切ることができず、数日後に残りを使用するといったケースも起こり得るでしょう。
そうした場合、MSLの厳しい部品では湿度の問題が発生してしまうことがあります。ちなみに、パッケージがMSL1のDIPなどであれば時間制限はありません。リフローを実施する際のリスクは、非常に低いということです。
上述したMSLはハンダ・リフローに関連して定められた規定です。したがって、冒頭に書いたように、手作業でハンダ付けするのであれば、リスクはそれほど大きくはありません。また、当然のことながら、セラミック・パッケージや、金属製の蝋付けハーメチック・パッケージにはMSLは適用されません。適切にパッケージングされていれば、水分が混入する隙間は存在しないからです。
ここまでの説明を読んで、次のような疑問を持たれる方もいるかもしれません。
半導体メーカーの品質保証マニュアルを見ると、確かに、ハンダ実装を行う際、水蒸気によってパッケージが破損する可能性があると記載されています。ただ、ICが動作しているときには接合温度が100℃を超えます。そのことの方が重大な問題になり得るのではないかという疑問です。
「接合温度に関する問題が重要だから、わざわざ高温多湿の条件下での動作試験や保存試験、プレッシャ・クッカー試験といった信頼性試験を実施しているのではないのか?」と認識している方もいるかもしれません。
しかし、吸湿が原因でパッケージが破壊されてしまうのは、100℃を超える急激な温度変化が発生するからです。湿度を吸収したパッケージに急激な温度変化を与えることで、残留水分が急速に揮発して樹脂パッケージが割れたり、伸びたりするということです。
ICの信頼性試験では、高温多湿の条件下に長時間さらしても異常が起きないことを確認します。この試験においては、急激な温度変化を与えるわけではありません。
IC以外の部品にとっても、湿度は大敵
この問題に関連して、基板の実装を請け負う企業で、実装不良の解析を担当した経験を持つ技術者の方が、実際に起きた問題の例を紹介してくれました。
吸湿に関する問題が発生したことがある部品としては、樹脂パッケージを採用したIC、プリント配線基板、リレーが挙げられるそうです。ICについては、まさにポップコーン現象が発生するということです。
樹脂パッケージを採用したICは、除湿が可能な環境で保管しなければ、リフローの際にパッケージにクラックが生じたり、ボンディング・ワイヤが断線したりすることがあると言います。
プリント配線基板単体についても、多層基板の中層に水分が存在していると問題が生じます。リフローを行った際に中層が膨れ上がり、表面からは白い点のようなものが見える状態になるそうです。この場合、基板の接着力が低下しているので、基板単体の寿命に影響が及びます。
SMT(表面実装)型のリレーについても、湿気が原因で樹脂パッケージが割れてしまうことがあります。その状態で洗浄を行うと、フラックスや洗浄液がリレーの中まで入り込んでしまいトラブルに発展します。
このような問題が発生する可能性があるので、工場に入荷した電子部品は、受け入れ検査を行った後、除湿機能を備えるケースで保管して湿度管理を徹底する必要があります。水は常圧では100℃で沸騰するので、除湿されていない部品を使う場合には、90℃程度で1時間ほどベーキングを行って湿度を排除した後、できるだけ早く基板に実装する必要があります。
アナログ電子回路コミュニティとは
アナログ電子回路コミュニティは、アナログ・デバイセズが技術者同士の交流のために提供していた掲示板サイトで、2018年3月に諸般の事情からサービスを終了しました。
アナログ電子回路コミュニティには日々の回路設計活動での課題や疑問などが多く寄せられ、アナログ・デバイセズのエンジニアのみならず、業界で活躍する経験豊富なエンジニアの皆様からも、その解決案や意見などが活発に寄せられました。
ここでは、そのアナログ電子回路コミュニティに寄せられた多くのスレッドの中から、反響の大きかったスレッドを編集し、技術記事という形で公開しています。アナログ電子回路コミュニティへのユーザ投稿に関するライセンスは、アナログ電子回路コミュニティの会員登録時に同意いただいておりました、アナログ・デバイセズの「利用規約」ならびに「ADIのコミュニティ・ユーザ・フォーラム利用規約」に則って取り扱われます。
また、英語版ではございますが、アナログ・デバイセズではEngineerZoneというコミュニティサービスを運用しています。こちらのコミュニティでは、アナログ・デバイセズの技術に精通した技術者と交流することで、設計上の困難な課題に関する質問をしたり、豊富な技術情報を参照したりすることが出来ます。こちらも併せてご活用ください。
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