5Gのテスト:「ネットワーク・オン・ベンチ」の誕生

5G通信が約束する未来は、産業界がその力を利用し人々の生活に変革をもたらす可能性を秘めています。5Gのデバイスとアプリケーションは、この新しい技術の拡大した周波数範囲、高くなった接続速度、減少した遅延を活用します。しかし、5Gの劇的な進歩には、一層の複雑化とより厳格な条件が伴うほか、各種標準類も不十分であったり、未完成であったりという状態にあります。

5Gが生み出す次世代のアイデアをより迅速に市場へ投入することを支援するのが、計測およびテストのリーダーであるKeysight Technologies Inc.の仕事です。市場一番乗りとなる同社のUXM 5Gワイヤレス・テスト・プラットフォームは、5G標準の策定を助けとなり大幅な効率向上をもたらし、初の業界認定5G電話の運用を実現しました。

市場初(市場一番乗り)の製品という戦略による利益を実現するために、Keysightは、モバイル業界にとって新しい無線スペクトラム領域を利用しながら、より短い時間枠の中で作業を行う必要がありました。この課題を解決するためにKeysightが頼りとしたのが、長年にわたるパートナーであり、高度な通信技術、RFシグナル・チェーンに関する豊富な技術的知識、そして深いドメイン知識を有するアナログ・デバイセズとの協力的関係でした。

アナログ・デバイセズは世界中の基地局サプライヤへの大手サプライヤとして、Keysightのニーズを理解していました。Keysightのワイヤレス・テスト・ビジネス担当の副社長兼ジェネラル・マネージャ、Kailash Narayanan氏は次のように述べています。「テストと実装を結びつける組織にあたる部分、ネットワーク・インフラストラクチャ、そして新しい5G製品の利用法など、アナログ・デバイセズはこの問題の全体像を十二分に把握していました。5G開発のこの3つの主要分野におけるアナログ・デバイセズの経験は、計測機器グレードのシグナル・チェーンを作り出すために私たちが選択を行う際に、非常に重要な要素として働きました。」


Keysightの概要

会社:

Keysight Technologies Inc.は、設計シミュレーション、プロトタイプの評価、製造テスト、および最適化などを提供することによって、ネットワークの最適化や電子製品の市場投入に関して顧客を支援しています。

アプリケーション:

5G機器をテストするための強力なソリューション。対象となる産業には、通信、航空宇宙および防衛、オートモーティブ用の電子部品および安全通信、コンピュータおよび半導体、エネルギー、および工業用のアプリケーションなどがあります。

課題:

高性能5Gネットワーク・エミュレータを市場で最初に製品化することにより、5G対応ユーザ機器/電話の商業化を加速する。および、技術的な波の立上がり期に強力なプレゼンスを確立して、ワイヤレス・エコシステム全体の中で市場をリードするための基準的位置を獲得する。

ニーズ:

深いドメイン知識とRFシグナル・チェーンに関する知識や経験を有し、設計サイクルをできる限り短縮し、製品の市場投入までの時間目標に関わるリスクを回避できるような形で製品開発に取り組むことのできるパートナー。

目標:

モバイル・チップセット、電話、およびその他のデバイスの開発および受入テストのために、業界初の5Gモバイル通信テスターを開発する。入手可能なもののうちで最も高度に統合化された最高性能のソリューションを、前世代ワイヤレス技術のサポートと併せて提供する。世界が5Gの約束する未来を実現し、その商業化を促進できるよう支援する。

「技術は指数関数的なペースで変化しています。アナログ・デバイセズとパートナー関係を結ぶことにより、Keysightは、お客様が将来的な革新をより迅速に実現するお手伝いをしてきました。」

Keysight Technologiesワイヤレス・ソリューション部門
副社長兼ジェネラル・マネージャ
Kailash Narayanan


ワイヤレス・テスト・プラットフォーム開発の理由

研究開発を支援してプロトタイプのチップセットや電話を評価するために、5Gをテストしたりテスト・プラットフォームを開発したりすることができなくては、5G通信産業の進歩は望めません。その理由を理解するために、街を車で移動しながら電話をかける場合を想像してみましょう。

目的地へ車を走らせている間、あなたの上着のポケットの中にある電話は、通話をしていない場合でも多くの異なる携帯基地局と通信しています。電話は、セルからセルへのハンドオフを確実なものとするために、測定を行ってネットワークによるセル品質の評価を助けています。これは、異なるネットワークでは無線(周波数)標準の覆域も一定ではないという事実によって、複雑なものとなっています。5G標準が使われているエリアもあれば、4G LTEが使われているエリアもあり、さらには依然として3Gや2G GSMを使っているエリアがあるかもしれません。特定の無線標準内でのハンドオフや異なる標準間でのハンドオフ時に通話の中断をなくすことは、ネットワークとユーザの電話の両方にとって難しい課題です。

これらの複雑なネットワークの中で通話を行うために、電話は信号を正確に送受信できるだけではなく、信頼性の高い測定を行って複数の無線標準に対応できる複雑な信号プロトコルを実行できる必要があります。


「5Gネットワーク・オン・ベンチ」

KeysightのUXM 5Gワイヤレス・テスト・プラットフォームの設計コンセプトは、無線ネットワーク全体と、それに関連する問題をエミュレートすることです。UXM 5Gは、電話の生産に先立つ研究開発に使用することを意図したものでした。このプラットフォームは複数のセルをエミュレートして、接続の維持、測定の実施、5G内および5G間での高いスループットの実現、4G LTEおよびそれ以前のレガシー技術の取り扱いなどの、電話の能力を評価します。また、通話、データ・レート、送信電力、性能品質、および感度をセットアップすることもできます。


標準の欠如

Keysightの「ネットワーク・オン・ベンチ」の開発は容易ではないことが予想されました。当時、5Gの標準はまだ定まっておらず、業界、政府、規制当局などによってはっきりと策定されたものがありませんでした。しかし、待っていることはできません。Keysightは、標準の策定を支援しながらテスト・プラットフォームを開発せざるを得ませんでした。Kailash Narayanan氏は次のように述べています。「Keysightは、5G技術の波の立上がり期にマーケット・メーカーが活動できるようにして、市場シェアを獲得することを望んでいました。これをうまく実現するには、Keysightが価値あるソリューションを市場で最初に投入する必要がありました。」


市場初の製品という戦略

Keysightは、5Gの出現当初からこれを成長の機会と捉えていました。市場シェアを確保するために、Keysightは市場初(市場一番乗り)の製品という積極的な戦略を取る必要があったのです。そのためには、最終的な標準が策定されるのを待たずにUXM 5Gを開発する必要がありました。このような課題に加えて、5Gは、極めて広い帯域幅と新しい周波数帯を通じて性能を正確に測定するためのソリューションを開発するという、より難しい要求をKeysightに課しました。この帯域には、モバイル産業がほとんど足を踏み入れたことのなKeysightに課しました。この帯域には、モバイル産業がほとんど足を踏み入れたことのない、課題に満ちた新領域、つまりミリ波帯が含まれていました。


アドバンテージのための提携

Keysightは、その概念を迅速に実現させる助けとするために、シグナル・チェーン全体を提供できるパートナーを必要としていました。KeysightのKailash Narayana氏は次のように述べています。「Keysightはアナログ・デバイセズと50年余り取引を続けており、同社に対し敬意を抱いていました。しかも同社は、それぞれRF分野と電力分野の世界的リーダーであるヒッタイト・マイクロウエーブおよびリニアテクノロジーとの統合によってさらに強力な存在となっており、1つのパートナーだけでニーズを満たしたいというKeysightの要求に合致していました。Keysightが設定した市場初の製品という戦略の優先順位を踏まえて、当社としてはできるだけサプライヤの数を減らし、信頼性の高い高性能部品を確実に供給できるサプライヤだけに限定したかったのです。」

Keysightは、データ・コンバータからRFアンプ、スイッチ、シンセサイザ、高性能電源に至るまで、シグナル・チェーン全体をカバーする非常に広範な技術と部品に対応できるサプライヤとして、アナログ・デバイセズに期待していました。アナログ・デバイセズのエンジニアやアプリケーション担当者は、計測器クラスの性能を実現するための部品同士の接続方法についても、Keysightに提示しました。Kailash氏はさらに述べています。「アナログ・デバイセズは、最良の性能、密度、電力を実現するための部品選択についてもアドバイスしてくれました。これらのことは、当社の次世代5Gネットワーク・エミュレータ・プラットフォームを設計する際に考慮すべき、極めて重要な事項でした。また、アナログ・デバイセズのエンジニアによる設計確認も、Keysightが最大限の性能を実現し、市場投入までの時間をできるだけ短くできるようにするために極めて重要なことでした。」


早い段階での先進技術へのアクセス

アナログ・デバイセズは、その新しい高性能データ・コンバータに関する情報を早い段階でKeysightに提供して、その製品の発売のはるか前にその部品を利用できるようにしたほか、Keysightのエンジニアと密接に協力して製品の早期の発売に向けて取り組み、しかもその取り組みを終始一貫して続けました。再びKailash氏です。「アナログ・デバイセズはその製品ロードマップに早い段階からアクセスできるようにしてくれ、そのおかげでKeysightは、最新のまだ公表されていないアナログ・デバイセズの技術を使って、5Gテスト用の次世代製品を設計することができました。結果として、Keysightは5Gネットワーク・ソリューションを初めて市場に投入した企業となりました。」


アナログ・デバイセズがKeysightに提供した主な項目

  • 密接な技術的パートナーシップと優れた製品サポート
  • ユニークな差別化された機能を持つ発売前製品へのアクセス
  • 新しい5Gテスト用の5Gネットワーク・エミュレータ・プラットフォームの開発期間短縮
  • 新たな標準と技術に関する早い段階での情報交換と、それらの標準および技術へのアクセスの促進
  • 優れたリファレンス設計ソリューションによるいち早い評価

KeysightのUXM 5Gワイヤレス・テスト・プラットフォーム
KeysightのUXM 5Gワイヤレス・テスト・プラットフォーム

「市場初の製品」戦略の成功

新しいUXM 5Gワイヤレス・テスト・プラットフォームは、より広範なテスト・シナリオをエミュレートできるように、セル密度が旧型の2倍、RFポートも2倍になっています。また、2~3倍の信号処理計算能力を備えています。


現在、新しい5G携帯電話用チップセットや電話のプロトタイプが研究開発段階にあることから、顧客は実験室と実際の環境下の両方でそれらの機器が正しく機能することを確認するために、Keysightに注目しています。さらに、顧客の5Gデバイスが、大量生産への過程として証明とオペレータの受け入れに対応できる状態になったときには、UXM 5Gがそれらのデバイスの正常動作を確認しますが、これには数千万台に及ぶデバイスの将来がかかっています。結果として、バグのない高品質の製品を、それらを必要とする人々の手にできるだけ早く渡すことが可能になります。Keysightは、最大限の品質、信頼性、効率で機能するソリューションを提供します。


UXM 5G:将来技術を実現するもの

Keysightは、先進企業がその概念を具現化して迅速に市場へ投入できるよう、その洞察力を存分に発揮する手助けをしています。衛星から地上基地局、さらにはモバイル・デバイスに至るまで、常にKeysightが存在しており、信号がクリアで正確、かつ信頼できるものとなるようにしています。Qualcomm Technologiesの技術担当上級副社長、Tony Schwarz氏は次のように述べています。「Keysightの5Gテスト・ソリューションは、商用5G製品の開発と導入に要する期間の短縮に大きな役割を果たしています。」

2019年7月、Keysightは5G RFテスト・ケースの工業的妥当性確認を行う最初の企業となり、これによって5G携帯電話の型式承認にUXM 5Gを使用できるようになりました。


Keysightについて

Keysight Technologies, Inc.は、世界のネットワーク接続の革新と安全をいち早く実現できるよう、企業、サービス・プロバイダ、および政府機関への支援を行っています。Keysightの技術ソリューションは、設計シミュレーションからプロトタイプの妥当性確認、さらには製造テスト、ネットワークおよびクラウド環境の最適化などに至る支援を提供することにより、ネットワークを最適化して、より短い時間と低いコストで電子製品を市場に投入します。その顧客層は、世界の通信エコシステム、航空宇宙および防衛、オートモーティブ、エネルギー、半導体、および汎用電子機器エンド・マーケットなど、幅広い分野にわたっています。