振動計測ソリューション

故障予知・状態基準保全に向けた40kHzまでの振動を解析

故障予知・状態基準保全の難しさ

vibration_sensing_for_monit産業分野における新たな課題として「メンテナンスの効率化」、「ダウンタイムの軽減」、「生産品質の保全」などが挙げられています。これらを解決する技術として注目されているのが、故障予知・状態基準保全向けの技術です。予期せぬ障害を未然に察知し、計画的かつ安定した生産システムの運用を実現する技術として、世界中で注目が高まっています。

しかし、その実現には多くの課題を克服する必要があります。保全対象が発生させる振動(加速度)の正確な計測、素早いデータ解析、必要十分なスループットでのホスト通信など、状態基準保全には、これら能力をすべて持ち合わせていなければなりません。

これまで、状態基準保全を実現する装置として、ピエゾ抵抗型振動ピックアップやデータロガーといった、測定器またはそれに近い高価なソリューションが主に利用されてきました。しかしながら、導入コストはもちろん、カスタマイズ性が低い点などが懸念され、PoCまでは行っても、大規模導入に至らないといったケースが、多くの現場でみられます。

 

山積する課題を、オール半導体で一気に解決

アナログ・デバイセズは、これら山積する課題を、オール半導体製品による振動計測ソリューションで一気に解決します。

パッケージ構成として、アナログ・デバイセズが長年培ってきたMEMS半導体技術による広帯域・高精度加速度センサーADXL1002(図1)を軸に、エッジノードでのデータ解析を実現する超低消費電力マイクロコントローラADuCM4050(図2 中央)を採用。これらハードウェアに加え、信号解析や表示用のソフトウェア・ライブラリも統合しています。

 

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図1. 加速度センサー
ADXL1002 評価用ボード
EVAL-ADXL1002Z

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図2. ADuCM4050搭載の開発ボード
EV-COG-AD4050LZ(上) と
IOエクスパンダボード
EV-GEAR-EXPANDER1Z (下)

 

 

設計コンセプトにフレキシビリティを掲げ、マイクロコントローラをベースとすることにより、カスタマイズ性を高め、条件や環境に合わせて柔軟に設計いただけることが、お客様にとって最大の魅力となっています。また、すでに設置された機器へも容易にアドオンできることも特長の一つです。

大規模デプロイに適した半導体で構成されたハードウェアから、ソフトウェア開発に至るまで、高精度な状態基準保全を実現するコア技術をワンパッケージで提供いたします。

 

振動検出ソリューション ADXL100x and ADuCM4050


振動計測ソリューションの概要

本ソリューションの解析対象の一例として、モータがあります(図3)。産業機器の故障の多くはモータを搭載した可動部に発生します。モータの振動は、ピックアップ部に取り付けられたADXL1002(高精度MEMS加速度センサー)により計測され、アナログ信号としてマイクロコントローラADuCM4050へ入力。内蔵のA/Dコンバータ(ADC)によりデジタル化された後、マイクロコントローラによりFFT解析されます。本ソリューションは、データの取得だけでなく、エッジノードで解析まで行えることが最大の特徴です。

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図3. 振動計測ソリューションの搭載イメージ。
デモのために小型の旋盤を利用

 

解析結果は、UART経由でPCなどのホストへ転送、同梱のGUIツールによってデータの可視化も実現しています。このGUIツールは、機器の振動をスペクトラムとしてリアルタイムに表示でき、さらには同時に保存もできるため、異常振動をヴィジュアルで確認しつつ、後に詳細な解析を可能にするものです。
このように、本ソリューションは、高精度のピックアップ部をはじめ、データ取得・解析処理部、専用GUIツールおよびマイクロコントローラのソフトウェア・ライブラリまでもがパッケージングされている(近日中にパッケージとして提供予定。現状は要個別購入。)ため、部品選定やその評価を行うことなく簡単に導入いただけます。

 

システムの仕様

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図4. システム構成

 

 

アナログ・デバイセズの正規販売代理店であるダイトロン株式会社より、オリジナルのADXL1002振動センサ―評価キットが販売されています。

下で「必要製品」として紹介している製品群を個別にご購入いただかなくても評価が可能となりますので、こちらもぜひご検討ください。

ADXL1002振動センサー評価キット

アナログ・デバイセズ社製MEMS加速度センサーADXL1002を搭載したキットです。
高Gレンジおよび広帯域周波数に対応しており、予知保全向けソリューションに最適です。

ADXL1002_eval_kit_daitoron

 詳細は、ダイトロン(株)のウェブサイトをご覧ください

 

 

必要製品 参考価格 購入

超広帯域 / 低ノイズ加速度センサー ADXL1002 評価用ボード
EVAL-ADXL1002Z
$75 オンライン購入
超低パワーMCU ADuCM4050搭載 開発ボード
EV-COG-AD4050LZ
$100 オンライン購入
  MCU-COG用 IOエクスパンダ(ギア)ボード
EV-GEAR-EXPANDER1Z
$50 オンライン購入
  2芯シールドケーブル(モガミ電線:参考)
2794 AWG28

外部サイト

 

ソフトウェア/モジュール仕様

A/D変換 14bit 102.4kSPS (16X O/S 12bit 1.64MSPS)
周波数解析 4,096点FFT & 最大 256x 平均化
UARTインタフェース 汎用性の高いUART I/FによるFA機器やPLCへの容易な接続
自動ボーレート 9600 ~ 230400bps
ディジタルフィルタ IIR 2次フィルタ x 4、エンベロープ検波
時間軸解析 Peak/RMS/Crest Factor
アラーム検出 可変周波数バンド & 可変閾値 à 閾値オーバーをホストに通知
測定シーケンス 測定周期可変 (1 sec ~ 12 hours)、測定回数可変 (1 time ~ Infinite)
データバッファリング 外部Flashにデータ保存 (最大64回)、ホストとの通信頻度削減
ウェイクアップ機能 スリープ à 振動イベント / 手動外部トリガでウェイクアップ

 

システムにおける振動モニタリングとは?

振動モニタリングアプリケーションでは、機器から発生する正常振動から微小な異常振動までを幅広く検出します。ここでの正常振動とは、機器で使用される多数の可動部が正常に動作している状態において、モータなどから発生する振動を指します。これに対して、異常振動とは、たとえば軸受ベアリングなどのわずかな傷や磨耗によって発生した微細な振動を指します。高速回転する機器の異常振動は10kHzを越える高周波帯域に現れることが多く、従来はピエゾ抵抗型加速度センサーなどの測定器でないと検出が困難でした。

本ソリューションは、大規模デプロイに適した半導体部品で構成しながらも、広帯域の振動を高感度で検出可能です。これにより、正常振動と異常振動を高い精度で区別したり、さらには故障箇所を特定したりするための有益な情報が得られます。

 

図5. 状態基準保全の対象となる機構部と振動

 

ADXL1002:超低ノイズ・広周波数帯域の計測を実現するMEMS加速度センサー

振動計測の精度は、状態基準保全において非常に重要です。本ソリューションでは、広帯域MEMS加速度センサーラインアップ中で最も低ノイズ(ノイズ密度25μg/√Hz)で、21kHzの周波数応答を持つADXL1002を選択しました。

 

ADuCM4050:高度な信号処理アルゴリズムも高速に実行するマイクロコントローラ

ADuCM4050は、Arm® Cortex®-M4(FPU機能搭載)を採用した超低消費電力マイクロコントローラです。加速度解析に必要とされる高度な信号処理アルゴリズムも高速に実行することができます。

本ソリューションでは、外部システムとの接続には、汎用性の高いUARTインターフェースを採用しています。PCはもちろん、UARTポートを備えた産業用機器など多くのシステムとの接続が可能です。

 

柔軟な設計を可能とする
振動計測ソリューション ソフトウェア・ライブラリ

ソフトウェア・ライブラリにはADuCM4050用の各種デバイス・ドライバをはじめ、信号解析に必要なライブラリを実装しています。PC上でのデータ表示用のGUIツールも提供します。

信号解析ライブラリには「FFT周波数解析(4,096点)」「BiQuadフィルタ(ローパスフィルタ:LPF、ハイパスフィルタ:HPF、バンドパスフィルタ:BPFなどを実現可能) x4本」や「エンベロープ検波(包絡線検波)」など代表的な信号処理機能が含まれています。これらのライブラリは柔軟に設定変更可能で、必要なデータを取得、表示、保存できます。システムの運用面で要望の高い、測定間隔の調整、省電力スリープ、閾値判定アラーム機能なども実装されています。

ホストPC側のGUIツールはPythonスクリプトで記述されており、UART受信データのリアルタイム表示、CSV保存に対応しています。Windows PCとRaspberry Piのマルチプラットフォームで動作し、また、お客様の機器から本ソリューションを制御する際のリファレンスコードとしても利用できます。

 

ダウンロードファイルを ver.1.1 へアップデートしました。(2019年4月10日)

 

振動計測ソリューション
ソフトウェア・ライブラリ
ダウンロード
※Zipファイル:2.7MB

※ファイルのダウンロードには、個人情報の入力が必要です。

Version.1.1での変更点

  1. UART最大転送サイズを1kB固定から可変に変更 (ホストによっては制限がありました)
    これまでも、4kB超の大きなデータ転送は、DMA最大サイズの1kBで分割送信していましたが、この分割単位を可変にしました。
    また、転送間に可変時間のWaitを挿入可能にしました。
    (SUXコマンド、SUWコマンド)

  2. データをホストに転送後、次の測定までMCUコアをスリープさせて低電力化
    繰り返し測定中、UART送信終了後、次のデータ取得まで、Flexiモード (コアのみスリープ) で待ちます。
    (SSMコマンド)

  3. VAVコマンド (オーバーサンプリングによるbit深度拡張) を有効化
    デフォルトの14bitに加えて15bit相当、16bit相当も利用可能になりました。

  4. フルスケールをデフォルトの50G以外にも設定可能に
    加速度フルスケールが異なるADXL1001、ADXL1005などが利用できるようになりました。
    (VFSコマンド)

  5. マイコンの複数ADC入力チャネルを利用可能に
    ただし、複数チャネル取得時は、A0→A1→A2のように、インターリーブされてデータ取得頻度が落ちます。
    (VAXコマンド)

  6. FFTスキップ時のADCコード出力を、実際のbit深度と同等の16384(14bit相当時) に変更
    Start ADCボタンで波形表示したときのフルスケールが変わって見えます。

  7. Python GUIで、FFT周波数解析波形表示のY軸が、dBからGに変更

 

 

加速度センサーADXL100xシリーズ
状態基準保全に不可欠な高精度データを取得できる理由

本ソリューションに採用している加速度センサーADXL1002は、ADXL100xシリーズの1製品です。ADXL100xシリーズは、アナログ・デバイセズが提供する、高精度・広帯域の1軸半導体加速度センサー・ファミリーです。MEMS半導体加速度センサーでありながら、取り扱いにも注意が必要なピエゾ抵抗型加速度センサーに匹敵する広帯域・高感度を実現。衝撃耐性にも優れており、通常の半導体製品として取り扱える手軽さは、大きなメリットです。

 

MEMS半導体技術による高精度なデータ取得

ADXL1002の精度の参考として、従来品ADXL001との計測データ比較を以下に示します。ADXL1002は従来品ADXL001と比較して、およそ100倍高いS/N比を持っており、下図の実験では、従来品で検出限界以下だった18kHzの微小振動(赤矢印)も、FFT解析により正確に抽出できます。なお、これらの計測も、本ソリューションにより可視化したものです。実際の機器に発生している状況を忠実かつ簡単にホスト機器で確認できます。

 

図6. 本ソリューション機材にて計測した加速度センサーの時間軸・FFT出力の従来品比較

※1:弊社従来品はADXL001にて計測(ADXL1002比較)
※2:本比較に利用した故障を模擬する高周波振動(青:15kHz, 赤:18kHz)の信号振幅、Y軸フルスケール=約2G
※3:ADXL1002はADXL001に比べ、より高いS/N比で高周波振動(青:15kHz, 赤:18kHz)を取得可能

 

 

超広帯域ラインアップの中から、
ピン互換により簡単に最適な製品選択を実現

ADXL100xシリーズは、すべての製品がピン互換のため、アプリケーションに合せて加速度センサーを最適な製品へ差し替え可能。業界最高感度、最も低ノイズのADXL1002から、最も広帯域(共振周波数45kHz)のADXL1004まで、用途に合わせて選択できます。

 

表1. ADXL100xシリーズのラインナップ
計測レンジ 応答特性 ノイズ密度
ADXL1001 ±100g 21kHz 30μg/√Hz
ADXL1002
(本デモで使用)
±50g 21kHz 25μg/√Hz
ADXL1003 ±200g 30kHz 45μg/√Hz
ADXL1004 ±500g 45kHz 125μg/√Hz
ADXL1005 ±100g 42kHz 75μg/√Hz
各スペックは25℃、供給電圧5Vにおける値
g = Gravity:重力加速度(約9.8m/s2

 

高度なアプリケーションに最適なアナログ信号出力

ADXL100xシリーズはアナログ信号出力を採用していますので、出力段にアナログ・フィルタを挿入することも可能です。これにより、監視対象以外から発生しているバックグラウンドノイズの除去(図7)や、高分解能ADCと組み合わせたさらなるS/N比改善も可能です。ご利用環境に合わせたカスタマイズのご相談も、こちらのメールへ気軽にお問い合わせください。

 

図7. アナログ・フィルタを追加することで、より高度な要求にも対応可能

開発プラットフォーム

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