慣性計測ユニット採用事例

千葉工業大学

ロボティクスにおけるIMUの効果

慣性計測ユニット(IMU)に統合された、加速度センサーとジャイロセンサー、大気圧センサー、磁気センサー、温度センサー。IMUは内部の補正機能により、小型かつ周辺回路なしに正確なセンシング情報を取得できるアナログ・デバイセズ屈指の製品です。

未来をつくるロボット開発では、産業分野のみならず、先端的かつ挑戦的な学術分野においてもアナログ・デバイセズのIMUは重要なセンサーの一つとして採用いただいています。

今回は、実際にアナログ・デバイセズのIMUを導入している千葉工業大学のロボット設計・制御研究室 林原 靖男 教授に、ロボティクスにおけるIMUの効果についてお話を伺いました。

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林原 靖男 氏
千葉工業大学 工学部
未来ロボティクス学科
教授 博士(工学)

 

自律移動型ロボットの研究を推進
実践的な取り組みで人材を輩出

-千葉工業大学の未来ロボティクス学科について教えてください。

さまざまな分野に応用されるロボットおよびロボティクス(ロボット工学)は、これからの産業において重要な役割を担うと期待されています。千葉工業大学では2006年に「未来ロボティクス学科」を開設しました。

学部1年次からロボットの開発に取り組んでもらうなど実践的なカリキュラムを特徴とした学科で、ロボティクス領域を開拓できる人材を育成しています。

 

IMU「ADIS16480」を搭載したロボット「ORNE」

 

-林原先生の研究室ではどのような研究をしているのですか?

私の「ロボット設計・制御研究室」では、ラボ内の限られた空間だけではなく、実際のフィールドにおいても安定して動作するロボットの研究・開発を行っています。自律移動ロボットによってサッカーゲームを競う「ロボカップ」への取り組みもその一環です。

ロボカップ2018年の世界大会のテクニカル・チャレンジ部門にて7連覇を達成しました。

ここ数年は、人間とロボットが共存する未来をテーマにした技術の確立を目的に、「つくばチャレンジ」という、茨城県つくば市内の遊歩道など、人間が利用するコースを移動する目的の技術競技会にも参加しています。

2017年11月の「つくばチャレンジ2017」では本研究室の「ORNE-α」(オーン・アルファ)と「ORNE-β」(オーン・ベータ)という2台の自律走行ロボットを開発し、両ロボットともに2kmにも及ぶコースの完走に成功しています。

 

ロボット設計・制御研究室の皆さん

 

 

自律走行ロボットに
アナログ・デバイセズの高性能・高精度センサー
慣性計測ユニット(IMU)を採用

-つくばチャレンジ2017に出場した「ORNE」について紹介してください。

つくばチャレンジのように、人間と同じ空間を自律的に移動するロボットには、車輪やモーターなどの駆動部はもちろんのこと、自分自身の位置や向きを知る位置推定機能、周囲の状況を把握するための物体検出機能、周辺の歩行者や自転車に対して安全を確保するための検知機能や非常停止機能、それらを制御するソフトウェアに加え、すべての土台となる精密なセンシングが必要となります。

こうしたセンサーと、駆動部、判断機能を統合したロボットが「ORNE」です。

 

-ロボットに搭載したセンサーの種類とそれぞれの役割は何でしょうか。

「ORNE」は、精密で高信頼なデータを採取するためのセンサーとして、アナログ・デバイセズの慣性計測ユニット(IMU)を採用しています。ロボットの自律走行には、現在の位置を推定するオドメトリ(odometry:自己位置推定)手法が必要であり、本手法の入力として車輪の回転角(進行速度)とロボットの向きを利用しています。

車輪の回転角はロータリーエンコーダーが利用できますが、路面の起伏や街路樹の葉などで車輪が空転することがあり、このようなエラーはロータリーエンコーダーのみでは観測できません。

 

「ORNE」におけるIMUの役割

 

そこで私たちは慣性計測ユニット(IMU)を採用し、ロボットの回転角速度を取得、車輪の空転によるロボットの進路がずれを常時監視することで、位置の計算にフィードバック、オドメトリを補正することができます。

また、ロボットの周辺に障害物がないことを確認するため、周囲を半導体レーザーでスキャンする測域センサーも搭載しています。測域センサーにより歩行者も回避可能です。この回避時の旋回運動もIMUで測定しています。すべてのセンサーの情報はPCに集約し、モータードライバの制御に利用しています。

 

-位置の推定にはGNSS(GPS)を利用していますか?

GNSS(GPS)は広大な空間では有効ですが、ビルやマンションが近くにあると電波が反射しマルチパスという現象が発生します。マルチパスが発生すると、大きな位置ずれが発生し、まったく違う位置を突然示してしまうという課題があります。

また、方向の把握に、ジャイロセンサーではなく、地磁気に基づいた磁気絶対方位を検出する磁気センサーも試行しましたが、車両の近くや橋に埋め込まれた鉄骨等による影響から磁気のずれが発生し、磁気センサー単体で方向を推定することが困難でした。

結果として現在、私たちの研究室では、アナログ・デバイセズのIMUを利用し、内蔵されたジャイロセンサーからの回転角速度を取得し回転角を生成、オドメトリを構築しています。現在、本方式が指定コースを走行させる位置推定に最適と判断しています。なお、「ORNE」にはアナログ・デバイセズの10自由度(10DoF)のIMU「ADIS16480」を採用しました(3軸ジャイロセンサーと3軸加速度センサーのほか3軸磁力メーターと圧力センサーを統合したデバイス)。

 

バイアス安定性が高く補正が不要に
正確な地図作成と自己位置推定を実現

-アナログ・デバイセズの慣性計測ユニット(IMU)を採用した理由やきっかけを教えてください。

ロボットの研究開発においては、いかにして特性の良い部品を入手できるかが重要なファクターです。さまざまなベンダーの製品情報を常にウォッチしており、その中で、アナログ・デバイセズの情報を目にして同社のIMUを知りました。

本採用に至る前に実験的にIMUの特性を調査しましたが、アナログ・デバイセズのIMU 「ADIS16480」は、ジャイロセンサーからの誤差(安定性)が6°/hrと競合品に比べ非常に小さく、安定した角速度をアルゴリズムの補正なく入手できます。これは非常に重要な精度で、角度の算出には角速度を積分し生成しますので、角速度誤差は、積み上げる大きな角度の誤差となります。

「ADIS16480」は我々が求めている精度を満たしていましたので、つくばチャレンジに向けた「ORNE」開発に採用することを決めました。

 

アナログ・デバイセズのIMU 「ADIS16480」が搭載された筐体

 

-アナログ・デバイセズのIMUを採用したことでどのようなメリットが得られましたか?

つくばチャレンジの試走結果からも分かるように、従来使っていたジャイロセンサーに比べてかなり正確な地図が作成できるようになったのは大きな躍進です(下図)。IMUとオドメトリ方式を組み合わせることで、完走に十分な精度が簡単に実現できました。

加えて、アナログ・デバイセズのIMUは、出力を補正するフィルタ機能がIMU自体に内蔵されているため、値を安心して利用可能で、ソフトウェア開発の負担も大きく低減できました。

【IMU無しで生成した地図】
【IMU有で生成した地図】

 

もちろん、自律走行中も前方に歩行者などを検知した場合、「ORNE」は回避のために旋回する行動を採用していますが、こういった自律走行時も角度の誤差がほとんど発生しないため、安心して回避行動を実装できますし、安全性を向上させることができました。チームによっては歩行者が立ち去るまで待つ、といった作戦を採用しているところもあります。人とロボットが共存する社会に向けて

 

ロボット技術の深更に取り組む

-アナログ・デバイセズ製の他IMUを利用したことはありましたか?

「ロボカップ世界大会2016」のロボットには、3軸ジャイロセンサーと3軸加速度センサーを備えたアナログ・デバイセズ6自由度(6DoF)のIMU「ADIS16375」を採用しました[*1]。

なお、アナログ・デバイセズのIMUはシリアル通信で簡単にセンサーの値を取得できますので、ロボット開発の中でIMUを6DoFのIMU「ADIS16375」から10DoFのIMU「ADIS16480」へ交換を行いましたが、ほとんどソフトウェア開発は発生せず、簡単に載せ替えができました。

 

ロボット設計・制御研究室で開発した 「ADIS16375」を搭載したロボット

 

-アナログ・デバイセズに対する期待や評価はいかがでしょうか。

ロボット開発ではソフトウェア基盤として「ROS」(Robot Operating System)を搭載することが一般的ですが、アナログ・デバイセズのIMUはROSにデバイスドライバが準備されており、多くのロボット研究者がIMUで周辺情報を手軽に入手し、活用できるようになったと感じます。

今後もIMUとロボットの親和性をさらに高める製品やソフトウェア(デバイスドライバを含む)の登場を楽しみにしています。

 

「ORNE」とROSの連携図

 

-今後の展望をお聞かせください。

人工知能やロボティクスの進化を背景にこれからの20年で人間の様々な活動をサポートしていくと言われています。こうした流れから、社会はさらに効率的になり、人の手が届かなかった新しい課題に挑戦できるようになると感じています。

そうした未来の自律型ロボットは、つくばチャレンジでも設定されているように、歩行者や自転車が周りにいる環境の中、たとえば横断歩道で待つ、自動ドアを通って商業施設に入る、といった多様な状況にも対応する必要がでてきます。人と同じ活動範囲となりますので、ロボティクスは現在多くの注目を浴びている先進運転支援システム(ADAS)と同様、今後も複雑化していくでしょう。私たちの研究室、は人とロボットが共存する社会の実現を目指して引き続き研究に取り組むとともに、未来のロボティクスを担う人材の輩出に努めていきます。

 

-本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

千葉工業大学 先進工学部 未来ロボティクス学科

 

2018年9月14日 掲載