アルゴリズムが無限の可能性を切り開く
Time of Flight AGIがAnalog Garageを卒業してコンスーマ・ビジネス・ユニットへ
「お客様にご指摘を受けてから取り組んだのでは遅すぎるということは、よく言われます。しかし、Analog Garageのアルゴリズムのノウハウとコンスーマ・ビジネス・ユニット(BU)の回路およびアプリケーションのノウハウを進取的に組み合わせることで、迅速な市場投入が可能となりました。両者を組み合わせることで、お客様の重要な問題を解決し、他と差別化を図れる利点を製品に付与することができました」 |
Time-of-flight(ToF)は、大きな可能性を秘めた最近注目を集めるセンシング手法です。ゲーマーが、両手を宙で動かしてプレイをコントロールするのをご覧になったことがありますか?これを可能にしているのがTime-of-flight(ToF)センサーです。ToFセンサーは、高級車や長距離トラックで運転手の疲労や眠気を検知するために使用されています。ToFセンサーがその場でリアルタイムの距離測定値を収集することにより、これらのアプリケーションは表情やジェスチャを識別することができます。ドローンやロボットに使用すると、複雑な環境を移動できます。また、拡張現実や仮想現実であれば、一層真に迫ったものとなります。

Time of Flight AGIチーム:左から、(前列)Evan Semle、Tomo Funabashi、Nicolas Le Dortz、Dhruvesh Gajaria、Charles Mathy、(中列)Erik Barnes、Kainan Wang、Atulya Yellepeddi、Sefa Demirtas、Tao Yu、(後列)Bin Huo、Brian Donnelly、Rick Haltmaier、Yuzo Shida 基本から複雑な事例へ前進 |
ベーシックからコンプレックスへ
ToFの基本原理は単純です。システムが光のパルスを発し、光子が物体で反射されてセンサーに戻るまでの時間を計測します。この時間と光の速度がわかっているので、距離を計算することができます。

上に示した点群は、Time-of-Flight(ToF)カメラから計算した各ピクセルの深度を3Dで視覚化したものです。ToFは、赤外光源から複数の光のバーストを正確なタイミングである場所に照射するという深度センシング技術です。光源と共に配置されたイメージ・センサーが、その場にある物体のすべての表面からセンサー面に近い順に戻ってくる光子を受光します。この距離、すなわち深度は、各ピクセルに関連付けられており、既知の光速度と光子が、センサーの各ピクセルに戻るまでの時間を用いて計算されます。 |
光のバーストを正確に同期するため、これらの計算は毎秒数百万ピクセルで行われるので、動作条件に応じて計算を調整することが、ミックスド・シグナルの回路設計およびアプリケーションの重要な課題となります。アナログ・デバイセズは、高性能で費用対効果の高いToFソリューションを実現する専門性を備えた数少ない企業であり、そのソリューションは市場において数年の実績を有しています。しかし、互いに近接した64台のToFカメラを同時に動作させるというロードマップの下、少なくとも10台を同時に動作させる課題に直面したとき、マーケティングとアプリケーションのチームが目を向けたのはAnalog Garageでした。
「干渉の問題を解決するには多数の試行錯誤が必要なことが予想され、既存の技術は役に立たない可能性が高かったのです」と、コンスーマ部門のシステム設計エンジニアのBin Huoは言います。「私たちは、アルゴリズム手法のほうが回路設計よりもはるかに短期間で反復作業や実験を進められると考えました」
着想のプロセス
Analog Garageがインキュベートする破壊的アイデアの多くは新規のベンチャー事業であるため、顧客を特定して売り上げを予測することが困難な場合があります。しかし、ToF Analog Garage Initiative(AGI)は違いました。顧客のニーズと将来性のあるソリューションの間には、明確な整合性がありました。
「私たちは何か月にもわたってBUと共同作業を行いました。彼らはアプリケーションとハードウェアについてとてもよく理解していました」と、Analog Garageの信号処理アルゴリズム開発のリーダー的研究者であり、その長であるSefa Demirtasは言います。「BUには優れた知見があり、顧客からの実際のフィードバックを絶えず伝えてくれました。これは非常に有益でした。しかしその一方で、干渉の問題から消費電力やダイナミック・レンジに至る広範な問題を提起していました。私たちにはこれらの問題を優先する必要がありました」
Analog Garageの研究者、Atulya Yellepeddiはこう付け加えます。「アナログ・デバイセズのAFEを備えたセンサーとカメラのモジュールを使用すべきことはわかっていたため、ソリューション側には明確な制約がありました。しかし同様に私たちも問題を解決しなければならないという制約がありました。Analog Garageのプロセスに従うことで、チームが効果的に協力するための仕組みができたのです」
Analog Garageのプロセスでは、人材の配置方法をチームでじっくり考えることもできます。チームでは、2、3人がフルタイムで活動するのではなく、5人のグループの各メンバーが50%ずつ活動するという提案が出されました。「アルゴリズムを発見するにはブレイン・ストーミングが欠かせません」とSefaは言います。「批評するメンバーが多いほど、良いアイデアが早く浮かび、良くないアイデアは早く消えます」。また、Sefaは、事前に各メンバーの約束を取り付けることも同様に重要だと述べています。Charles Mathy、Nicolas Le Dortz、Tao Yu、Atulya、Sefaの各研究者は、AGIでの時間のうち50%をこのソリューションに振り向けることを約束しました。こうして、チームは開始当初から団結することができました。
干渉抑圧アルゴリズム

アナログ・デバイセズ製品を装備したセンサー・モジュールとカメラ・モジュールを使用した実験や高速学習を可能にするため、TaoとNicolasは、BUのテスト/デバッグGUIを深く掘り下げ、Analog GarageのToFラボで行う実験用ツールを作成しました。このツールは、アイデアの検証、マルチカメラ環境のシミュレーション、アルゴリズムが干渉や電力消費に及ぼす影響のデモなどができるため、チームにとって不可欠なものでした。
チームはニーズに対処するため、干渉回避と干渉除去の2つの手法を考案しました。この2つの手法がプロジェクトで最終的に組み合わさることで、単独のアルゴリズムの場合よりも多くのカメラを同時に動作させることが可能となりました。
価値を創造し取り込む
新興ビジネス担当副社長兼Analog Garageの責任者であるPat O’Dohertyは、次のように述べています。「干渉抑圧アルゴリズムはToF AGIから生まれたもので、価値を創造し取り込む点でシリコンを凌ぐ優れた実例です。注目すべきは、このイノベーションが、BUのアプリケーションとデバイス・アーキテクチャに対する深い理解とAnalog Garageの研究者のアルゴリズムに関する専門性が結びついた結果であることです」