SF映画のロボットアームが、こんなにも早くノンフィクションになることを・・・
その名は、“ルーク・アーム”。DEKA Research and Development社が開発し、米食品医薬品局（FDA）にも認められた、最先端の義手です。名前の由来は、SF映画『スター・ウォーズ／帝国の逆襲』の中で、主人公のひとりルーク・スカイウォーカーが装着したロボットアームを目標にしたことから。複雑な作業も、繊細に、意のままにこなせる未来の義手―。開発チームの目標は、極めてレベルの高いものでした。
100年の常識を破る、新設計を
義手利用者のQOL（Quality Of Life: 生活の質）を高めるために、アメリカ国防高等研究計画局（DARPA）は、新しい義手の設計者を探していました。意外にも、いま使用されている義手の多くは、100年以上前の設計思想に基づいています。新たなブレークスルーを生むには、大胆な発想の転換が必要です。さまざまな検討の結果、DARPAがノックしたのが、DEKA社の扉でした。
DARPAのリクエストは2つ。ブドウをつぶさずに摘める繊細さ。加えて、ハンドドリルなどの工具も扱える力強さ。DEKA社は、この目標を実現するために、開発パートナーを迎えることにしました。それが、私たちアナログ・デバイセズです。
ついに、未来をつかんだ手
DEKA社とアナログ・デバイセズの試行錯誤は、長期間にわたりました。そして、いよいよ完成した“ルーク・アーム”。果たして、その出来栄えは、どうだったでしょうか。寸法と重量は、ほぼ人間の手と同様。全く問題はありません。では、動きはどうでしょうか。床に転がる小さなコインも、容易に拾い上げることができました。まさにSFのロボットアームが、ノンフィクションになった瞬間です。
繊細で、自在な動きを実現するために、“ルーク・アーム”では、義手装着部の近くにセンサーを設置。装着者の筋肉の動き（筋電／電気信号）をセンサーが感知し、その信号を義手内部に組み込まれたデバイスで処理することで、指の開閉を高精度に制御する仕組みです。しかし、目標はあくまでもSF映画のロボットアームです。開発チームは、これで満足することなく、より人間の手に近付けるために、他の場所にもセンサーを複数個置くことにしました。義手から離れた位置からの信号は、無線伝送されます。こうしたさまざまな工夫によって、指や手首の多くの関節を、同時に、滑らかに動かせるようになったのです。もちろん、力の加減も思いのまま。
臨床試験では“ルーク・アーム”利用者の90%が、従来の義手では困難だった複雑な作業も行えるようになったとの結果が得られました。
アナログ・デバイセズは、この義手の実現に向けて、計装アンプ、デジタル・アイソレータ、デュアル・オペアンプなど、数々の先進ソリューションを提供。高性能と高信頼性が評価され、100年越しのブレークスルーの瞬間に立ち会うことができたのです。
|
お客様と共に想像の先へ、50年の英知 世界をリードする信号処理技術で「アナログとデジタル」「夢と現実」との懸け橋を担ってきたアナログ・デバイセズ。私たちはこれか らも、夢とプロセスをお客様と共有しながら、イノベーションを加速し、ブレークスルーを生む、新たなソリューションを切り拓いてまいります。想像を超える可能性を―50年目のアナログ・デバイセズ。 |
* 『スター・ウォーズ／帝国の逆襲』は、ルーカスフィルムの商標です。
ルーク・アームの特長と仕組み
“ルーク・アーム”の大きな特長は、次の3つを可能にしたことです。多様な握り方。握力の精密コントロール。そして、複数動作の同時実行です。多様な握り方ができるのは、手首や指の位置を調整でき、なおかつ肩や肘を含めたそれぞれの部位が個別に動かせるためです。これにより「強く握る」「水平につまむ」など、6通りの握り方が可能になりました。一方、“精密”かつ“複数同時”のコントロールを可能にしたのは、コントロール系統の方式と数です。制御システムのプロセスは、まず筋電図（EMG）用電極で、装着位置の近くの筋肉の電気的活動を検出。次に、義手に組み込まれた処理装置がEMG信号を受信して、解読。そして、この解読結果に基づき、今度は処理装置から手首や指へ、動きの指令が出されます。“ルーク・アーム”では、センサーや処理装置に、高精度・高速のデバイスを採用することで、精密なコントロールを可能にしました。さらに、手だけなく、脚など他の部位にもセンサー/コントロール系統を追加することで“複数動作の同時実行”が実現されました。
