TNJ-071 : 高性能 LPF である FDNR 型フィルタの仕組みをお勉強してみる(中編)FDNR のモトとなる GIC 回路の原理検討に深くダイブしてみる

経営戦略論などにある「弱みは強み/強みは弱み」

WEBラボ相変わらずのヨタ話しからなので、ご興味ない方は飛ばしてください…。次回の最終回、TNJ-072でご説明する、 FDNR(Frequency Dependent Negative Resistor; 周波数依存性負性抵抗)型フィルタのバリュー提案の前振りでもあるわけですが…。

 

我が家と近隣の施設でのケース・スタディ「弱みは強み」

最近、妻が趣味でカフェを始めてみたいと言い出している。私も数年前に学んだ経営戦略論やマーケティング理論をフル活用して、彼女のお茶のみ相手をしている。自宅の一部を開放するという低コストな実現方法だ。「でも、なーんにも取り柄がないわよね」「取り柄より弱みばっかり」という彼女の言葉が最初だった。「だよな。弱みばっかだ…」と私も応答した。

しかし数日たって気が付いた。「いや、その弱みが、標的顧客を選べば、その標的顧客に凄い魅力を提供できるんだ…」「あら!ホントね!」「そうだよ、それをSNSで訴求すればいいんだ!」。弱みは、見かたを変えれば、強みになる。

最近、自宅近隣に新しい観光客集客施設ができた。完成後に行ってみた。施設内には地域紹介ビデオが流れている。「なにもない、けど、〇〇いい」。これも驚愕だ!たしかに観光資源は何も無い。それを強みとして訴求しているのだ。その施設内には温泉浴場がある。折角だからと入浴してまた驚いた。地下深くから汲み上げた茶色がかった水をそのまま用いている。地元民からすれば「〇〇水」と呼び、忌み嫌ってきた地下水なのだ が、これを「〇〇を含んだ太古の水」として訴求しているのだ。そのキャッチは偽りのものではなく、確かに間違いないホンモノであり、「見かたを変えることにより弱みを強みにした好例」だと、いたく感動した。どこかの経営コンサルタントが支援・提案しているのだろう。とはいえ当該施設のHPではこの訴求が弱く、もっとPRすればいいのにとも思うところだ。

一方で「強みが弱み」になることもある。自分が「強い」と思われるところに固執して、結果的にそれが周囲と合わなくなったり、時代の流れについていけなくなったりすることで、「弱み」に変化してしまうというものである。これは経営戦略論でも頻出といえる話題だ。

 

この話題は次回の技術ノートへと続く

そう、見かたを変えれば「弱みは強み」になります。そして「強みは弱み」になります。しかしこれはしくみの内的な部分、いわゆる「内部環境」です。より実践的にはPEST分析[1]などで分析する、外的な影響、いわゆる「外部環境」も考慮する必要があります。この辺は次回TNJ-072であらためてより深く踏み込んだヨタ話しとして、そしてFDNR型フィルタのバリュー提案としてご提供したいと考えております(ということで、次回の技術ノートへ続きます…)。

図 1. GIC(Generalized Impedance Converter)回路の基本構成(TNJ-070の図8に加筆し再掲)
図 1. GIC(Generalized Impedance Converter)回路の基本構成(TNJ-070の図8に加筆し再掲)

 

GIC回路の式の成り立ちを考えてみたい

 

また悪い性分が…

前回の技術ノートで説明したように、FDNRの基礎となるGIC(Generalized Impedance Converter)回路は、図 1のようにグラウンドに向けて接続される直列素子経路と、そこにつながる2つのOPアンプから形成されます。GIC回路では入力端子𝑍𝑖𝑛から見たインピーダンスが

数式1

として得らます。「これでいいじゃん、十分じゃん」と思うところですが、またまた悪い性分がむくむくと持ち上がってしまいました。「GIC回路のインピーダンスの式はどのように得られるのか」と思うと居てもたってもいられません(笑)。この「検閲なし」のWEBラボ。皆様だいぶ飽食気味の数式ネタに、またまたダイブしてみたいと思います(汗)。

さて、図 1のGIC回路のインピーダンス𝑍1から𝑍5に流れる電流を、その素子番号に合わせて𝐼1から𝐼5とします。そうすると

数式2-4

と式を立てることができます。𝑉1から𝑉5はインピーダンス𝑍1から𝑍5の上側の端子電圧を示しています。式(2)の𝐼は図 1 で端子𝑍𝑖𝑛から流れ込む電流(𝐼 = 𝐼1)です。OPアンプ U1,U2はそれぞれの開ループ利得が無限大だと仮定すると、それぞれの反転入力・非反転入力の端子間は仮想ショートになっているので

数式5

であり、式(3)と式(4)は

数式6-7

この式(7)の青部分を移項し整理すると

数式8

式(6)の𝑉4(赤部分)に式(8)を代入すると

数式9

𝑍2を両辺にかけて、左辺の𝑉1を移項すると

数式10

赤部分がキャンセルされ

数式11

が得らます。式(2)に式(11)の𝑉2(赤部分)を代入すると

数式12

からGIC回路の入力端子𝑍𝑖𝑛から見たインピーダンスが

数式13

として、式(1)相当が得られます。この導出については[2]を参考にしました。最初は以下の「重ね合わせの理」を用いて頑張って答えを得てみた(ちゃんと得られました!)のですが、それ以降に[2]の書籍に記載のある説明を発見し(あわせてとてもがっかりし)、それに倣って導出してみたのが上記です。

 

OPアンプの開ループ利得が有限な場合はどうなるのだろうか

上記は「OPアンプ U1,U2は、それぞれの開ループ利得が無限大だと仮定」していました。そうすると悪い性分がさらにむくむくと持ち上がってしまうのです。「それではOPアンプそれぞれの開ループ利得が有限の場合はどうなる」と…。

とかいいつつ、実は上記で自力で頑張って答えを得た成果物を是非生かしてみたいと思ったからなのでした[弱みを強みに?(汗)]。数式ネタに飽食気味のWEBラボ。最近数式が多いのに飽き飽きしている(大変反省しております…)の方もいらっしゃるかと思いますが、以降は式の展開を丁寧に、詳しいコメントをつけていますので、是非ご覧ください。

皆様が数式を見てげんなりするのは、式展開が飛んでおり、追いきれないところが理由と感じておりまして…。

ところで以下の計算では、導出がうまくいなかったり、間違ってしまったりして、WEBラボの技術ノートの記事執筆として相当な時間がかかってしまいました。それでも興味深い成果が得られたので、ご覧いただければ幸いです。

それではやってみましょう!

 

基本戦略は「重ね合わせの理」

たとえば筆記試験で「OPアンプの開ループ利得𝐴が有限なGIC回路の入力インピーダンスを導出せよ」とあったら、どのようなアプローチをとるでしょうか。「キルヒホッフの法則で式をたてて気合いで式変形していく」とか、「その複数式を行列として逆行列を掛ける(ほぼ不可能でしょうが)」などが考えられますが、気が狂いそうですね(笑)。

そこで以降の導出では、回路網解析の基本中の基本である、「重ね合わせの理」を用いてみます。重ね合わせの理はTNJ-035での差電圧アンプの解析[3]など、このWEBラボでもところどころに出てきた重要定理です。重ね合わせの理はそのTNJ-035[3]でも、

『電源を複数持つ線型回路において、任意点の電流および任意点間の電圧は、それぞれの電源が単独に存在していた場合の和に等しい。なお、電圧源・電流源をそれぞれ取り除く場合は、前者は短絡、後者は開放したものとして考える(Wikipediaの記事[4]を引用)。もう少し簡単にいい直すと、

①電圧源/電流源を 1 個ずつ取り付け

②取り付けた以外の電圧源はその点をショート

③取り付けた以外の電流源はその点を開放

④これで各点の電流、電圧をそれぞれ測定する

⑤すべての電圧源/電流源を取り付けたときは、それぞれの測定値の和に等しい』

と説明しました。

ここでの検討では、重ね合わせの理としての個々の電圧源/電流源を

①回路のインピーダンスを得るために、図1の入力端子𝑉1に「仮に加えた」として考える電流源𝐼。電流𝐼を加えて端子電圧が𝑉1になれば、それで GIC回路の入力インピーダンス𝑍𝑖𝑛を求めることができるから。これを取り去ったときには、その点は開放

②図1のGIC回路の右側のOPアンプU1。これを取り去ったときには、このOPアンプの出力𝑉U1𝑜𝑢𝑡接続点はグラウンドにショート(𝑉U1𝑜𝑢𝑡 =𝑉4=0)

③図1のGIC回路の左側のOPアンプU2。これを取り去ったときには、このOPアンプの出力𝑉U2𝑜𝑢𝑡接続点はグラウンドにショート(𝑉U2𝑜𝑢𝑡 =𝑉2=0)

として考えて(計算の戦略を立てて)みます。重ね合わせの理を用いると、回路網の計算をかなりすっきりと行えます。

 

実際に重ね合わせの理を適用してみる

先に示したように、解説文章を多めにして数式導出を進めてみたいと思います。式展開は単純に加減乗除しているだけのものなので、以降の展開を追っていくのは簡単だと思います。

なお書き始めの現時点、年末押し迫った深夜の自宅においては、本当に導出できるかどうか、とても不安があります(笑)。

 

ステップ1「電流源のみが回路入力に接続された条件」

まず最初にステップ1として、電流源𝐼のみが入力𝑍𝑖𝑛に接続された条件を計算してみます。二つのOPアンプ出力は電圧源ですが、重ね合わせの理では、OPアンプが無い条件(電圧源が無い条件)で、OPアンプ出力(電圧源)接続点はグラウンドにショートとなりますので、

数式13-2

この条件(二つのOPアンプが無い条件)でOPアンプU1の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U1𝑖𝑛0とすれば、

数式14

これは𝑉2がゼロですから𝑉3もゼロ(𝑉3はOPアンプの入力端子しかないので、ゼロとして決まります)で、𝑉2=𝑉3になるからです。同じくOPアンプ U2の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U2𝑖𝑛0とすれば、

数式14-2

これは𝑉2,𝑉4がゼロですから

数式14-3

となるからです(𝑉5もOPアンプの入力端子しかないので、ゼロとして決まります)。これがステップ1です。

 

ステップ2「OPアンプU1のみが接続された条件」

つづいてステップ2として、OPアンプU1のみが接続された条件(𝑉4=𝑉U1𝑜𝑢𝑡,𝑉2=0)を計算してみましょう。電流源𝐼は接続されませんので、端子𝑍𝑖𝑛は開放になります。この条件でOPアンプU1の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U1𝑖𝑛1とすれば、

数式15

これは𝑉U2𝑜𝑢𝑡=𝑉2=0だからです。同じくOPアンプU2の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U2𝑖𝑛1とすれば、

数式16

が得られます。これがステップ2です。

 

ステップ3「OPアンプU2のみが接続された条件」

ステップ3として、OPアンプU2のみが接続された条件(𝑉2=𝑉U2𝑜𝑢𝑡,𝑉4=0)を計算してみましょう。電流源𝐼は接続されませんので、端子𝑍𝑖𝑛は開放になります。この条件でOPアンプU1の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U1𝑖𝑛2とすれば、

数式17

同じくOPアンプU2の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を𝑉U2𝑖𝑛2とすれば、

数式18

これは𝑉U1𝑜𝑢𝑡=𝑉4=0だからです。符号がマイナスなのは、OPアンプU2の非反転入力が反転入力より低い電位側(𝑉5)に接続されているからです。

 

ステップ4「重ね合わせをする」

つづいてステップ1からステップ3で得られたU1,U2の非反転入力と反転入力の端子間差電圧を重ね合わせします(重ね合わせた電圧を𝑉U1𝑖𝑛−𝐴𝐿𝐿, 𝑉U2𝑖𝑛−𝐴𝐿𝐿とします)。それぞれのOPアンプの開ループ利得を𝐴U1,𝐴U2とすれば、それぞれのOPアンプの出力電圧は

数式19-20

が得られます。まずにU1の出力𝑉U1𝑜𝑢𝑡について重ね合わせの計算をしてみると

数式21

U2の出力𝑉U2𝑜𝑢𝑡について重ね合わせの計算をしてみると

数式22

なお最終的には、入力端子に電流𝐼を加えたときの端子電圧𝑉1を求めたいので(入力端子のインピーダンス𝑍𝑖𝑛=𝑉1/𝐼を求めたいので)

数式23

を得ることが当面のゴールです。

 

得られた式を単に加減乗除で変形していくと答えが得られるようになる

見出しのとおりです…。まず式(21)を変形します。𝐴U1を分解し、赤部を左辺に移項します。

数式23-2

両辺を𝐴U1で割り、左辺を通分します。

数式23-3

𝑉U1𝑜𝑢𝑡の係数で両辺を割ります。

数式24

つづいて式(22)を再掲します。

数式22再掲

この両辺を𝐴U2で割って、右辺第2項(赤部分)を移項します。

数式24-2

ここに式(24)を以下のように代入し、𝑉U1𝑜𝑢𝑡を消し

数式25

右辺の𝑉U2𝑜𝑢𝑡の項(赤部分)を左辺に移項すると

数式26

赤部分の𝑉U2𝑜𝑢𝑡の係数(𝑍2は除外)で両辺を割ります

数式27

上記右辺の赤で示したカッコ内の部分で、両辺を割ります。得られた式の青部分は以降で説明します。

数式28

 

一旦検算してみる

ここで𝐴U1≈∞,𝐴U2≈∞として、端子𝑍𝑖𝑛から見たインピーダンスの式(1)が得られるかどうか検算してみましょう。𝐴U1≈∞であれば、式(28)の青で示した以下の部分は

数式29

となりますし、1/𝐴U2の項はゼロです。そのため式(28)は

数式30

と表すことができます。ここで左辺第1項を変形すると

数式31

その項の分母を展開します。そうすると以下の赤部分がキャンセルされ

数式32-33

が得られます。

つづいて端子𝑉2の電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡を得るため、式を𝑉U2𝑜𝑢𝑡でくくり、通分します。

数式34

そうすると赤部分がキャンセルされ

数式35-36

このように端子𝑉2の電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡が得られました。当面のゴールが式(23)

数式23再掲

でしたので、これを計算してみます。上記の式の𝑉U2𝑜𝑢𝑡に式(36)を代入すると

数式37

通分し分子も整理すると、赤部分がキャンセルされます。

数式38

これで式(1)に相当するものが得られました。計算は合っていそうです。

 

OPアンプの開ループ利得が有限な場合の結果を得てみる

どうやら大丈夫なことが確認できたところで、OPアンプの開ループ利得が有限な場合の詳細計算に突入してみましょう。まず式(28)を再掲し、赤部分を変形します。展開のストーリーはここでも端子𝑉2の電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡を軸に考えます。

数式28再掲

上記の赤部分を通分すると、以下の赤部分がキャンセルされます。

数式39-40

両辺を上記の青部分に相当する𝑍2+𝑍3で両辺を割ります。

数式41

両辺を𝑉U2𝑜𝑢𝑡𝑍1で割ります。

数式42

 

アドミッタンス(インピーダンスの逆数)で検討する

以降では図1の端子𝑉2(電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡)から見たアドミッタンス𝑌𝑉2(インピーダンス𝑍𝑉2の逆数)

数式43

を求めるストーリーとしています。理由は数式の展開(説明)が楽になるからです。また以降の図2で示す並列接続モデルでも説明がしやすくなるからです。式(43)に式(42)の左辺を代入すると、

数式44

上記の式(44)の右辺を取り出し、以下の赤の部分に着目します。

数式44-2

この赤部分は

数式45

と変形できます。青部分を分離しました。またその第2項では分母・分子の𝐴U1を取り去っています。ここで

数式46

とすれば式(45)の赤部分は

数式47

青部分もキャンセルされ、このように𝑘を使って見通し良く表現できます。

 

開ループ利得に関係する項と関係しない項にわけられる

そうすると端子𝑉2(電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡)から見たアドミッタンス𝑌𝑉2である上記の式(44)は

数式48

となり、この式(48)はOPアンプの開ループ利得𝐴U1,𝐴U2に関係する項

数式49

と関係しない項

数式50

に分解できることが分かります。

 

開ループ利得が有限な場合の結果を「検算」する

 

開ループ利得が無限大の条件で検算してみる

OPアンプの開ループ利得が無限大の条件で検算してみましょう。OPアンプの開ループ利得𝐴U1,𝐴U2が関係する項となる式(49)は、𝐴U1≈∞, 𝐴U2≈ ∞ではゼロになります。アドミッタンスがゼロということはインピーダンスが無限大であり、この部分が回路動作に影響を与えないことが分かります。

端子𝑉2から見たアドミッタンス𝑌𝑉2のうち「開ループ利得𝐴U1,𝐴U2に関係しない項」である式(50)と式(23)により、式(1)が得られるか、あらためて検算してみます。この項を𝑌𝑉2(@𝑈𝑅𝑇)とし(Unrelated Term=@URT)、式(50)で𝑘とした部分を元に戻すと

数式50-2

つづいて式全体をこの第2項でくくります。

数式50-3

さらに[ ]の中を通分します。そうすると𝑍3𝑍5がキャンセルされます。

数式51

 

インピーダンスに戻してみる

ここまで端子𝑉2から見たアドミッタンス𝑌𝑉2(@𝑈𝑅𝑇)で計算してきましたので、上記の式(51)を逆数にして、インピーダンス 𝑍𝑉2(@𝑈𝑅𝑇)に変換してみると

数式52

となり、よかった…。端子𝑉2から見たインピーダンスに関連する式(36)と同じ結果が得られました。でも、ここまでの導出には、相当な時間を要してしまいました(汗)。

 

開ループ利得が有限な場合の結果を検証する

ここまでで分かったこととして、端子𝑉2(電圧𝑉U2𝑜𝑢𝑡)から見たアドミッタンスである式(48)[その要素は式(49)、式(50)でもあります]は、図 2 のように「4 素子のアドミッタンスの並列接続」として

数式53-55

 

図 2. 開ループ利得が有限な場合のGIC回路のモデル
図 2. 開ループ利得が有限な場合のGIC回路のモデル

 

最後のひとつは開ループ利得に影響を受けない部分で

数式55-2

[ここで式(51)の導出過程を用いれば]

数式56

とモデル化できることが分かりました。

GIC回路の入力端子で得られるインピーダンス𝑍𝑖𝑛は、この合成アドミッタンスを逆数にしてインピーダンスとし、さらにこれに𝑍1を直列接続したものとしてモデル化できることになります。

𝐴U1と𝐴U2が無限大であれば、式(53)から式(55)のアドミッタンスがゼロとなり、式(56)のアドミッタンスのみがノン・ゼロとして得られます。しかし𝐴U1と𝐴U2が有限だと式(53)から式(55)のアドミッタンスが大きくなり、これがGIC回路の入力インピーダンス𝑍𝑖𝑛を変化させてしまいます。

 

科学技術計算ソフトウェアで検証してみる

図2に示した式(53)から式(56)の並列接続に𝑍1を接続した𝑍𝑖𝑛の計算式が本当に正しいかどうか(GIC回路の入力インピーダンス𝑍𝑖𝑛になるかどうかを)検証してみます。図 3は前回のTNJ-070の図 10で紹介した GIC 回路で FDNRを構成したものを、計算式による数値計算とぴったり答えを合わせるため OPアンプを理想化Laplaceモデルとしたものです。パラメータは前回のTNJ-070の図 10のOPアンプと同じになるように、開ループ DC 利得 Avol(DC) = 10M(1E7 = 1×107)、利得帯域幅 GBW = 100MHz に設定します。そのため Laplaceモデルでは

laplace(1E7/(1+s/62.83))

とします。1+s/62.83 が 10Hz のドミナント・ポール(開ループ利得が-3dB になるポイント)を決める部分となり、これで利得帯域幅 GBW = 100MHz になります。バイアス抵抗𝑅7も 1TΩとして、影響が出ないようにしてあります(このバイアス抵抗の影響については、次回の TNJ-072 で詳しく検討してみます)。

LTspice による図 3 のシミュレーション結果を図 4(大きさ)と 図 5(位相)に、科学技術計算ソフトウェアを用いて図 2 の数式 モデルに図 3 の素子定数を代入し数値計算したものを図 6(大きさ)と図 7(位相)に示します。それぞれぴったり同じになっ ていることが分かります。数式モデルの導出は正しかったよう です。

図 3. TNJ-070 の図 10 の OP アンプを Laplace モデルに変換してみた GIC 回路(LTspice シミュレーション・モデル)
図 3. TNJ-070 の図 10 の OP アンプを Laplace モデルに変換してみた GIC 回路(LTspice シミュレーション・モデル)

 

図 4. 図 3 の𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(大きさ) の LTspice シミュレーション結果
図 4. 図 3 の𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(大きさ) の LTspice シミュレーション結果

 

図 5. 図 3 の𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(位相) の LTspice シミュレーション結果
図 5. 図 3 の𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(位相) の LTspice シミュレーション結果

 

図 5. 図 2 の数式モデルにおいて図 3 の素子定数を用いて数値計算した、𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(大きさ)
図 5. 図 2 の数式モデルにおいて図 3 の素子定数を用いて数値計算した、𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(大きさ)

 

 

図 6. 図 2 の数式モデルにおいて図 3 の素子定数を用いて数値計算した、𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(位相)
図 6. 図 2 の数式モデルにおいて図 3 の素子定数を用いて数値計算した、𝑍𝑖𝑛から見た FDNR インピーダンス(位相)

 

 

ここで恐ろしいこと(?)に気づく

ここで恐ろしいことに気がつきました(笑)。式(53)から式(56) の分母に

数式56-2

という「ゼロ」になる可能性のある要素があるではないですか!𝑍3𝑍5 = 𝑍2𝑍4であれば、OP アンプ U1, U2 の開ループ利得がどんなに大きくても、式(53)から式(56)のアドミッタンスがゼロになりえません…。

でももうすこし落ち着いて考えてみると、𝑍3𝑍5 = 𝑍2𝑍4であれば式(1)は

数式57

という単純な結果になり、GIC 回路を使用する必要もありません。また素子定数が変わっても𝑍1と同一の周波数変化特性を維持したいのであれば、𝑍3𝑍5:𝑍2𝑍4が一定となるように素子定数 を設定する必要があり、ここでも素子の選び方に大きな制限ができることになります。これで一安心(?)ですね。

 

重ね合わせの理は本当に有益だ!

このように重ね合わせの理を用いることで、たいへん見通しの良い数式導出ができることを確認できました。重ね合わせの理の解析能力(?)をあらためて思い知った感じでしょうか。相当な「強み」をもつ定理ですね。

式導出の途中(先に示したように、年末押し迫った深夜の自宅)では答えが出ないかなとビクビクしていましたが、なんとか正 しい答えを導出できました。導出できたのはその数日後の大みそか、紅白歌合戦終了時でした。さらに図 5 と図 6 で結果を確認できたのは、新年 3 日でした…。年末年始ずっと相当ウンウン唸っていましたが、よかったです(笑)。

 

次回予告

次回はこの FDNR 型フィルタ・シリーズの最終回として、このフィルタを活用するうえでのより深いところを考察してみます。とくに、FDNR 型フィルタが高い Q を実現できるため高度なフィルタに適している、という話題を深掘りしてみます。

なお、今回の技術ノートの最初に示した「強みは弱み」についても、ヨタ話しとしてより深くダイビングし、「SWOT分析」 や「クロスSWOT」というもの(フレームワーク)を通じて説明し、それから(本論である)FDNR型フィルタのバリュー提案までもっていきたいと思います。

参考資料

[1] PEST 分析の具体例, RICOH のダイレクトマーケティング,https://drm.ricoh.jp/lab/glossary/g00023.html

[2] 特集 フィルタの設計と使い方, トランジスタ技術SPECIAL No.44, CQ 出版社

[3] 石井 聡; OP アンプ回路に「はまりすぎる」重ね合わせの理…… それを「ディファレンス・アンプ」で考えてみる, TNJ-035,回路設計 WEB ラボ, アナログ・デバイセズ

[4] 重ね合わせの原理 _( 電気回路 ), Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/重ね合わせの原理_(電気回路)

石井 聡の写真

石井 聡

1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多岐の電子回路の設計開発を経験。また、外部団体主催セミナーの講師を多数務める。