TNJ-047:LTspice でサレン・キー型フィルタ(第4回)「因数分解された2 次式が1段の2 次LPF に変換できるしくみを考える(後編)」

はじめに

書きはじめてみると、本当に何冊続くか分からない…、なんという、先の見えない展開になってきています。ということで、サレン・キー型LPF に関するフィルタ・シリーズの4 冊目です。

フィルタ・シリーズのここまで、TNJ-044 とTNJ-045 では、サレン・キー型LPF とRLC 型2 次LPF が等価であることを説明し、その伝達関数の𝑄値と極について、また極が複素数になったときに複素数平面上で極がどのように表されるか、そして昔に学校で習ったとか教科書で見た、実回路とは到底結びつきそうにもない、「システム(回路)の伝達関数多項式」が現実の回路とどのようにつながるかについてご説明いたしました。

1 次RC フィルタと2 次RLCフィルタを、バッファを通して接続していくことによって、その伝達関数が「理解不能だった伝達関数多項式となるのだ」ということがご理解いただけたのではないかと思います。なお分母が多項式になる例だけしか示していませんが、分子が多項式になるものは「ゼロ(零)」という、「極」とは異なる振る舞いをするものです。この件については、稿をあらためてご説明したいと思います。

また前回の技術ノートTNJ-046 では、𝑄 > 0.5の条件のときの分母多項式をイコール・ゼロとした解(これを「根」と呼びます)、つまり極が複素数のとき、それが複素数平面でベクトルとして表され、極と観測角周波数との間のベクトルが動いていく状態が、伝達関数の周波数特性に関係してくると説明してきました。

ここまで分かったところで、今回の技術ノートでは、このベクトルがフィルタ特性としてどのように構成されているかについて、具体的にグラフで検討してみます。ここまでの説明の全てが確かにつながっていることに気がつかれると思います。

 

この技術ノートの目的は…

ひとつ前のTNJ-046 とこのTNJ-047 でご紹介する内容のゴールを最初に示しておきます(TNJ-046 の一部再掲)。

  • 任意のカーブをもつ分母多項式を因数分解していくと、1次式と2 次式に分解できる
  • この2 次式 の部分は、RLC 型とバッファや、サレン・キー型の2 次LPF 1 段で、1 次式の部分はRC 型1 次LPF1 段で実現できる
  • これらのフィルタをバッファを通してカスケード(従属)接続していけば、その任意のカーブの多項式の特性をもつフィルタが実現できる
  • そこでこの技術ノートでは、2 次式の根である、「極」の複素数平面上での配置と、信号伝達特性がどのように関係しているかを知る
  • TNJ-046 で説明した、実際のLPF を構成するパラメータ𝑄とω0を極から得て
  • パラメータ𝑄とω0さえ分かれば、RLC 型やサレン・キー型の2 次LPF を設計できる(TNJ-044 で示した関係により。これはまたTNJ-048 で詳しく見てみます)

掛け算、足し算といえば電卓だが、実務電卓をなめてはいけない!

このフィルタ・シリーズ技術ノート全体の底流を流れるものが「2 次LPF の伝達関数をそれぞれ掛け算したものが、理解不能だった伝達関数多項式となる」ということです(位相特性は足し算になります)。これはひとつ前のTNJ-046 でもお話しし、そこでは図1 として「人生の伝達関数は因数項ごとのかけ算である」なんて格言をご紹介しました。

「掛け算・足し算」といえば、電卓を思いつきます。しかし「電卓」だなんて、ふと考えれば面白い用語です。「電(でん )」「卓(たく)」ですよ…(笑)。「電動で動く座卓ですか?」「全自動マージャン卓ですか?」だなんてことを言う人はいませんよね…(笑)。「電子式卓上計算機」が正式表記ですが、日本工業規格でもJIS B0117 で、用語「電卓」として標準化しているのですね![1]

tnj047_01
図1. 「掛け算・足し算」といえば実用電卓だが… 技術者はその機能をなめてはいけない

 

実用電卓をなめてはいけない

私たち技術者は関数電卓を用いる人がほとんどでしょう。しかし一般の人は図1 のような実用電卓を使うものと思います。経理の人とか、すごい勢いで電卓を打っているのを見ることがありますよね(あれも驚異的です)。そういう人向けに一般社団法人日本電卓技能検定協会で、電卓技能検定[2]というものが実施されています。

さて、図1 の実用電卓はとある試験の受験用に私が購入したものです。カシオの12 桁電卓ですが、ネットで十分に吟味して購入しました。税理士試験や簿記検定などでもパフォーマンスを発揮できるように、入念に仕様決定・設計されたもののようです。たしかにとても使い易い!キーは打ちやすいし、3 キー・ロールオーバで高速入力にも対応(って、私は無理ですが…)。

「実用電卓って、単純な四則演算だけだろう」と(私も含めて)思っている人が多いと思いますが、多くの実用電卓は

  • 〔×〕や〔÷ 〕の2 度押しで係数計算ができる
  • 計算結果の1/𝑥(逆数)の計算を〔A + B = ÷÷ 1=〕で計算できる
  • (1 + 𝑥)𝑁(ただし𝑥は利回り、𝑁は正の整数かつ10 程度まで)の複利計算を税率ボタンで計算できる
  • 税抜ボタンで1/(1 + 𝑥)𝑁(ただし𝑥は利回り、𝑁は正の整数かつ10 程度まで)の現在価値を計算できる
  • 今更知ったが〔GT〕ボタン(Grand Total)で各計算結果のΣを得られる
  • メモリ機能も(当然ながら)上手く使えば便利に計算できる

などといろいろな機能(キー手順はメーカによって異なります)をもっており、これらを組み合わせることで結構複雑な計算もこなせます。

建築士試験(製図)も前は関数電卓持込可だったようですが、現在では実用電卓のみになっています。

 

2 次LPF の伝達関数のうちひとつの極の1 次伝達関数をプロットしてみる

前回のTNJ-046 の式(19)の振幅伝達特性と式(20)の位相特性を再掲します。式(19)の伝達関数𝐻(𝑠)の振幅伝達特性は

tnj047_e01

おなじく式(20)の伝達関数𝐻(𝑠)の位相特性は

tnj047_e02

ここで𝑄 = 1, 2, 4の3 条件で計算してプロットしてみましょう。極𝑠𝑝−

tnj047_e03

でした。ω0 = 1だと正規化して、またルート内を正にして(二項をひっくり返して)虚数単位をルートの外に出すと

 

Q Re(実数部) Im(虚数部)
1 -1/2 tnj047_t01-1
2 -1/4 tnj047_t01-2
4 -1/8 tnj047_t01-3
表1. 𝑄 = 1, 2, 4のときの𝑠𝑝−の実数部と虚数部(ただしω0 = 1としている)
tnj047_02
図2. 極𝑠𝑝−についての式(1) の振幅伝達特性
tnj047_03
図3. 極𝑠𝑝−についての式(2)の位相特性

tnj047_e04

これで𝑄 = 1, 2, 4の3 条件で計算してみると表1 のようになります。この条件でそれぞれ観測角周波数を変化させてプロットしてみます。

ここは周波数𝑓で考えるほうが理解しやすいかもしれませんが、ここまで角周波数としてω0 = 1 rad/sec と正規化していましたので、角周波数ω = ±10 rad/sec(周波数なら𝑓 = ±10/2𝜋 Hz)の範囲で計算します。式(1)の振幅伝達特性の計算結果を図2 に、式(2)の位相特性の計算結果を図3 に示します。

この図2 をみてみると、1 次式にした結果のピーク位置(角周波数)は、𝑄ごとに異なっていることにも気がつきます。ピークは|𝑠| = Im(𝑠𝑝−)になるところに立つからなのですね。しかしこれでは「なんだか腑に落ちないプロットだな」と感じるかと思います。その説明を以降でしていきたいと思いますが、もう暫くガマンしてお付き合いください…。

 

もうひとつの極による伝達関数もプロットしてみる

つづいてもうひとつの極である𝑠𝑝+についても同じように計算してみます。𝑠𝑝+

tnj047_e05

です。ベクトルの長さは

tnj047_e06

となります。ここで振幅伝達特性

tnj047_e07

を図4 に、位相特性

tnj047_e08

を図5 にプロットしてみます。ここでプロットする角周波数範囲は図2、図3 と同じです。こんどはプラスの角周波数側にピークが立っていますね。しかし「これもまた、なんだか腑に落ちないプロットだな」と感じるかと思います。もう暫く…、もう暫くガマンしてお付き合いください…(すいません)。

tnj047_04
図4. 極𝑠𝑝+についての式(7)の振幅伝達特性
tnj047_05
図5. 極𝑠𝑝+についての式(8)の位相特性

 

2 次LPF の伝達関数をそれぞれの極の1 次伝達関数の従属接続:「掛け算」として考える

図6(TNJ-046 の図4 再掲)のとおり、𝐻(𝑠)は𝐻+(𝑠)と𝐻(𝑠)とのカスケード(従属)接続になりますので、以下のようにそれぞれが掛け算される関係になります〔TNJ-046 の式(16)再掲〕。これは前回のTNJ-046 図1 の格言と同じです(笑)。

tnj047_e09

𝐻(𝑠)の振幅伝達特性は

tnj047_e10

そして位相特性は「足し算」となり

tnj047_e11

tnj047_06
図6. ふたつの極をもつ2 次伝達関数をふたつの1 次伝達関数の従属接続に分解する(TNJ-046 の図4 再掲)
tnj047_07
図7. 全体の伝達関数の式(10)で表される振幅伝達特性
tnj047_08
図8. 全体の伝達関数の式(11) で表される位相特性

 

グラフを作画して全体の伝達関数の特性をみてみる

先の式(10)と式(11)で示した関係を用いて、これまでの図2~図5 の計算結果を、

  1. 振幅伝達特性については、ふたつの1 次伝達関数の絶対値(大きさ)を掛け算〔式(10)の考え方で〕して図7 に
  2. 位相特性については、ふたつの1 次伝達関数の位相特性を足し算〔式(11)の考え方で〕して図8 に

それぞれプロットしてみます。

ここでも式だけだと実感が湧かないと思いますので、どんどんグラフ上にプロットしていきましょう。

しかし「これでもまだ腑に落ちないプロットだな」と感じるかと思います(汗)。そこで横軸をプラスの周波数のみにして、また対数軸表記にしてみます。振幅伝達特性は縦軸をdB に変更しました。これを図9 と図10 に示します。

 

こうすると「おお!」

おお!こうすると、フィルタ・シリーズ最初のTNJ-044 の図5のRLC 型2 次LPF の振幅特性(図11 として再掲)と図6(図12 として再掲)と全く同じカーブになっていることが分かります。図11、図12 では横軸の単位は「周波数」[Hz]、図9 と図10 の横軸の単位は「角周波数」[rad/sec]ではありますが。

tnj047_09
図9. 全体の伝達関数の式(10)で表される振幅伝達特性 (図7 を作画しなおしたもの。横軸は対数軸表記、縦軸はdB 表記)
tnj047_10
図10. 全体の伝達関数の式(11) で表される位相特性(図8 を作画しなおしたもの。横軸は対数軸表記)
tnj047_11
図11. TNJ-044 の図5 再掲。2 次RLC 型LPF の振幅伝達特性(𝑄= 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5)
tnj047_12
図12. TNJ-044の図6再掲。2次RLC型LPFの入出力位相特性(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5)
tnj047_13
図13. LTspiceで作るラプラス・モデル

 

ここまでの考え方を再検証してみる

ここまで色々と説明してきた考え方を再検証してみましょう。

 

LTspiceでラプラス・モデルを構成してみた

LTspiceでも、Laplaceモデルを使って図13のような2次伝達関数を表す回路を作ってみました。LTspiceでは虚数(複素数)は使えないようで、そのため図6の下側の1次式の縦続接続モデルではなく、2次式としてのモデルで表しています。

結果を図14に示します。図11や図12と異なり、ω0=1 rad/sがカットオフ周波数となるため、横軸(周波数軸)は図10までと同じ条件になりますが、これまでの全てが符合していることが分かります。

 

直流で考えると伝達関数 = 1になる(ベクトル図で考える)

LPFであれば、周波数𝑓=0 Hzつまり直流(𝑠=0)のときには、伝達関数𝐻(0)=1になります。これは直感的にも理解できるものです。この一番基本的な視点がここまでの説明で成り立っているかを検証してみましょう。

周波数𝑓=0 Hzでは、𝑠=𝑗0になります。そうすると前回のTNJ-046の図5から図7を書き直した図15において、𝑠=𝑗0は虚数軸の中央、つまり直交座標の交点になります。𝑠𝑝+と𝑠𝑝−の位置からのベクトル𝐷+(𝑗0)と𝐷_(𝑗0)は図中の青矢印となります。また𝑠𝑝+と𝑠𝑝−の位置は、中央から半径1の円上(だだしここではω0=1としているため)にありますので、ベクトルの長さは

tnj047_e12

これから

tnj047_e13

となっていることが分かります。

tnj047_14
図14. 図13のシミュレーション結果
tnj047_15
図15. 周波数𝑓=0Hzのときの振幅伝達特性を図から考える

 

直流で考えると伝達関数 = 1になる(式で考える)

また式(1)や式(7)で、𝑠=𝑗0での絶対値を考えると

tnj047_e14-16

これらから「直流での伝達関数、つまり振幅伝達特性は1」という、LPFの「至極あたりまえ」と考えられる事実を、図や式で確認することができたわけです。また伝達関数として、正しく直流で伝達関数 = 1になるようにするには、2次式を ω𝟎𝟐倍してゲインをスケーリングする必要があるということも注意が必要です。これはTNJ-046の式(3)

tnj047_e17

の分子に定数ω02があることや、これまでの説明からも分かります。

 

まとめにかえて

 

任意の周波数特性は1次式と2次式に分解される

任意の周波数特性の伝達関数の式

tnj047_e18

が与えられたとします(添え字の𝑛は多項式の次数です)。ただしここでは、分母にのみ多項式があるものに限定します。このような分母多項式で、任意のカーブを表すことができます。このカーブが「LPFのフィルタ特性」に適用されるということです。

これを因数分解していくと、これまでのフィルタ・シリーズ技術ノートの説明のように

tnj047_e19

として、それぞれの因数まで完全に分解される前に「1次式となる部分」と「2次式になる部分」ができることになります(添え字の𝑞,𝑟は単なるそれぞれのインデックス)。この1次式となる部分はRCによる1次RCフィルタ(とバッファ)で構成できることになります。

 

2次式の部分をアクティブ・フィルタで実現する

式(19)で2次式になる部分は

tnj047_e20

として「根が共役複素数となるふたつの1次式」に因数分解されますが、この2次式の部分はRLC型LPF回路で構成できることになります。このRLC型LPFをサレン・キー型などのアクティブ・フィルタ回路で

tnj047_e21

ただし

tnj047_e22

また

tnj047_e23

をパラメータとして組めば、RLC型LPFの特性を等価的に実現できます。ただし先に示したように、直流で伝達関数 = 1になるように2次式を ω02倍して、式中のゲインをスケーリングする必要あります。

このふたつのパラメータω0と𝑄と、実際の回路定数との関係は、TNJ-044の式(1)、式(3)、式(4)から求めることができます。次のTNJ-048では、このなりたちを詳しく確認してみます。

1次フィルタ(バッファを通したもの)と2次フィルタをカスケード(従属)に接続していけば、結果的に式(19)、もとをたどれば式(18)の伝達関数特性をもつフィルタ回路を組めることになるわけですね。

なお任意のフィルタ特性を実現する場合で因数分解するには、解析的に(数式で)根を得るのではなく、数値計算で計算することが実際です。なおバタワース特性やチェビシェフ特性では解析的に(数式で)根を得られます。

 

回路解析において非常に基本かつ重要なポイント

ここまでの説明で用いられた、回路解析で使える非常に基本かつ重要なポイントをあらためて説明しておきます。図16のように

  • 各ブロック間でインピーダンスの結合が無視できる(ブロック間はバッファを介して接続した)場合に
  • 全体の振幅伝達特性はそれぞれの振幅伝達特性の掛け算
  • 全体の位相特性はそれぞれの位相特性の足し算
  • 数式として考えれば、1次フィルタは1次式、2次フィルタは2次式となり、それらが乗算されたものとして全体の伝達関数が得られる

ということです。繰り返しますが、これは回路解析(とくにフィルタ解析)において非常に基本かつ重要なポイントです。

 

LCパッシブ・フィルタの場合は

このフィルタ・シリーズ技術ノートではお話ししていませんが、同じフィルタでもLCパッシブ・フィルタ(これまで説明したようなバッファを用いないもの)の場合は、回路構成方法の考え方が異なります。

ここまでの説明のように、1次式、2次式と分解していくというより、RLCの直並列接続、つまり「ラダー(はしご)回路」として、「連分数展開」という考え方を用いて素子定数を得ていきます。

 

最後に次回予告

ようやく「分母多項式で表された任意のカーブのフィルタ特性をサレン・キー型LPFに変換させるためには」という議論の、非常に俯瞰的な話題について、4冊の技術ノートを使って説明できました。

次の技術ノートではサレン・キー型LPF自体について、その素子定数とパラメータ𝑄とω0の関係について、なりたちを深く考えてみたいと思います。

実はそろそろこの技術ノート・シリーズの最初であるTNJ-044にお話しした、「とある日のとある方との、とあるメールのやりとりで、横道の興味が湧いてきました」ということもお話ししていきたいと考えてはいますが、まだそこには到達できそうもありません…。実は次々回のTNJ-048でそれを狙ってはいるのですが…。

それこそ、何冊続くか分からない…、なんという、先の見えない(いいかげんな?)サレン・キー型LPF技術ノート・シリーズです…。

tnj047_16
図16. 全体の伝達関数で振幅は掛け算、位相は足し算になる

参考資料

[1] https://ja.wikipedia.org/wiki/電卓

[2] http://dentaku.or.jp/500/index.html

Satoru_Ishii

石井 聡

1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多岐の電子回路の設計開発を経験。また、外部団体主催セミナーの講師を多数務める。