TNJ-030:
トランスのM結合とはナニモノでどのように測るか

後編:買ったローコストLCメータで実際にやってみた

2017年5月1日公開

はじめに

これまでのふたつの技術ノート、まずTNJ-028(前編)では、トランスのM結合の測定方法に関して、その理論的な面とそれを確認するためのシミュレーション結果についてご説明しました。また次のTNJ-029(中編)では、TNJ-028で見てきた理論的な観点を実際に確認してみるために購入した、ローコストLCメータのしくみと性能を調べてみた、という内容でした。LCメータの購入の顛末、そしてそのLCメータで実現されているノウハウや関連情報もご紹介してきました。

この技術ノートTNJ-030は、その後編としてご提供するものです。これまで見てきた理論的な観点を、私が購入したローコストLCメータで実際に測って確認してみた、という内容です。

 

トロイダルコアの考え方とトランスの構成

トロイダルコアで得られる自己インダクタンスを簡単に計算できるAL

実験に使ったトロイダルコアFT-50-43(詳細は以降に説明します)を図1に示します。

トロイダルコアにはAL値というものがあり、これは「インダクタンス係数」「1ターンあたりのインダクタンス」「1平方ターンあたりのインダクタンス」とか呼ばれるようです。この単位は「H/巻数2」で、このAL値から自己インダクタンスL

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として求めることができます。ここでNは巻数です。

ここでは図1のとおり、アミドン社(Amidon Associates, Inc.)のFT-50-43というトロイダルコアを用いていますが、このA_L値はデータシート上では440mH/1000 turns(参考文献[1]参照)であり、「1000回巻き(turns)」で設定されています。形成されるインダクタンスLは巻数の自乗となりますので、

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で計算できます。ここでALは(さいしょの定義と異なりますが)データシートに規定されている「NSPEC回巻いたときのAL値」、NREALは実際に巻いた数です。

ところで「N_REALはどう巻いた状態でひと巻きと考えるか?」というFAQがあります。そういう私も昔は「?」だった覚えがあります。この答えはリード線をコアの中を通過させた数になります。図1のようにすれば、これがN_REAL=1に相当します。

この「中を通せば1回」というのは、なぜか?と感じるかと思います。これは図2のように、高校の物理でやった「右ネジの法則」のとおりであり、それを考えれば「中を通せば1回」の原理もお分かりいただけるかと思います。


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図1. 実験に使用するトロイダルコアFT-50-43と
それに1回巻きしたようす


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図2. 「中を通せば1回」の原理を「右ネジの法則」から考える

 

ところで、思い起こしてみれば「アミドン」。それはアマチュア無線にはまりきっていた高校生の頃だったのかもしれません。当時、CQハムラジオ誌だと思いますが、「アミドンのトロイダルコア◎◎を…」という記事があり、「あみどん?」「網丼?」などと、一体それはナニモノという状態でしたが、その数年から十数年後に「アミドン社(Amidon Associates, Inc.)」という「会社名」ということを知ったのでした…。

 

トロイダルコアで得られる自己インダクタンスを「L/C Meter IIB」で測ってみる

さて、図3はトロイダルコアに10回巻き(コアの中を通す回数が巻数NREALになる)にしたものです。これから自己インダクタンスL= 44μHと計算できます。

なお、トロイダルコアは磁気飽和(BHカーブ)があります。そのため、どんな電流量を流してもこの自己インダクタンス値Lが得られるというものではありませんので、注意が必要です。

それではFT-50-43に10回巻きしたインダクタの自己インダクタンスを「L/C Meter IIB」で測ってみましょう。このようすを図4に示します。37.8μHで、-14%のずれです。公差についてはアミドン社のホームページには記載が無いようですが、参考資料[2]によると、このトロイダルコアのA_L値の公差は±20%とのこと…。ぼちぼちいい感じというところでしょうか。

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図3. 実験に使用するトロイダルコアFT-50-43に10回巻きした

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図4. FT-50-43に10回巻きしたインダクタンスを
「L/C Meter IIB」で測ってみた

 

トロイダルコアに対するリード線の適切な巻き方は「コアに均一になるように巻きつける」ことです。図3もそのように巻いてあります。コア一周にわたって均一にリード線を巻きつけることで、リード線から発生した磁束とコアとの結合度が良好になります。

また物理的に動かないように、きつめに巻きつけることも重要でしょう。

 

トロイダルコアのトランスの巻き方

図5はいよいよ本番となりますが、トロイダルコアFT-50-43に巻いてみたトランスです。これはバイファイラ巻き(Bifilar Winding)と呼ばれる巻き方で、このBifilerは「2つの繊維を持った、または使った(Weblioより)」という意味です(というより、だそうです)。このように2つの銅線を「十分に、よく撚(よ)って」、密に結合することによって、それぞれの相互インダクタンス(結合係数)を高めるようにします。コアに対して均一に巻きつけることもここでもポイントです。

図5を見て、一次側巻線の磁束がほぼすべてトロイダルコアの内部を通り抜け、そのほとんどが二次側巻線と鎖交することで、高い結合係数が得られそうだということは直感的に気がつくと思います。

ところで銅線3本で巻くことをトリファイラ巻き(Trifiler Winding)といいますが、Trifilerというのは正式な英語には無い、一種の「造語」のようです。しかしBifilerという単語さえも、オックスフォード現代英英辞典; Oxford Advanced Learner’s Dictionary 7th Edition(単語辞書部分で2010ページのもの)に載っていないのです…。ラテン語から来ているようですが、銅線4本で巻くのであればクワッドファイラ巻き(Quadfiler)、銅線5本で巻くのであればクイントファイラ巻き(Quintfiler)というのでしょうかね…(笑)。そういえば「クインテット」は5人組のことですよね。


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図5. トロイダルコアにバイファイラ巻き(10回)したトランス

 

いよいよ本題!買った「L/C Meter IIB」でトランスのM結合を測ってみた

それではいよいよ本題(といいつつ、ここまで複数の技術ノートを通して、何ページを消費したのか…)です。

 

いよいよ実際に測ってみる

ということで(溜息)、図5のトランスを実際に測ってみました。測定方法はふたつ前の技術ノートTNJ-028の図10(片側の巻き始めと反対側の巻き終わりを接続して、一次・二次を直列接続。本技術ノートに図6として再掲)、図12(両側の巻き終わり同士を接続。同じく本技術ノートに図7として再掲)で示した方法です。

図6の測定方法による結果を図8に示します。150.8μHと読めます。つづいて図7の測定方法による結果を図9に示します。0.198μHと読めます。図8と図9の結果の差異は大きいです。

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図6. 相互インダクタンスMを求めるための
シミュレーション用の回路「その1」
(TNJ-028の図10再掲)

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図7. 相互インダクタンスMを求めるための
シミュレーション用の回路「その2」
(TNJ-028の図12再掲)

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図8. 図6の「その1」の結線でインダクタンスを測ってみる

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図9. 図7の「その2」の結線でインダクタンスを測ってみる

結果を解析してみる

ここまで測定した二つの結果、TNJ-028でいうところのLCN1,LCN2は、

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となりました。これをもとにTNJ-028での式

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からM = 37.4705μHが得られることになります。さらに

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からL = 37.5695μHが得られることになります。このLの大きさと、図3、図4で得られた自己インダクタンス37.8μHとはかなり近い値だということも分かります。

結合係数kは、L1=L2=L = 37.5695μHだとすると、

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からk = 0.9974というこたえも得られ、高い結合係数をもつトランスになっていることも分かります。

 

インピーダンス測定といえばAD5933が…!

ここまで「L/C Meter IIB」というローコストLCメータを用いて容量計測の実験をしてきましたが、アナログ・デバイセズでも意外な製品があります。それも「インピーダンス・コンバータ」というもので、インピーダンスをデジタル値に変換(コンバート)してくれるものです!

 

AD5933 : 12ビット、インピーダンス・コンバータ、1MSPS、ネットワーク・アナライザ

【概要】
AD5933は、高精度インピーダンス・コンバータのシステム・ソリューションで、周波数発生器と1MSPSの12ビットA/Dコンバータ(ADC)を内蔵しています。周波数発生器では、既知の周波数で外部の複素インピーダンスを励起することができます。インピーダンスからの応答信号は内蔵のADCでサンプリングされ、内蔵のDSPエンジンで離散フーリエ変換(DFT)が行われます。DFTアルゴリズムは、各出力周波数で実数(R)と虚数(I)のデータワードを返します。

 

測定方法は「L/C Meter IIB」とはだいぶ異なる

AD5933の測定方法はここまで見てきた「L/C Meter IIB」とはだいぶ異なります。データシートをご覧いただくと詳細もご確認いただけますが、基本的には以下の手順で行います。

  1. DDS(ダイレクト・デジタル・シンセサイザ)で測定励起周波数を発生させる
  2. DUTにその信号を電圧として加える
  3. DUTから流れ出る電流量をIV変換し、電圧値としてAD変換する
  4. AD変換した値を、離散フーリエ変換を用いて、当該測定周波数でのインピーダンス値をその実数部(Real Part)、虚数部(Imaginary Part)として得る

このようなかたちでAD5933ではインピーダンス測定を行いますので、L/C Meter IIBの実験で説明したような、抵抗成分が含まれることでの精度誤差などが生じません。この抵抗成分(純抵抗)も含め、インピーダンス値として答えが得られるからです。これにより安定した測定が可能なシステムが実現できます。

またL/C Meter IIBは原理的に共振を利用しており、単一の周波数での測定しかできません。これまでの式から分かるように、被測定インダクタンスに付加容量がつくことにより(もしくは被測定容量に付加直列インダクタンスがつくことにより)、正確には測定できないわけなのです…。

これは単一周波数で測定する測定方法、もしくはAD5933で、単一周波数で測定する場合も同じなのですが、AD5933で励起周波数を変えて、インピーダンスの変化を測定していくと、これらの付加容量/付加インダクタンスも見つけることができるわけです。この考え方は市販のネットワーク・アナライザも同じです。

 

そういえば「アナログ技術セミナー2013」でもAD5933を使っていた

このAD5933は「アナログ技術セミナー2013」でも、「産業用計測技術(複素インピーダンス計測・重量計測)」というセッションで私がご紹介したものでありました。

図10にそのときのスライドの一部をご紹介して、この技術ノートを終わりにしたいと思います。

図10. 2013年アナログ技術セミナーでおこなった
「インピーダンス計測」セッションのスライド。
AD5933を題材にしている



参考文献
[1] Amidon Tech Data, Ferrite Material, Ferrite Toroidal Cores , 2-08 Physical Dimensions and AL Tables
[2] Specs for FT50-43 RF Toroids

 

 

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石井 聡

1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多岐の電子回路の設計開発を経験。また、外部団体主催セミナーの講師を多数務める。