「ポップコーン現象」にご用心!

質問

製品の不良解析を行ったときに、腑に落ちない問題に遭遇しました。電気的には十分な対策を施しているはずなのに、フォトカプラが壊れてしまっていたのです。どのような原因が考えられるでしょうか?

 

 

回答

質問者が遭遇した問題とは、次のようなものでした。

産業用の機械装置に実装したフォトカプラが故障してしまっていたというのです。そのフォトカプラの入力電流は2mA、電流伝達率(CTR:Current Transfer Ratio)は15%程度です。電源電圧は24V<sub>DC</sub>で、5m~10mほどの配線で装置が備えるシリンダ・センサなどに接続されていました。プリント回路基板に実装した後にテストを実施しており、その時点では正常に動作していたということです。
ところが、稼働期間が1年ほど経過した段階で、出荷された5000台のうち、3台で同様の故障が発生してしまったのです。

破損したフォトカプラを確認した結果、LED側で断線が発生していることがわかりました。ただ、LEDには、10kΩの電流制限抵抗(定格電力は0.1W)を直列に接続するとともに、逆電圧を防止するための外付けダイオードを並列に接続していました。しかも、故障後の状態を確認したところ、これら2つの部品には特に異常は認められませんでした。

フォトカプラのLED部で断線が生じるというのは、決してよくあることではありません。それなのに、1年間で5000台のうち3台に故障が発生したということですから、何かしら大きな原因が存在したのだと考えられます。ただ、電流制限抵抗や逆電圧防止用のダイオードも適用していたので、過電流や逆電圧が原因ということではなさそうです。
ちなみに、静電気放電が印加された場合には、短絡故障かCTRの低下という形で問題が生じることが多いはずです。

このような理由から、電気的な問題が起きたということではなく、他の原因が存在したと考えられます。
例えば、熱や衝撃などの影響が考えられるということです。ただ、このフォトカプラを実装した基板は機械装置の内部に設置されており、周囲温度はせいぜい40℃程度までしか上昇することはありませんでした。また、強い衝撃が加わることも考えにくい稼働環境でした。

残る原因としては、製品の製造時にフォトカプラに何らかのストレスがかかり、徐々に断線のレベルにまで劣化が進んだということが考えられます。
実際、フォトカプラを含む半導体製品では、電気的な要因以外に、以下のような原因によって断線故障が発生することがあります。

 

  • ハンダ付けを行う際の温度や温度プロファイルの設定の不具合。それにより、半導体部品にストレスが加わり、リード・フレームと樹脂の間から湿気が侵入して断線に至ることがあります。
  • 実装時に加わる外力。例えば、マウンタの調整不良でクラックが生じたりすることがあります。
  • 多面付け基板においてV溝の部分で折る際に、基板上の部品に応力が加わり、クラックが入ることがあります。あるいは基板の取り付け方法に問題があり、基板が曲がってしまって不具合が発生することがあります。
  • 製品の設置場所の環境が非常に劣悪な場合に問題が生じる可能性があります。
  • 部品のパッケージングに問題があるケースが存在します。

 

上記のような情報を得た質問者は、故障品のX線解析を行いました。
その結果、リード・フレームからダイが剥離した状態になっていることがわかりました。基板単体でテストを行った段階では問題は見つからなかったので、ワイヤが溶断したということではなく、フィールドで稼動中にダイの剥離が徐々に進み、最終的には断線に至ったのだと考えられます。
いずれにせよ、最初にリード・フレームからダイが剥離した際には、かなり大きなストレスがかかっていたはずです。

このような故障の原因として最も可能性が高いのは「ポップコーン現象」です。
レジン・モールド・パッケージはミクロ的に見ると隙間だらけのものです。そのため、特段の対策を施すことなく放置していると吸湿してしまいます。
パッケージ内部の水分を十分に取り除くことなくハンダ・リフローなどを適用すると、その水分が急激に気化してしまいます。これがポップコーン現象です。

 

ポップコーン現象
(上:外部水分の吸収、下:熱で水分が膨張・気化)

 

この状況が生じると、ダイがリード・フレームから剥離してしまいます(ダイのデラミネーションと呼びます)。
ただ、ダイがリード・フレームから剥離しただけの段階では、ボンディング・ワイヤはまだつながっています。電気的な接続には問題がないので、この段階では半導体製品は正常に動作します。

しかし、チップの熱がリード・フレームに伝導しにくくなることから、ジャンクション温度が想定以上のレベルまで上昇してしまいます。その熱が原因で、ボンディング・ワイヤの接合部分の剥離といったさらなる不具合が生じることがあります。
また、ジャンクション温度が高くなりすぎると、チップ上の回路の信頼性にも影響が及びます。少しずつ特性が劣化したり、ある日突然動作しなくなったりといったことが起こり得ます。
なお、ポップコーン現象が生じた段階で、ボンディング・ワイヤの接合部まで一気に剥離してしまうこともあります。その場合、組み立て後のテストによって不具合が見つかるので、フィールドでの故障にはつながりません(もちろん、同じ製造ロットの製品については確認が必要でしょう)。

ポップコーン現象が起きるのは、主に湿度に対する管理が適切でなかったケースです。
特に、MSOPやSOTなどの小型パッケージでは注意が必要です。MSL(Moisture Sensitivity Level)が高い、つまりは吸湿に対してよりデリケートなものが多く、ハンダ付けの前のプリコンディショニング(高温処理によって内部の水分を排除する)が重要になります。

MSLでは、8つのレベルを規定しています。各レベルについては、完全なドライ・パッケージ(湿度に対する対策がなされた密封包装)から取り出して、24時間以内にハンダ・リフローを行うのであれば、プリコンディショニングは不要である、といったことが規定されています。
その規定どおりに扱えば問題はないはずですが、リール品などの場合、実装先の製造工程の都合により、1日で全数を使いきれなかったといったことが生じます。その場合、日を改めて残りを使うことになるでしょう。そのときには、MSLに照らしてプリコンディショニングを実施しなければなりません。
ところが、プリコンディショニングを怠って、そのまま実装してしまったといったケースが起こり得ます。

その結果、不具合が発生してしまうことがあります。また、ドライ・パッケージから取り出してすぐの状態でも、何らかの原因で内部の湿度インジケータが一定のレベルを超えていたら、開封後の経過時間によらずプリコンディショニングの実施が必要になります。

なお、振動や衝撃が原因で不具合が生じる可能性もゼロではありません。ただ、パッケージ内が中空のセラミック・パッケージやハーメチック・パッケージでない限り、そのようなことは起こりにくいはずです。
実際、そうしたパッケージを採用した製品で、衝撃によってダイが剥離したケースもあります。
ただ、これは振動や衝撃の問題というよりも、ダイ・アタッチの工程の不具合が原因で問題が起きた事例だと言えます。ワイヤやダイを引き剥がすような力が生じるのは、ポップコーン現象のようなケースが最も多いと考えられます

故障が発生した場合、様々な手法で解析を行うことになるでしょう。なかでも、部品を基板から取り外して顕微鏡などで観察してみるというのは非常に有効な手段になるはずです。
部品のメーカーに、故障の原因の解析を依頼すれば、ある程度のことはわかると思います。
ただ、そのような対応を図ってくれるかどうかはメーカー次第です。故障に関する解析を請け負う専門の業者も存在しますが、その場合、かなりの費用がかかります。都道府県の工業技術センターなどが、X線検査装置をはじめとする解析用の設備を有しているケースがあります。そうした機関に頼るのも1つの手です。


 

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