コンスーマの期待が牽引するデータ・コンバータ設計技術の進歩



アナログ・デバイセズ社 アナログ事業部高速コンバータ部門
プロダクト・マーケティング・マネージャ
Nitin Sharma(ニティン・シャーマ)

携帯電話、医用イメージング機器、コンスーマ向けエンターテインメント機器などのエンドマーケットでは、高性能へのニーズがますます高まっています。このニーズに対して、連続時間型シグマ・デルタ(CTSD:continuous-time sigma-delta)と呼ばれる新しいコンバータ・アーキテクチャを提案します。連続時間型シグマ・デルタは、高速動作、かつ、優れた分解能を可能とする技術で、そのメリットは多くのエンド・アプリケーションにもたらされることになるでしょう。たとえば、携帯電話基地局では、優れた分解能により極めて強い干渉信号を受けた環境下でも、微弱なセル信号を検知するとともに、広範囲なRFスペクトルをとらえることができるようになります。

医用イメージング市場、産業市場やコンスーマ市場において、非常に多種多様なエレクトロニクス機器が登場しています。これらの機器の基盤となるのが、データ・コンバータです。データ・コンバータは、デジタルX線装置、高精細TV(HDTV)、GPS機器やゲーム・コンソールをはじめとするあらゆる機器において、エンド・ユーザの体験を向上させる極めて重要な役割を担っています。

これまでは、超高解像度と超高速度を同じA/Dコンバータ(ADC)アーキテクチャで実現するのは、技術的に不可能だという仮定のもと、高分解能を実現するADCと、高い変換レート(すなわちサンプリング・レート)を実現するADCの2つのアーキテクチャが採用されてきました。たとえば、今日市販されている最高速のADCは、1GHzから2GHzの範囲でサンプリングしますが、分解能は通常8ビットが限界です。一方、18ビットや24ビットという高い分解能を提供するコンバータの場合、わずか1MHzから2MHzの範囲のサンプル・レートを提供するのも難しく、24ビットADCではさらに低速にならざるをえません。


ADCの現状:スピードと分解能のトレードオフ

連続時間型シグマ・デルタは、パイプライン型と逐次比較型(SAR型)ADCの性能を補完するアーキテクチャです。パイプライン型ADCは、数MHz以上のサンプリング・レートを必要とする場合に用いられます。パイプライン型ADCは、多段構造になっており、各段の回路は1ビットから数ビットの連続サンプルを同時に処理します。特定クロック・サイクルの各周期の終りで、各段の出力は次の段に引き渡され、前の段には新しいデータが送られてきます。最終のマルチビットは、各段のビット処理の結果を連鎖させることで得られます。過去数年、設計者はパイプライン型アーキテクチャの高サンプリング・レート化と高分解能化に取り組んできました。その結果、数MSPS(百万サンプル/秒)から100MSPS以上のサンプリング・レートで分解能が8ビットから16ビットのデバイスが入手できるようになりました。米国の調査会社データビーンズ社(Databeans Inc.)の調べによると、ADC市場におけるパイプライン型ADCのシェアは、40%以上に達し、CCDイメージング・システムや超音波医用イメージング・システムから、携帯電話基地局、HDTVのようなコンスーマ向けデジタル・ビデオ・アプリケーションにいたるさまざまなアプリケーションに広く使われています。

一方、SAR型ADCは、より高い分解能が必要とされるものの、サンプリング・レートは約10MSPS未満でも問題ないというアプリケーションに使われています。SAR型ADCは2進変換アルゴリズムにより、入力信号を収束します。SAR型ADCでは、急速に変化する信号を処理するために、入力サンプル&ホールド(SHA)機能を用いて変換サイクルの間、信号を一定に保ちます。

SARコンバータは、10MSPSまでのサンプリング・レートで、8ビットから18ビットの分解能を提供し、小型のパッケージ・サイズ、低ノイズや低消費電力が求められるシステムに広く用いられています。典型的なアプリケーションとしては、産業用制御、マルチチャンネル・データ・アクイジション・システム、携帯型/バッテリ駆動計測機器などがあげられます。データを高精度で、適度な速度で処理するSAR型ADCは、産業用システムと医用システムで重要な役割を果たしています。


パイプライン型とSAR型ADCの性能を補完する連続時間型シグマ・デルタADCアーキテクチャ

パイプライン型とSAR型ADCが、データ・コンバータ市場における主要な技術であることに、今後も変わりはないでしょう。一方、連続時間型シグマ・デルタADCは、この2つのアーキテクチャの性能を補完するADCで、パイプライン型ADCの広い帯域幅と優れた性能、SAR型ADCの低ノイズと低消費電力という特長を全て兼ね備えています。携帯電話基地局、医用機器、ビデオ機器、計測機器、試験・測定機器向けの新しいアプリケーションが次々と生まれていますが、そこで求められているのが、パイプライン型とSAR型の2つの方式の特性を組み合せたADCです。たとえば、MRIシステムなどの医用アプリケーションにおいては、より高精度な診断結果を得るためには、これまで以上に高い分解能が必要です。低消費電力特性は、あらゆるアプリケーションにおいてますます重要になっています。

連続時間型シグマ・デルタADCアーキテクチャは、パイプライン型とSAR型ADCの性能を補完する新しい技術です。この新技術は、オーバー・サンプリングとノイズ・シェーピングという基本性能に加えて、革新的な連続時間型ループ・フィルタ・アーキテクチャの導入により低ノイズと広帯域幅を実現します。

連続時間型シグマ・デルタADCアーキテクチャは、パイプライン型やSAR型デバイスと以下の点で異なります。

  • 連続時間型シグマ・デルタADCは、連続時間積分回路を用います。
  • 連続時間型シグマ・デルタADCのサンプリング処理は、ADCの入力部ではなく、量子化回路の中にあるループ・フィルタの出力部で行われます。
  • 連続時間型シグマ・デルタADCのループ・フィルタは、帯域内量子化ノイズを帯域外に押し出します。

これらの特長をもつ連続時間型シグマ・デルタ方式では、極めて低ノイズで広帯域の性能が達成できるのに加え、ADCの入力部にかかるフィルタ処理の負荷が軽減されます。

アナログ・デバイセズは、この新しいアーキテクチャを用いて、15dBのノイズ・フィギュアと、86dBのダイナミック・レンジで最高10MHzの帯域幅を提供するADCを開発しました。連続時間型シグマ・デルタ・アーキテクチャ独自の特長により、従来のシグナル・チェーンで用いられていたベースバンド・フィルタ、ドライバ・アンプや自動ゲイン制御が不要、もしくは必要な場合でも最低限度に抑えることができます。さらに、アナログ・デバイセズが開発した新デバイスは、プログラマブル帯域幅デシメーション・フィルタ、サンプル・レート・コンバータやクロック・マルチプライアをオンチップ集積しているため、シグナル・チェーンの簡素化とシステム・コストの大幅な節減に貢献します。連続時間型シグマ・デルタ・アーキテクチャによりもたらされる優位性により、システム設計者は、ワイヤレス・インフラストラクチャ、医用イメージング装置、産業/計測機器市場で使用されるさまざまなアプリケーション向けに、性能を大幅に強化したシグナル・チェーンを構築することができるようになります。

無線通信機器、産業/計測機器や民生用機器などの広範なエンド・アプリケーションにおいて急速に高まる高性能への要求は、システム設計者にデータ変換ICの選択という大きな課題をもたらしています。パイプライン型とSAR型アーキテクチャは、それぞれ性能面で明確な優位性をもっており、今後も、多くのアプリケーション向けADCの選択肢となるしょう。しかし、この2つのデータ・コンバータ・アーキテクチャの性能を補完する連続時間型シグマ・デルタ技術の出現により、より高性能で、より低コストのエンド・ソリューションが実現できます。