放射性EMIを極小に抑えた高効率の降圧 レギュレータ、42V入力で6Aの連続出力電流と7Aのピーク出力電流に対応

はじめに

LT8640S」と「LT8643S」は、モノリシックの降圧レギュレータです。コンパクトな基板レイアウトが可能であり、効率が高く、放射性EMIを非常に低く抑えているため、車載用途に最適です。

レイアウトの簡素化、EMIの低減、高い効率を実現するSilent Switcher 2

LT8640S/LT8643Sは、42Vの入力電圧、6Aの連続出力電流、7Aのピーク出力電流に対応するモノリシックの降圧レギュレータです。アーキテクチャとして、Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ) 2(第2世代のSilent Switcher)を採用していることを1つの特徴とします。Silent Switcher技術を適用したレギュレータは、高周波のホット・ループを2つに分割することにより、放射性のEMIを抑制します。分割された2つのループは、互いが生成する磁界を打ち消し合うからです。Silent Switcher2では、バイパス用のセラミック・コンデンサをパッケージ内に統合しています。それらのコンデンサは、高速ACループ(VIN、BST、INTVCC)内に配置されます。このことから、プリント回路基板のレイアウトと製造に関する要件が大幅に簡素化されます。逆に言うと、それらのコンデンサがなければ、EMI性能を確保するために、正確かつ再現性の高いプリント回路基板のレイアウトが必要になります。Silent Switcher 2によって、低コストの2層基板を使う場合でも、卓越したEMI性能を得ることができます。

車載アプリケーションでは、AM周波数帯を避けつつ、ソリューションのサイズを抑えるために、電源のスイッチング周波数を2MHz以上にすることが求められます。残念ながら、一般にスイッチング周波数を高くすると、効率は低下し、消費電力は増加します。したがって、設計を行う際には、効率をとるのか、それともサイズとEMI性能を重視するのかというトレードオフを強いられます。LT8640S/LT8643Sはこのようなトレードオフを取り払うものです。十分に制御された高速でクリーンなスイッチング・エッジにより、高いスイッチング周波数においても効率の向上と消費電力の低減を実現できます。

図1は、LT8640Sを用いて構成した降圧コンバータです。高い効率と極めて高いEMI性能を両立しつつ、12Vの入力から5V/6Aの出力を得ることができます。BIASピンを介して5Vの出力を内部のレギュレータに給電することにより、消費電力を抑えています。また、この回路のスイッチング周波数は2MHzにプログラムしてあります。スペクトラム拡散モードをイネーブルにすることにより(SYNC/MODEをINTVCCに接続)、3kHzの三角波変調を使って、スイッチング周波数を2MHz~2.4MHzの間で変化させます。

図1. LT8640Sを使用して構成した5V/6A出力の降圧コンバータ。スペクトラム拡散モードにより、EMIを極めて低く抑えることができます。

図1. LT8640Sを使用して構成した5V/6A出力の降圧コンバータ。スペクトラム拡散モードにより、EMIを極めて低く抑えることができます。

図2に示したのは、図1の回路を実装した2層基板と4層基板における放射性EMIの測定結果です。最も厳しい車載部品規格であるCISPR25のクラス5では、放射性EMIに関する要件が定められています。LT8640Sを使用したどちらの基板でも、入力側にフェライト・ビーズを適用するだけで、クラス5の要件を満たすことがわかります。また、図3に示したのは効率の評価結果です。スイッチング周波数が2MHzという条件で、LT8640Sは12V入力の場合で最大95%、24V入力の場合で最大92%の効率を達成しています。

図2. CISPR25で定められた放射性EMIのテスト結果。図1の回路を実装した2層基板と4層基板を使って評価を行いました。

図2. CISPR25で定められた放射性EMIのテスト結果。図1の回路を実装した2層基板と4層基板を使って評価を行いました。

図3. LT8640Sを用いた図1の回路の効率。スイッチング周波数fSWが2MHzで、出力が5V/6Aの場合の結果です。

図3. LT8640Sを用いた図1の回路の効率。スイッチング周波数fSWが2MHzで、出力が5V/6Aの場合の結果です。

図4に示したのは、LT8640Sを用いた9V出力の回路です。図5には、負荷電流が5Aの場合の熱画像を示しました。高度な熱設計を適用しているため、出力が45W、スイッチング周波数が1MHzの場合でも、LT8640Sのパッケージ(4mm×4mmのLQFN)の温度が50°C以上に上昇することはありません。

図4. LT8640Sを用いた降圧コンバータ。24Vの入力から9V/6Aの出力を得ることができます。

図4. LT8640Sを用いた降圧コンバータ。24Vの入力から9V/6Aの出力を得ることができます。

図5. LT8640Sを用いた図4の回路の熱画像。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が24V、出力が9V/5A、周囲温度が25℃という条件で測定しました。

図5. LT8640Sを用いた図4の回路の熱画像。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が24V、出力が9V/5A、周囲温度が25°Cという条件で測定しました。

複数のLT8643Sを並列に接続すれば、7Aを超えるピーク出力電流にも対応することができます。LT8643Sでは、外部補償回路を使用した電流モード制御を利用することで、並列構成において重要な均衡のとれた電流の分担を実現可能です。電流の分担は、エラー・アンプの出力であるすべてのVCピンを接続するという自然な方法によって実現できます。CLKOUTピンとSYNC/MODEピンにより、クロック・デバイスを追加することなくクロック信号の同期をとることが可能です。

図6の回路図は、LT8643Sを並列に接続することにより、12Vの入力を3.3V/12Aの出力に変換する回路を簡単に構成できることを表しています。上側のLT8643Sは、SYNC/MODEピンをフローティングにすることによって、強制連続モードに設定されています。また上側のLT8643SのCLKOUT信号によって、下側のLT8643SのSYNC/MODEピンを駆動することにより、同期がとられます。図7はこの回路の効率、図8は8Aのステップ負荷に対する過渡応答を表しています。

図6. 2個のLT8643Sを並列に接続した降圧コンバータ。出力は3.3V/12Aです。

図6. 2個のLT8643Sを並列に接続した降圧コンバータ。出力は3.3V/12Aです。

図7. LT8643Sを用いた図6の並列回路の効率。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が12V、出力が3.3V/12Aの場合の評価結果です。

図7. LT8643Sを用いた図6の並列回路の効率。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が12V、出力が3.3V/12Aの場合の評価結果です。

図8. LT8643Sを用いた図6の並列回路の過渡応答。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が12V、出力が3.3V/12Aという条件下で、8Aのステップ負荷に対する応答を測定しました。

図8. LT8643Sを用いた図6の並列回路の過渡応答。スイッチング周波数fSWが1MHz、入力が12V、出力が3.3V/12Aという条件下で、8Aのステップ負荷に対する応答を測定しました。

まとめ

LT8640S/LT8643Sは、EMI性能が極めて高いモノリシックの同期整流方式スイッチング・レギュレータです。連続出力電流は6A、ピーク出力電流は7Aで、4mm×4mmのLQFNパッケージを採用しています。特許を取得済みのSilent Switcher 2技術を適用していることから、放射性EMIは極めて低く抑えられています。ホット・ループのコンデンサをパッケージ内に組み込むことによって、プリント回路基板のレイアウトがEMI性能に及ぼす影響を最小限に抑えています。このことが、設計の簡素化とソリューションのコスト低減につながっています。同期型の設計と高速スイッチング・エッジによって、負荷が大きい場合の効率を高める一方で、静止電流を低減することにより、負荷が軽い場合の効率を高めています。入力電圧範囲が3.4~42Vと広く、ドロップアウト電圧が小さいことから、LT8640S/LT8643Sは、自動車にコールド・クランクやロード・ダンプが生じた場合の要件に対応することができます。

Ying Cheng

Ying Cheng

Ying Cheng graduated from Missouri University of Science and Technology (formerly University of Missouri-Rolla) with aPhD degree in electrical engineering. She has been with Linear Technology for 6 years as a senior applications engineer in the Power Products group, working on DC/DC switching regulators and LDOs.