空港のターミナルからメイン・ストリートまで――公共スペースの安全性を確保する

人生では、ある時点における立場が次の機会への備えとして役立つことがよくあります。次の立場が現在の立場とは180度異なるものであったとしてもです。このことは、アナログ・デバイセズのような企業にも当てはまります。当社は、通信、防衛、車載、産業といった分野で使用されるRF/マイクロ波/ミリ波(mmW)技術を牽引するソリューション・ベンダーです。そして当社は、これらの技術の適用範囲を新たな分野に広げていきたいと考えています。これまでも広範な分野にわたって事業を展開してきた当社では、さらに新たな市場を開拓していこうという気運が高まっています。そうした動きは、当社のインキュベータ・プログラム「Analog Garage」における投機的なプロジェクトから始まりました。当社は、その未来は非常に有望であると考えています。


概要

市場:

公共の場の安全性を確保するためのボディ・スキャナ

アプリケーション:

ミリ波を利用したイメージング/センシング

課題:

既存のスキャナは、混み合った場所向けのものとしては大きすぎる。また、数多くの人を対象として迅速にスキャンするには速度が遅すぎる。加えて、ほとんどの公共の場に対して価格が高すぎる。

目標:

空港用のボディ・スキャン技術を再構築し、学校、ショッピング・センター、競技場といった公共の場に適用できるものにする。

 

多くの場合、個々の技術は特定の問題を解決するために生み出されます。一方で、何らかの技術が、別のカテゴリ向けのものとして再定義され、アプリケーションに革新がもたらされることもあります。また、ある技術が、別のジャンルの同様の問題の解決に役立つことも少なくありません。なかには、小型化や高速化など、技術のスケーリングが極めて難しいことが判明し、粘り強く創意工夫を施して問題を解決しなければ、潜在能力のすべてを発揮することができないケースもあります。

スケーラビリティの問題に直面している技術はいくつも存在します。そのよい例が、米国の空港で保安検査に用いられるボディ・スキャン技術です。現在、米国の空港では、次のようなことが行われています。まず、飛行機への搭乗を希望する人は、靴を脱いだ状態で大きなカプセルの中に足を踏み入れます。次に、両手を挙げて、メカニカル・アームが自分の周りを通過するのを待ちます。それにより検査が完了したら、係員の指示に従ってカプセルから出ることができます。ここで使われているボディ・スキャナは、ミリ波帯のRF技術を利用して実現されています。全身を網羅する高解像度の画像を生成することで、隠れた物体を驚くほど明確に暴き出します。ゲートを通り抜けるタイプの旧来の装置は、金属性の物体を検知したらブザーを鳴らすというだけのものでした。ミリ波を利用するスキャナはそれよりもはるかに優れています。より詳しい検査が必要である場合、どこの何を見ればよいのか空港の保安職員に正確に示してくれるのです。ミリ波を利用したボディ・スキャン技術が空港における安全性の確保に非常に有効であることから、次のような論点が提起されました。すなわち、学校や、会議場、ショッピング・センター、競技場など、悲劇が起きるケースが増えている公共の場で、その技術を活用できるのではないかということです。

数年前、アナログ・デバイセズにはテクノロジストから成る起業家精神にあふれた1つのチームが存在していました。そのチームは、カリフォルニア大学サンディエゴ校、Pacific Northwest Labsと共に、元々は空港のスキャナに用いられていたシステムを公共施設向けに改造する方法を探り始めました。彼らは、この技術が人命を救い得るものだと確信していました。しかし、そのためにはスケーラビリティの問題を解消しなければならないことも理解していました。


解決すべき多くの課題

ボディ・スキャン技術をスケーリングする上では、サイズ、速度、コストの3つが大きな課題になりました。既存のスキャナは、混み合った狭い場所で使うには大きすぎます。また、多くの人の検査を迅速に行うには速度が足りません。さらに、大半の学校や企業、競技場などに導入するには価格が高すぎます。様々な場所で利用できるようにするには、ボディ・スキャナ技術を完全に再設計しなければなりませんでした。具体的には、以下に示すような技術に改変する必要がありました。

  • 移動式のセンサーを使って静止した人物を対象とした処理を行うのではなく、固定式のセンサーを使用し、複数の人が通常の速度で歩くだけで検査が行えるようにする必要があります。
  • 空港用のスキャナの場合、小さな物体も検知できるだけの高い解像度が求められます。それに対し、学校などで使用するスキャナは、銃器や爆発物など大量の死傷者を出す可能性のある大きな物体を検知できれば問題ありません。それであれば、使用するセンサーの数を抑えられるため、コストを削減できる可能性があります。
  • センサーの数を減らし、画像の解像度を下げれば、扱うデータの総量が減少します。それにより、人々が立ち止まらずに通過するだけで検査が完了するレベルまで処理速度を高められます。
  • センサーの数を減らすには、非常に戦略的にセンサーを配置する必要があります。また、センサーの数が少なければ、物体を検出/分類するためのアルゴリズムを修正しなければなりません。さらに、各センサーで複数の信号を処理できるようにする必要があります。
  • 小型化とコスト削減を実現するために、各センサーとそれらに隣接する電子システムの統合レベルや分割方法について慎重に検討する必要があります。統合レベルを高めすぎると、柔軟性が低下し、様々なユースケースに適用できなくなります。
  • 柔軟性が高いことと、構成が可能であることは、製造コストと実装コストを下げる上で不可欠です。
  • RFに関する規制は国/地域ごとに異なります。そのため、センシング技術は、広範な周波数とセンサーの配置場所に対応できるだけの十分な柔軟性を備えている必要があります。

すべては“ガレージ”から始まった

上述した例を含め、Analog Garageでは、調査のレベルから始まる数多くの研究開発活動が行われています。Analog Garageでは、高いポテンシャルを持ち、大きな効果をもたらす可能性があるものの、まだ明確な市場やビジネス・チャンスが存在していない技術に光を当てています。また、高いポテンシャルを有する新興企業であれば投資を受けることもできます。そうした新興企業に対しては、資金、メンタリング、エンジニアリングなどのサポートが提供されます。サポートを受けた企業は、自社のアイデアを市場に投入するチャンスを得ることが可能になります。なお、新興企業だけでなく、アナログ・デバイセズが全世界に擁するエンジニアリング・チームも、難易度の高い初期段階の研究開発に関するアイデアを提案したり、資金やリソースの提供を受けたりすることができます。

上述した事例に携わったチームは、Analog Garageの支援の下、著名な大学や国立の研究機関と協力しながら、1年半で必要なミリ波技術を開発しました。Analog Garageで十分に概念検証を行った上で、そのチームは実際の製品開発へと歩を進めました。その時点で、焦点はお客様のニーズへと移り、システムの要件や課題を基に実際の製品が形作られていきました。


常に想像を超える可能性を

重要なブレークスルーを実現できる企業には1つの特徴があります。それは、エンジニアリング領域の最も難易度の高い課題に取り組むことを厭わず、既存の市場の将来像を描くことで生じるリスクを受け入れる覚悟を持っていることです。このような姿勢は、50年以上にわたり、アナログ・デバイセズのミッションにおける重要な要素として存在してきました。現在も、当社はそうした考え方に基づき、「想像を超える可能性(Ahead of What's Possible)」を追求し続けています。

近い将来、野球観戦に行けば、球場の入り口には新たな技術を適用したスキャナが設置されている状況になるでしょう。そこを通り抜けるだけで、最先端のイメージング技術によって検査が行われ、観客全員の安全性が確保されるようになるはずです。


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Analog Garage



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