AN-158F: LTpowerCAD設計ツールを使用して5つの簡単な手順で電源パラメータを設計

はじめに

システム・ボード上の電源の数はますます増えています。先進の電源ソリューションには、ソリューションのサイズ、効率、熱性能およびトランジェント性能が全て重要です。そのため、市販の電源ブリックを使用するよりも、特定のアプリケーション向けにカスタマイズされたオンボード電源ソリューションを設計するほうが、効率と費用対効果が高くなります。システム開発者にとって、スイッチング・モード電源の設計と最適化は、よくある必要な作業になりつつあります。残念なことに、この作業はしばしば時間がかかり、技術的にも簡単ではありません。

設計作業を簡素化し、設計品質と生産性を向上させるために、リニアテクノロジーのパワー・アプリケーションの専門家は電源設計および最適化ツールとしてLTpower CADプログラムを開発しました。このPCベースのプログラムは、www.linear-tech.co.jp/LTpowercadから無償でダウンロードできます。この記事では、スイッチング・モード電源の主要なパラメータの「紙上設計」をわずか数ステップの簡単な手順で実行し、満足のいく結果を得る方法について説明します。


「紙上設計」は難しく、時間がかかる


オンボード電源の設計と最適化は、従来の「紙上設計」の手法では難しく、時間がかかることがあります。電源仕様の定義後、技術者はまずコンバータの構成を選択する必要があります(降圧アプリケーションには降圧コンバータ、昇圧アプリケーションには昇圧コンバータなど)。次に、過去の経験またはWeb検索ツールに基づいて、パワー・マネージメントICを選択します。その後、自分の知識またはベンダのデータシートの情報に基づいて、パワー部品の値を計算します。次に、数千にも及ぶデバイスの中から、インダクタ、コンデンサ、MOSFETなどのパワー部品を選択します。次の手順では、部品の熱ストレスを許容範囲内に抑えながら、電源効率と電力損失を推定します。これで終わりではありません。ループ補償の設計も難しい作業です。これには、複雑な回路モデリングを行い、ICのデータシートに記載されていないパラメータ値を計算する必要があります。最後に回路図が作成され、プロトタイプの基板が製造に回されます。ここで技術者はボードの電源を投入し、出力の変動や過熱がないことを確認します。経験の乏しい電源設計者にとって、この設計プロセスは非常に難しく感じられるでしょう。経験豊富な電源設計者にとっても、従来の「紙上設計」と試行錯誤に基づく手法は、時間がかかって難しい上に、精度が低く、最適な結果が得られません。これには数時間、数日、あるいは更に長い時間がかかります。


LTpowerCAD設計ツールによる設計作業の簡素化


LTpowerCAD設計ツールは、ユーザーの時間と労力の削減、そして高品質の設計ソリューションの実現を目標として、リニアテクノロジーのパワー・アプリケーションの専門家によって開発されました。この設計ツールを使えば、体系的で簡単な方法に従って、次のように5つの簡単な手順で電源の主要なパラメータを設計できます。(1) 電源仕様を入力し、ソリューションを選択する。(2) 自動警告に従って電力段部品を最適化する。(3) 電源効率と電力損失を最適化する。(4) ループ補償を設計し、負荷トランジェントを最適化する。(5) サマリ・レポートとBOMおよびPCBサイズの推定値を生成する。図1に、LTpowerCAD設計ツールを使用した設計フローを示します。

図1. LTpowerCAD設計ツールを使用して5つの簡単な手順で電源パラメータを設計
図1. LTpowerCAD設計ツールを使用して5つの簡単な手順で電源パラメータを設計

LTpowerCADソリューション・ライブラリには、リニアテクノロジーのデモボードやデータシート回路など、既存の設計例が多数あります。ユーザーはこのツールを使用して自作のデザインを保存し、独自のソリューション・ライブラリを作成することもできます。技術者はこれらのソリューションを将来の電源設計の出発点として手早く利用できます。その上、LTpowerCADデザインはLTspice®シミュレーション回路としてエクスポート可能であり、タイム・ドメインの電源波形とトランジェント性能をチェックできます。

これらの強力なツールを使用すると、システム開発者は高品質の電源回路設計を(数時間や数日ではなく)数分間で完了し、満足のいく結果を得ることができます。最初のプロトタイプまでの時間は大幅に短縮されます。

LTpowerCADの設計手順と設計例

詳細な設計手順とLTpowerCADの設計例を見てみましょう。例として、入力電圧10.8V~13.2V(12V±10%)、出力電圧1.0V、最大出力電流20Aのオンボード電源を設計する場合を考えます。これは標準的な同期整流式の降圧コンバータです。


手順#1 – パワー製品ソリューションの検索


最初の手順では、ソリューション構築の基盤となる主要なパワーICまたはマイクロモジュールを検索します。ICまたはマイクロモジュールの選択は、過去の経験に基づいて行うか、LTpowerCADのソリューション検索ページから行います。図2に示すように、ユーザーはLTpowerCADの検索ページで電源仕様を入力してオプション機能を選択し、[Search]ソフトキーをクリックします。その後、LTpowerCADツールが表示するリストの中から希望の部品を選択します。

図2では、プログラムが表示したICソリューション・リストの左端に赤い「LT」マークまたは緑の「Excel」マークがあります。赤いLTのマークは、その部品にLTpowerCAD設計ツールを利用できるという意味です。緑の「Excel」マークは、Microsoft Excelスプレッドシート・ベースの設計ツールが利用できるという意味です。両方のマークがグレーになっている場合は、その部品にはまだ設計ツールを利用できないという意味です。

この例では、この12VIN、1V/20A出力電源用にLTC3833電流モード降圧コントローラが選択されています。赤い「LT」マークをクリックすると、この部品に対応する設計ツールが開きます。

図2. 設計手順1 – 電源ソリューションの検索
図2. 設計手順1 – 電源ソリューションの検索

手順#2 – 電力段の設計


2番目の手順は、パワー・インダクタ、入力および出力コンデンサ、電流検出部品、パワーMOSFETなどの電力段部品の設計と選択です。電源を設計する場合、通常はスイッチング周波数(fSW)から始めて、次にパワー・インダクタを選択し、その後で入力および出力コンデンサを選択します。パワーMOSFETは手順3で選択/最適化できます。

設計ツールが開かれると(図3を参照)、メイン回路図ページが表示され、主要な部品の設計パラメータ値が示されます。このページでは、設計値は2種類の背景色のセル(テキスト・ボックス)に表示されます。黄色は、セル内の値が設計仕様に基づくものか、またはLTpowerCADツールによって計算/推奨されたことを示します。ユーザーはこれらの値を直接編集することはできません。青は、セル内の値がユーザーの設計上の選択であることを示します。ユーザーはこれらの値にアクセスして直接編集できます。

図3. 設計手順2 – 回路図と主要なパラメータの値を表示する[Power Stage Design]ページ
図3. 設計手順2 – 回路図と主要なパラメータの値を表示する[Power Stage Design]ページ

インダクタのリップル電流などの主要な回路パラメータについて、LTpowerCADツールは各部品の内部制限値を定めています。図4に示すように、ユーザーの設計値が制限に違反した場合、LTpowerCADツールは自動警告を発し、弱い「ソフト」警告としてオレンジ色のセル、または強い「ハード」警告として赤いセルを表示して、値をチェックしてデザインを調整するようにユーザーに促します。内部制限/警告の値は、関連製品のアプリケーションの専門家が設定した推奨値です。これはアナログのソリューションであるため、ユーザーが警告について理解し、選択した設計値に自信がある限り、警告が表示されたデザインをそのまま実装しても問題がない場合もあることに注意する必要があります。

図4. 自動警告による適切な設計値への誘導
図4. 自動警告による適切な設計値への誘導

このLTpowerCADの回路図ページでは、マウスをクリックするだけで、内蔵のライブラリからインダクタ、コンデンサおよびFETなどの全てのパワー部品を選択できます。この記事の執筆時点で、多くの有名ベンダ製の部品が5000点以上登録されており、多くの部品が頻繁に追加されています。ユーザーは、新しい部品の主要なパラメータを入力して、ローカルPC上に独自の部品ライブラリを作成することもできます。

この例では、12VINから1V/20Aへの降圧電源のスイッチング周波数は500kHzに設定されています。したがって、DC IO(max)でピーク・トゥ・ピークのインダクタ電流リップルが40%になるインダクタの値は0.23µHと計算されます。0.22µH/1.1mΩのインダクタがインダクタ・ライブラリから選択されています。この例では、インダクタの巻線DC抵抗(DCR)が電流検出に使用されます。電流検出網の値は、適切な電流検出信号と電流制限の設定についてチェックする必要があります。AC電流検出信号が弱すぎてS/N比の問題が生じそうな場合や、電流制限のレベルが目標値よりも低い場合、LTpowerCADツールは警告を表示します。入力コンデンサは、最小の導通損失でRMS電流定格を満たすものを選択する必要があります。出力コンデンサは、出力電圧リップルと過渡オーバーシュート/アンダーシュートが最小限に抑えられるものを選択します。これらの部品は、後でループ補償および負荷トランジェント設計段階で最終的に決定されます。パワーMOSFETは、次の手順で電源効率と電力損失を推定し、最適化する際に選択します。


手順#3 – 電源効率と損失の最適化


[Loss Estimation and Breakdown]タブをクリックして次の手順に進み、電源効率と電力損失を最適化します。図5に示すように、ユーザーがMOSFETを選択して[Update]ソフトキーをクリックすると、所与の入力電圧での電源効率および電力損失と負荷電流の関係を示すプロットが描かれます。入力電圧はVINのスライド・バーで変更できます。電力損失の詳細な内訳を示す円グラフに基づいて、ユーザーは設計パラメータと部品についてより良く理解して調整することができ、損失を最小限に抑えて全体的な効率を最適化できます。

図5. 設計手順3 – 効率と電力損失の最適化
図5. 設計手順3 – 効率と電力損失の最適化

LTpowerCADの損失推定機能は、多数の部品モデルおよび式に基づいています。この損失には、パワーMOSFET、インダクタ、コンデンサおよびICゲート・ドライバからの損失が含まれます。しかし、リアルタイムの結果を得るために、デバイスの損失モデルとして、複雑な物理モデルの代わりに簡略化された動作モデルが使用されます。なお、インダクタのAC損失はまだLTpowerCAD内でモデル化されていませんが、ユーザーにはその値を入力することができます。その結果、効率の推定値が実際のハードウェア効率よりも数%高くなることがあります。そうであっても、このツールが提供する高速なリアルタイム推定値は、特にインダクタとパワーMOSFETについて、ユーザーがさまざまな設計上の選択肢を比較検討する際に非常に役に立ちます。


手順#4 – 帰還ループの設計とトランジェントの最適化 


次の手順では、電圧帰還ループを設計し、良好な安定性マージンを確保しながら負荷トランジェント性能を最適化します。これは電源設計で最も難しい作業の1つと考えられています。LTpowerCAD設計ツールを使えば、この作業を簡単に実行できます。

図6に、ループおよびトランジェント設計ページを示します。ループ利得ボード線図はリアルタイムで調整することができ、補償R/C値を調整することにより、希望のループ帯域幅と位相余裕を得ることができます。ループ設計の詳しい概念については、参考資料[2]で説明しています。スイッチング・モードのパワー・コンバータの場合、通常はクロスオーバ周波数で45°以上~60°の位相余裕と、電源スイッチング周波数(fSW)の2分の1で少なくとも8dBの利得減衰が推奨されます。このページには複数のタブがあり、その1つは電源出力インピーダンスのプロットで、ループ設計の詳細をユーザーに示します。負荷トランジェントのプロットは、ユーザー定義の負荷ステップ・サイズと電流スルーレートの関係を示します。ユーザーは特定のデザインについて「プロットを凍結」し、最適な結果が得られるまで、設計値または部品の選択を変更してデザインを比較できます。

図6. 設計手順4 – 帰還ループと負荷トランジェントの設計
図6. 設計手順4 – 帰還ループと負荷トランジェントの設計

所与の負荷トランジェント条件(負荷電流ステップ・サイズおよびスルーレート)とVOUTのオーバーシュート/アンダーシュート目標制限値に基づいてループを調整し、ループ帯域幅、安定性、トランジェント性能をチェックできます。それでもトランジェント性能が目標を満たさない場合は、(バルクおよびセラミック・コンデンサを含む)出力コンデンサを増やし、設計目標を満たすまでループを再調整できます。LTpowerCADの負荷トランジェントのプロットは小信号モデルから得られるため、非常に高速ですが、1次近似にすぎません。そのため、十分な(20%~30%の)トランジェント設計マージンを残す必要があります。

ループ設計の精度を保証するために、全てのLTpowerCAD設計ツールは、ツールのリリース前に、弊社の技術者のループ測定によってリニアテクノロジーの標準デモボード上でベンチ検証されています。ただし、ユーザーのデザイン内での結果は、コンデンサの不正確なESR値など、部品の寄生値のばらつきによる影響を受けることがあります。したがって、ユーザーは最終設計をプロトタイプ・テストで検証する必要があります。


手順#5 – サマリとBOMおよびサイズ


最後の手順では、ユーザーはサマリ・ページを表示します。このページは、デザインの性能サマリと、パワー部品の簡潔な部品表(BOM)、部品の合計実装面積のおおよその推定値を示します。サマリ・レポートは印刷も可能です。


(オプション)手順#6 – LTspiceシミュレーションへのエクスポート


このオプションの手 順では、LTpowerCADデザインをLTspiceシミュレーション・ファイルにエクスポートできます。これにより、リアルタイム・シミュレーションを実行して電源の定常状態の詳細とトランジェント波形および性能をチェックできます。これを行うには、LTpowerCADの回路図ページで[LTspice]ソフトキーをクリックし、LTpowerCAD内の主な設計パラメータをLTspiceシミュレーション回路にエクスポートします。

図7. 設計手順5 – サマリ、BOM、デザインのサイズ
図7. 設計手順5 – サマリ、BOM、デザインのサイズ
図8. オプション手順6 – LTspiceシミュレーション回路へのエクスポート
図8. オプション手順6 – LTspiceシミュレーション回路へのエクスポート

デザイン・ソリューション・ライブラリ

LTpowerCADデザイン・ソリューション・ライブラリは、ユーザーが素早く最終設計に到達し、満足のいく結果が得られるように支援する重要な機能です。図9に示すように、メイン回路図ページ上で[Solution Library]ソフトキーをクリックすると、特定のリニアテクノロジー製品の既存のデザインが多数見つかります。これらのデザインは、リニアテクノロジーの標準デモボード、データシート回路、リファレンス・デザインです。これらのデザインの多くはラボでテストおよび検証済みであり、ユーザーはいずれかの実証された既存設計例を選んで新しいデザインを開始できます。更に、ユーザーは自作のデザインを保存し、将来使用するためのユーザー・ソリューション・ライブラリを作成できます。

図9. 既存のソリューション・ライブラリは将来の設計の出発点として利用可能
図9. 既存のソリューション・ライブラリは将来の設計の出発点として利用可能

[Sync Release]による高いセキュリティでの更新

LTpowerCAD II設計ツールはMicrosoft Windows PCベースのプログラムです。ユーザーはこのプログラムをダウンロードし、ローカルPCにインストールできます。LTpowerCADは、Webベースの設計ツールのようにインターネット/コンピュータ・リソースの共有やデータ・セキュリティの問題に制約されることなく、高性能なローカルPCの全機能とリソースを利用できます。LTpowerCADのインストール後、ユーザーはプログラムを実行するためにインターネットに接続する必要はありません。ただし、ユーザーはLTpowerCADのスタート・ページにある[SYNC RELEASE]キーを定期的にクリックして、新しいツールや新機能などのプログラムの更新をチェックできます(新たにLTpowerCADをインストールする必要はありません)。

まとめ

LTpowerCAD設計ツールは、新しい電源の主要なパラメータを5つの簡単な手順で設計できる、使いやすい強力な手段を提供します。このツールの標準およびユーザー・ソリューション・ライブラリから、設計者は多数の既存デザインを利用できます。設計結果は、詳細な性能評価のためのLTspiceシミュレーション用に簡単にエクスポートできます。この記事で詳しく説明していない特長もたくさんあります。[3] 要約すると、LTpowerCAD設計ツールを使用すれば、システム開発者は最小限の労力と時間で新しいソリューションを素早く設計し、満足のいく結果を得ることができます。

参考資料

[1] H. Zhang、『Basic Concepts of Linear Regulator and Switching Mode Power Supplies』、リニアテクノロジーのアプリケーション・ノート(AN140)

[2] H. Zhang、『Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies』、リニアテクノロジーのアプリケーション・ノート(AN149)

[3] LTpowerCADブログ(www.linear-tech.co.jp/LTpowerCAD

Henry Zhang

Henry Zhang

Henry Zhangは、アナログ・デバイセズでPower by Linear製品を担当するアプリケーション・ディレクタです。2001年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社しました。1994年に中国の浙江大学で電気工学の学士号、1998年と2001年にバージニア工科大学で電気工学の修士号と博士号をそれぞれ取得しています。