AN-1404: DiffAmpCalc による完全差動アンプのシステム設計を簡略化

はじめに

DiffAmpCalc は、設計とパラメータのインタラクティブなシミュレーション・ツールです。このツールは、ゲイン、終端抵抗、消費電力、ノイズ出力、入力コモンモード電圧に対する最適なレベルを決定するために必要な、時間のかかる計算を自動的に行います。DiffAmpCalc は、技術者に効率が良く分かりやすいツールを提供することにより、設計上のリスクを低減します。DiffAmpCalc の強みは、設計指向の機能、使いやすさ、内蔵の誤差検出にあります。

このツールは、アンプの動作を数学的にモデル化するためのデータシートのパラメータを使うことにより、アナログ・デバイセズのいくつかの差動アンプの選択、評価、トラブルシューティングの作業を短縮します。データシートに仕様規定されていないパラメータは、データシートの値や図に基づいて推定します。

完全差動アンプ(FDA)は、ゲインを選択可能な FDA、ゲインがプリセットされた FDA、完全差動減衰アンプの3 つのタイプにモデル化されます。DiffAmpCalc のグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を図1 に示します。このアプリケーション・ノートでは、DiffAmpCalc の主な機能について説明します。

図 1. DiffAmpCalc の GUI

図 1. DiffAmpCalc の GUI

DIFFAMPCALC の機能

DiffAmpCalc は、強力な設計機能を備えたツールです。3 つの主要な設計機能として、回路のカスタマイズ、最適化の選択、多量のダイナミック・データを広範囲に設定できる点があります。設計のカスタマイズにはいくつかのオプションがあります。入力回路(Single Ended または Differential)、入力カップリング(AC または DC)、入力終端(Terminate)に対して選択可能なオプションを図 2 に示します。出力負荷の選択(None、Differential、グラウンド基準(GND Referred)、電圧基準(V Referred))を図 3 に示します。

図 2. 入力回路、入力カップリング、入力終端のオプション

図 2. 入力回路、入力カップリング、入力終端のオプション

図 3. Output Load のオプション

図 3. Output Load のオプション

微分ゲインを大きくする必要がある場合、アンプ段のカスケード接続が 1 つの選択肢になります。設計のフットプリントの設定後に、いくつかの最適化機能があります。これらの機能の一部には、自動オフセット、入力トラッキング、ゲイン計算、抵抗許容誤差、熱の影響などがあります。

自動オフセット(Auto Offset)機能は、電源投入時に、入力オフセット電圧と Vocm を、それぞれ有効な入力電圧範囲と出力電圧範囲の中心に自動調整します。この機能は、アンプのダイナミック・レンジを最大化します。

入力の平衡を維持させる場合、入力振幅とオフセットが自動的に平衡することから Input Tracking をイネーブルするのが便利です。これは、反転ノードと非反転ノードを強制的に等しくすることによって行います。Auto Offset を選択した場合、Input Tracking はディスエーブルされます。Auto Offset と Input Tracking のオプションの選択を図 4 に示します。

図 4. Input Tracking と Auto Offset

図 4. Input Tracking と Auto Offset

システム・ゲインの設定


DiffAmpCalc は、システム・ゲインの計算を簡略化します。Actual Gain のテキスト・ボックス(図 5 の丸で囲まれた部分を参照)に必要なゲインを入力して、システム・ゲインを設定します。

図 5. システム・ゲインの設定

図 5. システム・ゲインの設定

全ての部品値が備わっており、スクロール・バーを使って比例的に調整することができます。DiffAmpCalc の主要な機能の 1つは、Topology で Terminate を選択した場合の部品値を計算することです(Terminate は図 2 で選択)。インピーダンスをマッチングさせるために、入力を終端する必要があります。インピーダンスをマッチングさせるオプションにより、システム設計において入力ソースを柔軟に決定できます。例えば、FDA の入力として信号発生器を使用する場合、ダブル終端が必要になります。

ダブル終端は複数の終端抵抗を必要とします。これらの抵抗はシステム・ゲインに影響を与えます。ダブル終端回路で同じシステム・ゲインを維持するため、帰還抵抗とゲイン抵抗が逐次再計算されます。この手順は、ADA4930-1 のデータシートに記載されています。

DiffAmpCalc は、回路の Terminate を選択するときに部品値を自動的に計算することにより、反復計算を簡略化します。この機能は、帰還抵抗とゲイン抵抗の値をそれぞれ動的に更新します。DiffAmpCalc の反復計算は、デフォルトでは非表示です。この計算は、キーボードのショートカット Alt + V を使って表示させることができます。Alt + V を再び押すと、この計算は非表示になります。

DiffAmpCalc は、誤差の許容値と熱抵抗ノイズの影響に対する設計の最適化に容易に対応します。抵抗の許容誤差は、Resistor Tolerance のボタンにリストされたオプションの 1 つを選択することにより、<1 % から 5 % までを選択することができます。リストの内容は、None、<1 %(E192)、1 %(E96)、2 %(E48)、5 %(E24)です(図 6 参照)。.

図 6. 抵抗許容誤差のオプション

図 6. 抵抗許容誤差のオプション

周囲温度を設定すると、熱抵抗ノイズの性能への影響が計算されます。抵抗ノイズの情報を図 7 に示します。

図 7. ノイズ・データと入力

図 7. ノイズ・データと入力

シミュレーションの結果


全てのノードでシミュレーション結果を即座に使用可能なため、リアルタイムに解析することができます。ソース電圧の節点データとオシロスコープに似た波形、ならびにアンプの入出力電圧波形は、部品とシステムのトレードオフを短時間で理解するのに有効です。オシロスコープに似た表示部分を左クリックするごとに、1×、2×、5×、10×、20×、50×、100× の倍率に設定することができます。これらの表示部分を右クリックするごとに、拡大と縮小が逆方向に変化します。

DC と AC のピーク to ピーク電圧は全てのノードで計算されます。入力電圧は AC 電圧として仕様規定され、ピーク to ピーク値は DC オフセットに重畳されます。ピーク電流が重要な場合、総合消費電力は静止時と動作時の消費電力に分かれます。図 8 では、節点電圧は回路図の丸で囲まれた部分に示され、オシロスコープに似た波形は回路図の右側の四角で囲まれた部分に示されています。消費電力の計算は、四角で囲まれたオシロスコープの部分の下に示されています。

図 8. 節点電圧とオシロスコープに似た波形を強調表示した画面

図 8. 節点電圧とオシロスコープに似た波形を強調表示した画面

時間領域のシミュレーションは、アンプの周波数応答が平坦な周波数に対して示されています。周波数領域のシミュレーションには、アンプの帯域幅、ノイズ、歪みなどがあります。デフォルトでは、ノイズと歪みはアンプの最大帯域幅から計算されます。出力でのノイズと歪みに対するシミュレーション結果が必要な場合、出力ローパス・フィルタ(図 8 の画面下側中心部の丸で囲まれた Output LPF)を選択して、設定した周波数とピークto ピーク振幅でのノイズと歪みを指定します。DiffAmpCalc を ADC ドライバの選択に使用する場合、ENOB とSINAD が自動的に更新されるため、この情報は有効です。システム・ゲインが 4 より大きくなると、HD2/HD3、THD/SNDR、ENOB に N/A が表示されます。キーボードのショートカットAlt + N でこれらのパラメータを表示できます。

データの入力


設定したデータを DiffAmpCalc に入力するには、ポイント&クリック方法が効率的なツールです。スクロール・バーとテキスト・ボックスを使ってデータを入力することにより、シミュレーション結果を動的に更新することができます。電圧のスクロール・バーのデフォルト・ステップ・サイズは、100 mV ステップです。分解能を変更するには、以下のキーボードの組み合わせを使用します。

  • 1 V ステップにするには、Shift + 左クリック
  • 10 mV ステップにするには、Ctrl + 左クリック
  • 1 mV ステップにするには、Alt + 左クリック

テキスト・ボックスは、ボックス内でクリックすることにより作動させます。テキスト・ボックスを作動させると、テキスト・ボックスの色が白から緑に変化します。テキスト・ボックスを作動させたら、数値、小数、負符号を入力することができます。

内蔵誤差検出


DiffAmpCalc は、いくつかの誤差検出機能を内蔵しており、一般的な差動アンプの問題が設計に生じるのを防ぎます。入力値が仕様の範囲外の場合、テキスト・ボックスは明るい赤に変化し、自動修正値または現在の方向に調整を進めることができない理由を警告メッセージで示します。警告メッセージの例を図9 に、推奨修正値の例を図 10 に示します。

図 9. 警告メッセージ

図 9. 警告メッセージ

図 10. 推奨修正値

図 10. 推奨修正値

調整値と特定の条件が一致すると、警告メッセージでこれらの競合状態を知らせます。誤った状態が存在する限り、警告メッセージは続きます。クリップされた入出力を修正するための短時間のソリューションは、AutoAlign 機能をイネーブルすることです。この機能は、入力や出力がクリップされたときに表示されるオプションです。AutoAlign 機能はこの問題を調整し、入力と Vocm を最大出力ダイナミック・レンジに設定します。AutoAlign をオプションとして表示したときのクリップされた入力の例を図 11 に、AutoAlign による修正の例を図 12 に示します。

図 11. AutoAlign のオプションを表示したときのクリップされた入出力

図 11. AutoAlign のオプションを表示したときのクリップされた入出力

図 12. AutoAlign を選択した後の結果

図 12. AutoAlign を選択した後の結果

Single-Ended Terminate オプションに巧妙な誤差発生防止機能が組み込まれています。シングルエンド/差動変換回路を使用する場合、FDA の使用しない入力のインピーダンスを他方の入力に一致させる必要があります。インピーダンスが一致した使用しない入力の例を、図 13 の丸で囲まれた部分に示します。

図 13. シングルエンド/差動変換回路のインピーダンス・マッチング

図 13. シングルエンド/差動変換回路のインピーダンス・マッチング

DiffAmpCalc は、動的設計最適化のための高速で効率的なツールを提供します。DiffAmpCalc の全ての機能の詳細は、DiffAmpCalc のメニュー・バーに置かれた Help ファイル内にあります。DiffAmpCalc プログラムは無償でダウンロードできます(http://www.analog.com/jp/design-center/interactive-designtools/adi-DiffAmpCalc.html)。

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Zoltan Frasch

Zoltan Frasch。トロント大学を卒業後、大学で工学者としてのキャリアを開始し、パプアニューギニアの工科大学で応用物理学と電子工学を指導。アメリカ大陸に戻った後、ビデオ・ディスプレイのメーカーである、ElectrohomeおよびVidikronでアプリケーション・エンジニアとして勤務。1999年にアナログ・デバイセズに入社。現在は、アナログ・デバイセズのマイクロモジュール・グループでアプリケーション・エンジニアとして勤務。

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Tina Collins

Tina Collinsは、ウィルミントン、マサチューセッツ州にあるリニア製品技術グループのアプリケーション・エンジニアです。彼女の主な担当分野は、高速アンプ用のアナログおよびミックスド・シグナルのデザインです。彼女は 2001 年にアナログ・デバイセズに入社しました。2013 年にアプリケーション・エンジニアになる以前は、高速アンプの開発およびテストに取り組んでいました。2001 年にフロリダ大学で電気工学理学士号を、2010 年にノースイースタン大学で電気工学修士号を取得しています。