AN-140: リニア・レギュレータとスイッチング電源の基本概念

概要

この記事では、リニア・レギュレータとスイッチング電源(Switching Mode Power Supplies: SMPS、またはスイッチング・レギュレータともいう)の基本概念について説明します。本書は、電源の設計および選定にあまり慣れていないシステム・エンジニアを対象にしています。リニア・レギュレータとSMPSの基本的な動作原理について説明し、それぞれのソリューションの利点と欠点について考察します。例として降圧コンバータを使用し、スイッチング・レギュレータの設計上の考慮事項について詳細に説明します。

はじめに

今日の設計では、電子機器内部で必要な電源レールと電源ソリューションの数がますます増加しており、負荷の範囲はスタンバイ電源向けの数mAからASIC電圧レギュレータ向けの100A超にまで及んでいます。ターゲット・アプリケーションに対して適切なソリューションを選択し、規定の性能要件(高効率、厳しいプリント回路基板(PCB)スペース、高精度出力レギュレーション、高速トランジェント応答、低ソリューション・コストなど)を満たすことが重要です。パワー・マネージメント設計はシステム設計者にとってますます頻繁かつ困難な作業になってきていますが、多くのシステム設計者は電源に関する予備知識が十分ではないと考えられます。

パワー・コンバータは、与えられた入力電力から負荷に対して出力電圧および出力電流を生成します。コンバータは、定常状態時およびトランジェント状態時に負荷電圧または負荷電流のレギュレーション要件を満たす必要があります。また、部品が故障した場合には、負荷とシステムを保護する必要があります。具体的なアプリケーションに応じて、設計者はリニア・レギュレータ(LR)またはスイッチング電源(SMPS)のいずれかのソリューションを選択することができます。最適なソリューションを選択するには、設計者がそれぞれの手法の長所、欠点、および設計上の課題に精通していることが不可欠です。

この記事では、非絶縁型電源アプリケーションに焦点を合わせて、その動作と設計基礎について説明します。

リニア・レギュレータ

リニア・レギュレータの動作原理


簡単な例から始めましょう。組み込みシステムでは、12Vのバス・レールが初段の電源から供給されます。システム・ボードでは、オペアンプに電力を供給するために3.3Vの電圧が必要です。3.3Vを生成する最も単純な方法は、図1に示すように、12Vのバスから抵抗分割器を使用する方法です。これは機能するでしょうか。答えは通常「ノー」です。オペアンプのVCCピンの電流は、異なる動作条件では変動することがあります。固定の抵抗分割器を使用する場合、ICのVCC電圧は負荷に応じて変動します。加えて、12Vのバス入力は十分に安定化されていない可能性があります。12Vレールを共有する他の負荷が同一システム内に多数存在するかもしれません。バスのインピーダンスが原因で、12Vのバス電圧はバスの負荷条件に応じて変動します。このため、抵抗分割器では、3.3Vの安定化電圧をオペアンプに供給して正常動作を保証することができません。したがって、専用の電圧レギュレーション・ループが必要です。図2に示すように、帰還ループは、上側の抵抗R1の値を調整して、VCCの3.3Vを動的に安定化する必要があります。

図1.12Vのバス入力からの3.3VDCを生成する抵抗分割器

図1.12Vのバス入力からの3.3VDCを生成する抵抗分割器

図2.直列抵抗R1の値を調整して3.3Vを安定化する帰還ループ

図2.直列抵抗R1の値を調整して3.3Vを安定化する帰還ループ

図3に示すように、この種の可変抵抗はリニア・レギュレータを使用して実装することができます。リニア・レギュレータは、バイポーラ・パワー・トランジスタまたは電界効果パワー・トランジスタ(FET)をその線形モードで動作させます。したがって、トランジスタは出力負荷と直列の可変抵抗として動作します。帰還ループを確立するため、概念上、エラーアンプはサンプリング抵抗回路網RAおよびRBを介してDC出力電圧を検出し、その後、帰還電圧VFBをリファレンス電圧VREFと比較します。エラーアンプの出力電圧は、直列パワー・トランジスタのベースを電流アンプを介して駆動します。入力電圧VBUSが減少するか、負荷電流が増加すると、出力電圧VCCは低下します。帰還電圧VFBも同様に減少します。その結果、帰還エラーアンプおよび電流アンプが生成する電流が増加し、トランジスタQ1のベースにより多くの電流が流れ込みます。これによって電圧降下VCEが減少するので、出力電圧VCCが復帰し、そのためVFBはVREFと等しくなります。これに対して、出力電圧VCCが上昇すると、負帰還回路はVCEを同様に増加させて、3.3V出力の高精度レギュレーションを保証します。要約すると、VOがどのように変動しても、リニア・レギュレータ・トランジスタのVCE電圧によって吸収されます。したがって、出力電圧VCCは常に一定であり、十分に安定化されます。

図3.リニア・レギュレータは可変抵抗を実装して出力電圧を安定化

図3.リニア・レギュレータは可変抵抗を実装して出力電圧を安定化

リニア・レギュレータを使用する理由


リニア・レギュレータは、業界で非常に長い間広く使用されてきました。スイッチング電源が1960年代以降に一般化するまで、リニア・レギュレータは電源業界の基盤でした。今でも、リニア・レギュレータは幅広いアプリケーションで引き続き広く使用されています。

リニア・レギュレータには、簡単に使用できること以外に、性能上の利点もあります。パワー・マネージメント製品の供給メーカーは、多くの集積リニア・レギュレータを開発してきました。標準的な集積リニア・レギュレータに必要なのは、VINピン、VOUTピン、FBピン、およびオプションのGNDピンだけです。20年以上前にリニアテクノロジーが開発した標準的な3ピンのリニア・レギュレータ(LT1083)を図4に示します。このデバイスに必要なのは、入力コンデンサ、出力コンデンサ、および出力電圧を設定するための2本の帰還抵抗だけです。電気技術者であればおそらく誰でも、これらの簡素なリニア・レギュレータを使用して電源を設計することができます。

図4.集積リニア・レギュレータの例:わずか3ピンの7.5Aリニア・レギュレータ

図4.集積リニア・レギュレータの例:わずか3ピンの7.5Aリニア・レギュレータ

1つの欠点 – リニア・レギュレータは電力を大量に消費


リニア・レギュレータを使用する上での主な欠点は、その直列トランジスタQ1が線形モードで動作するときに過大な電力損失が生じることです。前述のように、リニア・レギュレータのトランジスタは概念上は可変抵抗です。全ての負荷電流が直列トランジスタを通過するので、その電力損失はPLoss = (VIN– VO) • IOになります。この場合、リニア・レギュレータの効率は次の式によってすぐに概算することができます。

数式 1

したがって図1の例では、入力が12Vで出力が3.3Vのとき、リニア・レギュレータの効率はわずか27.5%です。この場合には、入力電力の72.5%が浪費されるだけであり、レギュレータの内部で熱が発生します。これは、VINが最大で全負荷時という最悪の場合に、トランジスタがその電力損失/熱放散を処理する放熱能力が必要であることを意味します。したがって、リニア・レギュレータとそのヒートシンクは、特にVOがVINよりはるかに低い場合、サイズが大きくなることがあります。リニア・レギュレータの最大効率がVO/VINの比に比例することを図5に示します。

図5.リニア・レギュレータの最大効率とVO/VINの比

図5.リニア・レギュレータの最大効率とVO/VINの比

これに対して、VOがVINに近い場合、リニア・レギュレータの効率は非常に高くなります。ただし、リニア・レギュレータ(LR)には別の制約があります。それはVINとVOの間の最小電圧差です。LR内部のトランジスタは、線形モードで動作しなければなりません。したがって、バイポーラ・トランジスタのコレクタとエミッタの間またはFETのドレインとソースの間に一定の最小電圧降下が必要です。VOがVINに近すぎると、LRは出力電圧を安定化することができなくなる場合があります。少ないヘッドルーム(VIN – VO)で動作することができるリニア・レギュレータを低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)と呼びます。

また、リニア・レギュレータまたはLDOが実現可能なのは降圧DC/DC変換だけであることも明らかです。VOの電圧をVINの電圧より高くすることが必要なアプリケーションや、正のVIN電圧から負のVO電圧を作り出す必要があるアプリケーションでは、リニア・レギュレータが機能しないことは明らかです。

高電力向けの電流シェアリング機能を備えたリニア・レギュレータ [8]


より大量の電力が必要なアプリケーションでは、レギュレータをヒートシンクに個別に取り付けて熱を放散する必要があります。全表面実装システムでは、この方法を選択できないので、電力損失の制限(例えば1W)によって出力電流が制限されます。残念ながら、リニア・レギュレータをそのまま並列接続して、発生した熱を放散するのは簡単ではありません。

図3に示す電圧リファレンスを高精度電流源で置き換えると、リニア・レギュレータをそのまま並列に接続して電流負荷を分散させ、放散された熱をIC間で分散させることができます。これにより、基板上の任意の1箇所で放散できる熱量が限られている、出力電流の大きい全表面実装アプリケーションでリニア・レギュレータを使用することができます。LT3080は、大電流向けに並列接続して使用できる最初の可変リニア・レギュレータです。図6に示すように、温度係数がゼロの高精度10μA内部電流源がオペアンプの非反転入力に接続されています。1本の電圧設定抵抗RSETを外付けにすることで、リニア・レギュレータの出力電圧は0V~(VIN –VDROPOUT)の範囲で調整することができます。

図6.高精度電流源リファレンスを備えたLDO LT3080の1本の抵抗による設定

図6.高精度電流源リファレンスを備えたLDO LT3080の1本の抵抗による設定

図7は、LT3080を並列接続して電流を分担するのがいかに容易であるかを示しています。LT3080のSETピンをそのまま互いに接続すると、2つのレギュレータは同じリファレンス電圧を共用します。オペアンプは正確に調整されているので、調整ピンと出力の間のオフセット電圧は2mV未満です。この場合、負荷電流のバランスを保って分担の均一性を80%より高くするために必要なのは10mΩの安定抵抗(値の小さな外付け抵抗とPCBトレース抵抗の和)だけです。更に大きな電力が必要な場合は、並列接続するデバイスの数を5~ 10に増やすとよいでしょう。

図7.2つのLT3080リニア・レギュレータの並列接続による出力電流の増大

図7.2つのLT3080リニア・レギュレータの並列接続による出力電流の増大

リニア・レギュレータが望ましいアプリケーション


リニア・レギュレータまたはLDOがスイッチング電源より優れたソリューションを提供するアプリケーションは多数ありますが、そのうちのいくつかを以下に示します。

  1. 簡単で低コストのソリューション。 リニア・レギュレータまたはLDOのソリューションは簡単で使いやすく、特に、熱応力が重要ではない低出力電流の低消費電力アプリケーションに適しています。パワー・インダクタを外付けする必要はありません。
  2. 低ノイズ/低リップル・アプリケーション。 通信デバイスや無線デバイスなど、ノイズにセンシティブなアプリケーションでは、電源ノイズを最小限に抑えることが非常に重要です。リニア・レギュレータにはオンとオフが頻繁に切り替わる素子が存在しないので、出力電圧リップルは非常に低い値になり、またリニア・レギュレータは帯域幅を非常に高くすることができます。したがって、EMIの問題はほとんどありません。リニアテクノロジーのLT1761 LDOファミリなど、いくつかの特殊なLDOでは、出力でのノイズ電圧が低く、20μVRMS程度です。SMPSがこの低ノイズ・レベルを達成することは、ほとんど不可能です。SMPSでは、超低ESRのコンデンサを使用した場合でも、通常はmVレベルの出力リップルが生じます。
  3. 高速トランジェント・アプリケーション。 リニア・レギュレータの帰還ループは通常は内部にあるので、外部補償は必要ありません。一般に、リニア・レギュレータの制御ループ帯域幅はSMPSより広く、トランジェント応答もより高速です。
  4. 低ドロップアウト・アプリケーション。 出力電圧が入力電圧に近いアプリケーションでは、LDOの方がSMPSより効率が高いことがあります。リニアテクノロジーのLTC1844LT3020LTC3025など、ドロップアウト電圧が20mV~90mVで最大150mAの電流を供給できる超低ドロップアウトLDO(VLDO)があります。最小入力電圧はわずか0.9Vです。LRにはACスイッチング損失がないので、LRまたはLDOの軽負荷効率はその全負荷効率と同様です。SMPSでは、ACスイッチング損失があるため、通常は軽負荷効率の方が低くなります。軽負荷効率もやはり重要なバッテリ駆動アプリケーションでは、LDOがSMPSより優れたソリューションを提供できます。

要約すると、設計者がリニア・レギュレータまたはLDOを使用するのは、これらが簡単、低ノイズ、低コストで使いやすく、トランジェント応答が高速だからです。VOがVINに近い場合は、LDOの方がSMPSより効率が高いことがあります。

スイッチング電源の基本

スイッチング電源を使用する理由


一言でいうと高効率が得られるからです。SMPSでは、トランジスタが線形モードではなくスイッチング・モードで動作します。これが意味するのは、トランジスタがオンして電流が導通すると、その電力経路両端の電圧降下は最小になるということです。トランジスタがオフして、高電圧が遮断されると、その電力経路にはほとんど電流が流れません。ですから、半導体トランジスタは理想スイッチのようなものです。トランジスタの電力損失は、したがって最小限に抑えられます。設計者が、特に大電流アプリケーションで、リニア・レギュレータまたはLDOの代わりにSMPSを使用する主な理由は、高効率、低消費電力、および高電力密度(小サイズ)です。例えば、今日では12V入力、3.3V出力のスイッチング・モード同期整流式の降圧電源が通常90%以上の効率を達成できるのに対して、リニア・レギュレータでは27.5%以下の低い値になります。これは、電力損失またはサイズを8倍以上削減することを意味します。

最も一般的なスイッチング電源 - 降圧コンバータ

最も簡単で最も一般的なスイッチング・レギュレータである降圧DC/DCコンバータを図8に示します。このデバイスには、トランジスタQ1がオンしているかオフしているかに応じて、2つの動作モードがあります。説明を簡単にするため、全てのパワー・デバイスは理想的であると仮定します。スイッチ(トランジスタ)Q1がオンすると、スイッチング・ノードの電圧VSWはVINに等しくなり、インダクタLの電流が(VIN – VO)によって充電されます。このインダクタ充電モードの等価回路を図(8 a)に示します。スイッチQ1がオフすると、図8(b)に示すように、インダクタ電流は転流ダイオードD1を流れます。スイッチング・ノードの電圧VSWは0Vになり、インダクタLの電流はVOの負荷によって放電されます。理想インダクタは定常状態時にDC電圧を保持できないので、平均出力電圧VOは次式で与えられます。

数式 2

ここで、TONはスイッチング周期TS内でのオン時間の間隔です。TON/TSの比をデューティ・サイクルDと定義すると、出力電圧VOは次のように表されます。

数式 3

フィルタ・インダクタLと出力コンデンサCOの値が十分に大きい場合、出力電圧VOは、リップルがたかだか数mV程度のDC電圧になります。この場合、12V入力の降圧電源では、概念上、デューティ・サイクルが27.5%のとき出力電圧は3.3Vになります。

図8.降圧コンバータの動作モードと標準的な波形

図8.降圧コンバータの動作モードと標準的な波形

上記の平均化手法以外に、デューティ・サイクルの式を導出する別の方法があります。理想インダクタは定常状態時にDC電圧を保持できません。このため、スイッチング周期の間にインダクタの電圧(V)と時間(秒)のバランスを維持する必要があります。図8のインダクタ電圧波形によると、電圧と時間のバランスを維持するには、次の条件を満たす必要があります。

数式 4
数式 5

式(5)は式(3)と同じです。他のDC/DCトポロジーに対しても電圧と時間のバランス手法に同じものを使用して、デューティ・サイクルとVINおよびVOの式を導出することができます。

降圧コンバータでの電力損失

DC導通損失


理想的な部品(オン状態での電圧降下がゼロでスイッチング損失がゼロ)を使用した場合、理想的な降圧コンバータの効率は100%になります。実際には、全てのパワー部品に常に電力損失が伴います。SMPSには2種類の損失があります。それは、DC導通損失とACスイッチング損失です。

降圧コンバータの導通損失は、トランジスタQ1、ダイオードD1、およびインダクタLに電流が導通するときにそれらの両端で生じる電圧降下が主な原因です。説明を簡単にするため、次に示す導通損失の計算ではインダクタ電流のACリップルを無視します。パワー・トランジスタとしてMOSFETを使用する場合、MOSFETの導通損失はIO2 • RDS(ON) • Dに等しくなります。ここで、RDS(ON)はMOSFET Q1のオン抵抗です。導通電力損失はIO • VD • (1 – D)に等しくなります。ここで、VDはダイオードD1の順方向電圧降下です。インダクタの導通損失はIO2 • RDCRに等しくなります。ここで、RDCRはインダクタの巻線の銅線抵抗です。したがって、降圧コンバータの導通損失はほぼ次のようになります。

数式 6

例えば12V入力、3.3V/10AMAX出力の降圧電源は、以下の部品を使用することができます。MOSFETのRDS(ON) =10mΩ、インダクタのRDCR = 2 mΩ、ダイオードの順方向電圧VD = 0.5V。したがって、全負荷での導通損失は次のとおりです。

数式 7

導通損失だけを考えると、コンバータの効率は次のようになります。

Equation 8

前述の分析は、転流ダイオードが3.62Wの電力を消費することを示しており、これはMOSFET Q1およびインダクタLの導通損失よりはるかに高い値です。より効率を高めるため、図9に示すように、ダイオードD1をMOSFET Q2に置き換えることができます。このコンバータは同期整流式の降圧コンバータと呼ばれます。Q2のゲートにはQ1のゲートを補完する信号が必要です。つまり、Q2がオンするのはQ1がオフのときだけです。同期整流式の降圧コンバータの導通損失は次のとおりです。

数式 9

RDS(ON)が10mΩのMOSFETをQ2に使用した場合、同期整流式の降圧コンバータの導通損失と効率は次のようになります。

数式 10
数式 11

前述の例が示しているのは、特にデューティ・サイクルが小さく、ダイオードD1の導通時間が長い低出力電圧アプリケーションの場合、同期整流式の降圧コンバータの方が従来の降圧コンバータより効率が高くなるということです。

図9.同期整流式の降圧コンバータとトランジスタ ゲートの信号

図9.同期整流式の降圧コンバータとトランジスタ ゲートの信号

ACスイッチング損失


DC導通損失の他に、理想的ではないパワー部品に起因するAC/スイッチング関連の電力損失があります。

  1. MOSFETのスイッチング損失。 実際のトランジスタは、オンまたはオフするのに時間が必要です。したがって、ターンオン・トランジェント時とターンオフ・トランジェント時には電圧と電流が重なり、そのためにACスイッチング損失が生じます。同期整流式の降圧コンバータでのMOSFET Q1の代表的なスイッチング波形を図10に示します。上側FETQ1のスイッチング時間と関連の損失のほとんどは、Q1の寄生コンデンサCGDの充電および放電と電荷QGDによって決まります。同期整流式の降圧コンバータでは、下側FET Q2のボディ・ダイオード両端の電圧降下が小さい上に、Q2のスイッチング損失も小さくて済みます。Q2はそのボディ・ダイオードの導通後常にオンしており、ボディ・ダイオードが導通する前はオフしているからです。ただし、Q2のボディ・ダイオードの逆回復電荷によって上側FET Q1のスイッチング損失が大きくなることがあり、スイッチング電圧のリンギングやEMIノイズが発生する可能性もあります。式(12)は、制御FET Q1のスイッチング損失がコンバータのスイッチング周波数fSに比例することを示しています。Q1のエネルギー損失EONおよびEOFFを正確に計算するのは簡単ではありませんが、MOSFETメーカーのアプリケーション・ノートに記載されているので参考にしてください。
    数式 12
  2. インダクタの磁心損失PSW_CORE 実際のインダクタには、スイッチング周波数の関数であるAC損失もあります。インダクタのAC損失の主な要因は磁心損失です。高周波のSMPSでは、磁心材料が粉末状の鉄またはフェライトである場合があります。一般に、粉末状の鉄心は緩やかに飽和しながら磁心損失が大きいのに対して、フェライト材はより急激に飽和しますが磁心損失は小さくて済みます。フェライトはセラミックの強磁性体材料で、その結晶構造はマンガンまたは酸化亜鉛のいずれかと酸化鉄の混合物で構成されます。磁心損失の主な要因は磁気ヒステリシス損失です。磁心やインダクタのメーカーは、通常は磁心損失データを提供して、電源設計者がACインダクタ損失を推定できるようにします。
  3. その他のAC関連損失。 その他のAC関連損失は、ゲート・ドライバ損失PSW_GATEと、デッドタイム(上側FET Q1と下側FET Q2の両方がオフのとき)のボディ・ダイオード導通損失であり、前者はVDRV • QG • fSに等しく、後者は(ΔTON+ ΔTOFF) • VD(Q2) • fSに等しくなります。要約すると、スイッチング関連の損失は次のようになります。
    数式 13
    スイッチング関連損失の計算は、通常は容易ではありません。スイッチング関連損失は、スイッチング周波数fSに比例します。12V入力、3.3V出力(最大10A)の同期整流式の降圧コンバータでは、スイッチング周波数が200kHz~500kHzの場合、AC損失によって効率が約2%~5%低下します。したがって、全体的効率は全負荷時に約93%となり、LR電源またはLDO電源よりはるかに優れています。発熱量または大きさを10分の1近くまで低減することができます。
図10.降圧コンバータの上側FET Q1での代表的なスイッチング波形と損失

図10.降圧コンバータの上側FET Q1での代表的なスイッチング波形と損失

スイッチング・パワー部品の設計上の考慮事項

スイッチング周波数の最適化


一般に、スイッチング周波数が高くなることは、出力フィルタ部品LおよびCOの大きさが小さくなることを意味します。このため、電源のサイズとコストを低減することができます。また、帯域幅が高くなると負荷トランジェント応答を向上することができます。ただし、スイッチング周波数が高くなることは、AC関連の電力損失が増加することも意味するので、基板面積を広げるかヒートシンクを取り付けて熱応力を制限することが必要になります。現在、出力電流が10A以上のアプリケーションでは、ほとんどの降圧電源が100kHz~1MHzまたは2MHzの範囲で動作します。負荷電流が10A未満の場合、スイッチング周波数は最大で数MHzになることがあります。それぞれの設計に最適な周波数は、サイズ、コスト、効率、およびその他の性能パラメータ間の兼ね合いを慎重に検討した結果で決まります。

出力インダクタの選択


同期整流式の降圧コンバータでは、インダクタのピーク・トゥ・ピークのリップル電流を次のように計算することができます。

数式 14

スイッチング周波数が与えられている場合、インダクタンスを小さくするとリップル電流が大きくなり、出力リップル電圧が大きくなります。リップル電流が大きいと、MOSFETのRMS電流と導通損失も増加します。これに対して、インダクタンスが大きいことは、インダクタのサイズが大きいことと、インダクタのDCRおよび導通損失が大きくなる可能性があることを意味します。一般に、インダクタを選択する場合には、リップル電流のピーク・トゥ・ピーク値が最大DC電流に対して10%~60%の比率になるようにします。インダクタのメーカーは、通常、DCR、RMS(発熱)電流、および飽和電流の定格を規定しています。インダクタの最大DC電流およびピーク電流がメーカーの最大定格範囲内に収まるように設計することが重要です。

パワーMOSFETの選択


降圧コンバータ用のMOSFETを選択する場合は、最初にそのVDS最大定格が電源のVIN(MAX)より高く、十分に余裕があることを確認します。ただし、電圧定格が高すぎるFETは選択しないでください。例えば、VIN(MAX)が16Vの電源の場合は、25Vまたは30V定格のFETが適切です。FETのオン抵抗は通常、定格電圧が高くなるにつれて大きくなるので、60V定格のFETは定格が高すぎる可能性があります。次に、FETのオン抵抗RDS(ON)とゲート電荷QG(またはQGD)は、最も重大な2つのパラメータです。通常、ゲート電荷QGとオン抵抗RDS(ON)の間には相反関係があります。一般に、シリコン・ダイ・サイズの小さいFETは、QGが小さくてもオン抵抗RDS(ON)は大きいのに対して、シリコン・ダイ・サイズの大きいFETは、RDS(ON)が小さくてもQGは大きくなります。降圧コンバータでは、上側MOSFET Q1で導通損失とACスイッチング損失の両方が発生します。通常、Q1にはQGの少ないFETが必要です。特に、出力電圧が低く、デューティ・サイクルの小さいアプリケーションが必要になります。ローサイドの同期FET Q2のAC損失が小さいのは、通常はそのVDS電圧がゼロに近いときにオンまたはオフするからです。この場合、同期FET Q2にとってはRDS(ON)が小さいことの方がQGより重要です。1つのFETで全電力に対応できない場合は、いくつかのMOSFETを並列接続して使用することができます。

入力コンデンサと出力コンデンサの選択


最初に、電圧を十分に軽減してコンデンサを選択します。

降圧コンバータの入力コンデンサには、リップルの大きいパルス状のスイッチング電流が流れます。したがって、RMSリップル電流定格が十分な入力コンデンサを選択して、その寿命を保証するようにします。通常はアルミニウム電解コンデンサと低ESRのセラミック・コンデンサを入力で並列に使用します。

出力コンデンサによって、出力電圧リップルだけでなく負荷トランジェント性能も決まります。出力電圧のリップルは式(15)によって計算できます。高性能アプリケーションでは、出力リップル電圧を最小限に抑えて、負荷トランジェント応答を最適化するため、ESRと全容量の両方が重要になります。通常は、低ESRのタンタル・コンデンサ、低ESRのポリマー・コンデンサ、および多層セラミック・コンデンサ(MLCC)を選択するのが適切です。

数式 15

帰還レギュレーション・ループの閉結


スイッチング電源にとっては、重要な設計段階がもう1つあります。それは、負帰還制御方式によってレギュレーション・ループを閉じることです。通常、これはLRまたはLDOを使用するよりはるかに大変な作業です。安定したループを使用してダイナミック性能を最適化するには、ループの動作および補償について十分な理解が必要です。

降圧コンバータの小信号モデル


前述したように、スイッチング・コンバータはスイッチがオン状態かオフ状態かに応じてその動作モードを変更します。これは離散的で非線形のシステムです。線形制御方式を使用して帰還ループを分析するため、線形の小信号モデリングが必要です[1][3]。出力LCフィルタなので、出力VOに対するデューティ・サイクルDの線形の小信号伝達関数は、式(16)に示すように、実際にはポールが2つとゼロが1つの2次システムです。出力インダクタと出力コンデンサの共振周波数にはダブル・ポールがあります。また、出力容量とコンデンサのESRによって決まるゼロがあります。

数式 16
数式 17

電圧モード制御と電流モード制御


出力電圧は図11に示す閉ループ・システムによって安定化することができます。例えば、出力電圧が高くなると、帰還電圧VFBが高くなって負帰還エラーアンプの出力が低くなります。したがって、デューティ・サイクルは低くなります。その結果、VFB = VREFになるように出力電圧は低下します。エラー・オペアンプの補償回路網は、タイプI、タイプII、タイプIIIのいずれかの帰還アンプ回路網にすることができます[3][4]。出力を安定化する制御ループは1つだけです。この方式は電圧モード制御と呼ばれます。リニアテクノロジーのLTC3775とLTC3861は、代表的な電圧モード降圧コントローラです。

図11.電圧モード制御式降圧コンバータのブロック図

図11.電圧モード制御式降圧コンバータのブロック図

LT3775電圧モードの降圧コントローラを使用した、5V~26V入力、1.2V/15A出力の同期整流式降圧電源を図12に示します。LTC3775の立ち上がりエッジPWM変調アーキテクチャと非常に短い(30ns)最小オン時間により、この電源は、自動車用電源や産業用電源の高い電圧を今日のマイクロプロセッサ・チップやプログラマブル・ロジック・チップに必要な1.2Vの低電圧に変換するアプリケーションとして適切に動作します。高電力アプリケーションでは、電流シェアリング機能を備えたマルチフェーズ降圧コンバータが必要です。電圧モード制御では、並列の降圧チャネル間で電流のバランスを調整するため、追加の電流シェアリング・ループが必要です。電圧モード制御の標準的な電流シェアリング方式は、マスタ/スレーブとなります。LTC3861は、こうしたPolyPhase® 電圧モード・コントローラです。電流検出オフセットが非常に小さい(±1.25mV)ので、並列化された位相間での電流シェアリングが非常に高精度になり、熱応力のバランスをとることができます。[10]

図12.高い降圧比を実現するLTC3775電圧モード同期整流式の降圧電源

図12.高い降圧比を実現するLTC3775電圧モード同期整流式の降圧電源

電流モード制御は2つの帰還ループを使用します。1つは電圧モード制御式コンバータの制御ループと同様の外部電圧ループであり、もう1つは電流信号を制御ループに帰還させる内部電流ループです。図13は、出力インダクタ電流を直接検出するピーク電流モード制御の降圧コンバータの概念上のブロック図を示しています。電流モード制御では、インダクタの電流がエラー・オペアンプの出力電圧によって決まります。インダクタは電流源になります。したがって、オペアンプ出力VCから電源の出力電圧VOまでの伝達関数はシングル・ポール・システムになります。これにより、ループ補償は非常に簡単になります。制御ループ補償は出力コンデンサのESRによるゼロにあまり依存しないので、使用する出力コンデンサを全てセラミック・コンデンサにすることが可能です。

図13.電流モード制御式降圧コンバータのブロック図

図13.電流モード制御式降圧コンバータのブロック図

電流モード制御により、他にも多くの利点がもたらされます。図13に示すように、ピーク・インダクタ電流はオペアンプのVCによってサイクル単位で制限されるので、電流モード制御式システムは過負荷条件下でより高精度で高速の電流制限性能を発揮します。インダクタの突入電流は起動時でも十分に制御されます。また、入力電圧が変化したときインダクタ電流はすぐに変化しないので、電源は優れた入力トランジェント性能を備えています。複数のコンバータを(電流モード制御を使用して)並列接続すると、複数の電源間で電流を分担するのも非常に簡単です。これはPolyPhase降圧コンバータを使用する信頼性の高い大電流アプリケーションにとって重要です。一般に、電流モード制御式コンバータは電圧モード制御式コンバータより高い信頼性を備えています。

電流モード制御方式のソリューションは電流を正確に検出する必要があります。電流検出信号は、通常、スイッチング・ノイズにセンシティブな数十mVレベルの小信号です。したがって、適切で注意深いPCBレイアウトが必要です。電流ループを閉じるには、検出抵抗、インダクタのDCRによる電圧降下、またはMOSFETの導通電圧降下を通じてインダクタ電流を検出します。代表的な電流モード・コントローラには、リニアテクノロジーのLTC3851ALTC3855LTC3774LTC3875などがあります。

定周波制御とオン時間一定制御


「電圧モード制御と電流モード制御」セクションで説明した標準的な電圧モードおよび電流モード方式では、コントローラ内部のクロックによって一定のスイッチング周波数が生成されます。これらのスイッチング周波数一定コントローラは容易に同期することができるので、大電流、PolyPhase降圧コントローラにとって重要な機能です。ただし、制御FET Q1のゲートをオフした直後に負荷ステップ上昇トランジェントが発生した場合、コンバータはQ1の全オフ時間にわたって待機し、次のサイクルになってからトランジェントに応答する必要があります。デューティ・サイクルの小さいアプリケーションでは、最悪の場合の遅延時間が1回のスイッチング周期に近い値になります。

こうした低デューティ・サイクル・アプリケーションでは、オン時間一定の谷電流モード制御の方が、負荷ステップ上昇トランジェントに応答するための待ち時間が短くて済みます。定常状態の動作では、オン時間一定の降圧コンバータのスイッチング周波数がほぼ固定されます。トランジェントが発生した場合には、スイッチング周波数が急速に変化してトランジェント応答を速めることができます。その結果、電源のトランジェント性能が向上するので、出力容量とその関連コストを低減することができます。

ただし、オン時間一定の制御では、スイッチング周波数が入力または負荷に応じて変化することがあります。LTC3833は、より高度なオン時間制御アーキテクチャを備えた谷電流モードの降圧コントローラです。このアーキテクチャは、オン時間一定制御アーキテクチャの一種で、入力電圧と負荷が定常状態の条件でスイッチング周波数が一定になるようにオン時間が制御される点が異なります。このアーキテクチャにより、LTC3833コントローラは最小オン時間を20nsとすることができ、最大38Vの入力から0.6Vを出力する降圧アプリケーションになります。このコントローラは200kHz~2MHzの周波数範囲で外部クロックと同期することができます。入力が4.5V~14Vで出力が1.5V/20Aの標準的なLTC3833電源を図14に示します。[11] 急激な高スルーレート負荷トランジェントに対して電源が素早く応答できることを図15に示します。負荷ステップ上昇トランジェント時は、スイッチング周波数が高くなり、より短時間のトランジェント応答を実現します。負荷ステップ下降トランジェント時に、デューティ・サイクルはゼロまで低下します。したがって、電流のスルーレートを制限するのは出力インダクタだけです。複数出力アプリケーションやPolyPhaseアプリケーションでは、LTC3833の他に、LTC3838およびLTC3839コントローラが高速トランジェントのマルチフェーズ・ソリューションを提供します。

図14.LTC3833を使用したオン時間制御の高速電流モード電源

図14.LTC3833を使用したオン時間制御の高速電流モード電源

図15.急速な負荷ステップ・トランジェント時に高速応答を実現するLTC3833電源

図15.急速な負荷ステップ・トランジェント時に高速応答を実現するLTC3833電源

ループ帯域幅と安定性


優れた設計のSMPSは、電気的にも聴覚的にも静粛です。これは補償が不十分なシステムには当てはまらず、不安定になる傾向があります。補償が不十分な電源の典型的な徴候は、磁気部品やセラミック・コンデンサからの可聴ノイズ、スイッチング波形でのジッタ、出力電圧の発振などです。過補償のシステムは非常に安定していて静粛ですが、代償としてトランジェント応答が低速になります。こうしたシステムでは、ループのクロスオーバー周波数が非常に低く、標準で10kHz未満です。トランジェント応答が低速の設計では、過渡的なレギュレーション要件を満たすために過度の出力容量が必要になり、電源全体のコストおよびサイズが増大します。最適なループ補償設計は安定していて静粛ですが、過補償にはならないので、応答も高速で出力容量を最小限に抑えられます。リニアテクノロジーのAN149の記事では、電源回路のモデリングとループ設計の考え方および方法について詳細に説明しています[3]。小信号モデリングとループ補償設計は、経験の浅い電源設計者には難しいと考えられます。リニアテクノロジーのLTpowerCAD設計ツールは複雑な数式に対応しており、電源の設計、特にループ補償の設計が非常に簡単な作業になります[5][6]。LTspice®シミュレーション・ツールは、リニアテクノロジーの全てのデバイス・モデルを組み込み、時間領域の付加的なシミュレーションを実行して設計を最適化します。ただし、通常はプロトタイプの段階で、ループの安定性とトランジェント性能のベンチ・テスト/検証が必要です。

一般に、閉じた電圧レギュレーション・ループの性能は、ループの帯域幅とループの安定性余裕度という2つの重要な値によって評価されます。ループの帯域幅はクロスオーバー周波数fCによって定量化されます。この周波数では、ループの利得T(s)が1(0dB)に等しくなります。ループの安定性余裕度は、一般的には位相余裕または利得余裕によって定量化されます。ループの位相余裕Φmは、T(s)の全位相遅れと、クロスオーバー周波数での–180°との差として規定されます。利得余裕は、T(s)の全位相遅れが–180°に等しくなる周波数でのT(s)の利得と0dBとの差で規定されます。降圧コンバータでは、通常は45°の位相余裕および10dBの利得余裕で十分であると考えられます。12V入力、1V/60A出力の電流モード3相降圧コンバータLTC3829のループ利得の代表的なボード線図を図16に示します。この例では、クロスオーバー周波数は45kHzで、位相余裕は64°です。利得余裕は20dBに近い値です。

図16.ループ補償および負荷トランジェント応答を最適化する簡単な方法を提供するLTpowerCAD設計ツール(3相、シングル出力の降圧コンバータLTC3829の例)。

図16.ループ補償および負荷トランジェント応答を最適化する簡単な方法を提供するLTpowerCAD設計ツール(3相、シングル出力の降圧コンバータLTC3829の例)。

大電流アプリケーション対応のPolyPhase降圧コンバータ


データ処理システムの高速化と大規模化が進むにつれて、システムのプロセッサと記憶装置に必要な電流は増加していますが、電圧は減少し続けています。こうした大電流では、電源に対する要求が高まります。近年は、効率が高く温度分布が均一であることから、PolyPhase(マルチフェーズ)同期整流式の降圧コンバータが大電流、低電圧の電源ソリューションとして幅広く使用されるようになりました。それに加えて、降圧コンバータの複数の位相が交互に入れ替わるので、入力側と出力側の両方でリップル電流を大幅に低減することが可能であり、入力と出力のコンデンサや関連の基板スペースおよびコストの削減につながります。

PolyPhase降圧コンバータでは、電流を正確に検出して分担することが非常に重要になります。優れた電流シェアリングにより、均一な温度分布と高いシステム信頼性が保証されます。固有の電流シェアリング能力を定常状態時およびトランジェント時に発揮するので、通常は電流モード制御の降圧コンバータが好まれます。リニアテクノロジーのLTC3856およびLTC3829は、電流の正確な検出機能とシェアリング機能を備えた代表的なPolyPhase降圧コントローラです。複数のコントローラをデイジーチェーン方式で接続して、出力電流が20A~200Aを超える2、3、4、6、および12相のシステムに対応することができます。

図17.LTC3829を使用した3相、単一出力の大電流降圧コンバータ

図17.LTC3829を使用した3相、単一出力の大電流降圧コンバータ

高性能コントローラのその他の要件


高性能降圧コントローラには、他にも多くの重要な機能が必要です。起動時の突入電流を制御するため、通常はソフトスタートが必要です。出力が過負荷状態または短絡状態になった場合は、過電流制限および短絡ラッチオフで電源を保護することができます。過電圧保護は、システム内の高額な負荷デバイスを保護します。システムのEMIノイズを最小限に抑えるには、コントローラをときどき外部クロック信号と同期させる必要があります。低電圧、大電流のアプリケーションでは、差動電圧のリモート検出により、プリント基板の抵抗による電圧降下を補償して、離れた負荷での出力電圧を正確に安定化します。また、多くの出力電圧レールを備えた複雑なシステムでは、異なる電圧レール間でのシーケンス制御およびトラッキングも必要です。

プリント基板のレイアウト


部品を選択して回路図を設計した段階は、電源設計工程の半分に到達したにすぎません。スイッチング電源設計では、プリント基板のレイアウトを適切に行うことが常に重要です。事実、その重要性を誇張することはできません。優れたレイアウト設計を実施することで、電源の効率を最適化し、熱応力を緩和して、何よりも、トレースと部品間のノイズと干渉を最小限に抑えることができます。そのためには、スイッチング電源内の電流導通経路と信号の流れを理解することが重要です。通常は、必要な経験を得るために大変な労力が必要です。詳細については、リニアテクノロジーの「アプリケーションノート136」および「アプリケーションノート139」を参照してください。[7][9]

各種ソリューションの選択 – ディスクリート電源、モノリシック電源、および集積型電源


集積レベルでは、システム・エンジニアは、ディスクリート、モノリシック、完全集積型パワー・モジュール・ソリューションのどれを選ぶか決めることができます。標準的なポイントオブロード電源アプリケーション向けのディスクリート・ソリューションとパワー・モジュール・ソリューションの例を図18に示します。ディスクリート・ソリューションでは、コントローラIC、外付けMOSFET、および受動部品を使用して、システム・ボード上に電源を構築します。ディスクリート・ソリューションを選択する主な理由は、部品表(BOM)に記載の部品コストが低いことです。ただし、このためには優れた電源設計技能と比較的長い開発時間が必要になります。モノリシック・ソリューションでは、パワーMOSFETを内蔵したICを使用して、ソリューション・サイズと部品点数を更に削減します。これには同様の設計技能と時間が必要です。完全集積型パワー・モジュール・ソリューションでは、設計上の労力、開発時間、ソリューション・サイズ、設計上のリスクを大幅に軽減できますが、通常は部品コストが高くなります。

図18.(a)ディスクリートの12V入力、3.3V/10A出力LTC3778電源(b)完全集積型の16V入力、デュアル13Aまたはシングル26ALTM4620 μModule®降圧レギュレータの例

図18.(a)ディスクリートの12V入力、3.3V/10A出力LTC3778電源(b)完全集積型の16V入力、デュアル13Aまたはシングル26ALTM4620 μModule®降圧レギュレータの例

その他の基本的な非絶縁型DC/DC SMPSトポロジー


このアプリケーションノートでは、簡単な例として降圧コンバータを使用して、SMPSの設計上の考慮事項について説明します。ただし、この他に5種類以上の基本的な非絶縁型コンバータ・トポロジー(昇圧、昇降圧、CUK、SEPIC、およびZETAコンバータ)と5種類以上の基本的な絶縁型コンバータ・トポロジー(フライバック、フォワード、プッシュプル、ハーフブリッジ、およびフルブリッジ)があり、このアプリケーションノートでは説明していません。各トポロジーは、特定のアプリケーションに適合する特有の特性を持っています。他の非絶縁型SMPSトポロジーの簡略回路図を図19に示します。

図19.その他の基本的な非絶縁型DC/DCコンバータ・トポロジー

図19.その他の基本的な非絶縁型DC/DCコンバータ・トポロジー

基本的なトポロジーの組み合わせである非絶縁型SMPSトポロジーが他にあります。例えば、LTC3789電流モード・コントローラをベースにした高効率、4スイッチ同期整流式の昇降圧コンバータを図20に示します。このデバイスは、入力電圧が出力電圧より低い、等しい、または高い条件で動作することができます。例えば、入力を5V~36Vの範囲にして、出力を安定化された12Vにすることができます。このトポロジーは、同期整流式の降圧コンバータと同期整流式の昇圧コンバータの組み合わせで、1つのインダクタを共用しています。VIN >VOUTのとき、スイッチAおよびBはアクティブな同期整流式の降圧コンバータとして動作しますが、スイッチCは常にオフであり、スイッチDは常にオンです。VIN < VOUTのとき、スイッチCおよびDはアクティブな同期整流式の昇圧コンバータとして動作しますが、スイッチAは常にオンであり、スイッチBは常にオフです。VINがVOUTに近づくと、4つのスイッチは全てアクティブに動作します。その結果、このコンバータの効率を非常に高くすることが可能になり、標準的な12V出力アプリケーションでは効率を最大98%にすることができます。[12]LT8705コントローラでは、入力電圧範囲が更に最大80Vまで広がります。設計を簡略化して電力密度を高めるため、LTM4605/4607/4609では、複雑な降圧/昇圧コンバータを更に統合して、高密度で使いやすいパワー・モジュールにしています。[13] これらのデバイスは、大電力アプリケーション向けの負荷シェアリング機能によって簡単に並列接続することができます。

図20.入力電圧が出力電圧より低い、等しい、または高い条件で動作する高効率4スイッチ昇降圧コンバータ

図20.入力電圧が出力電圧より低い、等しい、または高い条件で動作する高効率4スイッチ昇降圧コンバータ

まとめ

要約すると、リニア・レギュレータは簡単で使いやすいデバイスです。その直列レギュレーション・トランジスタは線形モードで動作するので、出力電圧が入力電圧よりはるかに低い場合、通常は電源の効率が低くなります。一般に、リニア・レギュレータ(またはLDO)は電圧リップルが小さくトランジェント応答が高速です。これに対して、SMPSはトランジスタをスイッチとして動作させるので、通常はリニア・レギュレータよりはるかに効率的です。しかしながら、SMPSの設計と最適化は更に困難であり、より多くの予備知識と経験が必要です。各ソリューションには、特定のアプリケーションに対して特有の利点と欠点があります。

参考資料

[1] V. Vorperian, “Simplified Analysis of PWM Converters Using the Model of the PWM Switch: Parts I and II,” IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems, Mar. 1990,Vol. 26, No.2. 

[2] R. B. Ridley, B. H. Cho, F. C. Lee, “Analysis and Interpretation of Loop Gains of Multi-Loop-Controlled Switching Regulators,” IEEE Transactions on Power Electronics, pp. 489-498, Oct. 1988.

[3] H. Zhang, “Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies,” Linear Technology Application Note AN149, 2015.

[4] H. Dean Venable, “Optimum Feedback Amplifier Design for Control Systems,” Venable Technical Paper.

[5] H. Zhang, “Designing Power Supplies in Five Simple Steps with the LTpowerCAD Design Tool,” Linear Technology Application Note AN158, 2015.

[6] LTpowerCAD設計ツール(www.linear.com/LTpowerCAD)

[7] H. Zhang、「非絶縁型スイッチング電源のPCBレイアウトにおける考慮事項」、アプリケーションノートAN136、リニアテクノロジー株式会社、2012年

[8] R. Dobbkin, “Low Dropout Regulator Can be Directly Paralleled to Spread the Heat,” LT Journal of Analog Innovation, Oct. 2007.

[9] C. Kueck、「電源レイアウトとEMI」、リニアテクノロジー・アプリケーションノートAN139、2013年

[10] M. Subramanian、T. Nguyen、T. Phillips、「大電流電源における正確なマルチフェーズ電流分担を実現するサブ・ミリオームDCR電流センス」、LT Journal、2013年1月

[11] B. Abesingha, “Fast, Accurate Step-Down DC/DC Controller Converts 24V Directly to 1.8V at 2MHz,” LT Journal, Oct. 2011.

[12] T. Bjorklund、「高効率の4スイッチ昇降圧コントローラにより正確な出力電流制限を実現」、リニアテクノロジー・デザインノート499

[13] J. Sun、S. Young、H. Zhang、「4.5V~36Vinから0.8V~34V Voutの(ほぼ)完全な昇降圧ソリューションを15mm ×15mm × 2.8mmに収めたμModuleレギュレータ」、LT Journal、2009年3月

Henry Zhang

Henry Zhang

Henry Zhangは、アナログ・デバイセズでPower by Linear製品を担当するアプリケーション・ディレクタです。2001年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社しました。1994年に中国の浙江大学で電気工学の学士号、1998年と2001年にバージニア工科大学で電気工学の修士号と博士号をそれぞれ取得しています。