ADALM2000による実習:バイポーラ・トランジスタをベースとするマルチバイブレータ

背景

今回は、バイポーラ・トランジスタをベースとするマルチバイブレータ回路を取り上げます。代表的な3種の回路を構築し、その動作を確認してみましょう。一般に、マルチバイブレータ回路は2つの反転アンプ段によって構成されます。それら2つのアンプ回路は直列(カスケード)に接続されます。そして、2段目のアンプ回路の出力と1段目のアンプ回路の入力を接続したフィードバック・パスを形成します。各アンプ段では信号が反転するため、ループ全体としては正のフィードバック回路が構成されることになります。

マルチバイブレータは、無安定マルチバイブレータ、単安定マルチバイブレータ、双安定マルチバイブレータの3種に分類することができます。無安定マルチバイブレータでは、コンデンサを使用して2つのアンプ段を結合することによりフィードバック・パスを構成します。それらのコンデンサによってDC信号がブロックされることから、1段目から2段目にはDC成分は伝わらなくなります。そのため、無安定マルチバイブレータには安定したDC動作点が存在しません。つまり、自走(フリーランニング)型の発振器として機能します。単安定マルチバイブレータでも、一方の段から他方の段への結合にはコンデンサを使用します。但し、もう1つの接続はDCパスを介したものになります。したがって、単安定マルチバイブレータには1つの安定したDC動作点が存在します。このことから、同バイブレータはワンショット・マルチバイブレータと呼ばれることがあります。この種の回路は、トリガ・パルスが印加されない限り、単一の安定状態を維持します。トリガ・パルスが印加されると、あらかじめ定められた時間にわたって状態が変化します。その時間は、信号パスにおけるAC結合部分のRC時定数によって決まります。双安定マルチバイブレータでは、コンデンサを使うことなく、2つのアンプ段をDC結合します。そのため、同バイブレータには2つの異なる安定状態が存在します。この種のバイブレータは、フリップフロップとも呼ばれます。フリップフロップは、2つの安定状態のうちいずれかの状態をとります。

無安定マルチバイブレータ

まずは、無安定マルチバイブレータの回路を実際に構成し、その動作を確認してみます。

目的

無安定マルチバイブレータでは、抵抗とコンデンサを使って同じ形で構成した2つの回路(抵抗‐コンデンサ回路)を使用します。それらによって発振周波数が決まります。バイポーラ・トランジスタ(増幅デバイス)は、エミッタ接地(共通エミッタ)の構成で使用します。

図1. 無安定マルチバイブレータの回路
図1. 無安定マルチバイブレータの回路

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:470Ω(2 個)、20kΩ(2 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:「2N3904」(2 個)
  • 赤色 LED:1 個
  • 緑色 LED:1 個
  • コンデンサ:47µF(2 個)、0.1µF(2 個)

説明

図1に示したのが、無安定マルチバイブレータの回路です。ADALM2000からは電源だけを供給し、それ以外の信号は入力しない点に注目してください。1段目の反転アンプ回路は、トランジスタQ1と抵抗R1で構成しています。赤色LEDは、同回路の出力負荷として使用しています。一方、2段目の反転アンプ回路はトランジスタQ2と抵抗R2で構成されています。1段目の回路と同様に、緑色LEDを負荷として使用しています。コンデンサC1は、1段目の出力(Q1のコレクタ)と2段目の入力(Q2のベース)を結合する役割を果たします。同様に、コンデンサC2は、2段目の出力(Q2のコレクタ)と1段目の入力(Q1のベース)を結合するために使用しています。

ハードウェアの設定

図2に、図1の回路を実装したブレッドボードを示しました。

図2. 図1の回路を実装したブレッドボード
図2. 図1の回路を実装したブレッドボード

手順

回路が適切に実装されていることを必ず確認した上で、電源VPを投入してください。すると、赤色LEDと緑色LEDが約1秒間隔で交互に点滅するはずです。オシロスコープ機能を使用すれば、出力信号(QとQ)の波形を確認することができます(図3)。

この回路は、コンデンサC1とC2の値が大きいことから、非常に低い周波数で発振します。ここで、C1とC2を0.1µFのコンデンサに置き換えてみましょう。すると、回路の動作ははるかに高速になり、2つのLEDが同時に点灯しているかのように見えるはずです。オシロスコープ機能を使用して、出力信号の周波数(周期)を確認してみてください(図4)。

図3. 図1の回路の出力信号。47µFのコンデンサを使用した場合の結果です。
図3. 図1の回路の出力信号。47µFのコンデンサを使用した場合の結果です。
図4. 0.1µFのコンデンサを使用した場合の出力信号
図4. 0.1µFのコンデンサを使用した場合の出力信号

単安定マルチバイブレータ

次に、単安定マルチバイブレータを取り上げます。実際に回路を構成して動作を確認してみましょう。

目的

単安定マルチバイブレータでは、1つの抵抗‐コンデンサ回路によってワンショット出力の持続時間が決まります。トランジスタは、エミッタ接地の構成で使用します。

準備するもの

  • ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:470Ω(2 個)、1kΩ(1 個)、20kΩ(1 個)、47kΩ(1 個)
  • 小信号ダイオード:「1N914」(1 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:2N3904(2 個)
  • 赤色 LED:1 個
  • 緑色 LED:1 個
  • コンデンサ:47µF(1 個)

説明

図5に、単安定マルチバイブレータの回路を示しました。ここでは、図1の回路を改変することで図5の回路を構成します。そのために、まずは20kΩの抵抗のうち1つ(図1のR3)を取り除きます。その上で、コンデンサC1を47kΩの抵抗(図5のR3)で置き換えます。更に、Q2のベースにダイオードD1と抵抗R5を追加します。C2については、47µFのコンデンサに戻すのを忘れないでください。

図5. 単安定マルチバイブレータの回路
図5. 単安定マルチバイブレータの回路

ハードウェアの設定

図6に、図5の回路を実装したブレッドボードを示しました。

図6. 図5の回路を実装したブレッドボード
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード

手順

回路が適切に実装されていることを確認した上で、VPを投入してください。すると、赤色LEDは点灯し、緑色LEDは消灯するはずです。ここで、ある程度の長さのワイヤを使用し、トリガ入力(R5の一端)にVPを一瞬だけ印加してすぐに離してください。すると、約1秒間にわたり、赤色LEDが消灯し、緑色LEDが点灯した状態になります。その後、赤色LEDが点灯、緑色LEDが消灯という安定した状態に戻るはずです。同じことを数回繰り返し、回路が正しく動作していることを確認してみてください。

図7. 図5の回路の信号波形。トリガを加えた場合の動作を示しています。
図7. 図5の回路の信号波形。トリガを加えた場合の動作を示しています。

双安定マルチバイブレータ

続いて、双安定マルチバイブレータの回路を構成し、動作を確認します。

目的

先述したように、双安定マルチバイブレータは、多くの場合フリップフロップと呼ばれます。ここでは、まずRSフリップフロップ(リセット、セット付きのフリップフロップ)を取り上げます。本稿で紹介する回路では、トランジスタはエミッタ接地の構成で使用します。

準備するもの

  • ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:470Ω(2 個)、1kΩ(2 個)、47kΩ(2 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:2N3904(2 個)
  • 小信号ダイオード:1N914(2 個)
  • 赤色 LED:1 個
  • 緑色 LED:1 個

説明

図8に、双安定マルチバイブレータの回路を示しました。

図8. 双安定マルチバイブレータの回路
図8. 双安定マルチバイブレータの回路

ハードウェアの設定

図9に、図8の回路を実装したブレッドボードを示しました。

図9. 図8の回路を実装したブレッドボード
図9. 図8の回路を実装したブレッドボード

手順

回路が適切に実装されていることを確認した上で、VPを投入してください。すると、赤色LEDが点灯で緑色LEDが消灯の状態か、緑色LEDが点灯で赤色LEDが消灯の状態になるはずです。ここで、ある程度の長さのワイヤを使用し、SETピンまたはRESETピン(R5またはR6の一端)に一瞬だけVPを印加してすぐに離してください。すると、LEDの状態が変化します。どちらの入力にVPを接続したのかによって、点灯または消灯の状態が切り替わります。同じ操作を数回繰り返し、回路が正しく動作することを確認してください。

図10. SETピンをトリガした場合の信号波形
図10. SETピンをトリガした場合の信号波形
図11. RESETピンをトリガした場合の信号波形
図11. RESETピンをトリガした場合の信号波形

D型フリップフロップ

次に取り上げるのは、D型フリップフロップとして知られる回路です。

目的

図8に示したRSフリップフロップをベースとし、D型フリップフロップと呼ばれる回路を構築します。

準備するもの

  • ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:1kΩ(3 個)、100kΩ(1 個)、200kΩ(2 個)、47kΩ(2 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:2N3904(3 個)
  • 小信号ダイオード:1N914(2 個)
  • コンデンサ:39pF(2 個)、100pF(2 個)

説明

図12に示したのが、D型フリップフロップの回路です。図8の回路と比べると、2つのダイオードの向きが逆になっていることに注意してください。ここまでの例と比べてはるかに高い周波数で回路を動作させるので、LEDは取り外しています。その代わりに、1kΩの抵抗を負荷として使用します。

図12. D型フリップフロップの回路
図12. D型フリップフロップの回路

フリップフロップの2つの状態は、入力されるD(データ)信号と単一のクロック・パルスに応じて切り替わります。その時点のD入力の状態に応じ、クロック・パルスの立下がりエッジで、オンしていたトランジスタはオフになり、オフしていたトランジスタはオンになります。ダイオードD1とD2には、D信号ならびにそれと相補関係にあるD信号(トランジスタQ3と抵抗R7から成る反転段の出力)によってバイアスがかかります。それにより、クロック・パルスが適切なトランジスタのベース(図8のSET/RESETに相当)に到達するように制御されます。

ここでは、動作をわかりやすく説明するために、図12の回路は2つの安定状態のうちいずれかにあると仮定します。また、Q出力はロー(Q1のコレクタの電圧は0V)であり、Q出力はハイ(Q2のコレクタの電圧は5V)であるとします。この状態でD入力がロー(Dはハイ)である場合、R6を介したD1のカソードの電圧がローで、R4を介したD1のアノードの電圧(オンしているトランジスタQ1のVBE)はハイであることから、D1には順方向のバイアスがかかります。一方、R5を介したD2のカソードの電圧がハイ(Dによる)で、R3を介したD2のアノードの電圧(オフしているトランジスタQ2のVBE)がローであることから、D2には逆方向のバイアスがかかります。

C1とC2によって結合されているクロックの立下がりエッジは、D1に順方向のバイアスがかかっているため、Q1のベースには到達します。一方、D2には逆方向のバイアスがかかっているため、Q2のベースには到達しません。C3とR3の並列接続を介する交差した接続により、Q1はオフになり、Q2はオンになります。この動作は、先ほど確認したシンプルな双方向マルチバイブレータにおける正のフィードバックの影響によって、非常に高速に行われます。その結果、図12の回路は、Q出力がハイでQ出力がローになる、もう一方の安定した状態に移行します。D入力がハイになり、次のクロック・パルスの立下がりエッジが到達するまで、図12の回路はこの状態を維持します。

ハードウェアの設定

図12の回路を、図13のようにブレッドボード上に実装します。

図13. 図12の回路を実装したブレッドボード
図13. 図12の回路を実装したブレッドボード

手順

図12のクロックのノードに、任意波形ジェネレータ(AWG)のチャンネル1(AWG1)の出力を接続します。また、D入力にはチャンネル2(AWG2)の出力を接続します。オシロスコープのチャンネル1もクロックのノードに接続し、チャンネル2はフリップフロップのQ出力に接続してください。AWG1とAWG2は、どちらもピークtoピークの振幅が5V、オフセットが2.5Vの方形波(0V~5Vでスイング)を生成するように設定します。AWG1の周波数は10kHz、AWG2の周波数は5kHzとしましょう。なお、AWG2の位相は45°に設定してください。AWG1の出力とAWG2の出力については、必ず同期をとってください。

回路が適切に実装されていることを確認した上で、VPを投入し、AWGの出力をイネーブルにしてください。すると、クロックの立下がりエッジで変化するQ出力(方形波)を観測できるはずです。その状態で、AWG2(D入力の信号)の位相を変更してみてください。D入力の位相が変化していることを確認するために、オシロスコープのチャンネル1をD入力に接続します。すると、時間軸においてQ出力よりも前にずれた形で方形波が観測されるはずです。つまり、Q出力はクロックの立下がりエッジまで遅延しているということです。

図14. Q信号とクロックの波形
図14. Q信号とクロックの波形
図15. Q信号とD信号の波形
図15. Q信号とD信号の波形

フリップフロップによる2分周回路

フリップフロップを利用すれば、分周回路を実現することができます。

目的

図12に示したD型フリップフロップの回路に変更を加え、入力信号を2分周する回路を構成します。

準備するもの

  • ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:1kΩ(2 個)、200kΩ(2 個)、47kΩ(2 個)
  • 小信号 NPN トランジスタ:2N3904(2 個)
  • 小信号ダイオード:1N914(2 個)
  • コンデンサ:39pF(2 個)、100pF(2 個)

説明

図16に示したのが、D型フリップフロップをベースとして構成した2分周回路です。

図16. フリップフロップをベースとして構成した2分周回路
図16. フリップフロップをベースとして構成した2分周回路

この回路にも、2つの状態が存在します。その切り替えは、入力する単一のクロック・パルスによって行われます。クロック・パルスの立下がりエッジで、オンしているトランジスタはオフになり、オフしているトランジスタはオンになります。この回路の状態は、各トランジスタのベースにクロック・パルスが交互に印加されることによって連続的に切り替わります。2つのダイオードには、単一のクロック・パルスによってバイアスをかけます。フリップフロップの現在の状態に基づいて、クロック・パルスが適切なトランジスタのベースに到達するように制御することで、所望の分周動作が得られます。

ここでは、動作をわかりやすく説明するために、図16の回路は2つの安定状態のうちいずれかにあると仮定します。Q1のコレクタの電圧はロー(0V)であり、Q2のコレクタ電圧はハイ(5V)であるとしましょう。R6を介したD1のカソードの電圧がローで、R4を介したD1のアノードの電圧(オンしているトランジスタQ1のVBE)がハイであることから、D1には順方向のバイアスがかかります。一方、R5を介したD2のカソードの電圧がハイで、R3を介したD2のアノードの電圧(オフしているトランジスタQ2のVBE)がローであることから、D2には逆方向のバイアスがかかります。

C1とC2によって結合されているクロックの立下がりエッジは、D1に順方向のバイアスがかかっているため、Q1のベースには到達します。一方、D2には逆方向のバイアスがかかっているため、Q2のベースには到達しません。C3とR3の並列接続を介する交差した接続により、Q1はオフになり、Q2はオンになります。この動作は、先ほど確認したシンプルな双方向マルチバイブレータにおける正のフィードバックの影響によって非常に高速に行われます。

その結果、図16の回路は、もう一方の安定した状態に移行し、次のクロック・パルスの立下がりエッジが到達するまでそのままの状態を維持します。

Q2のコレクタ電圧(Q出力のノード)の状態は、クロック・パルスが到達するたびに変化します。つまり、2つのクロック・パルスが入力されると、出力には1つのパルスが現れます。このようにして2分周回路が実現されます。

ハードウェアの設定

図16の回路を、図17に示すようにブレッドボード上に実装します。

図17. 図16の回路を実装したブレッドボード
図17. 図16の回路を実装したブレッドボード

手順

図16のクロックのノードには、AWG1の出力とオシロスコープのチャンネル1を接続します。オシロスコープのチャンネル2は、フリップフロップのQ出力に接続してください。AWG1は、ピークtoピークの振幅が5V、オフセットが2.5Vの方形波(0V~5Vでスイング)を生成するように設定します。周波数は10kHzに設定してください。

回路が適切に実装されていることを確認した上で、VPを投入し、AWGの出力をイネーブルにしてください。すると、Q出力の方形波が観測されます。その周波数は、AWG1の出力信号の半分になっているはずです。ここで、オシロスコープのチャンネル2をQ出力に接続します。すると、Q出力の信号を反転した波形が観測されるはずです。

図18. クロックとQ出力の波形
図18. クロックとQ出力の波形
図19. クロックとQ出力の波形
図19. クロックとQ出力の波形

問題

図1の回路において、2つのコンデンサC1、C2の値を大きくしたり小さくしたりすると、どのような変化が現れますか。

答えはStudentZoneで確認できます

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。アカデミック・プログラムや、Circuits from the Lab®向けの組み込みソフトウェア、QAプロセス・マネジメントなどに携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務しています。現在、バベシュボヨイ大学においてソフトウェア・エンジニアリングに関する修士課程にも取り組んでいます。また、クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号を取得しています。