電源回路の評価環境を最適化する

質問:

スイッチング・レギュレータICの特性を把握するための評価を行いたいと考えています。そのための環境を構築する際に気を配るべきポイントを教えてください。

RAQ Issue: 156

回答:

回路設計を担当する技術者は、使用する電源ICを決定する際、そのICの評価を事前に行っておきたいと考えます。スイッチング方式の電源ICのデータシートを見ると、電源回路全体としての動作特性の情報が記載されています。また、それらの動作特性は、実験室でどのようなテストを行った結果得られたものなのかということも明示されています。 「LTspice®」などを使った回路シミュレーションは、回路の最適化などを行う上では非常に有用です。ただし、シミュレーションは、現実のハードウェアを使用したテストの代わりにはなりません。1つ理由を挙げると、現実の回路で生じる寄生素子の影響を的確にモデル化してシミュレーションに盛り込むのは困難だからです。
      

 

Figure 1
図1 . 電源回路用の評価環境

 

電源回路の評価環境を構築する際には、いくつか考慮すべきことがあります。図1に、スイッチング・レギュレータICを使って設計した電源回路用の評価環境の例を示しました。評価の対象となる電源回路の入力側には電源を接続し、出力側には負荷を接続します。それ自体は当然のことですし、特に難しそうな話でもありません。しかし、それらの接続を行う上では、注意しなければならないいくつかの重要なポイントがあります。

ラインのインダクタンスの最小化

図1の評価環境で確認したいのは、電源回路の特性です。実験室の電源や出力側の負荷と評価用ボードの間のラインの影響を評価したいのではありません。ラインの影響を抑えるために、実践すべき重要な事柄が2つあります。1つは、ラインをできるだけ短くすることです。ラインを短くすればするほど、寄生インダクタンスの値が小さくなります。もう1つは、電流パス・エリアを最小化することです。このことは、寄生インダクタンスの更なる削減につながります。電流パス・エリアを最小化するには、ラインを撚る方法が有効です。それにより、電流パス・エリアは、ラインの長さと撚ったケーブルのシースの厚さだけに依存するようになります。図2に示したのが、実際の評価環境です。寄生インダクタンスを削減するために、撚った短いケーブルを使って接続しています。 

 

Figure 2
図2 . 撚った短いケーブルを使用して構築した実際の評価環境

スイッチング・レギュレータをベースにした電源では、入力側と出力側の両方にAC成分が生じます。回路のトポロジにもよりますが、例えばステップダウン・コンバータ(降圧コントローラ)では、入力側にパルス状の電流が発生することがあります。また、起動時の動作や負荷が変動したときの動作もテストしなければなりません。これらのテストを行う際、その動作条件の下では、評価環境のラインもAC成分を伝搬することになります。

入力側にバルク・コンデンサを追加

負荷変動に対する電源の応答速度についてテストを行いたい場合、設計した電源回路には十分なエネルギーを供給する必要があります。その際、電源回路の入力側のエネルギー源が、テストを行う上での制約要因になってしまうのは避けるべきです。そうした状況を確実に回避するために、エネルギー・ストレージ・デバイスとして、電源回路の入力部に容量の大きなバルク・コンデンサを追加するとよいでしょう。図1において緑色で描き加えているのが、そのバルク・コンデンサです。これにより、負荷変動に関するテストを適切に実施できるようになります。

ただし、バルク・コンデンサの追加は慎重に行わなければなりません。電源回路の入力コンデンサの大きさを適切に決められるように、入力側のエネルギー・ストレージ・デバイスの影響について十分に理解しておく必要があります。

上記のバルク・コンデンサについては、別の側面からの考慮も必要になります。電圧の変動に対する動作をテストしたい場合、電源回路の入力には変動する電圧を印加しなければなりません。その際、バルク・コンデンサを付加していると、電源回路に印加される電圧の変動がかなり遅くなってしまいます。したがって、その種のテストを行う際にはバルク・コンデンサを取り除く必要があります。 

電源回路の設計/評価を行う過程には、一見すると簡単そうなタスクもいくつか存在します。ただ、実際にはテスト・ベンチに電源回路を接続するだけでも十分な注意を要します。電源回路への給電ラインと電源回路からの出力ラインは、AC回路として扱わなければなりません。そのため、各ラインには、寄生インダクタンスを削減するために、撚った短いケーブルを使用する必要があります。これについては労力を要するようなものではありません。ただ、このような注意を払うだけで、適切な評価結果が得られる環境に近づけることができるのです。このようにして評価環境からの影響を軽減することにより、他の結果の有用性も高まります。電源を専門とする経験豊富な技術者は、時間をかけて回路の評価方法を最適化する術を編み出してきました。本稿で示したすべてのヒントを参考にしていただけば、よりスムーズに評価を行えるようになるはずです。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。