コンデンサのDCバイアス特性を盛り込んで、LTspiceシミュレーションを実施する

質問:

積層セラミック・コンデンサのDCバイアス特性を考慮に入れて、回路シミュレーションを行う方法はありませんか?

RAQ Issue: 192

回答:

LTspiceにおいて、コンデンサの非線形性を表現する機能と、適切なモデルを使用することにより、シミュレーションを実施できます。

積層セラミック・コンデンサ(MLCC:Multi-layer Ceramic Capacitor)では、ますます小型化が進んでいます。その結果、電圧への依存性(DCバイアス特性)がより大きくなるという問題が顕在化しつつあります。現在は、より小さな電子機器に、より多くの機能を搭載しつつ、消費電流を削減することが求められています。そのため、MLCCなどのコンポーネントにもサイズ上の制約が課せられます。結果として、MLCCのDCバイアス特性によって生じる影響にも注目が集まるようになっています。そこで、本稿では、DCバイアス特性も盛り込んで、LTspice®によるシミュレーションを実施する方法を紹介します。

セラミック・コンデンサを小型化するには、より小さな面積でより大きな容量値を実現する必要があります。それに向けて、誘電率εの高い材料や、より薄い誘電絶縁層が使用されるようになっています。現在では、非常に品質の優れたセラミック層が工業規模で生産できるようになっています。

残念ながら、誘電率 εr = ƒ(E) は電界強度の関数です。そのため、容量値は電圧に依存します。セラミックの種類や層の厚さによっては、その影響が非常に大きく現れることがあります。最大許容電圧において、容量値が公称値の10%以下まで低下するケースも少なくありません。

デカップリング・コンデンサなどの用途では、MLCCは一定の電圧が印加された状態で使用されます。その場合、DCバイアス特性の影響を考慮するのは難しくありません。印加される電圧が一定であるならば、メーカーが提供するデータシートやオンライン・ツールによって、その条件下における容量値を把握できるからです。

では、印加される電圧の値が、(DC値ではあるものの)変化する可能性がある場合にはどうすればよいのでしょうか。例えば、稿末には、図4としてスイッチング・レギュレータの回路図を示しています。その入力フィルタは、USBからの5Vの電圧にも、産業用電源からの24Vの電圧にも対応しなければなりません。また、2線式イーサネットの物理層(PHY)におけるAC結合部にも、同一の配線によって値の異なる電源電圧が供給されます。

そのような状況については、LTspiceによる回路シミュレーションを実行することによって有用な洞察を得ることができます。一部のMLCCメーカーは、DCバイアス特性に対応する各MLCCのモデルをダウンロード提供しています。また、LTspiceが備えるツールを使用することにより、電圧に依存する動作を模擬することも可能です。その機能を使用する場合には、電圧の関数として容量値を表したグラフと、図3に示す方法が役に立ちます。

LTspiceでは、容量値が一定の一般的なコンデンサのモデルに加えて、非線形のモデルも提供されています。この非線形のモデルは、電荷式を評価します。電荷を保持する必要があるので、コンデンサの非線形のモデルを直接評価するのは適切ではありません。ただ、ここでは電荷量を電圧で微分することによって容量値を求めるので、そのことは問題にはならないはずです。逆に、電圧に依存する容量値の積分を行う必要があります。以下に示す方法では、その処理が既に行われています。そのため、各モデルは何らかの計算を改めて行うことなく利用することができます。

まずは、以下に示す線形の電圧依存性を考えます。

数式 1

この式を積分することにより、以下の電荷式が得られます。

 

数式 2

これは、LTspice上で以下のように記述することにより、そのままコンデンサの値を表す式として使用することができます。

Q=x*{c0V}-0.5*x**2*({c0V}-{cVmax})/{Vmax}.

ただ、多くのMLCCは、容量値が当初はほぼ一定で電圧が適度な値であったとしても、値が急激に低下した後、ほぼ一定に保たれるという挙動を示します。このような場合、線形モデルだけを使用すると、広い電圧範囲において実効的な容量値が高く見積もられてしまいます。このようなケースに対応するためには、双曲線正接(tanh)関数に基づく以下のモデルを使用するとよいでしょう。

数式 3

他のツールを使用することなく、各種パラメータの値を簡単に推定することができます。

図1. tanh関数による近似、関連するパラメータ
図1. tanh関数による近似、関連するパラメータ

容量値も、以下の電荷式で簡単に置き換えることが可能です。

Q=x*({C0+Csat})/2+({Csat-C0})/4*{Vtra}*ln(cosh((x-{Vth})*2/{Vtra})).

図2. 10µFのMLCCのDCバイアス特性
図2. 10μFのMLCCのDCバイアス特性

LTspiceにおいてコンデンサのモデルについて確認するためには、以下の式で表される一定の割合で電圧を増加させます。

数式 4

コンデンサを流れる電流値は、以下の式に基づき、容量値に正比例します。

数式 5

ここで図3をご覧ください。本稿で提案する非線形のモデルは、容量値が一定の標準的なモデルと比べて明らかに優れていることがわかります。この線形モデルは、ほとんどのアプリケーションで十分に有効に機能します。

図3. LTspiceにおけるコンデンサの様々なモデル。10µF/6.3Vに対応する0805サイズのMLCCを例にとっています。
図3. LTspiceにおけるコンデンサの様々なモデル。10μF/6.3Vに対応する0805サイズのMLCCを例にとっています。

このシミュレーションで対象になるのは、非理想的な単一の影響(つまりDCバイアス特性)のみであることに注意してください。MLCCには、DCバイアス特性以外にも、経年劣化、温度依存性、周波数依存性、AC振幅依存性、誘電吸収など多くの特性があります。ただ、多くのアプリケーションでは、DCバイアス特性だけを優先的に考慮すれば十分です。LTspiceは、最初のプロトタイプを製作する前に、DCバイアス特性などの非理想的な性質についての検討を可能にする実用的なツールです。

図4. 「LT8619」を使用して構成した降圧レギュレータの回路図とシミュレーション結果。tanhモデルを使用し、電源電圧を変化させた場合に、入力フィルタにおいてどのように電流が抑制されるのかを確認しました。
図4. 「LT8619」を使用して構成した降圧レギュレータの回路図とシミュレーション結果。tanhモデルを使用し、電源電圧を変化させた場合に、入力フィルタにおいてどのように電流が抑制されるのかを確認しました。

Reiner Bidenbach

Reiner Bidenbach

Reiner Bidenbach は、アナログ・デバイセズで中央ヨーロッパを担当するフィールド・アプリケーション・エンジニアです。14年間にわたってアナログICの設計に携わった後、2010年10月に入社しました。1996年にドイツのウルム大学で電気工学の博士号を取得しています。