超音波イメージング・システムの画質の改善、低ノイズのSilent SwitcherモジュールとLDOレギュレータを活用する

概要

本稿では、まず超音波イメージング・システムについて簡単に説明します。続いて、その種のシステムに必要な電源回路を設計する際の課題と解決策について詳しく解説します。電源については、システム・ノイズ、スイッチング・ノイズ、電磁干渉(EMI)、超音波による放熱を抑えることが極めて重要です。そうした課題を解決し、システム・ノイズの低減や画質の改善に貢献するのが、Silent Switcher®を適用したモジュールと低ノイズのLDO(低ドロップアウト)レギュレータです。

はじめに

超音波を利用した製品の市場は、2000年にGE(General Electric)が初のデジタル超音波装置を発表して以来、急速な成長を遂げています。超音波技術は、スタティックからダイナミック、白黒からカラー・ドップラへと進化しました。そうした技術を利用するアプリケーションが普及するにつれ、プローブ、アナログ・フロント・エンド、電源システムなどに関連するコンポーネントとしても多種多様なものが求められるようになりました。

医療用診断装置の分野では、超音波イメージング・システムが広く利用されています。ただ、その種のシステムについては、画質の向上を求める声が高まり続けています。画質を改善するための主要な方法としては、システムのS/N比を高めることが挙げられます。そこで、以下では、システムのノイズに影響を及ぼす要因について論じます。なかでも、電源について特に詳しく解説することにします。

超音波イメージング・システムの仕組み

図1に、一般的な超音波イメージング・システム(以下、超音波システム)のブロック図を示しました。多くの場合、超音波システムは、トランスデューサ、送信回路、受信回路、バックエンドのデジタル処理回路、制御回路、ディスプレイ・モジュールなどで構成されます。通常、デジタル処理回路は、FPGAを使って構成されます。その場合、FPGAはシステムの構成/制御用のパラメータに基づき、送信側ビームフォーマの一要素として機能します。それによって、必要な波形パターンを生成するということです。また、送信回路では、ドライバと高電圧回路を使って超音波に対応するトランスデューサを励起するための高電圧の信号が生成されます。通常、そのトランスデューサはセラミック(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛)を使って形成されます。その役割は、電圧信号を変換して人体に当てる超音波を生成することと、人体の組織から返ってくるエコーを受信することです。受信したエコーは、振幅の小さい電圧信号に変換され、T/R(送信/受信)スイッチに引き渡されます。T/Rスイッチを使用する最大の目的は、高電圧の送信信号によって低電圧の受信用アナログ・フロント・エンド(AFE)が破損するのを防ぐことです。アナログの電圧信号は、シグナル・コンディショニング、増幅、フィルタリングの処理を経て、AFEが内蔵するA/Dコンバータ(ADC)によりデジタル・データに変換されます。得られたデジタル・データは、JESD204BまたはLVDS(Low Voltage Differential Signaling)のインターフェースを介してFPGAに送信されます。FPGAでは、受信側向けのビームフォーミングが施され、得られた信号がバックエンドのデジタル回路に引き渡されます。デジタル回路では、超音波画像を生成するための処理を実行します。

図1. 超音波システムのブロック図
図1. 超音波システムのブロック図

電源が超音波システムに及ぼす影響

上で示した超音波システムは、ノイズの面で多くの要因からの影響を受ける可能性があります。例えば、送信側のシグナル・チェーン、受信側のシグナル・チェーン、タイム・ゲイン制御(TGC:Time-gain Control)、クロッキング、電源などの影響により、システム・ノイズが顕在化することになります。それらの中でも、本稿では、電源が原因で生じるノイズに焦点を絞ることにします。

超音波システムは、様々な種類の画像モードを備えています。各モードには、ダイナミック・レンジの面で異なる要件が存在します。つまり、S/N比やノイズに関する要件がモードによって異なるということです。必要なダイナミック・レンジは、白黒モードで70dB、パルス波ドップラ(PWD:Pulse Wave Doppler)モードで130dB、連続波ドップラ(CWD:Continuous Wave Doppler)モードで160dBに達します。白黒モードで重要なのはノイズ・フロアです。ノイズ・フロアは、遠距離場において最小の超音波エコーを観測できる最大深さ(浸透深さ)に影響を及ぼします。浸透深さは、白黒モードにおける主要な特性の1つです。PWDモードとCWDモードでは、1/fノイズが特に重要です。PWD/CWDの画像には、1kHz未満の低周波スペクトルが含まれます。1kHzよりも高いドップラ周波数スペクトルには、位相ノイズが影響を及ぼします。通常、トランスデューサは1MHz~15MHzに対応するので、この範囲内にあるすべてのスイッチング周波数からの影響を受けます。PWD/CWDのスペクトル範囲(100Hz~200kHz)に相互変調周波数が存在するケースがあったとします。その場合、ドップラ画像に、超音波システムでは許容できない明らかなノイズ・スペクトルが現れます。

このように多くの課題がありますが、注目すべき事柄について検討を行い、適切な電源を用意すれば、超音波画像の質は改善することができます。超音波システム用の電源を設計する際には、以下で解説する事柄について理解しておかなければなりません。

スイッチング周波数

上述したように、サンプリング帯域内(200Hz~100kHz)に予期せぬ周波数の高調波が生じるのは防がなければなりません。その種のノイズは、電源について適切に考察すれば簡単に回避できます。

大半のスイッチング・レギュレータでは、スイッチング周波数を設定する方法として抵抗が用いられます。この抵抗の誤差により、スイッチング周波数が公称値とは異なる値になり、プリント基板上にその高調波が現れることになります。例えば、許容誤差が1%の抵抗では、その値が±1%の範囲でずれている可能性があります。そのことが原因で、スイッチング周波数が400kHzのDC/DCコンバータの場合、周波数が4kHzずれた高調波が生成されるかもしれないということです。この問題を回避するには、同期機能を備えたスイッチング・レギュレータを選択するとよいでしょう。SYNCピンを介し、外部クロックによって同期をとることで、すべてのレギュレータが同じ周波数と同じ位相でスイッチングするようになります。

また、EMIの対策や過渡応答の改善を目的として、スペクトラム拡散機能を利用できるようになっているレギュレータ製品も存在します。スイッチング周波数として固定値を使用するのではなく、例えば20%の範囲内で意図的にその値を変動させられるようになっているということです。基本的なスイッチング周波数が400kHzの製品を選択したとすると、スペクトラム拡散機能を有効にすると0kHz~80kHzの高調波が生成されることになります。これについては、スイッチング周波数が固定の製品を選択すれば問題ありません。アナログ・デバイセズは、Silent Switcher技術を適用したレギュレータ製品やモジュール製品(以下、Silent Switcherモジュール)を提供しています。それらの製品では、スイッチング周波数として固定値を採用しており、スペクトラム拡散機能を有効にしなくても高いEMI性能、優れた過渡応答を得ることができます。

ホワイト・ノイズ

超音波システムには、ホワイト・ノイズの発生源がいくつも存在します。例えば、シグナル・チェーン、クロック、電源が発生源になり得ます。ホワイト・ノイズは、システムにおいてバックグラウンド・ノイズとして現れる可能性があります。

アナログ信号処理を担うコンポーネントでは、電源としてLDOレギュレータが一般的に使われています。アナログ・デバイセズが提供する次世代のLDOレギュレータは、200mA~3Aの出力電流に対応します。しかも、ノイズ性能が極めて高く、わずか約1µV rmsに抑えています。図2に示したのは、その種の製品である「LT3045」を使用して構成した電源回路の例です。また、図3には「LT3073」のノイズ性能を示しました。

図2. 極めてノイズ性能が高い次世代のLDOレギュレータ
図2. 極めてノイズ性能が高い次世代のLDOレギュレータ
図3. LT3073のノイズ・スペクトル密度
図3. LT3073のノイズ・スペクトル密度

基板レイアウト

超音波システムのデータ・アクイジション・ボードを設計する際には、大電流に対応する電源と過敏なシグナル・チェーンの間にトレードオフが存在することに気づくはずです。スイッチング・レギュレータからのノイズは、信号パスのパターンに簡単に結合します。いったん結合したノイズを後で取り除くのは容易ではありません。通常、スイッチング・ノイズは、入力コンデンサと上側/下側のスイッチによって形成されるホット・ループから発生します(図4)。スナバ回路を追加すれば電磁放射を抑えることは可能です。しかし、それによって効率は低下します。Silent Switcher技術は、スイッチング周波数が高くても、EMI性能を高めつつ、優れた効率を維持することを可能にします。

ハンドヘルド型のデジタル・プローブ

人体の組織の温度は、超音波の吸収に伴う加熱に加えて、トランスデューサの温度から大きな影響を受けます。超音波のパルスは、トランスデューサに電気信号を印加することによって生成されます。一部の電気エネルギーは素子、レンズ、基材に放散され、それによってトランスデューサが加熱されることになります。トランスデューサのヘッド部においては、受信信号の電子処理が行われます。そのことも、電気的な加熱の原因になるかもしれません。トランスデューサの表面からの熱伝導は、表面組織の温度を数°C上昇させる可能性があります。トランスデューサにおける許容可能な最高表面温度TSURFは、国際規格であるIEC 60601-2-37(Rev 2007)で定められています1。その温度は、トランスデューサが大気中に超音波を送信している場合で50°C、適切なファントム(標準的な試験体)に送信している場合で43°Cです。後者の値は、皮膚(通常は33°C)が最大で10°C加熱される可能性があるということを意味します。複雑なトランスデューサを設計する際、加熱は重要な検討項目になります。状況によっては、上記の温度制限が、達成可能な出力を実質的に制限する要因になる可能性があります。

IEC 60601-2-37(Rev 2007)では、トランスデューサの表面温度について次のように規定しています。すなわち、大気中で動作する場合には50°C未満、33°C(外部から適用されるトランスデューサの場合)または37°C(内部トランスデューサの場合)のファントムと接触している場合には43℃未満です。多くの場合、(ビームの最大強度の上限よりも)これらの温度制限がトランスデューサの出力における制約事項になります。Silent Switcherを採用したデバイスは、デジタル・プローブの様々な電源ドメインに対して最大限の変換効率で電力を供給します(最高3MHzの広いスイッチング帯域幅を備えています)。これは、電力変換を行う際の電力損失が最小限に抑えられているということを意味します。熱として失われる電力が少ないので、冷却システムに対しても良い効果がもたらされます。

Silent Switcherモジュールがもたらす大きなメリット

Silent Switcherモジュールは、超音波システムで使用する電源の設計における最良の選択肢になります。同技術は、レギュレータのスイッチング動作に起因するノイズを低減し、EMI性能を高めるために開発されました。従来のスイッチング・レギュレータ製品では、ホット・ループを形成する回路やレイアウトの設計に多大な注意を払わなければなりませんでした。図4に示したように、降圧コンバータの場合、ホット・ループには次のような要素が含まれます。すなわち、入力コンデンサ、上側のMOSFET、下側のMOSFET、配線/ルーティング/バウンディングなどによって生じる寄生インダクタンスです。

Silent Switcherモジュールには、2つの主要な設計アプローチが適用されています。

1つは、図4に示したように、ホット・ループを2つに分割し、逆向きの磁界を形成することで電磁放射の大部分を相殺するというものです。この方法により、ノイズのレベルは約20dB改善されます(図5)。

図4. ホット・ループの分割
図4. ホット・ループの分割
図5. Silent Switcherを採用したレギュレータ「LT8614」のEMI性能。同技術を適用していないレギュレータ「LT8610」と比較しています。
図5. Silent Switcherを採用したレギュレータ「LT8614」のEMI性能。同技術を適用していないレギュレータ「LT8610」と比較しています。

もう1つのアプローチとして、Silent Switcherモジュールでは、チップの周囲に直接ワイヤ・ボンディングするのではなく銅ピラーを使用するフリップチップ・パッケージを採用しています(図6)。それにより、寄生インダクタンスを低減し、スパイクとデッド・タイムの最適化を図っています。

図6. 銅ピラーを採用したフリップチップ・パッケージ。この技術を適用したLT8614と従来のボンディング手法を採用したLT8610の性能を比較したグラフも示しました。
図6. 銅ピラーを採用したフリップチップ・パッケージ。この技術を適用したLT8614と従来のボンディング手法を採用したLT8610の性能を比較したグラフも示しました。

加えて、Silent Switcher技術では、高い電力密度の設計を実現し、小さなパッケージでも大電流を出力できるようにします(図7)。更に、θJAを低く保つことによって高い効率を達成します。例えば、「LTM4638」のパッケージのサイズは6.25mm×6.25mm×5.02mmですが、15Aの電流を出力することが可能です。

図7. Silent Switcherモジュールのパッケージの外観
図7. Silent Switcherモジュールのパッケージの外観
表1. Silent Switcherモジュールの概要
  低周波のノイズ スイッチング・ノイズの高調波 高い熱性能
アーキテクチャ 電圧基準ではなく電流基準の極めて小さなノイズ Silent Switcher 2と銅ピラー・パッケージ Silent Switcher 3ではヒート・シンクをパッケージに収容
特徴 低周波のノイズ性能についてはLDOレギュレータと同等 EMI性能が高く、スイッチング・ノイズが小さい

スイッチング周波数が高い、デッド・スロットはごくわずか 
高い電力密度

小さな熱抵抗 
アプリケーションにおけるメリット ポスト・レギュレータ(LDO)を不要にしつつ、同等の画質を維持 高い周波数で高い効率

高い周波数、小型のフィルタ 
同じ電流レベルに対する性能の低下を最小化
表2. 代表的なSilent Switcher製品
  スイッチング周波数 制御モード スイッチング・ジッタ パワー段のアーキテクチャ エミッション RMSノイズ
LTM8053-1 200kHz~3MHz 固定周波数、ピーク電流 小さい Silent Switcher 2対応のモジュール 非常に小さい 0.8µV rms(LT3045を併用)
LTM8060 200kHz~3MHz 固定周波数、ピーク電流 小さい Silent Switcher 2対応のモジュール 非常に小さい 0.8µV rms(LT3045を併用)
LT8625S 300kHz~4MHz 固定周波数、ピーク電流 小さい Silent Switcher 3対応のコンバータ 非常に小さい 4µV rms(LT3045は不使用)

表1に、Silent Switcherモジュールの特徴についてまとめました。多くのSilent Switcherモジュールは、固定周波数、広い周波数範囲、大きなピーク電流に対応するアーキテクチャも採用しています。それにより、低ジッタ、高速な過渡応答という特徴が実現されています。また、Silent Switcherを採用した代表的な製品の概要を表2に示しました。

まとめ

本稿では、超音波システムに最適なSilent SwitcherモジュールとLDOレギュレータを紹介しました。これらの製品を採用すれば、システム・ノイズのレベルとスイッチング・ノイズを最小限に抑えることができます。超音波システムの電源設計に向けたトータル・ソリューションが実現されており、画質の改善に貢献します。また、温度の上昇を抑えつつ、基板レイアウトの設計を簡素化することも可能になります。

参考資料

1 IEC Standard 60601-2-37、2007年

Yu Lu

Yu Lu

Yu Lu earned his master’s in electrical engineering in 2015 from INSA Lyon France and he started his career at Maxim in 2016 as a system engineer. Since 2019, he works in ADI Shanghai as an FAE in the healthcare market.

Hugh Yu

Hugh Yu

Hugh Yu は、アナログ・デバイセズ(上海)のヘルスケア・システム・アプリケーション・マネージャです。2002年から2005年にわたり、中国のGE Medical Systemで超音波システムのハードウェアを担当するシニア・エンジニアとして勤務。2005年から2010年までは、Siemens Corporate Technology Chinaのリサーチ・サイエンティストを務めていました。2001年に中国の南京郵電大学で電子/情報工学の修士号を取得しています。