高性能の降圧コンバータICにより、電流ループのトランスミッタで生じる電力不足を解消する

概要

LT8618」は、100mAの出力、2.2MHzのスイッチング周波数に対応する同期整流方式/モノリシック型の降圧DC/DCコンバータICです。本稿では、同ICをLDOレギュレータの代わりに使用し、4~20mAの電流ループの構成要素であるトランスミッタ用の電源をコンパクトに実現する方法を紹介します。特に、産業分野の厳しい規格を満たすためにはどのようなコンポーネントを選択すればよいのか、その方法を詳しく説明します。更に、構築した電源の効率、起動時の動作、リップルなどに関する評価結果も紹介します。

はじめに

産業分野や民生分野では、自律制御がますます広く使われるようになっています。ただ、最先端の自律ソリューションであっても、電流ループという昔ながらの技術に依存しているケースが少なくありません。実際、電流ループは、双方向に作用する制御システムの至るところで使われています。そのようなシステムには、主要なものとして2種類の機能が実装されています。1つは、センサーによって測定した値をPLC(Programmable Logic Controller)に伝送する機能です。もう1つは、PLCからの制御出力を、プロセスに関する調整を担うデバイスに伝送する機能です。

電流ループでは、4~20mAと呼ばれる方式が広く使われています。この方式は、ツイスト・ペア・ケーブルを介してリモートのセンサーからPLCへ正確かつ高い信頼性でデータを伝送するための業界標準だと言えます。そのインターフェースは、シンプルで、寿命が長く、堅牢性に優れるという特徴を備えています。ノイズ耐性が高く、実装コストが低く、信頼性が高いため、長距離にわたるデータ伝送の領域で多くの実績を積み重ねてきました。実際、ノイズの多い環境で長期にわたって運用される産業用プロセス制御のアプリケーションや、遠隔地にある対象物の自動監視アプリケーションにとっては最適な技術だと言えます。従来、電流ループ用の電力の供給は、その特徴を活かすためにリニア・レギュレータを使うことで行われてきました。ただ、リニア・レギュレータには、スイッチング・レギュレータと比較するといくつかの欠点があります。例えば、効率が相対的に低く、電流能力が限られるといった具合です。効率が低いと、放熱の問題が起きる可能性があります。また、電流能力に制限があると、制御システムに対して後から機能を追加するのが難しくなります。

スイッチング方式/降圧型のDC/DCコンバータ製品の中には、堅牢性に優れ、効率が高く、小型で、高い入力電圧に対応できるものがあります。そうした製品であれば、多くの電流ループ・システムで使われているリニア・レギュレータを置き換えることが可能です。スイッチング方式のDC/DCコンバータは、いくつかの点でリニア・レギュレータよりも優れています。例えば、電流能力が高い、入力電圧範囲が広い、効率が高いといった具合です。また、高いスイッチング周波数を使用する場合でも、最小オン時間tONが短い、小型で堅牢なソリューションを実現することができます。

背景

図1に示したのは、4~20mAの電流ループの標準的な構成例です。このシステムでは、フィールドに配備された計測用のデバイスから、センサーで取得した情報を伝送します。一方、バルブ・ポジショナやその他の出力アクチュエータなどのプロセス調整用のデバイスに対しては制御用の信号を伝送します。この種のシステムは、以下に示す4つのコンポーネントで構成されます。

  • 電流ループの電源:大本の電源の電圧VDCの値は、アプリケーションによって異なります(9VDC、12VDC、24VDCなど)。いずれにせよ、回路で使用されるコンポーネント(トランスミッタ、レシーバー、ワイヤなど)で生じる電圧降下よりも少なくとも10%高い電圧が使われることになります。VDCはローカルの降圧コンバータに供給され、センサーやその他のコンポーネント向けの電源電圧が生成されます。
  • トランスミッタ:トランスミッタには主要なコンポーネントとしてセンサーまたはトランスデューサが実装されます。つまりトランスミッタは、温度、圧力、流量、距離、磁界などの物理的な信号を電気信号に変換するデバイスを備えています。変換後の信号がアナログ電圧である場合、それを4~20mAの電流信号に変換する必要があります。そのため、トランスミッタには電圧‐電流コンバータが必要になります。デジタル出力のスマート・センサーを使用している場合には、D/Aコンバータ(DAC)よって再びデジタル信号をアナログ信号に変換しなければなりません。トランスミッタのローカル電源(LDOレギュレータや降圧コンバータ)は、そうしたすべてのアナログ回路、デジタル回路、リファレンス回路に電力を供給する役割を果たします。
  • レシーバーまたはモニタ:レシーバーは、4~20mAの電流信号を電圧信号に変換します。その上で、更に処理を加えたり、表示を行ったりする場合もあります。電流信号を扱いやすい電圧レベルに変換するには、高精度のシャント抵抗RSHUNTやA/Dコンバータ(ADC)/データ・アクイジション回路を使用します。計測用の端末では、ローカルの降圧コンバータによってレシーバー回路に電力が供給されます。
  • 2線式/4線式のループ:電流ループ回路の全長は2000フィート(約610m)まで延ばすことができます。システム全体は、直列に接続されたトランスミッタ、電源、レシーバーで構成されます。2線式を採用した場合、電流ループは電源用の経路を兼ねることになります。
図1. 2線式の電流ループ
図1. 2線式の電流ループ

例として、リモートの圧力トランスデューサを使用し、0psi~50psiの圧力を測定するケースを考えます。その場合、4~20mAの電流に対応するレシーバー回路は、圧力から電流への変換を担うトランスデューサと直列に接続します。センサー側(トランスミッタ)で読み取った圧力が0psiの場合には4mA、50psiの場合には20mAという電流値が対応づけられます。レシーバー側では、キルヒホッフの第1法則に基づきシャント抵抗に同一の電流信号が現れることになります。その電流信号は、シャント抵抗によって電圧信号に変換されます。

先述したように、産業用機器、精油所、ハイウェイの監視、民生用機器などのアプリケーションでは、自律動作が広く普及しつつあります。そうしたアプリケーションには、高性能のセンサー技術と、センサーの情報を伝送するための信頼性が高く正確な電流ループが必要です。電流ループを構成するコンポーネントは、求められる安全性とシステム機能を実現できるものでなければなりません。-40°C~105°Cという拡張工業温度範囲にわたり、高い精度、少ない消費電力、信頼性の高い動作を維持する必要があります。

トランスミッタ(センサー側)の電源電圧は、トランジェントが生じた際には最大65Vに達する可能性があります。トランスミッタでは、それを5.5Vまたは3.3Vに変換しなければなりません。多くの場合、センサー側の回路は、電流ループから直接電力を取り込むように設計されます。つまり、ローカルの電源が追加で用意されることはありません。また、通常は電流の値が3.5mAまでに制限されます。より多くの機能をトランスミッタに追加したい場合、従来のリニア・レギュレータを使用しようとすると、この制限が問題になります。つまり、機能を追加することで必要になる追加の電流供給能力が得られないということです。また、リニア・レギュレータを使用したシステムでは、電力のほとんどはレギュレータ自体で消費されます。そのため、密封されたシステムにおいて大量の熱が生じることになります。

LT8618を採用すれば、入力電圧範囲を65Vまで、負荷電流を15mAまで拡大することができます。また、同ICを使用すれば高い効率が得られます。そのため、トランスミッタが密封されている上に過酷な環境の変化にさらされる電流ループ・システムの設計において、熱に関する制約を回避することが可能です。また、電圧リップルとケーブル側の電流リップルは、低コストのフィルタを使用することで十分に低減できるはずです。以下では、この降圧コンバータの性能を分析し、産業用の厳しい要件を満たすためのコンポーネントの選択方法について説明します。加えて、効率、起動時の動作、リップルなどに関する評価結果も示します。

入力電圧と負荷電流の範囲を拡張する降圧コンバータ

降圧コンバータICであるLT8618を採用すれば、産業用、車載用といった予測不能な状況が生じ得る電源環境の要件を満たすことができます。同ICは、自己消費電流が極めて少なく、高い効率が得られます。また、最大65Vまでの広い入力電圧範囲に対応します。しかも小型であることから、4~20mAの電流ループを利用するアプリケーションに最適です。図2に、電源の構成要素としてLT8618を採用したトランスミッタ回路の全体像を示しました。同ICにより、高精度のリファレンスIC「MAX6192C」、電圧‐電流変換回路、その他の回路に電力を供給します。

この回路では、NPNトランジスタ「2SC1623」(Q1)を使用してシャント回路を構成しています。Q1に流れる電流は、誤差アンプU2の非反転入力に印加される電圧に比例します。MAX6192Cは、2.5Vのリファレンス電圧を生成します。同ICは、高精度、低ノイズ、低ドロップアウトの製品であり、温度ドリフトは最大5ppm/°Cに抑えられています。環境変数に比例したデジタル値を出力するスマート・センサーを使用する場合には、DACによってデジタル信号をアナログ信号に変換し、それを誤差アンプに入力するとよいでしょう。シャント回路を流れる電流の値は、以下の式で決まります。

数式 1

トランスデューサは、誤差アンプ、Q1、100Ω(±0.1%)の検出抵抗RSENSEによって、電流ループの電流を4mAから20mAの範囲で調整します。4mAはライブ・ゼロに対応し、20mAは最大の信号に対応します。ライブ・ゼロ(上昇したゼロ)に対応する4mAの電流により、フィールドのトランスミッタからプロセス制御に使用する信号が出力されていない場合でも、デバイスは電力の供給を受けることができます。シャント回路の電流は、圧力、温度、液面レベル、流量、湿度、放射線量、pHなどの環境変数やプロセス変数に比例して流れます。

2本の長いワイヤは、電流ループの一部として情報を伝送する役割を果たします。同時に、レシーバー側の電源であるVDCからトランスミッタへの電力の供給にも使用されます。VDCの最小電圧は、ワイヤ、シャント、最小電圧で動作するトランスミッタにおける電圧降下を十分にカバーできる値でなければなりません。電源電圧の値は、アプリケーションによって異なります。通常は12Vまたは24Vですが、36Vまで高めることも可能です。

ショットキー・ダイオードD1は、リモートのトランスミッタを逆電流から保護する役割を果たします。トランスミッタの入力には、D2としてTVS(Transient Voltage Suppressor)またはツェナー・ダイオードを配置しています。これも、保護機能を実現するためのものであり、電流ループのインダクタンスに比例する過渡的なサージ電圧を制限することが可能になります。ループ電圧はLT8618によって5.5Vまたは3.3Vに降圧されます。得られた電力は、リファレンス、DAC、その他の機能ブロックに供給されます。

図2の回路において、PLCとトランスミッタはワイヤによって接続されています。その長さとしては、数フィートから2000フィートまでの値に対応できます。電流ループの寄生インダクタンスは、降圧コンバータの入力コンデンサと共にLC共振タンク回路を形成します。電源側(VDC)のトランジェントは、リモートのトランスミッタの入力側にも現れます。最も条件の厳しい非減衰振動の場合、ピーク電圧はVDCの2倍に達する可能性があります。例えば、入力電圧の標準値が24Vで仕様上の最大値が36Vである場合、トランスミッタ側の最大電圧は65Vを超えるおそれがあります。図2に示すように、トランスミッタにTVS(D2)を接続して簡単な保護回路を実装することで、トランジェントが生じた際のサージを制限することができます。

図2. トランスミッタと電流ループの電源回路。電源回路ではLT8618によってDC電圧を生成します。
図2. トランスミッタと電流ループの電源回路。電源回路ではLT8618によってDC電圧を生成します。

あるいは、LDOレギュレータを使用して電圧の大きな逸脱からLT8618を保護する方法を採用してもよいでしょう。そのようにして高効率のシステムを構築することも可能です。そのトポロジにおいて、LDOレギュレータは入力から降下電圧を引いた値に出力をレギュレートする役割を果たします。LT8618は、それによって得られた約24Vの電圧を受け取り、5.5Vまたは3.3Vの電圧を高い効率で生成します。LDOレギュレータにおける電流の制限値は、高い効率を維持しつつ標準的な値である3.8mA未満に設定しなければなりません。また、LT8618の入力コンデンサは、基本的にデカップリング・コンデンサとリザーバ・コンデンサの両方の役割を果たします。それにより、電流ループに引き込まれる電流が最小限またはゼロという条件下で、短い時間にわたり下流の負荷が高くなっている状態にすることができます。電圧が大きく逸脱する時間は短く抑えられるので、多くのエネルギーが伝わることはほとんどありません。つまり、トランジェントが生じている際にLDOレギュレータで発生する電力損失は、全体の効率を低下させる要因にはなりません。LDOレギュレータでは、ほぼすべての時間にわたって高い降圧比が保たれます。

一般的な電流ループでは、リモートのトランスミッタ全体に電力を供給する電源回路の入力電流に制限が設けられます。LDOレギュレータから供給される負荷電流は、その制限を超えることはできません。一方、降圧コンバータでは、入力電流が制限された状態でも負荷に供給する電流量を増やすことが可能です。図3は、LT8618で24Vの入力を基に5.5Vを生成する場合の入力電流と出力電流の関係を示したものです。入力電流の制限が3.8mAである場合でも、ほぼ15mAの出力電流が得られています。この電力により、動作におけるヘッドルームが増大することになります。結果として機能ブロックの追加が可能になるので、設計作業を簡素化できます。

図3. LT8618における入力電流と出力電流の関係。入力電圧が24V、出力電圧が5.5Vの場合の例です。LDOの特性も示してあります。
図3. LT8618における入力電流と出力電流の関係。入力電圧が24V、出力電圧が5.5Vの場合の例です。LDOの特性も示してあります。

Burst Mode動作で軽負荷時の効率を高める

LDOレギュレータの効率は、降圧比(VOUT/VIN)に比例します。また、入力電圧が出力電圧より少しだけ高い場合に高い効率が得られます。問題は、降圧比が高い場合に生じます。その場合、効率が非常に低くなり、システムに大きな熱が発生するからです。例えば、入力が55Vで出力が3.3Vだとすると、LDOレギュレータの電力損失は負荷電流が3.8mAの場合で0.19Wに達します。一方、適切に設計された降圧コンバータでは、降圧比が高くても非常に優れた効率が得られます。特に、同期整流方式の降圧コンバータ(以下、同期コンバータ)では、キャッチ・ダイオードをMOSFETで置き換えることから、非同期型のものと比べて効率を高めることができます。一方で、同期コンバータでは、負荷の全範囲にわたって効率を最適化することが課題になります。特に、入力が65Vにも達する可能性がある場合、3mA~15mAの軽負荷時に効率を最適化するのは容易ではありません。

一般的な同期コンバータの場合、電力損失については支配的な要因が3つ存在します。スイッチング損失、ゲート駆動損失、コンバータICの制御ロジック回路に関連する損失の3つです。これらのうち、スイッチング損失とゲート駆動損失は、スイッチング周波数を下げれば大幅に低減することができます。同期コンバータを低い周波数で動作させるだけで、軽負荷時の両損失を減らすことが可能です。

軽負荷時におけるロジック回路のバイアスに伴う損失は、比較的低いスイッチング周波数で動作させている場合の損失と同程度になります。通常、バイアス回路は出力から電力を得ます。起動時のような過渡的な状態では、同期レギュレータが内蔵するLDOレギュレータを介して入力から電力を取得します。

LT8618の場合、軽負荷時にはBurst Mode®動作によってロジック回路の損失に対処します。このモードにおいて、電流は短いパルスの形で出力コンデンサに供給されます。その後、比較的長いスリープ期間が続きます。その間はロジック制御回路のほとんどがシャットダウンされます。

軽負荷時の効率を更に高めるための望ましい方法は、値の大きいインダクタを使用することです。そうすれば、短いスイッチング・パルスの期間に、出力に対してより多くのエネルギーを供給することができます。また、パルスとパルスの間では、降圧コンバータはより長くスリープ状態にとどまることが可能になるからです。パルスの間隔を最大化し、各パルスに対応するスイッチング損失を最小限に抑えることによって、LT8618の自己消費電流を2.5µA未満に抑えることができます。同時に、最大60Vの入力電圧に対応して、出力をレギュレートされた状態に維持することが可能です。多くのトランスミッタ回路では、ほとんどの時間、電流量は少なく抑えられています。そのため、自己消費電流をそのレベルに維持できれば、数十µAから数百µAの電流を消費する一般的な降圧コンバータと比べて大幅にエネルギーを節約できることになります。

図4は、図2の電流ループ回路におけるLT8618の効率を示したものです。これは、5.5Vの出力VOUTをLT8618のBIASピンに接続した場合の結果です。入力が28V、インダクタが82µH、100mAの全負荷時に、ピークの効率は87%に達します。同じく入力が28Vで負荷が10mAの場合にも77%以上の効率が得られます。これは、間違いなく素晴らしい性能です。

図4. LT8618の軽負荷時の効率。VINが28V、VOUTが5.5V、インダクタの値が82µHの場合の結果です。
図4. LT8618の軽負荷時の効率。VINが28V、VOUTが5.5V、インダクタの値が82µHの場合の結果です。

入力フィルタにより、突入電流と電流ループのリップルを排除

降圧コンバータの入力は電流ループに接続されます。そのため、定常状態の電流を制限することに加え、起動時や負荷トランジェントの発生時におけるリップル電流と突入電流を制限することも重要になります。降圧コンバータの起動時の突入電流は、ソフト・スタート時間に対応する入力コンデンサと出力コンデンサのサイズに依存します。そして、これはトレードオフの関係になります。つまり、大きな突入電流を防止するためには、入力コンデンサの値を最小限に抑える必要があります。その一方で、許容可能な低いレベルにリップルを抑えるためには、同コンデンサの値を十分に大きく設定しなければなりません。

降圧コンバータの入力電流はパルス状です。入力コンデンサは、リップル電流をフィルタのパスに流すための重要な役割を果たします。このコンデンサを使用しなければ、大量のリップル電流が長い電流ループに流れ、降圧コンバータが予期せぬ動作に陥るおそれがあります。したがって、リップル電流とリップル電圧の要件を満たす最小の値の入力コンデンサを使用しなければなりません。積層セラミック・コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)が小さいので、リップル電流に対して最高の特性が得られます。

LT8618がBurst Modeで動作している場合、インダクタの電流波形は三角波になります。また、入力フィルタと比べて、電流ループのインピーダンスははるかに高くなります。そのため、入力コンデンサの両端のリップル電圧は、コンデンサのESRとESLを無視すると、次式で見積もることができます。ここで、IPEAKは降圧用インダクタのバースト電流、VRは入力コンデンサの両端のリップル電圧です。バースト電流が多い場合、値の大きいコンデンサが必要になることは明らかです。

数式 2

入力コンデンサをできるだけ小さくしつつ、入力電圧リップルを最小限に抑えるためには、降圧用のインダクタの値を小さく抑えるとよいはずです。ただ、Burst Modeにおける効率は値の大きいインダクタを使う方が高くなります。インダクタの値が82µHでリップルの大きさが1Vといった条件下で、最小入力がどのような値でもUVLO(低電圧ロックアウト)機能がトリガされないようにしなければなりません。本稿で示しているLT8618ベースのアプリケーションの場合、入力コンデンサの値は100nFで十分です。

リップル電流の大部分は、ローカルのデカップリング・コンデンサに流れます。そして残りの電流は、電流ループと同じパスに流れます。ケーブル側の電流リップルは、シャント抵抗の両端に電圧リップルとして現れます。そのため、これを小さく抑えることが重要です。また、この電圧リップルの大きさは、シャント抵抗の両端の電圧を読み取るADCの分解能よりも小さく抑えなければなりません。フィルタを追加すれば、電流リップルを低減することができます。RCフィルタは、入力電流が少なく、LCフィルタと比べて低コストです。そのため、設計上のトレードオフを解消するための優れた手段になります。RCフィルタを2段または3段にカスケード接続することで、リップル電流を更に小さく抑えることができます。

ここで、LTspice®を使ってシミュレーションを行うことにより、電流リップルの比較を実施してみましょう。電源ケーブル側に適用する入力フィルタとしては3種類の構成を考えます。LT8618は、28Vの入力電圧、5.5Vの出力電圧、82µHのインダクタという条件で動作させます。入力パスでは、計100Ωの抵抗を直列に使用します。電流パルスについては、入力フィルタから見てLT8618の出力電流が10mAのときの入力電流が得られるように設定します。

100Ωの抵抗と100nFのコンデンサで構成した1段のRCフィルタを使用した場合、電源ケーブル側にはピークtoピークで60µAを超える電流リップルが現れます。電源ケーブル側のリップル電流は、コンデンサの値を大きくするほど小さくなります。あるいは、カスケード接続するフィルタの段数を増やすことでも同電流を低減することが可能です。降圧コンバータの性能は、入力コンデンサの値を大きくするほど高くなります。2段のRCフィルタを使用する場合、3段のRCフィルタを使用する場合よりもコストを抑えられます。また、電源ケーブル側の電流リップルが同等であることから、1段につき50Ωの抵抗と47nFのコンデンサを使用する2段のフィルタを適用することが推奨されます。その場合、電源ケーブル側のリップル電流は約30µAとなります。これに対応し、250Ωのシャント抵抗の両端には約7.5mVのリップル電圧が発生します。これであれば、分解能が8ビットのADCに対してほぼ十分な値だと言えます。ケーブル側のリップル電流を更に低減したい場合には、フィルタで使用するコンデンサの値をより大きくしても構いません。例えば、47nFのコンデンサを100nFのコンデンサに置き換えると、ケーブル側のリップル電流はわずか7µAになります。これに対応するリップル電圧は1.75mVとなります。

図5. 電流ループの電源側に現れる電流リップル
図5. 電流ループの電源側に現れる電流リップル

一般的な電流ループのアプリケーションでは、起動時の電流に対して制限値が規定されます(例えば3.2mAなど)。但し、例外として、規定された短い期間においてはその制限値を超えても構わないとされています。一般に、降圧コンバータでは、大きな突入電流によって入力コンデンサが充電されます。そして、入力フィルタは2つの役割を果たします。1つはケーブルの電源側におけるリップル電流を制限することです。もう1つは、起動時の突入電流を制限することです。図6に示したのは、2段の入力フィルタを使用した場合の主要な信号の波形です。これを見ると、起動動作の最中に入力電流が時間の経過に応じてどのように変化するのかがわかります。この評価は、入力電圧が24V、出力側の負荷電流が4mAという条件で実施しました。

図6. 入力フィルタで突入電流を制限している場合の主な信号の波形。上から、入力電圧(20V/div)、イネーブル、ケーブル側の入力電流、出力電圧です。
図6. 入力フィルタで突入電流を制限している場合の主な信号の波形。上から、入力電圧(20V/div)、イネーブル、ケーブル側の入力電流、出力電圧です。

まとめ

電流ループは、産業用システムや車載用システムで広く使用されています。電流ループの機能の1つは、比較的長いワイヤを使用し、センサーから収集した情報を制御システムに伝送することです。また、電流ループは、コントローラの出力や調整内容に関する指示をリモートのアクチュエータなどのデバイスに伝送する役割も果たします。電流ループで使用する電源回路を改善すれば、効率をはじめとする性能を大幅に高めることができます。特に、従来広く使用されていたリニア・レギュレータを高効率の降圧コンバータに置き換えれば、入力電圧範囲が広くなり、電流能力も増強されます。パッケージが小型で、最小オン時間が短く、高い入力電圧に対応でき、効率の高い降圧コンバータを使用すれば、ソリューション全体のサイズを抑えられます。LDOレギュレータを使用するソリューションと同等のサイズで、高い堅牢性を得ることが可能になるのです。本稿では、4~20mAの電流ループにおいてトランスミッタの電源にLT8618を適用する例を示しました。それにより、産業分野で求められる厳しい要件を満たせることをご理解いただけたはずです。

参考資料

James Brant「Ask the Applications Engineer-10: About Wire(アプリケーション・エンジニアに尋ねる - 10:ワイヤについて)」Analog Dialogue、Vol. 25、1991年4月

Jino Loquinario、Paul Blanchard「電流ループ・トランスミッタのフロント・エンドによる高いコモンモード電圧での信号の測定」Analog Devices、2015年10月

Zhongming Ye

Zhongming Ye

Zhongming Yeは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州ミルピタス)でパワー製品を担当するプリンシパル・アプリケーション・エンジニアです。2009年からLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)で降圧/昇圧/フライバック/フォワード・コンバータを含む様々な製品のアプリケーション・サポートを担当してきました。車載/医療/産業分野に向けた高効率、高出力密度、低EMIの高性能パワー・コンバータやレギュレータなどのパワー・マネージメント製品に注力しています。Linear Technologyに入社する前は、Intersilで3年間、絶縁型パワー製品用のPWMコントローラを担当していました。クイーンズ大学(カナダ キングストン)で電気工学の博士号を取得しています。IEEE Power Electronics Societyのシニア・メンバーも務めていました。

Juan Aranda

Juan-G. Aranda

Juan-G. Arandaは、アナログ・デバイセズ(ミュンヘン)の設計マネージャです。2006年に入社しました。汎用の降圧レギュレータや、センサー・アプリケーション向けの産業用ライン・ドライバ、車載システム向けのアクティブ整流コントローラなどの設計を担当。出力電流をさほど必要としないアプリケーション向けの高効率の降圧レギュレータ「LT8618」、「LT8604」の開発も担いました。バレンシア工科大学(スペイン)で電気通信工学の修士号を取得しています。