一般的な降圧コンバータをベースとして構成したバイポーラ電源、単一出力の値を変更可能

はじめに

一般に、ベンチトップ型の電源装置には、シャーシ・ポートを除くと偶数個の端子があります。つまり、プラス端子とマイナス端子の対が並んでいるということです。その種の電源装置では、正極性の出力(正電源)を容易に生成することができます。すなわち、負の出力をグラウンドに、正の出力を正の電圧に設定するだけです。これと逆の設定を行えば、負電源も簡単に構成できます。では、正負両方の電圧を負荷に供給可能なバイポーラ電源は、どのように構成すればよいのでしょうか。実は、これも比較的容易に実現できます。1つのチャンネルのプラス端子をもう1つのチャンネルのマイナス端子に接続し、それをグラウンドにするだけです。残る2つの端子(プラス端子とマイナス端子)によって、それぞれ正の電圧と負の電圧を出力します。つまり、グラウンド、正の電圧、負の電圧を供給する3本の出力端子を備えるバイポーラ電源を構成しているということです。なお、3つの端子を使用することから、電源の下流では、正電源と負電源の間に何らかのスイッチを設ける必要があります。

では、単一の端子を正電源、負電源として使用し、2つの出力端子だけを使って負荷に電力を供給したい場合には、どうすればよいでしょうか。これは、純粋な学術的問題というわけではありません。車載環境や産業環境では、出力電圧を変更可能な2端子のバイポーラ電源が必要になるケースがあります。例えば、車の窓用の特殊なスモークからテスト/計測機器まで、様々なアプリケーションで出力端子が2本のバイポーラ電源が使われています。

上述したとおり、一般的なバイポーラ電源では、正、負、グラウンドの3つの出力端子を使って、2つの出力を生成します。それとは対照的に、単一出力の電源には、2つしか端子がありません。それらのうち一方はグラウンドで、もう一方によって正または負の電圧を出力します。このような電源において、1つの制御信号により、グラウンドを基準とする負の最小値から正の最大値までの範囲で、出力電圧を変更できるようにする方法があります。

例えば、アナログ・デバイセズは、バイポーラ出力に対応する同期整流方式のDC/DCコントローラ「LT8714」を提供しています。この種の製品は、バイポーラ電源の機能を実現するために特別に設計されています。しかし、そうした特殊なICのテストと品質評価には、ある程度の時間とコストがかかります。これは、車載分野や産業分野の多くのメーカーにとって、好ましいことではありません。一方、ごく一般的な降圧コントローラ/コンバータであれば、車載分野や産業分野でも、数え切れないほど使われています。つまり、そうした製品については、多くのメーカーが既に品質評価を実施済みだということです。そこで、本稿では、バイポーラ電源専用のICの採用が難しい場合に向けて、一般的な降圧コンバータを使って、バイポーラ電源を構成する方法を紹介します。

回路の概要

図1に示したのは、一般的な降圧コントローラをベースとしたソリューションの回路図です。この回路により、出力電圧を変更可能なバイポーラ電源(2象限に対応)を実現しています。入力電圧範囲は12V~15Vです。出力電圧は、制御ブロックによって、-10V~10Vの任意の値に設定できます。負荷電流(出力電流)は最大6Aです。この回路の中心的な要素は、デュアル出力の降圧コントローラIC「LTC3892」です。昇降圧トポロジに基づく1つの出力により、-12Vの安定した電圧を生成します。これが図1に示された-12Vの電源レールに相当します。そのパワー・トレインはL2、Q2、Q3、CO2で構成されます。

図1 . 出力端子が2 本のバイポーラ電源回路。出力値を変更することが可能です。
図1 . 出力端子が2 本のバイポーラ電源回路。出力値を変更することが可能です。

-12Vの電源レールは、もう1つのチャンネルのグラウンドとして機能します。また、コントローラのグラウンド・ピンも、-12Vの電源レールに接続します。回路全体としては、降圧コンバータが構成されており、実質的な入力電圧は、VINと-12Vの差になります。出力値は可変であり、グラウンドを基準として正または負の値に設定できます。出力は、-12Vの電源レールに対しては必ず正になります。そのパワー・トレインは、L1、Q1、Q4、CO1で構成されています。最大出力電圧は、RAとRBで構成されるフィードバック用の抵抗分圧回路によって設定されます。この分圧回路の出力値は、出力電圧の制御回路によって調整されます。この制御回路は、RAに流す電流値に応じて最小電圧(負電圧)までの範囲で出力値を変更する機能を実現します。回路の起動時の特性は、RUN1ピン、RUN2ピン、TRACK/SS1ピン、TRACK/SS2ピンの終端によって設定します。

-12Vの電源レールもバイポーラ電源としての可変出力も、LTC3892の強制連続導通モードの動作によって生成されます。出力電圧の制御回路は、0A~200μAに対応する電流源ICTRLを備えています。この電流源は、実験室でテストを行う場合と同様に、-12Vの電源レールに接続されています。ただ、これは、グラウンドを基準として使用することも可能です。RF1、CFで構成されるローパス・フィルタは、出力の遷移速度を抑える役割を果たします。回路全体のコストとサイズを抑えるために、出力コンデンサとしては、比較的安価な有極性コンデンサCO1、CO2を使用しています。オプションのダイオードであるD1、D2は、特に回路を起動する際にCO1、CO2に逆電圧がかかるのを防ぎます。なお、セラミック・コンデンサを使用する場合には、これらのダイオードは不要です。

回路のテスト/評価

LTC3892と同ICの評価用キット「DC1998A」、「DC2493A」を使って、図1の回路のテスト/評価を実施しました。この回路は、ライン・レギュレーション、負荷レギュレーション、過渡応答、出力の短絡を含む一連のテストで良好な結果を示しました。図2は、出力電圧が10V、負荷電流が6Aという条件下で、回路が起動する際の各信号の波形を示したものです。図3に示すように、制御電流と出力電圧の関係は直線的です。制御電流が0Aから200µAに増加すると、出力電圧は10Vから-10Vに低下します。図4には、負荷電流と効率の関係を示しました。

図2 . 起動時における主要な端子の電圧波形。抵抗負荷に電力を供給する場合の例です。
図2 . 起動時における主要な端子の電圧波形。抵抗負荷に電力を供給する場合の例です。
図3 . 出力電圧VOUTと制御電流ICTRLの関係。ICTRLが0Aから200μAに増加すると、出力電圧は10Vから-10Vに低下します。
図3 . 出力電圧VOUTと制御電流ICTRLの関係。ICTRLが0Aから200µAに増加すると、出力電圧は10Vから-10Vに低下します。
図4 . 負荷電流と効率の関係。正の電圧、負の電圧をそれぞれ出力している場合の結果を示しました。
図4 . 負荷電流と効率の関係。正の電圧、負の電圧をそれぞれ出力している場合の結果を示しました。

図1の回路のようなバイポーラ電源を簡単に採用できるようにするために、アナログ・デバイセズのSPICEシミュレータ「LTspice®」用のモデルを作成しました。これを使用すれば、図1の回路の解析/シミュレーションを容易に実施できます。また、回路に変更を加えてシミュレーションを行ったり、各種の波形を表示したり、各部品に対するストレスについて調べたりすることが可能です。

図1の回路のトポロジを表す基本的な式

ここまでに説明したアプローチは、回路の昇降圧(バックブースト)セクションによって生成される負の電圧レールVNEGに基づいています(以下参照)。

数式 1

ここで、VOUTは最大出力電圧の絶対値、Kmは0.1~0.3の係数です。このKmによって、降圧コンバータの最小デューティ・サイクルが制限されます。またVNEGによって、VINの最小値も決まります(以下参照)。

数式 2

ここで、VBUCKは降圧セクションの入力電圧です。これは、以下に示すように、図1の回路で使用しているICに対する最大の電圧ストレスとなります。

数式 3

VBUCK(MAX)とVBUCK(MIN)は、それぞれこのトポロジの降圧セクションにおける最大電圧と最小電圧です。降圧セクションの最大/最小デューティ・サイクルとインダクタに流れる電流は、次の式で表されます。ここで、IOUTは出力電流です。

数式 4

ここで、IOUTは出力電流です。

昇降圧セクションのデューティ・サイクルは、次のようになります。

数式 5

降圧セクションの入力電力、つまり昇降圧セクションの出力電力は、次の式で表されます。

数式 6

昇降圧セクションの出力電流とインダクタに流れる電流は、それぞれ以下の式で表されます。

数式 7

図1の回路の電力と入力電流の関係は、次のとおりです。

数式 8

出力電圧の変更は、降圧セクションにおいてフィードバック用の抵抗分圧回路に流す電流値を制御することによって行われます。この制御機構の詳細は、図1に出力電圧の制御回路として示したとおりです。

RBの値が既知である場合、次の式が使用できます。

Equation 9

ここで、VFBはフィードバック用のピンの電圧です。

電流源ICTRLによってRAに流される電流の値が0Aである場合、降圧コンバータの出力電圧は、-12Vの電源レールに対する正の最大値VBUCK(MAX)となります。これがグラウンドを基準とする出力電圧VOUTの最大値です。負荷に対し、グラウンドを基準とする負の出力電圧を生成するには、降圧コンバータの分圧回路を構成する抵抗RAにΔIを流します。それにより、出力電圧を最小値であるVBUCK(MIN)まで引き下げます。これが、出力電圧VOUTの最小値に対応します。

Equation 10

具体的な数値の例

上に示した一連の式から、電圧ストレス、パワー・トレインの構成要素を流れる電流、バイポーラ電源の制御回路のパラメータを計算することができます。例えば、図1の回路において、14Vの入力電圧を基に、±10V/6Aの出力を生成する場合には、以下のような計算を行うことになります。

まず、Kmを0.2とすると、VNEGは-12Vになります。入力電圧の最小条件はVIN ≧ |VNEG|です。また、ICの電圧ストレスVBUCKは26Vとなります。

降圧セクションにおいて、-12Vの電源レールを基準とする最大電圧VBUCK(MAX)は22Vです。これによって、グラウンドを基準とする出力電圧は、10Vに設定されます。-12Vの電源レールを基準とする最小電圧VBUCK(MIN)は2Vです。これは、グラウンドを基準とする出力電圧である-10Vに対応します。これらの最大/最小電圧に対応する最大デューティ・サイクルDBUCK(MAX)は0.846、最小デューティ・サイクルDBUCK(MIN)は0.077です。DBBは0.462となります。

効率を90%として電力を計算すると、POUT(BB) は66.67W、IOUT(BB)は5.56A、IL(BB)は10.37A、PBBは74.074Wとなります。

図1の回路で出力電圧が10Vである場合、制御回路の電流ΔIは0Aです。一方、出力電圧が-10Vである場合、ΔIは200µAとなります。

まとめ

本稿では、降圧コンバータのトポロジをベースとし、出力端子が2本のバイポーラ電源を設計した例を紹介しました。降圧コンバータは、現代のパワー・エレクトロニクスには不可欠な要素です。そのため、外付け部品を使用するシンプルなコントローラICから、完全なモジュールに至るまで、様々な形態の製品が提供されています。降圧トポロジを採用することにより、設計に柔軟性がもたらされます。また、品質評価を実施済みの製品を使用できるので、時間とコストを節約できます。

Victor Khasiev

Victor Khasiev

Victor Khasievは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズのIC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックアップ電源などを取り上げています。効果的な力率改善の手法と高度なゲート・ドライバに関して2件の特許を保有しています。日々の業務では、顧客のサポートや、製品に関する質問への回答、電源回路の設計/検証、プリント回路基板のレイアウト、トラブルシューティング、システムの最終テストなどに取り組んでいます。