革新的な 5 KV ESD MEMS スイッチ技術

大きな問題を解決するには、革新的な技術が必要です。電子機械式リレーの起源は電信初期の時代までさかのぼり、これに代わるスイッチング技術ですべての市場のニーズを満たすもの、特に、試験および計測通信防衛ヘルスケアコンスーマなどの市場において、より高いスマート機能とネッ トワーク接続機能が求められるアプリケーションのニーズを満たすようなものは、これまで存在しませんでした。増大す る市場ニーズの一例として、試験/計測装置のエンド・ユーザは、試験において最大限の並列性を実現しながら、0 Hz/DC から数百 GHz までの周波数範囲に対応するというニーズの下に、できるだけ小さいフォーム・ファクタのマルチスタンダード・テスト・ソリューションを求めています。電子機械式リレーは帯域幅が狭く、動作寿命やチャンネル数が限られているうえ、パッケージ・サイズが大きいことから、システム設計者に課せられる制約が次第に大きくなっています。

マイクロマシン・システム(MEMS)スイッチは、リレーに取って代わり、産業を次のレベルに引き上げるために必要なイノベーションを実現します。最先端のMEMSスイッチ製造施設を社内に擁するアナログ・デバイセズは、現在、量産品、高性能、高速、高い機械的耐久性、低消費電力、静電気(ESD)保護、小型フォーム・ファクタなどの条件を満たすMEMSスイッチを提供しています。

MEMS スイッチ技術

アナログ・デバイセズのMEMSスイッチ技術の中核をなすのは、静電駆動型、マイクロマシン構造で、金製のカンチレバー・ビームを備えたスイッチング素子という構想です。MEMS スイッチは、高 DC 電圧から生じる静電気で動作する金属接点を持つ、1/1000 mm 単位の機械式リレーと考えることができます。 1 個の MEMS スイッチ用カンチレバーの詳細図を図 1 に示します。図には、並列に配置された 5 個の接点と、図の裏側にあたる部分にエア・ギャップを持つヒンジ構造が示されています。このスイッチ構造は、ADGM1304 SP4T MEMS スイッチと、 ESD 保護機能を強化した ADGM1004 SP4T スイッチに使われています。

図 1. 1 個の MEMS カンチレバー・スイッチ・ビームの詳細図

アナログ・デバイセズは、スイッチの動作に必要な高DC電圧を発生させるために、これと組み合わせて使用するドライバ集積回路(IC)を設計しました。このドライバにより、高速で信頼できる動作と長期間のサイクル寿命が確保され、デバイスが使いやすいものとなります。図 2 に、超小型の SMD QFNパッケージに組み込まれた MEMS ダイとドライバ IC を示します。一体型パッケージのドライバは、消費電力が 10 mW(代表値)ときわめて小さく、RF リレーのドライバに求められる代表的な条件の 1/10 です。

図 2. ESD 保護機能を強化した ADGM1004 MEMS スイッチ

ESD 保護機能の内蔵

アナログ・デバイセズは、ADGM1304 MEMS スイッチ製品をベースに、ソリッドステートESD保護技術を組み込むことによって ADGM1004 MEMS スイッチを開発し、RF ポートの ESD 性能を強化しました。ADGM1004 の RF ポートの人体モデル(HBM) ESD 定格は、5 kV に向上しました。このレベルの ESD 保護は、 MEMS スイッチではトップ・クラスです。

内蔵のソリッドステート ESD 保護は、アナログ・デバイセズ独自の技術で、MEMS スイッチの RF 性能への影響を最小限に抑えながら、きわめて高い ESD 保護機能を実現します。パッケージ内の ESD 保護要素を図 3 に示します。図には、MEMS ダイの上に取り付けられたダイと、パッケージの RF ピンへのワイヤ・ボンドが示されています。これらは、RF 性能とESD 性能向けに最適化されています。

図 3. ADGM1004 ドライブ IC(左)、MEMS スイッチ・ダイ(右)、およびその上に取り付けられた RF ポート ESD 保護ダイ。ESD 保護ダイはメタル・リード・フレームにワイヤ・ボンディングされています。

ADGM1004 の製品化に向けて、アナログ・デバイセズは、3 つの独自のリソグラフィー技術とアセンブリおよび MEMS キャッピング技術を組み合わせて、この性能上のブレークスルーを実現しました。

RF 性能および 0 Hz/DC 性能

MEMS スイッチの強みは、高精度の 0 Hz/DC 性能と広帯域 RF 性能の両方を、小型で表面実装可能なフォーム・ファクタにまとめている点です。図 4 は、ADGM1004 単極四投(SP4T)MEMS スイッチの挿入損失とオフ・アイソレーションの測定結果を示したものです。挿入損失は 2.5 GHz でわずか 0.45 dB、−3 dB 帯域幅は 13 GHz に及びます。RF 電力処理の定格は圧縮なしで 32 dBm、3 次インターセプト・ポイント(IP3)の直線性は周波数に関わらず 67 dBm(代表値)で一定しており、非常に低い周波数でも値は低下しません。

図 4. ADGM1004 MEMS スイッチの RF 性能(10 MHz 未満は線形スケール)

ADGM1004 MEMS スイッチの設計は、0 Hz/DC 高精度アプリケーション用としてきわめて高い性能をもたらします。いくつかの重要な仕様値を表 1 にまとめます。

表 1. ADGM1004 高精度仕様 I
ESD (HBM) ESD (FICDM) On Resistance Off Leakage 0 Hz/DC V,
I Ratings
5 kV RF ports
2.5 kV non-RF ports
1.25 kV All ports 1.8 Ω typical 0.5 nA max ±6 V, 220 mA

表 1 に示す 5 kV HBM という RF ポートの HBM ESD 定格は、定格値が 100 V HBM の ADGM1304 と比較して大幅に向上しています。これにより、ESD に敏感なアプリケーションでの人による取り扱いが容易になります。

表 2. ADGM1004 高精度仕様 II
Switching Speed Supply Voltage, Power Package Size Cycle Lifetime
30 µs 3.1 V to 3.3 V,
10 mW typical
5 mm × 4 mm × 1.45 mm  1 billion min

ソリューションの小型化は、すべての市場において求められる非常に重要な条件です。図 5 は、ADGM1004 SP4T MEMS スイッチと代表的な DPDT 電子機械式リレーを同スケールで比較した図で、最大 95 % の小型化を実現しています。

図 5. ADGM1004 MEMS スイッチ(4 スイッチ)と代表的な電子機械式 RF リレー(4 スイッチ)の比較

最後に、システム設計者に役立つよう、ADGM1004スイッチは、スイッチを通過する RF 電力でスイッチング(ホット・スイッチング)を行った際のサイクル寿命の特性評価を行っています。2 GHz、10 dBm RF 信号をホット・スイッチングした場合の寿命予測を図 6 に示します。このサンプル・テストによる故障(T50)ポイントまでの平均サイクル数は、約 34 億サイクルです。ADGM1004 のデータシートには、これより高い電力でのテスト結果も記載されています。

図 6. 10 dBm の RF 信号のホット・スイッチングを行った場合の故障確率の対数正規分布。信頼区間(CI)は 95 %。

まとめ

ESD 保護機能を強化した革新的な ADGM1004 MEMS スイッチは、RF アプリケーションと 0 Hz/DC アプリケーションのいずれでも、優れたスイッチ性能を維持しながら使いやすさを大幅に向上させます。アナログ・デバイセズの MEMS スイッチ技術によって、RF リレーと比較して最大 95 % の小型化、10 倍高い信頼性、30 倍の高速性、1/10 の低消費電力のスイッチを実現し、0 Hz/DC のクラス最高性能が提供されます。ADGM1004 MEMS スイッチは、アナログ・デバイセズが提供する幅広いスイッチ製品群に加わった革新的な新製品です。

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Eric Carty

Eric Carty は、1998 年にアイルランド国立大学メイヌース校で実験物理学の修士号を取得しました。10 年間 RF 受動コンポーネントの設計技術者として 10 年間勤務した後、アナログ・デバイセズ入社しました。2009 年より、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアとして、RF スイッチと MEMS 技術の研究開発を担当しています。現在は、アナログ・デバイセズのスイッチおよびマルチプレクサ・アプリケーション部門マネージャです。

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Padraig McDaid

Padraig McDaid は、1998 年にアイルランドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得しました。アナログ・デバイセズのスイッチ/マルチプレクサ・マーケティング部門のマネージャとして、主に MEMS 技術の研究開発に従事しています。2009 年のアナログ・デバイセズ入社以前は、多国籍企業や中小企業で、RF 設計、アプリケーション、マーケティングなどの各種業務を担当しています。