RFスイッチ・モデルにおける高周波の検証を可能にするSパラメータ

   Joseph Creech 著 (コメントは英語でお願いいたします
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  1. Sパラメータの概要
  2. 伝送ライン・インピーダンスの設計と測定
  3. 伝送ラインの設計
  4. インピーダンスの測定
  5. Sパラメータの正確な記録
  6. 校正技術


  7. 基板の設計と実装
  8. Sパラメータの使い方
  9. 物理パラメータの計算
  10. 整合回路
  11. 顧客へのモデル提供
  12. 結論

  13. 後半 (7~12)を読む

Sパラメータの概要

S(散乱)パラメータは、インピーダンス整合を利用した高周波電子回路の特性化に使用します。ここで散乱とは、進行する電流または電圧が伝送ライン上の不連続性に遭遇したときに受ける影響を意味します。Sパラメータを使用すれば、デバイスに入力される電力と、そこから出力される電力を関係付けることで「ブラック・ボックス」として扱うことができるため、実際の構造の詳細に関わることなくシステムをモデル化することができます。

今日の集積回路は、帯域幅が増大するにつれて、広い周波数範囲にわたって性能を特性化することが重要になっています。従来の低周波パラメータ(抵抗、容量、ゲインなど)は周波数に依存することがあるため、必要な周波数におけるICの性能を完全に表すことができません。そのうえ、複雑なICのあらゆるパラメータをさまざまな周波数について特性化することは不可能なため、Sパラメータを使用したシステム・レベルの特性評価の方が優れたデータを提供できます。

簡単なRFリレースイッチを使用して、高周波モデルの検証技術を説明することができます。図1に示すように、RFリレー スイッチは入力、出力、および回路のオン/オフを切り替える制御端子で構成される3ポートのデバイスと見なすことができます。デバイス性能が制御端子から独立していれば、セットされたリレーは2ポートのデバイスと簡略化して考えることができます。このようなデバイスは、入力端子と出力端子における動作を観察することによって完全に特性化することができ ます。

図1

図1. RFリレースイッチのモデル

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Sパラメータのコンセプトを理解するには、伝送ライン理論を若干知っておくことが大切です。周知のDC回路の場合と同様に、高周波回路での最大伝送電力は、電源のインピーダンスと負荷のインピーダンスに関係します。インピーダンスZSのソースからの電圧、電流、電力は、インピーダンスZ0の伝送ラインを通りインピーダンスZLの負荷に波として伝わります。ZL=Z0の場合、ソースから負荷に全電力が伝達されます。ZL≠Z0の場合は、一部の電力が負荷からソースへと反射して戻るため、最大の電力伝達にはなりません。入射波と反射波の関係は反射係数(Γ)と呼ばれ、信号の大きさと位相情報の両方が含まれる複素数になります。

Z0とZLとの整合が完全である場合、反射は発生せず、Γ=0です。ZLが開放状態または短絡状態である場合、Γ=1であり、完全な不整合を示し、すべての電力がZSに反射します。大部分のパッシブ・システムにおいて、ZLは必ずしもZ0と等しくなく、0<Γ<1となります。Γをユニティ・ゲインより大きくするには、システムにゲイン素子が含まれていなければなりません。ただし、RFリレースイッチの場合は、これについては考慮しません。反射係数は前述のインピーダンスの関数として表せるため、Γは次のように計算することができます。

(1)
(2)

図2に示すように、伝送ラインを2ポートのネットワークと想定します。この図から、すべての進行波が2つの要素で構成されることがわかります。2ポート・デバイスの出力から負荷(b2)に流れる全進行波成分は、a2の2ポート・デバイスの出力から反射した部分と、a1のデバイスを通って伝送された部分で構成されています。逆に、デバイスの入力からソースb1に逆流する全進行波は、a1の入力から反射した部分とa2のデバイスを通って送り返された部分で構成されています。

図2

図2. Sパラメータのモデル

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上の考え方を用いると、Sパラメータを使用して反射波の値を求める式を作成することができます。式3と式4は、反射波と伝送波の式です。

       (3)

       (4)

ZS=Z0(2ポート入力のインピーダンス)の場合、反射は発生せず、a1=0になります。ZL=Z0(2ポート出力のインピーダンス)の場合、反射は発生せず、a2=0になります。したがって、整合した状態に基づいて、Sパラメータを次のように定義することができます。

       (5)

       (6)

       (7)

       (8)

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ここで、
      S11=入力(順方向)反射係数
      S12=逆方向伝送係数
      S21=順方向伝送係数
      S22=逆方向反射係数

順方向と逆方向のゲインをS21とS12によって特性化し、順方 向と逆方向の反射電力をS11とS22によって特性化することで、 どんな2ポート・システムでも、これらの式で完全に記述する ことができます。

物理的システムにおいて上記のパラメータを実現するには、 ZS、Z0、ZLを整合させる必要があります。大部分のシステム で、広い周波数範囲にわたって簡単にこれを行うことができま す。

伝送ライン・インピーダンスの設計と測定

2ポート・システムのインピーダンスを整合させるには、ZS.、 Z0、ZLを測定する必要があります。大部分のRFシステムは 50Ωインピーダンス環境で動作します。ZSとZLは使用するベ クトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)の種類によって一 般に制限されますが、Z0はVNAインピーダンスに整合するよ うに設計することができます。

伝送ラインの設計

伝送ラインのインピーダンスは、ライン上のインダクタンスと 容量の比によって設定します。図3に伝送ラインの簡単なモデ ルを示します。

図3

図3. 伝送ラインの集中定数素子のモデル

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特定のインピーダンスを得るために必要なLとCの値は、必要 な周波数での複素インピーダンスを計算する式によって求めら れます。LとCを調整する方法は伝送ライン・モデルの種類に 依存しますが、最も一般的なモデルはマイクロストリップとコ プレーナ導波路です。パターンからグラウンド面までの距離、 パターン配線幅、基板素材の誘電率などの物理パラメータを使 用して、インダクタンスと容量を均衡させ、必要なインピー ダンスを得ることができます。伝送ラインのインピーダンスを 設計する最も簡単な方法は、市販されているインピーダンス設 計プログラムを使用することです。

インピーダンスの測定

われたか確かめるために、インピーダンスを測定する必要があ ります。インピーダンスを測定する1つの方法として、時間領 域反射測定法(TDR: Time-Domain Re-ectometry)を使用 します。TDR測定では、基板パターンの整合性を確認するこ とができます。TDR測定は、信号ラインに高速パルスを送信 し、その反射を記録し、これを使って、ソースから特定の距離 における信号線路のインピーダンスを計算します。さらにこの 情報を使用して、信号線路の開放状態や短絡状態を検出したり、 特定のポイントで伝送ラインのインピーダンスを解析したりす ることができます。

TDR測定は、不整合システムにおいて、反射の発生により信 号パス上のさまざまなポイントで信号源に対する加算や減算 (強め合う干渉と弱め合う干渉)が起きるという原理に基づいて います。システム(この場合は伝送ライン)が50Ωに整合して いる場合、信号線路に反射は発生せず、信号は変化しません。 しかし、信号が開放状態になると、反射が加算されて信号が2 倍になります。一方、信号が短絡状態になると、反射による減 算によって信号はゼロになります。

信号線路において、信号が正しい整合抵抗よりも若干高い終端 抵抗に直面すると、TDR応答の中に急上昇が見られます。若干 低い終端抵抗では、TDR応答に低下が生じます。高周波では コンデンサは短絡であり、インダクタは開放であるため、容量 性または誘導性の終端に対して同様の応答が見られます。

TDR応答の精度に影響する要因の中で、最も重要な要因の1 つは、信号線路に送られたTDRパルスの立上り時間です。パ ルスの立上り時間が短いほど、TDRで解析できるパターンは 小さくなります。

TDR機器に設定された立上り時間に基づいて、2つの不連続性 の間でシステムが検出できる最小の空間距離は、次式のように なります。

       (9)


ここで、
      lmin = ソースからの不連続性の最小空間距離
      c0 = 真空中での光の速度
      trise = システムの立上り時間
      εeff = 進行波が通る媒体の実効誘電率

比較的長い伝送ラインを検査するには、20 ~ 30ps のオーダー の立上り時間で十分です。しかし、集積回路デバイスのインピー ダンスを検査するには、これよりもずっと立上り時間を短くす る必要があります。

TDRによるインピーダンス測定を記録することで、インピー ダンスの狂い、コネクタの接合部による不連続性、ハンダ付け に関連する問題など、伝送ライン設計のさまざまな問題を解決 することができます。

図4

図4. 2ポート、12項の誤差モデル

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Sパラメータの正確な記録

回路基板とシステムの設計と製作が終わったら、記録を正確なものにするために、校正済みのVNAを使用し、設定された電力で一定範囲の周波数にわたってSパラメータを記録する必要があります。どの校正技術を選ぶかは、被試験デバイス(DUT:Device Under Test)の対象となる周波数範囲や必要な基準面などによって異なります。

校正技術

図4は、2ポート・システムのシステマティックな影響と誤差源を示す12項の誤差モデルです。測定周波数範囲は、校正の選択に影響します。周波数が高いほど、校正誤差は大きくなります。大きな項が多いほど、高周波の影響に対処できるような校正技術に変える必要があります。

広く使われているVNA校正技術の1つがSOLT(Short-Open-Load-Thru)校正です。これはTOSM(Thru-Open-Short-Match)ともいわれます。SOLTの実装は簡単であり、必要なのは、順方向と逆方向の両方で測定する一連の既知の基準だけです。これは、VNAと一緒に購入することも、他のメーカーから入手することもできます。これらの基準を測定したら、測定した応答と基準の既知の応答との差を求めることによって系統的誤差を計算することができます。

SOLT校正では、校正の作業中に使用した同軸ケーブルの両端にVNA測定の基準面を配置します。SOLT校正の短所は、基準面の間にSMA(SubMiniature version A)コネクタや基板パターンなどの相互接続が入ると、測定に影響が出ることです。つまり、測定周波数が高くなるにつれて、こうしたものが大きな誤差源になります。SOLT校正は、図4に示す誤差項のうちわずか6つを取り除くだけですが、低周波測定で正確な結果を出すことができ、簡単に実装できるという長所があります。

もう1つの便利なVNA校正技術は、TRL(Thru-Reflect-Line)校正です。この技術は、短い伝送ラインの特性インピーダンスにのみ基づいています。この短い伝送ラインが異なる2組の2ポート測定と、2つの反射測定を使用すれば、12項の完全な誤差モデルを得ることができます。TRL校正用キットはDUT基板上に設計できるため、校正技術によって伝送ラインの設計と相互接続に起因する誤差を取り除き、測定に使用した基準面を同軸ケーブルからDUTピンに移動することができます。

いずれの校正技術にもそれぞれの利点があります。しかし、TRLの方が多くの誤差源を取り除くことができるため、高周波測定で高い精度が得られます。ただし、正確な伝送ライン設計と対象となる周波数での正確なTRL標準が必要であるため、実装は難しくなります。大部分のVNAには広い周波数範囲で使用できるSOLT標準キットが付属されています。

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