CN0260

オーバーサンプリング SAR ADC と PGA の組合せで125dB 以上のダイナミック・レンジを実現

※Rev.0を翻訳したものです。最新版は英語資料をご覧ください。 

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回路機能とその特長

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図1に示す回路は、幅広い応用が可能なセンサー・シグナル・コンディショニング・ブロックです。低ノイズで比較的高ゲインのこの回路は、広いダイナミック・レンジを維持しながら、性能に影響を与えることなく入力レベルの変化に応じてゲインを動的に変更することが可能です。既存のシグマ・デルタ技術では、多くのアプリケーションに必要なダイナミック・レンジを確保できますが、唯一の代償として更新レートが低下します。この回路では AD7985
AD8253 i CMOS®プログラマブル・ゲイン計装アンプ(PGA)のフロントエンドと組み合わせて使用するもう一つの方法を示しています。アナログ入力値に基づいて自動的に変化するゲインとともに、オーバーサンプリングとデジタル処理を使って、システムのダイナミック・レンジを125dB以上に拡大します。


図1. オートレンジPGAとオーバーサンプリングSAR ADCを使用したダイナミック・レンジの広いシグナル・コンディショニング回路(注意:全接続の一部およびデカップリングは省略されています)

 



図2. オーバーサンプリング比(OSR)の増加によるノイズの低減

回路説明

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広いダイナミック・レンジを必要とするアプリケーションにはさまざまなものがあります。重量計システムでは、一般に最大フルスケール出力が1mV~2mVのロードセル・ブリッジ・センサーを使用しています。このようなシステムでは100万分の1の分解能を要求されることがあり、2mVのフルスケール入力を基準にした場合、高性能、低ノイズ、高ゲインのアンプとシグマ・デルタ・モジュレータが必要になります。同様に、医療用アプリケーションの化学分析や血液分析では、高精度な測定が必要とされる微小電流を生成するフォトダイオード・センサーがよく使用されています。振動監視システムなどの一部のアプリケーションでは、ACとDCの両方の情報を含むため、小信号と大信号の両方を高精度で監視する能力の重要性が増しています。多くの場合、シグマ・デルタADCで十分対応できますが、ACとDCの両方の測定を要求され、高速ゲイン切替えが必要な場合には限界があります。

 

オーバーサンプリングとは、ナイキスト周波数よりずっと高い周波数で入力信号をサンプリングするプロセスのことです。一般に、サンプリング周波数が2倍になると、オリジナルの信号帯域幅内のノイズ性能が約3dB改善されます。オーバーサンプリングADCと後段のデジタル・ポストプロセッシング回路により、信号帯域幅外のノイズを除去します(図2参照)。



ダイナミック・レンジの最大化は、フロントエンドにPGA段を追加し、微小信号入力の実効信号対ノイズ比(SNR)を上げることで実現することができます。ここでシステムのダイナミック・レンジの要求が126dBを上回る場合について検討します。まず、このダイナミック・レンジを実現するのに必要な最小rmsノイズを計算します。たとえば、3V差動の入力範囲(6Vp-p)ではフルスケールrms値が2.12V(6/2√2)となります。システムの最大許容ノイズは次のように計算します。


126 dB = 20 log (2.12 V/rms noise)

したがって、rmsノイズはほぼ1μVrmsになります。.


ここで、システムの更新レート(出力データ・レート)について検討します。更新レートにより、システムで許容可能なオーバーサンプリング比と入力換算(RTI)の最大ノイズ量が決まります。たとえば、動作速度が600kSPS(消費電力11mW)、オーバーサンプリング比が72のAD7985 16ビット、2.5MSPS PulSAR ADCの場合、平均化とデシメーション(間引き)を行った後のシステムの実効スループット・レート(AD変換の実効的な速度)は、600kSPS ÷ 72 = 8.33kSPSになります。したがって、入力信号は約4kHzの帯域幅に制限されます。


合計rmsノイズは単にノイズ密度(ND)に√fを掛けた値なので、許容可能な最大入力スペクトル・ノイズ密度(ND)は次のように計算することができます。


1 µV rms = ND × √4 kHz

つまり ND = 15.8 nV/√Hzになります。


このRTIシステム入力ノイズの性能指数から、十分なアナログ・フロントエンド・ゲイン(関連のオーバーサンプリング機能を備えたADCのSNRに加算)を確保して、必要な126dBを実現できる適切な計装アンプを選択することになります。AD7985の場合、SNRの標準値は89dBであり、72倍のオーバーサンプリングでさらに約18dB改善されます(72は約26で、2倍するごとにSNRは3dB改善)。126dBのダイナミック・レンジを実現するにはまだ20dB以上の改善が必要ですが、これはアナログPGA段に備わったゲインによって得られます。この計装アンプは、20以上のゲインを確保する(そして、ノイズ密度が15.8nV/√Hzの規定値を超えない値にする)必要があります。

 

前述のフロントエンドPGAのゲインとADCのオーバーサンプリングを実現するシステム・レベルの解決策が、図1に示されています。入力段にはAD8253超低ノイズ、10nV/√Hz、デジタル制御計装アンプを使用しています。ゲインは次の値から選択できます。G = 1、10、100、1000。

AD8021 は、AD7985を駆動できる低ノイズ(2.1nV/√Hz)の高速アンプです。このアンプはAD8253の出力信号のレベル・シフトと減衰も行います。AD8253とAD8021のどちらも2.25Vの外部同相バイアス電圧で動作し、これらを組み合わせてADC入力の同相電圧を同じ値に維持します。4.5Vのリファレンスを使用すると、ADCの入力範囲は0V~4.5Vになります。

 

 



図3. システムの性能測定に使用されるテスト・セットアップ

 

AD8021の出力は高速ADCを使って測定されます。PGAのゲインは、入力信号の振幅に基づいて動的に設定することができます。信号入力が小さいと、ゲインは100に設定されます。信号入力が大きくなると、ゲインは1に減少します。


デジタル後段処理は、QFNパッケージのAD7985 16ビット、2.5MSPS PulSAR ADC(消費電力11mW)を使って行いますが、このデバイスはサンプリング・レートが高速なので、入力帯域幅が小さいアプリケーションでの高次のオーバーサンプリングに使用することもできます。システム全体の入力換算(RTI)ノイズの許容値は15.8nV/√Hz(max)であるため、各ブロックの主要なノイズ源を計算して15.8nV/√Hzのハード・リミットを超えないようにすることが必要です。AD8021の入力換算ノイズの仕様は3nV/√Hz未満であり、ゲイン100のときのAD8253の入力段を基準にすれば無視できる大きさです。AD7985のSNRの仕様は89dBで、4.5Vの外部リファレンスを使用すると、45μVrms未満のノイズ分解能になります。


ADCのナイキスト帯域幅が300kHzと仮定すると、この帯域幅で約83nV/√Hzのノイズが加算されます。AD7985の入力を基準にした場合、RTIノイズ源の合計を2乗和の平方根の計算を使って求めるシステムでは、1nV/√Hz未満のノイズは無視できます。


AD8253を使用するさらなる利点は、デジタル・ゲイン制御機能を備えていることにより、入力の変化に応じてシステム・ゲインを動的に変更できることです。これは、システムのデジタル信号処理機能によってインテリジェントに行われます。このアプリケーションでのデジタル処理の主な機能は、AD7985による16ビット変換の結果を使ってより高分解能な出力を生成することです。これは、データの平均化とデシメーション、さらには入力振幅に応じたアナログ入力ゲインの自動切替えによって行われます。オーバーサンプリング・プロセスにより、出力データ・レートはADCのサンプリング・レートより遅くなりますが、ダイナミック・レンジが大幅に拡大します。


このアプリケーションのデジタル側を試作するため、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)をデジタル・コアとして使用しました。システムを迅速にデバッグするため、アナログ回路とFPGAを1枚の基板に統合し、システム・デモンストレーション・プラットフォーム(SDP)の標準コネクタを使用することで、PCへのUSB接続を容易にしています(図3参照)。SDPは再利用可能なハードウェアとソフトウェアを組み合わせたもので、これにより、一般に使用されている部品によるインターフェースを介してハードウェアの制御やハードウェアからのデータ取得を容易に行うことができます。


このモジュールは、現在のゲイン設定、ADCの2つの生サンプル・データ、いくつかのハード・コードされた閾値に基づいて新しいゲイン設定を出力します。システムでは4つの閾値を使用しています。システムのアナログ入力範囲を最大化して、G=100のモードで信号をできるだけ広い範囲で使用できるようにすると同時に、ADC入力のオーバードライブを防ぐには、3つの閾値の選択が非常に重要です。このゲイン・ブロックは正規化されたデータではなく、ADCの生の各変換結果に基づいて動作することに注意してください。これらを考慮に入れ、このようなシステム(ミッドスケールがゼロのバイポーラ・システムを想定)で使用できる閾値の例を以下に示します。

 

T1 (正の下側閾値): +162

(ミッドスケールより162コード上)


T2 (負の下側閾値): –162
(ミッドスケールより162コード下)


T3 (正の上側閾値): +32507

(正のフルスケールより260コード下)


T4 (負の上側閾値): –32508

(負のフルスケールより260コード上)



G=1のモードでは、内側のリミットのT1とT2を使用します。ADCの実際の出力がT1~T2の範囲の場合、ゲインはG=100のモードに切り替わります。これにより、ADCに入力されるアナログ入力電圧は可能な限り短時間で最大値化されます。次いで、G=100のモードでは、外側のリミットのT3とT4を使用します。ADCの変換結果がT3を上回るかT4を下回ると予測される場合、ADC入力のオーバーレンジを防ぐため、ゲインはG=1のモードに切り替わります(図4参照)。



図4. A/Dコンバータの入力が閾値を越えると予測される場合はアンプ入力からコンバータ入力までのゲインが1/100に低減される(青線:アンプ入力、赤線:コンバータ入力)。

 

G=100のモードのとき、アルゴリズムにより、次のADCサンプル・データが外側の閾値を越えて+32510のADC変換結果になると予測される場合(非常に初歩的な線形予測法を使用)、ゲインはG=1に切り替えられるので、次のADC変換結果は+32510ではなく+325となります。

 


システム全体の性能


ゲインおよびデシメーションのアルゴリズムが十分に最適化されると、システム全体のテストが可能になります。1kHzの–0.5dBFS大信号入力トーンに対するシステム応答を図5に示します。PGAのゲインを100とすると、実現されるダイナミック・レンジは127dBとなります。同様に、–46.5dBFSで70Hzの入力トーンの小信号入力に対してテストすると(図6)、最大129dBのダイナミック・レンジが得られます。この測定中にはゲイン範囲のアクティブな切替えが行われないため、小さい入力トーンでの性能の改善が期待されます。

 

システムの性能は、ゲインを動的に切り替えて小信号と大信号の両方の入力に対応する変換能力に依存します。シグマ・デルタ技術は優れたダイナミック・レンジを提供しますが、SARベースのソリューションは、システム性能を妥協することなく、入力信号に基づいてフロントエンド・ゲインを動的に変更する方法を提供します。このソリューションでは、小信号と大信号のAC入力とDC入力をリアルタイムで測定でき、システムのセトリング・タイムを待つ必要はなく、ゲイン変更の遅れによって大きなグリッチが発生することもありません。 




図5. 127dBのダイナミック・レンジを示す1kHzの大信号への応答



図6. 70Hzの小入力信号への応答

システムの性能は、ゲインを動的に切り替えて小信号と大信号の両方の入力に対応する変換能力に依存します。シグマ・デルタ技術は優れたダイナミック・レンジを提供しますが、SARベースのソリューションは、システム性能を妥協することなく、入力信号に基づいてフロントエンド・ゲインを動的に変更する方法を提供します。このソリューションでは、小信号と大信号のAC入力とDC入力をリアルタイムで測定でき、システムのセトリング・タイムを待つ必要はなく、ゲイン変更の遅れによって大きなグリッチが発生することもありません。


バリエーション回路

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このアプリケーション向けに検討可能なその他の16ビットPulSAR ADCには、 AD7983 (16ビット、1.33MSPS)とAD7980 AD7980(16ビット、1MSPS)があります。18ビットPulSAR ADCも選択可能で、AD7986(18ビット、2MSPS)、 AD7984 (18ビット、1.33 MSPS)、 AD7982 (18ビット、1 MSPS)などがあります。

回路の評価とテスト

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回路の評価に使用した基本的なテスト・セットアップを図3に示します。回路図とPCBのレイアウトについては、CN-0260の設計支援パッケージhttp://www.analog.com/cn0260-designsupportを参照してください。

 

信号入力には、Agilentの33120A、Audio PrecisionのSystem Two 2322、または相当品のような低ノイズ、低歪みの信号源を使用することが重要です。

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