全力を傾ける

質問:

傾斜計ADIS16209を使って、傾斜計測の精度と再現性を改善したいのですが、これらのセンサーを複数、並列に使用して、精度を改善できるでしょうか?

RAQ:  Issue 131

回答:

理論的には可能です。この方法は複数のセンサーを使って平均効果を生み出すことにより、傾斜計による計測の精度向上を図ります。このような利点が得られる可能性があるのは、複数のセンサー間で相関関係のない誤差源とランダム・ノイズは、平均化によって除去できるからです。これにより、総計したセンサー・データの全体的なノイズ・フロアが低減され、ノイズに対する対象信号の総電力の比を上げることが可能となります。MEMS 設計チームが開発したセンサーはワールドクラスであることが実証されているものの、システム・エンジニアは最後の最後まで改良を重ねています。ただし、このような例がすべてに当てはまるわけではなく、考慮を要するシステム設計の領域もあるので注意が必要です。

2 個の傾斜計センサーの出力は、マイクロコントローラ内のバックエンド・デジタル処理を通じて合計し、平均することができます。傾斜計にとって最も重要な仕様は、水平面に対するセンサーの傾斜度の相対精度です。信号出力を組み合わせることによって、ノイズ密度は 2 倍のオーバーサンプリングを行った場合と同程度にまで低下します。同様に、4 個の傾斜計の信号出力を組み合わせて平均すると、ノイズ密度性能を 4 倍向上できることになります。理想的な条件では、4 個の傾斜計を並列に使用すれば、理論的に 0.1°の精度が 0.025°に向上します。

傾斜計間の微妙な内部非線形性のミスマッチによって、伝達曲線は特有の形状を示します。非線形性には、アーキテクチャに起因する、個々に大差のないものもありますが、その他は個体ごとの相違によって異なる特性を示します。これらは一般的なランダム・センサー・ノイズとともに全体的なノイズ源として現れ、ノイズと呼ばれる 1 つのカテゴリにまとめることができます。一般に、ノイズ同士にはまず相関関係はありません。複数のセンサー・システムを使用する主な利点は、この白色ランダム・ノイズを平均化によって除去することです。逆に、位相や周波数と相関関係を持つ不要信号を足し合わせると、それらの大きさが加算されて並列センサーの手法の利点は失われてしまいます。

白色ノイズなど相関関係のない 2 つの信号を足し合わせた場合、それらは二乗和平方根(RSS)として数学的に結合されます。これは、大きさが増大するという結果を招きます。

その増加率は2 つの振幅が同じ場合、

RAQ:  Issue 131 Equation 1

です。

Vnoise_rms を 1 つのセンサー入力のノイズとすると、2 つのチャンネルにおける平均ノイズは次のようになります。

RAQ:  Issue 131 Equation 2

同じ相関のある信号の 2 つの同一例を加えて平均することにより、その電力はほぼ同じになり(同じ 2 つの信号を足して 2 で割る)、ランダム・ノイズの信号電力は半分に減少します。これにより、全体的な平均 S/N 比(SNR)の信号電力が理想的には 3 dB 増加することになります。相互に排他的な非線形性や、並列センサーの片方だけに関係し、他方には生じないようなノイズの場合は、このアプローチの利点を完全に活かすことはできません。

しかし、並列センサー・システム設計には、精度を 2 倍あるいは 4倍にする利点を損なう可能性のある部分がいくつかあります。第一に、これらのデバイスが対応する軸に加わる同じ信号によって、各傾斜計が同様に影響を受ける必要があります。プリント基板(PCB)上の空間的な位置の違いにより、各傾斜計の測定結果に差が生じる可能性があります。また、PCB の厚さのばらつきやハンダ量の許容差といったシステム・レベルの影響により、固有のオフセットが存在することもあります。第二に、センサー同士で軸のアライメントを合わせる必要があります。ボード上への組み付けには、標準的なばらつきに対する配置と角度の許容差があるので、これを考慮しなければなりません。最後に、部品ごとの軸アライメント誤差と非線形のミスマッチも最良の設計と組み立てに影響する可能性があります。この基準は、互いに 90°を成す X 軸と Y軸の直角度を決定します。これらの仕様については、センサーのデータシートに概要が示されています。

RAQ:  Issue 131 Figure 1
図1. ADIS16209 のような 2 軸傾斜計では、X 軸と Y 軸のアライメントの相対配置角精度が、
複数センサーによる並列平均化システムの利点に影響を与えます。
3 軸加速度計システムでは、X/Y 平面に関する並列デバイスの平坦度または傾斜が、
複数センサー間の Z 軸アライメントに影響します。

システムの実使用開始時には、並列配置の利点を最大限に引き出すために、組み立てに関するあらゆる既知の差異を水平方向で校正する必要があります。例えば、既知の位置を基準にして測定されたオフセット・バイアス誤差をヌル化し、複数の傾斜計の間でゼロ調整を行うことができます。ADIS16209 にはこれらのオフセット要素を無効化する手段として、自動ヌル・オプションが組み込まれています。

著者

Ian-Beavers

Ian Beavers

Ian Beaversは、アナログ・デバイセズのオートメーション・エナジー&センサーチームの製品エンジニア・マネージャーです。入社は1999年で、半導体産業で19 年以上の経験を有しています。ノースカロライナ州立大学で電気工学の学士号を、グリーンズボロのノースカロライナ大学でMBAを取得しました。